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ちょっぴりありえないおはなし

一話完結の短編小説です。
身近にありそうな出来事を書きます。

ほんとの事さ

2025-06-07 22:09:19 | 日記

べー 今日のライブは良かったね!

ヤン 急になに?しかも今日は何語よ

 

べー 言われても〜、そんなあんまり喋れんし。

   ほら、大阪はわりとテレビでやっとったし、

   けっこうわかるが?

ヤン 新喜劇な

べー そうそう。他んとこ言われても。

ヤン そうでケロ〜とかな

べー ええわもう。

ヤン それでどしたんよ。ライブが?

べー うん。今日のバンドは今まで来た中で

   一番良かった。

ヤン あんた途中から耳栓外しとったな。

べー だって、ちゃらーんて楽器音したから

   急いで耳栓付けに行ったんよ。

   耳栓オッケーの許可ももらってたし。

ヤン 許可って

べー もう大変だったんだから、会社で。

   そんなに音気になるのおかしい。

   病院で検査した方かいいって言われてさ

ヤン だってあんたメタル級も平気やんか

べー だから好きな音だったら平気なんだって。

   そこが解ってもらい難いよ。

ヤン それで?

べー 耳栓買ったんでこれで試してみますって

   とりあえず収めといた。

ヤン 耳栓は人の声消すの苦手だろ

べー よう知ってるね。高いの買っても人の声だけ

   クリアに聞こえたりしたら最悪な。

ヤン まぁでも今日は助かったな

べー 聞いてるうちにな、これは良いやつなんじゃ?

   って思い始めて

ヤン だけどOU とかNMが出て用心したろ

べー よう知っとるな

ヤン まあ人受けする曲入れたい気持ちもわかるけど

べー 無くてもい

ヤン もっと誰も分からんじゃろお前ら、

   みたいなやつだけで行って欲しいな

べー 私もそう思う

ヤン 余計な挨拶やしゃべりを挟まなかったのも

   良かった

べー 一時間くらいでサッと引き上げたのも

   格好良かった

ヤン ベタ褒め

べー たまにはね

ヤン でもまだまだ耳栓は携帯しといた方がええよ

べー わかってる。でも今日は久しぶりに楽しかった。

ヤン では次回までご機嫌よう

べー 仕切っとるね〜。では次回にまた、という事で。

ヤン 明日も仕事だしな。

べー 私らフードトラックしとったんじゃないん?

ヤン 知らんし。

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遠い海辺で

2025-06-03 12:46:32 | 日記

その日のコミュニティーバスは、終着の湾岸通りまで

私達だけで走った。

料金箱にコインを入れると、海側にドアが開いた。

 

「あそこ、こないだ火事で燃えたとこだね」

「うん。なんかこの辺も変わってしもうたの」

 

少し前に、半ば廃墟化していた古い3階建ての木造が

火事で全焼した。焼け跡から男性の一遺体が

見つかったが身元は判らず、そのうち日に埋もれた。

 

海沿いの道路にはそこだけ時代を疑うような古い家並みが

何軒か連なっている。

私達は煮魚の匂いがしている一軒の小屋に入った。

のぞき込んだ店内の奥の窓一面に、光る海が見えたからだ。

きれいとは言えない店内には先客が何人かいて、

定食を前に話し込んでいる。

使い込まれた木のテーブルに、ほこりで角が丸くなった

窓ガラスから眩しい日が落ちている。

 

「あそこ図書館だったろ」

「よう知ってるねえ、あんた何歳よ」

「よう言うわ。紙のカードに本の題名書いたし」

「そうな、何日までって日付もな」

 

私達は鯛の煮付けとご飯、ガラスケースに並んでいた

のり巻きも1つ取って分けた。

「ここ、よく無事だったですね」

 

「ああ、ここらはほら、レプリカ村だから。

資材だけは最新ってやつ」

「え、でも」

「見えんじゃろ、新しくは」

「最近の再現力はすごいとこ来とるんよ」

 

「うーんまあ、結局人はこういうとこが

好きなんよ。いつになっても。

燃えたとこも建て替え案あったんだけど

まあ予算かなあ。

何か他に食べる?」

コップに水を注ぎながら店主が言う。

 

「いや、うまかったよ。鯛はどっから?」

「わかる?石の島から送ってくれるんよ」

「懐かしい味だった」

 

店を出ると、私達はその焼け跡に行ってみた。

「図書館だったって言ってたね」

「お父さんも通ってたんよ。自転車で」

「私だった子が生まれる前?」

「いや、もっと前に。」

それだけ言うと父はちょっと黙った。

 

焼け跡はもうすっかりならされていて、

何か木の燃えた破片でもないかと探したが

見つからなかった。

 

堤防で親子が釣りをしている。

金色の小さいフグがコンクリの上で跳ねていた。

 

「お前が来てくれたときは

お父さんもお母さんも嬉しかったよ」

「うん。」

 

私達は知らない路地を知らないまま

なんとなく歩いた。

唐突に、レトロ映画で見たような赤いポストが

立っていた。

「これ知ってる?未来ポストだよこれ

何年後かに届けてくれるの」

「切手は?ああ、ここで読み取りか

何かいちいち古い反応する自分が嫌んなる」

「そんなことないよ。切手記念館良かったじゃない

 

向かいの店のウィンドーに飾られた

水色のパフェグラスが日差しを反射していた。

上にはプリンと白いいちご。クリーム。

もう3時を回っただろうか。

私は何故かそのパフェを

前に父と食べた事があるような気がした。

 

海風が静かで暖かくて、

幸せだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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最後の語り

2025-05-23 16:20:34 | 日記

私はその頃商業ビルの一室でアルバイトをしていた。

アートスクールを卒業したはいいが思うような就職先はなく

とりあえずな感じで工芸インテリア小物を作る工房に

いたのだった。

つる編みのバスケットに造花の飾りを縫い付けていく。

自分の好みとは少し離れてはいるけれど、店は好調で

そんな雑貨や部屋着が人気ということだった。

昼休みになると、先輩達と近くの喫茶店にランチに出かける。

そう、そこでミルクティーを初めて飲んだんだった。

私の家では紅茶と言えばレモンティーだったから。

先輩がいつもミルクティーたのむので試してみたんだった。

それからずっとミルクティー。

 

そんなときだった。長老を初めて見かけたのは。

喫茶の窓外に、あんまり見かけない風貌の男性が歩いていく

のが見えたのだ。

その人は背が高くて、長い髪は真っ白で着古しの木綿な

被りマント、木の杖でも持たせたらまるで童話の長老?

 

「長老って私は呼んでるのよ」

隣にいた先輩が言った。あーやっぱり?

「この辺の何処かのベンチに住んでるらしい。

前は隣の街にいたんだけど、電車でこっちに来たらしいよ」

「でも時々お金は持ってるよ。こないだコンビニにいたもん。

パンとか買ってた。」

別の先輩がそう言った。

「でもなんか風格があるよね」

「そう?」

風格かぁ、そんな感じもするかなと思った。

 

長老とはその後しょっちゅう出会った。

ある日はバンのミミが一杯入った袋を下げていたり、

恰幅のいい男性と話し込んでいたこともある。

「前はあんたみたいな人がいっぱいいたんよ。

あんたも大変だったんだろ。これ取っといて」

長老はただお辞儀をして立っていた。

 

一度だけ長老と喋ったことがある。

警報の出た台風の日、ちょうど帰宅時間と重なって

ちょっと心配だったが大丈夫だろうと思い

ビルを出たときに、

ものすごいビル風に挟まれて

どうにも動けなくなってしまったのだ。

体か風に持って行かれそうで地面にうずくまるのが

やっとだった。

向こうのビル下にいた人達が

こっちを見ている。その中に長老の姿も見えた。

少しだけ風が収まったときに急いでそこへ行く。

「良かったな。どうなるかと思ったよ」

長老が声をかけてくれた。

「ありがとうございます」

と言うと長老は少し笑った。

 

その後も時々は長老を見かけたが、

話をすることもなく、私は職場を変わってもうそこには

行かなくなっていた。

 

久しぶりに長老を見たのは大雪の降る日だった。

私は帰りを友達の車に乗せてもらうのに

そのビルの前を通ったのだ。

辺りは雪道を帰宅する人でけっこう混乱していた。

長老は、エレベーター横の柱に寄りかかって

立っていた。

いきなり何かを喋り始めた。

私に話しているんじゃない。

何かをずっと喋っているのだった。

ずっと何かを

それは演説のように続いていた。

何を言っているのかは解らなかった。

ずっと何かを

 

私はしばらく長老の演説を聴いていた。

今夜は冷え込みそうだった。

 

それが長老を見た最後の日になった。

 

 

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静かな夕べに、なあんて

2025-05-13 23:22:09 | 日記

中小都市の県庁のある通りに

フードトラックが何台か並んでいる。

5月の夕方、まだ陽は明るい。

通りは帰宅する人々で賑やかしい。

政党の演説も始まる。

 

フードトラックの店主べー (以下べー)

べーの憑き人ヤン (以下ヤン)二人の会話

 

べー もう終わった?もうほんま頭痛いわ。

   ボリューム下げて言うたのにひとつも

ヤン ええけど何してオーサカ弁やねん。

   言うてるわしもやけど、これコトバ合ってんのか

べー ええやん、世間は万博、万博やし。

   さっきの人らもこんなとこでちまちま

   せんでも万博前でドカーンとしたらええのに。

ヤン そんなとこでしたらうるさい言うて

   通報されてまうやろ。

べー せやかて〜、2回も言いに行ったのに。

   もうすこうし静かにお願いできませんか?言うて

ヤン なあ?

べー すいません。言うてな、良かったわこれでちょっとは

   と思うたら

ヤン 思うたら

べー うちがトラックに戻ったとたんに

   ボクは誰に何を言われてもマイクは捨てません!

   言いおったわ

ヤン お前は歌手か、

べー 言うて言いたいわ私も

   わたし失敗したねん。あの政党にこないだの

   選挙で投票してしもうたねん

ヤン あら~何でまた

べー その時はただ控えめにお願いします言うて

   立っとるだけやったから。ええ人らやなと思うて

ヤン 選挙に勝ったとたんに豹変かぁ

 

客が弁当を買いに来る 

客A  今日の日替わり何?

べー こんばんは。今日は鶏のメンチカツカレー味と

   スナップえんどうのグリル。うちの畑で今朝採ったやつ

   後は和風のマカロニサラダ。

客A  ええね。ひとつもらえる?ご飯大盛りで。

べー ありがとうございます。にんじん葉のふりかけも

   付けときますね。

客A   ありがと。

 

ヤン お腹空いてきたな。

べー 私はなんか興奮して喉乾いた。

ヤン なんか、何でみんなそんなに前へ出たがるんかな

べー 主役になりたい?

ヤン 憑きものも悪くないけどな

べー (無言) 

ヤン 静かな夕暮れを過ごしたいな

べー うん

ヤン 夕陽がじんわりして来て

べー ポーチに座るんやろ

ヤン どこやそれ

べー ハーブのいい匂いがして

ヤン 夢やね。べーの。

べー 静かで強いものは信じられる気がするんよ

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一昨日のカーネーション

2025-05-12 06:11:32 | 日記

「ねえねえ、わたし覚えてる?」

突然に声掛けされて、しばらくぼんやりしてしまった。

えっと、私何でここにいるんだろう。それにこの人は?

「前に友達だったじゃない?パン教室とかさ」

そう言われてその人の顔を初めて見る。

「あー、手ごねの!」

「そうそう」

「こねこねじゃなくてバチンバチンてやるやつ」

「うるさかったねえ」

「ねえ」

彼女と私は以前パン教室で知り合った友達同士だった。

その頃私はパン作りに凝っていて、

製パン機で色々試していたのだが、やっぱり機械じゃなく

手ごねに憧れがあって、教室に通っていたのだ。

そこは生地を台上でたたいては丸めていくパンチング法で

皆んなバチンとやる度にその勇ましさにちょっと笑った。

 

彼女は同じ班にいた子で、人懐っこく隣の私に話しかけて

きた。結婚して神戸から越してきたばかりらしい。

帰りにランチに誘ったのも彼女だった。

「こっちに来てあんまり好きなとこなかったんやけど、ここは

いいよ。感動しちゃったんだから」

オーベルジュというイタリアンのお店は、ぐるりと回り階段の

2階にあり、カウンターと奥にテーブルが2つの狭い店だった。

テーブルが空いていたのでそちらに座る。

私が奥の席に座ると、

「私斜めに座るのが好きなんだ」と言って微笑んだ。

バケットを温めたのが先に来て、それをつまんでいる間に

パスタが来る。そこはたぶん美味しかったんだと思う。

その後、一人でも何度か通った。

 

彼女のアパートに遊びに行ったこともあった。

越してきて部屋を片付けたいから服をもらってほしい

と言われて行ったのだ。

低い棚に、動物の組木細工と、出たばかりの

アキコのCDが飾ってあった。服は、

衣装ケース5箱程に私にはおしゃれ過ぎるアイテムが

ぎっしり入っていて、選ぶのに半日くらいかかったかも。

 

「それで、今日はどうしたの?」

と聞かれ、そうだった。どうしたんだっけ?

回りはいつの間にか大勢の人で騒がしくなっていた。

路上ライブが始まり、たぶん何かの配信で

そこに人が集まっていた。

私は何故か心臓が苦しくなり、耳を塞いだ。

「どうしたの?」

「わたし苦手なんだ」

「え〜、あんなにロック追っかけだったのに?

「微妙に違うんよなんか」

「わりと上手いけどねえ」

 

私と彼女はその場からふわりと離れて何処かの

家の前に立った。二階の窓辺にかわいい花柄の

黄色いカーテンがかかっている。

一階の窓が少し空いていて、

ピンクや赤のカーネーションが空き瓶にさしてあった。

レゲエの曲がかかっている。

「あれ、私によ。」

そう言ってとても幸せそうに彼女は笑った。

 

「はい、これは子供のいないあなたに私からよ」

そう言って黄色いカーネーションを一本、

私の手に押し込むと、

「次はちゃんと子供生むのよ。私もちゃんとする」

 

そこからえっと

私はどうしたんだっけ?

 

気が付くと私はさっきの雑踏にいて耳を塞いだまま

うずくまっていた。

「大丈夫ですか?」

女の人が声をかけてくれた。

「あ、大丈夫です。ちょっとしんどくなって」

私は急いで立ち上がった。

その時、何かが落ちた。

 

黄色い、ちょっとしなびたカーネーションだった。

 

 

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