イタリアの泉

今は日本にいますが、在イタリア10年の経験を生かして、イタリア美術を中心に更新中。

ダンテ最古の肖像ーMuseo Nazionale del Bargello,Firenze

2021年03月29日 16時33分10秒 | イタリア・美術

今年はダンテ・アリギエーリ(Dante Alighieri)の没後700年ということで、イタリアでは様々なイベントが企画されている。
その一環でフィレンツェのバルジェッロ美術館(Museo Nazionale del Bargello)に描かれた最古のダンテの肖像が修復され、先日公開された。

写真:ANSA 
バルジェッロ美術館では3月25日をDantedì(ダンテの日、dì=日)として様々なイベントを開催した。

同時にジョット(Giotto)とその工房がCappella del Podestà(行政長官の礼拝堂)に描いたParadiso (天国)のフレスコ画の修復完了も祝われた。

3月25日と言えば、フィレンツェ暦では元日にあたる。(この辺は昔書いたこちらを参考に)
またこの日は聖母マリアが受胎告知をされた日でもあるのだが、その辺は関係ない。
3月25日はダンテが書いたDivina Commedia(神曲)でダンテのあの世への旅が始まった日と研究者の間では考えられている。
ということで没後700年の記念すべき今年は、この日をDantedìとして、イタリア中でダンテの偉業を称えるイベントが行われたというわけ。

ちなみにDivina Commediaを「神曲」と訳したのは森鴎外。
”『即興詩人』(1902)のなかに用い、またその魅力的な一章「神曲、吾友なる貴公子」によって、広くわが国に定着した。なお、「喜劇」とは、悲しい最後に終わる「悲劇」に対して、円満な結末を迎える物語を意味する。”(引用:日本大百科全書)
これ、神訳だと思う。

礼拝堂のフレスコ画はかなり劣化している。
この壁には「最後の審判」が描かれている。

別名Cappella della Maddalena(マッダレーナ礼拝堂)とも呼ばれるこの礼拝堂の壁には、マグダラのマリアの生涯が描かれているが、こちらも劣化が激しい。

バルジェロ宮殿は、現在の市長に相当する Capitano del Popolo の役所として建てられ、1261年にはフィレンツェの市議会が任命した市長ともいうべきポデスタの役所となった。
そのころはポデスタ宮殿 (Palazzo del Podestà) と呼ばれていて、フィレンツェ最古の公共建築物だった。
1280年以降に屋敷の2階に作られた礼拝堂は、この館に収容されていた死刑囚が、斬首への道を歩み始める前に最後に目にすることになるため罪をあがなわれたマグダラのマリアの生涯と「最後の審判」が描かれた。
制作したのはジョットと工房と目されていて、もし本当にジョットがデッサンを描いたとすれば、これがジョットの人生最後の作品になる。

1574年、宮殿が刑務所になるとフレスコ画は塗りこめられ、礼拝堂は2階に分けられ、1つの階には死刑囚に責め苦を負わせる部屋、もう1階は食糧庫として使われていた。
ダンテの肖像画発見されたのは1840年。
翌年には壁の全てのフレスコ画が有ることがわかり、その後の修復で復活したものの劣化は激しいモノだった。
その後何度か修復されているが、今回は劣化をこれ以上進めないような修復が行われた。

1302年ダンテはフィレンツェから追放される。
1321年亡命先のラヴェンナ(Ravenna)で客死する。
フィレンツェはダンテの遺体をフィレンツェに”返還”するように求めるも未だに受け入れてもらえず、墓は現在もラヴェンナにある。
ジョットがこのフレスコ画を描いたのは1340年頃。
ヴァザーリによると、ジョットとダンテはほぼ同年輩で非常に親しい友人だった。
ということでダンテ最古の肖像画というだけでなく、一番本物に近い肖像画と考えられている。

ダンテは「神曲」の第2部煉獄篇11曲94-9でジョットのことを
”繪にてはチマーブエ、覇を保たんとおもへるに、今はジオットの呼聲(よびごゑ)高く、彼の美名(よきな)微(かすか)になりぬ”(引用:Wikipedia)と言っている。

肖像画は最下段の中でも保存状態が良い場所に描かれている。
この辺は「天国」。
ダンテの他にもダンテの師ブルネット・ラティーニや当時の有力者コルソ・ドナーティの肖像も描いている。
(参考:ルネサンス画人伝、白水社)

新型コロナウィルスの感染が再び増えているため、修復などを含めたバルジェッロ美術館での特別展の開幕は来月に見送られている。
この特別展では追放後一度もフィレンツェに戻ることがなかったダンテとフィレンツェの街の関係を見返している。

参考:https://www.rainews.it



最新の画像もっと見る

コメントを投稿