イタリアの泉

今は日本にいますが、在イタリア10年の経験を生かして、イタリア美術を中心に更新中。

Castello della Manta(マンタ城) その3 若返りの泉と賢者たち

2016年12月27日 08時00分11秒 | イタリア・美術

かなり引っ張って来ましたが、メインへ突入です。
こちらの壁から

物語(?)は左から始まっているのですが、

この中央にある泉(噴水ですか?)これが”若返りの泉”で言わずと知れた、中に入ると若返るというそれです。
12世紀のフランス文学のテーマに登場し、1300年初めには細密画、高価な小物などに描かれていて、
Tommaso IIIがパリから持ち帰ったGervais du BusのRoman de Fauvelがベースになっていると考えられます。
ただValerano自身も1416年Carlo VI(カール6世)に騎士の称号を与えられた時にパリに滞在したのではないかと考えられています。

上の1枚目の写真では貴族や王までが馬車に乗って続々とこの泉に向かっています。
そして泉の周りでは急いで服を脱ぐ者や、既に泉の効果で若返り、いちゃいちゃしている人など色々。
そしてこの右側には

若がえった人たちが、どこへ向かっているのでしょうか…
窓があるので、物語は大きく3段階で発展しています。
登場人物はたくさんいて王から使用人までありとあらゆる階級の人物が描かれています。
またあらゆる種類の動物もいます。
人物が着ている衣裳は1450年以前にヨーロッパの宮廷に出回っていたデザイン帳のデザインから引用したものと考えられる当時の最先端。
絵の特徴としては当時のトリノのCorte Acaja(アカイヤ宮廷)画家の影響も受けています。
とにかく豪華絢爛です。

詳しい資料があまりなかったので、それほど詳しいことは分からないのですが、とにかくリアル。
例えば

馬車に乗る王様。
王妃から何を言われているのか、困った顔をしていますね。

その下には馬車の椅子から立ち上がったおじいさんが鞭を振り上げている所。
何でもおじいさんは麻痺患者(痛風病み?イタリア語ではparalitico)で、デキャンタから何か(ワインかな?)を飲み干そうとしているのは彼の召使。
後ろに何か文字が書かれていますが、これは当時のこの地方の方言で
「もし瓶を離さなければ、耳をたたくぞ」というおじいさんに、
召使は横柄に「喉が十分に潤わない限り、瓶を話すことなんかできないよ」と答えています。
まるで漫画のワンシーンみたい。


靴下、靴を脱ぐおじさんたち。
お尻の下には小さな花がたくさん咲いています。

ゴシック風の泉の上の部分にはまさに矢をいろうとしているキューピッド
泉の中ではちょっとエロティックな人たちが・

若さを取り戻したので…

こちらは若返った男が、老人を引き上げようとしている。
とにかくリアルなんですよ~見てて飽きない。
右の壁には

男性が女性に「この森の中に入って最後まで楽しもうよ~」と強引に女性の腕を引っ張って連れ込もうとしていますが、
女性は「誰かに見られたら恥ずかしい」と拒否しています。
おいおい…
確かこれ、世俗的なフレスコ画でイタリアに残っている最古のもの、とオーディオガイドが言っていた気がします。(曖昧な記憶なので間違えていたらごめんなさい!)

そしてこのなんか楽しい「若返りの泉」に向かい合ってる壁には

これ。
暖炉の右側から9人のProdi(賢者)と9人のEroine(ヒロインとも訳せるんだけど、この場合は”女傑”が相応しい気がする)が描かれています。
記録はありませんが、多分「若返りの泉」の画家と多分同じでしょう。
暖炉のすぐ右から3人の異教徒の賢者、3人のユダヤ教の賢者、3人のキリスト教の賢者が並び、その横に神話や歴史に登場するヒロインが9人並んでいます。
人物は上に紋章が入った盾が付いた木で区切られ、足元にはその人物の武勲や功績を表すフランス語の詩が書かれています。
こちらの方たちは全員Tommaso IIIが書いた伝記、騎士道物語Chevalier Errantに登場しています。
この物語は1394年からフランス語で書かれたもので、知識を得るために旅する騎士の伝記です。
数多くの波乱の末、Madama Fortuna(幸せの貴婦人?)の元へたどり着き、そこでこの9人の賢者と9人のヒロインに会います。

どの人もそれと分かるような衣裳や持ち物を持っています。
9人の賢者は暖炉右側からEttore di Troia(トロイアの王子ヘクトール)、

これ暖炉の脇のトロイアの王子ヘクトールですが、この顔はパトロンのValeranoと言われています。
ヘクトールの運命を示す紋章である王座に座す豹が盾に描かれています。 
そして

ギリシャの英雄アキレウスとの決闘を示唆する2本の剣を所持しています。
トロイア王ヘクトールはアキレスに殺され、アキレウスはヘクトールの懇願を受け入れず、ヘクトールの死体のくるぶしに穴を開け、紐を通し、それを戦車にくくりつけて引き回します。
そして、ボロボロに なった遺体をトロイアに返しました。
アキレウスは、この残酷さが神々の怒りにふれて、唯一の弱点であるアキレス腱に矢を放たれて死んでしまいます。


Alessandro Magno(アレクサンドロス大王)
上が開いてる冠は王か王女の印
そしてアレクサンドロス大王の左上の盾の印は彼の王たる資格と功績を称えた鉾槍(14-16世紀に主にスイス兵や教皇領兵士の用いた武器)を持つライオンが王座に座っている様子が描かれています。

Giulio Cesare(ユリウス・カエサル)
上が閉まっている冠は皇帝。皇帝と何人かの女王が権力の象徴である金の地球儀を手にしている。
彼の盾には神聖ローマ帝国の紋章、黒い双頭の鷲が描かれている。(アレクサンドロス大王の写真を見てね)
実は中世、ローマ帝国の1番最初の皇帝はカエサルだと考えられていたんです。
実際はAugusto(アウグストゥス)が正しいんだよね?

ユダヤ教の賢者は

モーゼの後継者Giosuè(ヨシュア)

Davide(ダビデ)
手にしているのは彼が書いたとされるSalmi(詩篇)
更に

ゴリアテを倒したという石を投げる武器も持っています。


Giuda Maccabeo(ユダ・マカバイ)

キリスト教の賢人は

Artù(アーサー王)

Carlo Magno(カール大帝)
フランスのシンボルの白百合の柄が服に描かれています。

第1回十字軍の指導者の一人でエルサレムの初代聖墓守護者となるGoffredo di Buglione(ゴドフロワ・ド・ブイヨン)
エルサレムの伝統的な紋章が左上に描かれています。

そして女傑は

ギリシャ神話に登場するディオメデスの母Delfile(ディーピュレー)

女性部族アマゾーンのSinope
冠被ってるから女王ですね。

同じくアマゾ―ンのIppolita(ヒッポリュテー)
ヘラクレスの「12の功業」のうちの9番目の課題が、彼女は持つアーレスの帯を奪うことでした。

アッシリアの女王Semiramide(セミラミス)
世界の七不思議の一つ「バビロンの空中庭園」を造らせたといわれ、伝説によれば、美貌と英知を兼ね備えていたとも、贅沢好きで好色でかつ残虐非道であったとも伝えられている。
「セミラミス」はアッシリア語で「鳩から来た者」を意味することから、幼くして捨てられ、鳩によって育てられたとも言われる。(まぁ狼に育てられた人もいますからね)
他にもニネヴェの都を築いたアッシリア王ニヌスに寵愛され、息子ニニュアス(Ninyas)を産んだが、
王はセミラミスに毒殺されたという伝説が残っていて、これは伝説に残っている最古の毒殺事件といわれている。
こうしたセミラミスにまつわる伝説は、ヨーロッパでは演劇やオペラの題材として好んで取り上げられることになり、中でも有名なのはロッシーニが作ったオペラSemiramide…ってあれ?
このオペラ10月に観ました。
あれれ、全然どんなオペラだったか思い出せないんだけど…ホントに観たのかな? 


インドを征服したというEtiope(エチオぺ)

アマゾネスの女王Lampeto
毛皮の縁取りがしてある衣裳が着られるのは女王だけ。

スキタイの女王Tamiris(トミュリス)
中央アジアのカスピ海東岸に勢力を有していたマッサゲタイ族の女王。
トミュリスの記録はギリシャ人の歴史家ヘロドトスが書いた歴史書に初めて登場するが、何せヘロドトスは彼女より100年も後の人なので、その記録は伝説の域を出ない。


イリュリアの女王、Thenca
そしてアキレスに殺されたもう一人のアマゾネスの女王が9番目のPentesilea
これは残念ながら顔が残っていません。
彼女がパトロンのValeranoのつまClemenza Provanaの肖像だったと考えられています。

どの人物も衣裳が豪華。
ヒロインの中には女性的で魅力的なポーズを取っている人もいますね。
ほぼ全員が攻撃用の武器を持っていますが、これは武人の徳を表しています。
ルネサンス時代にはよくUomini illustriと呼ばれる有名人が描かれていましたが、この18人はそれに先行する倫理的な意味を持っていました。 
いやいやホントに実物見ないとこの感動は伝わりませんね。 
ということでこのお城のメインディッシュはこれで終わり。

でももう1回くらいCastello della Manta(マンタ城)のお話は続きますので、是非お付き合いくださいね。



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