イタリアの泉

今は日本にいますが、在イタリア10年の経験を生かして、イタリア美術を中心に更新中。

ルーベンス(Peter Paul Rubens)の「サムソンとデリア」は偽物!?ーロンドン

2021年10月17日 14時39分56秒 | 世界の美術館

技術の進歩は、知らなくてもいいことまで教えてくれる。

9月の話なのだが、ロンドンのナショナルギャラリー所蔵のルーベンス(Peter Paul Rubens)の作品が実は偽物だと分かったという記事を読んだ。
作品はこれ

写真:Wikipedia
写真を借りたWikipediaにもそのことは既に掲載されていたのだが、この「サムソンとデリラ(Sansone e Dalila)はルーベンスの手によるものではない可能性が濃厚になり、オリジナルは発見されていないがそのコピーではないかという。

この作品はルーベンスがイタリアからアントワープに戻った直後1609年頃に、市長のニコラス・ロコツクス(Nicollas Rockox)の注文で描かれた。
ここでちょっと脱線。
この市長、ルーベンスのパトロンとしても有名だが、あの「フランダースの犬」でネロがずっとずっと見たかった絵を注文したのもこの人。

私も焦がれて2016年見に行った。
こちらは正真正銘ルーベンス作の「キリスト降架(Trittico della Deposizione dalla Croce)」
「これがネロが見たかったルーベンスかぁ」と思ったものだ。

遠くから作品が見えた時はネロ同様感動したっけなぁ…

アントワープの聖母大聖堂にある。ああ、懐かしい。
教会の前には

このプレートのネロが怖すぎる…

ロンドンのナショナル・ギャラリーに入ったのは1980年。
250万ポンド(現在の価値で約660万ポンド・約10億円に相当)という高値で売買されたことで話題になったそうだが、当時から一部の専門家によって偽物である可能性を指摘されていた。

作品のテーマは旧約聖書から用いられた「ハニートラップ」の場面。
詳細は中野京子氏が解説するこちらのサイトを読むと分かりやすい。

今回この作品に「偽物」の烙印を押したのはAIで、偽物の可能性はおよそ91%。
この結果はスイスのArt Recognitionという会社の芸術作品の真贋判定に特化したAIが導き出した結果で、AIに148作のルーベンスオリジナル作品を学習させた。
ナショナル・ギャラリーはこの結果内容を承知しているようだが、この件に関してコメントは出していない。
(日本語の詳しい記事はこちら
ルーベンスは作品数も多いので148点で決めるのはどうなの?という気もするし、弟子に描かせていたという作品も多いのでさもありなんという気もするけど、果たしてどうなんでしょ?

この作品に関しては、準備段階の関連作品が2点残されている。
1点は墨と水彩で16.4x16,2 cmの紙に描かれたアムステルダムの I.Q. van Altena Regterenコレクションにあったこちら。

写真:Christie’s
なんとこれ、2014年Christie’sでオークションにかけられた。
販売価格3,218,500ポンド。ん?およそ5億円!?
I.Q. van Altena Regteren (1899-1980)は美術史家であり、アムステルダム国立美術館(Rijksmuseum)の素描版画室の室長だった。
近年コレクションの多くはアムステル国立美術館に鞍替えされていたが、2014年から2015年にかけておよそ800点がクリスティーズに出展され、1000万ポンド(およそ15億円)以上の売り上げが見込まれていた。
コレクションにはルーベンスだけでなレンブラント(Rembrandt), ヘンドリック・ホルツィウス(Goltzius)、ヤーコブ・デ・ヘイン II(de Gheyn)などのオランダ、フランドルの1550年から1580年の傑作が出展された。

もう一点はアメリカのシンシナティ美術館肖像の油絵のデッサン。

写真:https://www.cincinnatiartmuseum.org/
はて、真相はいかに?

AIによる技術の進歩はこれだけではない。
先日まで修復中だったレンブラントの「夜警」
この作品は四方が切り取られていたのだが、AIのおかげで現在はほぼオリジナルに復元された。
復元前は縦363センチ、横438センチだったのが、切り取られていた左側が60センチ幅で再現され、そこに描かれていた男性2人と少年1人の姿が復活した。

写真:https://www.hwupgrade.it/
その結果、復元前には中央にいた2人の人物、フランス・バニング・コック(Frans Banninck Cocq)隊長とウィレム・ファン・ルイテンブルフ(Willem van Ruytenburch)副官が脇へずれた。

なんでもかんでも”オリジナル”というのはどうかと思うが、技術の進歩はこの先私たちに何を見せてくれるのだろうか?

参考:https://www.hwupgrade.it/news/



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5 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
すごいですね。 (fontana)
2021-10-24 11:08:24
山科様
記事拝見しました。
こんな面白い企画を西洋美術館が開催していととは知りませんでした。技術が発展した今、このような企画が開催されるといいなと思います。
ありがとうございます。
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ソドムを去るロトとその家族 (山科)
2021-10-18 05:49:19
URLに
西洋美術館の特別展のことを書きました。4年前なんで忘れてました。
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同感です。 (fontana)
2021-10-17 17:17:18
山科様
コメントありがとうございます。
日本でそんな展示が有ったんですね。
私もいまいちAIを信用できません。技術の進歩は素晴らしいとは思いますが、それがすべてではないと思います。
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訂正 (山科)
2021-10-17 17:13:01
×>キンベル
○>マイアミのバース美術館
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ルーベンス (山科)
2021-10-17 17:08:26
ルーベンスの作品は、昔昔、西洋美術館で、
ソドムを去るロトとその家族 の絵を3点
比較する素晴らしい展示があったとき、
リングリングとキンベルの絵のそっくりさんに驚いたことがあります。ルーベンス工房のスタンスならオリジナルが何枚もあっても不思議ではないでしょう。
ただ、AI鑑定は信用してはおりません。写真でみると偽物のほうがよくみえるのは誠に不思議な現象ですから。
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