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50個以上の度肝を抜いたそれは、
その余韻を楽しむこともなく、
先程とほぼ同じ角速度で元の方向を向いた。
「たまげましたな」
「うむ……」
「まったく、忌々しいものですな」
と言いつつ眉をしかめたそのとき、
それは再び振り向き、
32個の度肝を抜いてすぐ、
また元の方向へ向き返した。
「なんだってんでしょうね」
「俺らの言う事がわかってるんじゃなかろうか……」
「まさかぁ」
「俺」を一人称とする男は、
ほんの一瞬ではあったが、
「まさかぁ」の「ぁ」に苛立ちを覚えた。
度肝をいくつも失った見物人は、
一人、また一人と立ち去っていく。
度肝とともに、好奇も抜けたらしい。
空はからんとして青い。
風と気温は奇跡的なバランスを保つ。
遠くで市役所のサイレンの音がする。
この世が、空間的にも、時間的にも、
これの近傍を離れなければいいのに。
「ところでさ」
「なんです」
「ガクムレンの……」
「カグムレン」
「あ、そうそうカグムレン。
カグムレンのしっぽってさ」
(つづく)
50個以上の度肝を抜いたそれは、
その余韻を楽しむこともなく、
先程とほぼ同じ角速度で元の方向を向いた。
「たまげましたな」
「うむ……」
「まったく、忌々しいものですな」
と言いつつ眉をしかめたそのとき、
それは再び振り向き、
32個の度肝を抜いてすぐ、
また元の方向へ向き返した。
「なんだってんでしょうね」
「俺らの言う事がわかってるんじゃなかろうか……」
「まさかぁ」
「俺」を一人称とする男は、
ほんの一瞬ではあったが、
「まさかぁ」の「ぁ」に苛立ちを覚えた。
度肝をいくつも失った見物人は、
一人、また一人と立ち去っていく。
度肝とともに、好奇も抜けたらしい。
空はからんとして青い。
風と気温は奇跡的なバランスを保つ。
遠くで市役所のサイレンの音がする。
この世が、空間的にも、時間的にも、
これの近傍を離れなければいいのに。
「ところでさ」
「なんです」
「ガクムレンの……」
「カグムレン」
「あ、そうそうカグムレン。
カグムレンのしっぽってさ」
(つづく)