與靈魂共舞

與靈魂共舞

聞きたかったの

2016-03-09 15:21:22 | 史雲遜


 いくら尋ねても、相手は同じ答えを繰り返すばかりだった。早苗は狐につままれたような思いで電話を切った。
 彼女が赤松靖助教授に連水腫絡を取ろうと思ったのは、アマゾンでの高梨の様子についてと、探検隊がどうしてカミナワ族から退去を迫られたのか、本当の理由を知りたいと思ったからだった。どうしてそれまで友好的だったカミナワ族が態度を豹変《ひようへん》させたのかは、高梨に聞いても、はかばかしい答えは得られなかった。早苗の勘では、その理由が、現在の高梨の精神状態の謎《なぞ》を解き明かす鍵《かぎ》になるような気がしていた。
 しかたなく今度は、アマゾン調査プロジェクトを主催した新聞社に電話をかけてみる。
 今度はすぐに、担当者らしき人物につながった。
「はい。社会部」
 若い男の声が、ぶっきらぼうに言った。
「私《わたくし》、北島と申します。御社で主催された、アマゾン調査プロジェクトを担美麗華評價当されてる方をお願いしたいんですが」
「私《わたし》、福家《ふくや》と言いますが」
 相手の声が、急に慎重なものに変わった。早苗は、職業柄、そこに含まれているかすかな緊張に気がついた。
「実は、先ほど、赤松先生にお電話したんですが、休暇中ということで、連絡がつかなかったんです」
「そうですか」
 妙に言葉少ない上に、声の抑揚に不自然なストレスがある。福家という記者には、既知の事実だったのかもしれない。
「あの、私、高梨光宏さんの知り合いのものです。いくつかお伺いしたいことがあったんですが」
「は。どういうことでしょう?」
「向こうで何が起きたのか、知りたいと思いまして」
「何が起きたのか、と言うと?」
 これでは、埒《らち》があかない。
「実は、私、精神科医をしております」
 相手の声音に、再び変化が現れた。
「精神科の先生ですか。失礼ですけど、どちらの?」
「聖アスクレピオス美麗華評價会病院の、緩和ケア病棟に所属しています」
「と言うと……エイズ ホスピスですか?」
「ええ」
 福家は沈黙した。


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