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本と音楽とねこと

【旧作】家族卒業【斜め読み】

速水由紀子,2003,家族卒業,朝日新聞社.(5.17.24)

 本書が出版されたころ、大学の入学式に仲良く参加する「一卵性母娘」が話題になっていた記憶がある。
 長時間労働に縛り付けられた夫(父)が不在の家庭で、専業主婦かパートタイム勤務の母親と子どもとの癒着が深まる。
 ただの「友だち親子」であれば問題はないが、往々にして、母親は、子どもの人生に夢を託し、自らの支配下におこうとする。

 スーザン・フォワードの「毒親」(toxic parents)概念が人口に膾炙したのは、その10年ほどあとのことである。

 そしてさらにその10年ほどあとの現在、婚姻制度も戸籍制度も、20年前と変わらぬままだ。
 法律婚という体裁とカネのつながりだけで維持される夫婦関係と、世界に類を見ない買春市場の隆盛。
 この国の家族のかたちはなにひとつ変わっていない。

 現代の家族問題の根底にある、大きな要因の一つが夫婦の性の浮遊だ。
 セックスレスやインターネット不倫、テレクラ通いなどで、お互いのセクシュアリティがそっぽを向き合い、関係が空洞化しているケースは山のようにある。
 結婚が「絆」ではなく「家の仕組み」を守ることを目的とした法制度や慣習に固執している限り、こうした問題は「必要悪」としてなくなることはないだろう。
 「仕組み」の形だけを温存し、お互いの実存に決して届かない関係。一見、多様化したように見えるセックスや恋愛の形態も、実はそこに生じた隙間を埋める、一種の「しのぎ」でしかない。一時の自己肯定感を得るために必要なパーツを得る、という方が近いだろう。さらに日本が世界に冠たる性風俗、エロ情報天国なのも、建前的な「家」の運営と、セクシュアリティの充足が往々にして両極に乖離しているからだ。
 個人と個人の「絆」より、「家の仕組み」の安泰を優先させる夫婦は、さまざまな試行錯誤をしたり、もはや修復不能なら別れて再出発しようとは考えない。手軽に手に入る代替物を使うことで、欲望や孤独の隙間を埋めようとするのだ。
(pp.178-179)

気鋭のジャーナリストが放つ、渾身の家族論
「家族」のひずみが顕在化している。サイレントベイビー、一卵性母娘、近親姦……。その背後には必ずと言ってよいほど、常に「依存」を繰り返している未熟な親たちの姿がある。本書は、豊富な具体例を引きながら、結婚・出産・家庭という生き方や「家族の絆」は決して自明ではないことを伝え、自立した人間同士の築く新しい「ユニット」の模索が必要だと訴える。

目次
序章 母の欲望・息子の殺意
第1章 親になりたがらない人々
第2章 主婦たちの迷走
第3章 危険な父親たち
対談「不幸に生まれついた私」からの脱出(宮台真司;速水由紀子)
第4章 自己愛的コミュニケーション・浮遊する性
第5章 親子を壊して、つくる
終章 家族を卒業せよ ほか


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