伊藤野枝サイコー、ポップな文体でいかした評伝書いた栗原もサイコー、「『村に火をつけ、白痴になれ』はファッキン・マスターピースである。」(ブレイディみかこ)
福岡は今宿で生まれ育った野枝、ときとして、今宿の海岸から能古島まで泳いで渡っていたという。畏るべし。
生きることにとことん貪欲だった野枝。もっと知りたい、主張したい、メシ食いたい、好きな男とセックスしたい、相手が既婚者だろうが知ったことか、イエ制度も婚姻制度もくそくらえ。できた子ども?テキトーにほうっておいても育つし親せきや友人がなんとかしてくれる。大杉栄との間にできた子どもの名は、長女「魔子」、次女「(米国のアナキスト、エマ・ゴールドマンの)エマ」、三女も「エマ」w、四女「(パリ・コミューン時のアナキスト、ルイズ・ミッシェルの)ルイズ」、長男「(ウクライナのパルチザンだったネストル・マノフの)ネストル」。さすがは野枝、極貧なのに愛欲をむさぼり次々に子を産み、アナキスト同志たちの名をつける。サイコーだ。
「やりたいことだけやって生きていきたい。ただ本が読みたい。ただ文章がかきたい。ただ恋がしたい、ただセックスがしたい。もっとたのしく、もっとわがままに。ぜんぶひっくるめて、もっともっとそうさせてくれる男がいるならば、うばって抱いていっしょに生きる。不倫上等、淫乱好し。それが人間らしくないといわれるならば、妖怪にでもなんにでもなってやる。欲望全開だ。」(p.xiv.)
「ああ、習俗打破!習俗打破!それより他には私たちのすくわれる途はない。」(野枝、p.81.)
(婚姻制度を否定して生まれる子どもが「私生児」として差別されることを受け)「世間というのは、ほんとうにろくなもんじゃなくて、ふだんは貧しい子どもをすくおうともしないくせに、そういうときにだけ子どもを守れとかいってきて、おまえらひととしておかしいんだよとか、ひとでなしとか、ろくでなしとかいってくる。でも、野枝はめげない。」(p.169.)
「政府の番犬どもよ、やれるものならやってみやがれ。そのかわり、女たちの気性をわすれるな。たとえつっぷし、たおれてもなんどでもはいあがってやる。いつだって、二倍返し、三倍返し、四倍返しだ。牢獄にぶちこまれようと、絞首台にのぼらされようとかまうものか。ひとたび激情にかられれば、なんだってやってやる。かならず大事をなしてやるんだ。女をなめんな、わすれんなと。」(p.185.)
「国家は経済のことしか考えない。カネ、カネ、カネの秩序だ。国全体を意識させて、さわぐやつらをだまらせる。税収が減ったら、より弱いものたちがこまるんですよ、したがいなさいと。いま、そういう為政者目線があたりまえになっているんだとしたら、一〇〇回でも一〇〇〇回でもつぶやいてやりたい」(p.238.)、当時の内務大臣、後藤新平に野枝が言い放った、「あなたは一国の為政者でも私よりは弱い」という言葉を。同感同感。それにしても、野枝、マジ卍、かっけー!
「貧乏に徹し、わがままになれ。友だちがいれば百人力。あの友だちがいれば、これもできる、この友だちがいれば、あれもできる。いざとなったら、なんとでもなる、なんでもできる。汝、中心のない機械になれ。それをさせないなにかがあるのなら、いつだって米騒動だ、借家人運動だ。(中略)村に火をつけ、白痴になれ。」(p.233.)
野枝と大杉は、「関東大震災」後の混乱のなかで、甘粕正彦ひきいる憲兵隊に「危険分子」として拘束され、惨殺された。しかし、その思想と凛として輝く生の記録は、永劫に残り続ける。
ちなみに、本書のタイトルは、野枝が記した今宿での経験にもとづく小説による。一つは、知的障がいをもつ子の母親がムラの住民にいびられ首を吊って死んだ話、もう一つは、被差別出身ゆえ同じくムラの住民に迫害され続けてきた青年が集落の家々に火をはなった話だ。「ああ、習俗打破!習俗打破!」
なにより、栗原が、時代と性別を超えて、野枝とシンクロしているのがすごい。ヤバすぎるほどすごい。野枝と栗原の知とパトス、そして生そのものが、法外で溶け合い、強烈な業火となって燃えさかる。
わたしは、毎年、ゼミの4年生に、卒業時、本書をプレゼントすることに決めた。
目次
第1章 貧乏に徹し、わがままに生きろ
お父さんは、はたらきません
わたしは読書が好きだ ほか
第2章 夜逃げの哲学
西洋乞食、あらわれる
わたし、海賊になる ほか
第3章 ひとのセックスを笑うな
青鞜社の庭にウンコをばら撒く
レッド・エマ ほか
第4章 ひとつになっても、ひとつになれないよ
マツタケをください
すごい、すごい、オレすごい ほか
第5章 無政府は事実だ
野枝、大暴れ
どうせ希望がないならば、なんでも好き勝手にやってやる ほか
女性を縛る結婚制度や社会道徳と対決し、貧乏に徹しわがままに生きたアナキスト、伊藤野枝。パートナーの大杉栄や甥とともに国家に惨殺されるまでの二八年の生涯に、ほとばしる情熱、躍動する文体で迫る。「あなたは一国の為政者でも私よりは弱い」。一〇〇年前を疾走した野枝が、現代の閉塞を打ち破る!
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