上野駅近くで野宿する南相馬市出身の高齢男性が主人公。
高度成長期に出稼ぎで上京。帰郷したあと、子どもと妻に死に別れ、同居し世話になる孫娘に気兼ねして、再び上京し、ホームレスにいたる。
その孫娘も、東日本大震災時の大津波にのまれ、愛犬ともども死ぬ。
最後、電車に飛び込んで死ぬ前に物語は終わるが、最初から最後まで、男の回想にそって、モノクロームの連続写真を見るかのように、静かに、淡々と物語は進行する。
男の人生と昭和天皇、平成天皇の人生、巡幸とが重ねられる。平成天皇が上野に来るたびに、ホームレスは住処を追われ、行き場を失う。
どこまでも暗く、ひたすら悲しみを追体験する物語である。
一九三三年、私は「天皇」と同じ日に生まれた―東京オリンピックの前年、男は出稼ぎのために上野駅に降り立った。そして男は彷徨い続ける、生者と死者が共存するこの国を。高度経済成長期の中、その象徴ともいえる「上野」を舞台に、福島県相馬郡(現・南相馬市)出身の一人の男の生涯を通じて描かれる死者への祈り、そして日本の光と闇…。「帰る場所を失くしてしまったすべての人たち」へ柳美里が贈る傑作小説。
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