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本と音楽とねこと

本屋で待つ

佐藤友則・島田潤一郎,2022,本屋で待つ,夏葉社.(4.26.24)

 わたしたちは、いつしか、効率と利便性、コスパばかりを気にかける「合理的な消費者」となり、小売店舗において、売り手と、人としての会話の一つさえ成り立たなくなった。

 小規模小売店の減少は、モータリゼーションが進行した高度経済成長期からはじまっている──駅前商店街の衰退と大規模駐車場を備えたスーパーマーケットの台頭──が、1990年代以降、コンビニエンスストアの出店が加速し、2000年、米国の圧力により、大店法が廃止され、大規模小売店舗立地法が施行されたのを機に、郊外に、大型ショッピングセンターやショッピングモール、ディスカウントストア、ドラッグストアが林立するに至って、小売店における、売り手と買い手の匿名化がさらに進行していった。

 そして、買い物(消費)は、売り手との会話の一つさえない、必要な商品を買い物かごに入れ、レジをとおし、自分のバッグに商品を移し替えるだけの「労働」となった。

 書店もその例外ではない。

 しかし、「資本主義で「自治」は可能か?──店がともに生きる拠点になる」(松村圭一郎、斎藤幸平・松本卓也・白井聡・松村圭一郎・岸本聡子・木村あや・藤原辰史,2023,コモンの「自治」論,集英社.所収)が例証しているように、地方の小さな書店が、人と人とを結びつける、社会関係資本(ソーシャル・キャピタル)のハブとして機能する事例がある。

 本書で描かれている、広島県の過疎地域の書店の実践も、商品の売買が、匿名的な売り手と買い手との一時の関係性に終わってしまうのではなく、人と人とを架橋していく契機となりうることを示している。

地域を立て直す書店の役割-広島県庄原市東城町「ウィー東城店」

庄原市唯一の本屋 地域の人たちとともに

 書店を立ち上げた佐藤さんの実践のなかで、もっとも感動するのが、彼が、地元の不登校の青少年たちを、店で雇用し続けたことだ。
 その子らは、立派に仕事をこなせるようになり、自信と自尊感情を取り戻し、この世界でたくましく生き抜いていく力をもてるようになった。

 でも、一歩が踏み出せない子達との出会いが僕をゆっくりと変えてくれました。何故か次から次へと学校に行けない子達がウィー東城店で働くようになり、どうしたら彼ら彼女らと一緒に歩めるようになるのだろうと考える事は、自然と駆け足からジョギングへ、そして寄り添い歩くことへ、最後には泥水の泥が沈殿していくようにそこに静かに留まり受け止めることを可能にしてくれました。
 待つということは聴くということとよく似ています。待てない人はおそらく人の話(心の奥底の想い)を聴けていないと思います・・・・・・。かつての僕がそうであったように。静かに待つということは案外難しく、特に僕には難しい行為でした。でも、彼ら彼女らの事を理解しようと思えば待つしかなかったのです。逆に言うと、彼ら彼女らが待っていてくれたのかもしれません。
 だって、彼ら彼女らはいつも静かに黙っていましたから。
彼ら彼女らは何故かみんな少しずつ元気になっていきました。楽しそうに仕事をするようになっていきました。
 僕もいつの頃からか話が聴けるようになっていきました。そして待つことが出来るようになっていました。それはたぶん、彼ら彼女らの精神的な安全地帯になり始めたからだと思います。寄り添うことも受け止めることも聞くことも待つことも、それは前に進むことを意味しません。ただそこに居るだけで出来ることです。静かに穏やかに、そしてできたら明るくその場に居ることは、いつしかそこに根を生やすということになるのだと思います。
「そんなことじゃ社会に出られないよ!そんなので社会に出てどうするの?」
 短絡的ではありますが、これが学校に行けなくなった子を持つ親の気持ちだと思います。この子が社会に出て大丈夫なのだろうかという親の心配であるとも思います。
 でも、どうでしょうか。今のこの社会が良いものでしょうか?より多く持つ者が賞賛を浴び、より早く進む者が高い報酬を得、より強い者がさらに強くなる世の中に送り出すのが正解なのでしょうか?
(pp.196-197)

 本書の装丁がまたすばらしい。

 本書は、書物をとおして人と人との関係性が拡充していくことのすばらしさだけでなく、小規模小売店のソーシャル・キャピタル、そのハブ機能の重要性と、コミュニティ・ビジネスによるコミュニティ・オーガニゼーションの生きた成功事例を教えてくれている。

人口の7000人の町の本屋、「ウィー東城店」。山間の田舎の書店に望まれることの多くは、こわれた電気機器の相談や、年賀状の宛名書きなど、高齢者たちの生活の相談にのることでした。そんな店にある日、「学校に行けなくなった子どもをなんとかしてほしい」と相談がもちこまれ、店の運命は大きく変わっていきます。
地域の小売店の可能性と、そこで成長する若者たちの姿を描く感動作。
装画、挿絵は『急がなくてもよいことを』で注目を浴びる漫画家、ひうち棚さんです。

目次
1章
八戸ノ里の大学生
とでやの息子
本屋の父 ほか
2章
手品をする本屋
複合化の時代
本屋とコンビニ ほか
3章
前田夕佳さんの話
妹尾秀樹さんの話
大谷晃太さんの話


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