
極私的な2005年コンサートベスト3を選んでみたいと思う。表1が今年足を運んだ演奏会のリストであり、表2はその中で星を5つ(最高ランク)付けたものである。
<表1 2005年に行った演奏会>
Date/Venue/Orchestra/Conductor/Soloist/Programme includesの順
(RFH: Royal Festival Hall BH: Barbican Hall QEH: Queen Elizabeth Hall
WH: Wigmore Hall RAH: Royal Albert Hall)
January
27 RFH PO/Muti/Repin Schubert Sym. No.9
February
16 RFH LPO/Berglund/Wispelwey Sibelius Sym. No.2
22 WH Bostridge/Uchida Schubert Die Schone Mullerin
23 QEH Anderszewski Chopin Sonata No.3 in B minor
March
5 RFH LPO/Metzmacher/Midori Hartmann Sym. No.3
9 RFH LPO/Elder/Hewitt Mahler Sym. No.6
19 BH Kempf Chopin Etudes Op.25
23 RFH Uchida Beethoven 'Hammerklavier'
25 BH CLS/Hickox Bach St Matthew Passion
31 QEH Tokyo SQ Takemitsu A Way A Lone
April
3 RFH CSO/Barenboim Mahler Sym. No.9
4 RFH CSO/Boulez/Barenboim Bartok Concerto for Orchestra
7 BH LSO/Gardiner Beethoven Sym. No.7
15 QEH Sokolov Chopin Impromptu in G flat Op.51
17 BH LSO/Pappano/Barenboim Brahms Piano Concerti No.1&2
23 RFH PO/Salonen/Ax Strauss Also sprach Zarathustra
24 RFH Pollini Chopin Piano Sonata No.2 in B flat minor
26 RFH PO/Segerstam/Mullova Bruckner Sym. No.7
27 RFH LPO/Mutter Mozart Violin Concerto No.5
May
9 QEH ABSQ/H. Schiff Schubert String Quintet in C, D956
10 Bristol Uchida Beethoven Piano Sonatas Op.109 110 111
18 WH Aimard/Keller Quartet Ligeti Etude (Extracts)
22 RFH Hewitt Liszt Sonata in B Minor
June
3 BH BFO/Fischer/Goode Bartok The Miraculous Mandarin, Suite
9 Berlin BPO/Rattle/Uchida Schubert Sym. No.9
11 BH RCO/Jansons Brahms Sym. No.2
12 RFH PO/Mackerras/Uchida Mozart Requiem
14 BH LSO/Previn Shostakovich Sym. No.10
16 RFH PO/Mackerras/Uchida Elgar Sym. No.2
22 RFH Brendel Beethoven Sonata in D, Op.28
July <PROMS >
18 RAH OROH/Pappano/Domingo Wagner Die Walkure
24 RAH Halle Orchestra/Elder Elgar The dream of Gerontius
August
1 RAH BBCSSO/Volkov/Freire Brahms Piano Concerto No.2
10 RAH Deutsches Sinfonie-Orchester Berlin/Nagano Bruckner Sym. No.6
11 RAH BBCSO/Metzmacher/Cascioli Hartmann Sym. No.6
22 RAH LSO/Haitink/Grimaud Shostakovich Sym. No.8
<SALZBURG>
28 GF VPO/Harnoncourt Bruckner Sym. No.5
28 GF VPO/Muti Mozart Die Zauberflote
29 Domplatz Jedermann
29 GF BPO/Rattle Ravel Daphnis et Chloe
30 F Pogorelich Chopin Piano Sonata No.3 in B minor
<PROMS>
31 RAH The Cleveland Orchestra/Welser-Most Beethoven Missa solemnis
September
1 RAH RCO/Jansons Mahler Sym. No.6
2 RAH RCO/Jansons Brahms Sym. No.1
7 RAH VPO/Mehta/Dalayman Stravinsky The Rite of Spring
8 RAH VPO/Eschenbach Bruckner Sym. No.8
9 RAH Helsinki PO/Salonen/Kringelborn Ravel Daphnis and Chloe
19 BH Mutter/Orkis Mozart Sonata K.547
20 BH Mutter/Orkis Mozart Sonata K.454
21 BH Mutter/Orkis Mozart Sonata K.526
23 BH LSO/Davis/Uchida Walton Sym. No.1
October
13 Berlin BPO/Zinman/Shaham→Ax Schumann Sym. No.3
14 Berlin BPO/Zinman/Shaham→Ax Schumann Sym. No.3
15 BH LSO/Gergiev/Moser Shostakovich Sym. No.8
16 BH LSO/Gergiev Shostakovich Sym. No.7
18 RAH RPO/Kaplan Mahler Sym. No.2
23 BH LSO/Harding/Bostridge Brahms Sym. No.4
29 BH COE/Uchida Mozart Piano Concerto No.23
November
1 BH Zukerman Brahms Sonata No.3
4 BC BBCSO/Boulez Ravel Daphnis et Chloe
5 QEH F. P. Zimmermann/H. Schiff/C. Zacharias Schubert Piano Trio D.929
9 QEH LPO/Zehetmair Mendelssohn Sym. No.3
10 BH LSO/MTT/Repin Tchaikovsky Manfred Symphony
14 QEH OAE/Bruggen Mozart Sym. No.31 (Paris)
16 BH LSO/Haitink/Zimmermann Beethoven Sym.No.7
21 QEH PO/Salonen Mahler Sym. No.7
22 BH LSO/Haitink Beethoven Sym. No.3
27 BH LSO/Haitink/Nikolitch/Hugh/Vogt Beethoven Sym. No.6
28 QEH Bostridge/Drake Schubert Songs
December
2 BH The Sixteen/Christophers Handel Messiah
4 BH Yo-Yo Ma J.S. Bach Cello Suite No.6
4 BH LSO/Davis/Midori Walton Sym. No.1
9 BH OAE/Rattle Haydn Sym. No.92 'Oxford'
16 BH VPO/Mehta Mozart Sym. No.41
<表2 星を5つ付けたもの>
内田光子によるいくつかの演奏会
4月4日 ブーレーズ指揮シカゴ響/バルトーク オーケストラのための協奏曲
4月7日 ガーディナー指揮ロンドン響/ベートーヴェン交響曲第7番
4月15日 ソコロフ ショパン 即興曲Op.51他
4月23日 サロネン指揮フィルハーモニア管/R.シュトラウス ツァラトゥストラはかく語りき
4月27日 ロンドンフィル ムター/モーツァルト ヴァイオリン協奏曲第5番
5月18日 エマール/リゲティ エチュード
6月14日 プレヴィン指揮ロンドン響/ショスタコーヴィチ 交響曲第10番
8月11日 メッツマッハー指揮BBC響/ハルトマン 交響曲第6番
8月28日 アーノンクール指揮ウィーンフィル/ブルックナー 交響曲第5番
9月21日 ムター&オーキス/モーツァルト ヴァイオリンソナタK.526他
10月15日 ゲルギエフ指揮ロンドン響/ショスタコーヴィチ 交響曲第8番
10月16日 ゲルギエフ指揮ロンドン響/ショスタコーヴィチ 交響曲第7番
11月5日 ツィンマーマン、H.シフ、ツァハリアス/シューベルト ピアノ三重奏曲D.929
11月9日 ツェートマイアー指揮ロンドンフィル/メンデルスゾーン スコットランド
さて、この中からベスト3を決めたいと思う。感想は以前書いた通りなので簡略化する。
<第3位>
ゲルギエフ指揮ロンドン響/ショスタコーヴィチ 交響曲第7番
ゲルギエフは2007年からロンドン響の首席指揮者になることが決定しているが、今秋よりショスタコーヴィチ・チクルスが始まった。来年はショスタコーヴィチ生誕百年ということもあって、彼の曲が取り上げられる機会も多くなることと思う。エナジェティックなゲルギエフのロシアものはやはり素晴らしく(近年では昨年のロンドン響とのプロコフィエフ・チクルスが忘れられない)、弥が上にも期待は高まるばかりだが、ロシアもの以外もぜひもっと聴いてみたい。LSOとの相性は抜群だ。
<第2位>
ツェートマイアー指揮ロンドンフィル/メンデルスゾーン スコットランド
この演奏会は本当に衝撃的だった。ヴァイオリニストとしてのツェートマイヤーは昔から大好きで、取り分けシューマンのヴァイオリン協奏曲の録音(指揮は同じくシューマンを十八番とするエッシェンバッハ)は何度聴いたか分からない。最近では彼の名を冠した弦楽四重奏団によるシューマンの弦楽四重奏曲第1番&3番(ECM盤)がこの作曲家の心に迫る名演の記録として地味な曲であるのにも拘らず英国でも大変評判になった。この日もだから彼がソリストを務める前半のモーツァルトのヴァイオリン協奏曲(第4番)を目当てに行ったのである。協奏曲はもちろん素晴らしく、期待通りだったが、休憩後の「スコットランド」の衝撃は全くの予想外という他ない。古楽器系のアプローチを基本としつつも、アゴーギクやディナーミクの激しい変化に加え、楽器間のプロミネンスを次々に替えて行くことによって、起伏に富んだ精彩な音作りを指向していた。恐らくこう書いてもその凄みはほとんど伝わらないであろうが、その効果は絶大で、音楽が巨大な生き物のように絶えず息をし、蠢き、客席に迫ってきた。終始、驚きと感嘆の連続で終演後もしばらく腰が抜けて立ち上がれなかったほどである。あの夜は本当に貴重な体験をしたと思う。
<第1位>
内田光子による演奏会
今年もやはり内田さんの演奏会は別格であった。ラヴェルの協奏曲やベートーヴェンの「ハンマークラヴィーア」、それにブーレーズの「ノタシオン」など、これまで彼女の演奏では個人的に聴く機会に恵まれなかった曲をいくつか聴くことが出来たが、どれも本当に素晴らしかった。特に「ハンマークラヴィーア」のアダージョがかつてあれほど美しく、意味深く奏でられたことがあっただろうか。生涯の宝物としていつまでも忘れることがないと思う。一方、両端楽章については安定性に欠けるパッセージもあったとはいえ、彼女がこの難曲に挑む眼差しはあたかも素手で鷲を掴み獲ろうとするかのようであり、鬼神さえもたじろぐであろうその姿に楽聖ベートーヴェンの魂魄を見る思いがした。モーツァルトの協奏曲やシューベルトのソナタが絶品だったことは改めて言うまでもないだろう。内田光子という芸術家と同時代を生きることが出来る幸せに改めて感謝したいと思う。
<その他心に残った演奏会>
ザルツブルクでのポゴレリチ
一体いま自分は何を聴いているのだろう?ポゴレリチが弾くショパンのピアノソナタ第3番第1楽章を聴きながらそんなことを思った。否、「弾く」というよりは一つ一つの音に魂を込めながら鍵盤に音符を並べていくという感じだ。そこから立ち上がってくる音の間には「主」と「従」の差がなくどれも均質的に響く。これは主に一つ一つの音が異常なまでに引き延ばされていることに起因する。どの音もだからしっかりと耳に届いてくる。但し、あくまで非中枢的なリゾームのように。試みに第3楽章ラルゴの所要時間を手持ちの時計で計ってみた。多くのピアニストが10分程度で弾くこの楽章にポゴレリチは16分かけている。たかが6分の差と思われるかも知れないが実際は6割増しである。大雑把に言ってベートーヴェンの「運命」を50分かけて演奏するようなものだ。テンポだけとっても衝撃的と言って良い。そうして第3楽章までに溜めに溜めた勢いが終楽章で爆発する。ショパンの心の奥底に蠢くどす黒いものがドロっと噴き出してくるようではないか。ラルゴを天国的な彼岸とするならこの終楽章はまさに苦渋に満ちた此岸そのままである。悲愴感や焦燥感に貫かれたこのフィナーレに晩年の幸せとは言い難いショパンの姿が重なる。僕はどうしてもこの終楽章を幸せな音楽であるとは思えないのだ。だから個人的な好みで言えば後半2楽章の対比が鮮やかな演奏に惹かれる。ポゴレリチといえば必ずと言っていいほど話題になるショパンコンクールでのあの有名なエピソード。その時の演奏は残念ながら聴いたことがない。だが手元にあるポゴレリチによるいくつかの録音はこの夜の演奏に比べればごく普通である。終演後、ブラヴォーと叫ぶ熱狂的支持者の傍らで全く拍手を送らない聴衆の姿も目に付いた。ショパンコンクールでの聴衆もまたこのようだったのかも知れない。少なくとも演奏という行為について考えさせるきっかけになったことは間違いない。
<2005年発売のCD>
最後に今年リリースされたCDについて。やはり最も感銘を受けたのはスタインバーグ&内田光子によるモーツァルトのヴァイオリン・ソナタ集である。これは今や語り種となっているウィグモア・ホールでのチクルスを聴いて以来、発売を心待ちにしていたものだ。他にはノリントン指揮シュトゥットガルト放送響によるシューマン交響曲全集(分売)が素晴らしい。就中、4番(1841年版に基づいている)が出色の出来である。