端と底を行き来するRPG

そのとき、きっと誰かの中心blog。
アーカイブにある作品は人事を尽くした盛者必衰の入れ替え制。

君に贈る想い

2012-03-14 00:00:00 | テキスト(よろず)
クリスマス、正月、歳暮、ボーナス。
様々な商戦があるが。
売場が男性と甘い匂いで統一される時期が存在する。
そう、ホワイトデーがやってくる。

君に贈る想い

お菓子売場の特設コーナー。
頭を抱えて考え込む男性客が右往左往。
接客、品出しを淡々とこなす。
やれあまり甘くないのはどれか。
やれ大人数に配るにはどれがいい。
ついひと月前にも同じことを聞かれた。
数種類の一口チョコが30個程度入ったアソートパックを薦める。
値段も「3倍返し」程度になっているはずだ。
チロルチョコ一個で3倍返しを望むのは、まぁ、よくある話で。
ひとまとめにされても文句は言えまい。
うちの連中は怒りそうだが……。

「ホワイトデー、俺一人で返すのかぁ?」

バレンタインの時、お菓子を持参しなかったのは自分だけだった。
いや、完全に手ぶらだったわけじゃない。
一応、1.5リットルのジュースを持ち込んだ。
給料日前だったから、これが当時の限界だった。

俺、楽しみにしてるから

言霊のように耳に残る声。
嗚呼、ちくしょう。
自分が赤面しているのがわかる。
「もうひと月前のこと」だ。
なのに、消えるどころか寧ろ美化されて、俺に残る。
甘い、余韻。

「あ、花村先輩じゃないすか」
「ん?おぉ、完二じゃん、どうした?」
「な、直斗に返しを……。
 もちろん、里中先輩たちにも買うっすよ!?」
「買わないで作りゃいいじゃん」
「全く同じのはだめっしょ?」
「あー、うん、まぁ、そうだな」
「なんかいいアイディアないっすか?」

そう言われても……。
俺には圧倒的に経験からくる知識が足りない。
それを補うほどの本からの知識もない。
至って普通の男『かっこ』高校生だ。
だが、サービス業に携わるものとして役に立たねばならない。

「編み物で小物入れ作って、そんなかに菓子詰めれば?」
「おお、それなら楽勝っすね!」
「楽勝って言えるお前はすげぇよ」

クマはクマで第二弾!と言っていた。
今度は何だ……。
それはそうと、俺だよ。
ああああ、どうっすかなぁ…。

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

三学期もほぼ終わっているため、午前中で学校は終了。
午後は思い思いに自由に使うことができる。
それでも集まるのは、相棒の家。
屋根付き、暖房付き、おまけに菜々子ちゃんがいる。

「よーし、じゃあ、出してもらいましょうか!」
「ストレートすぎるだろ!」
「花村ぁ、あんた、持ってきたんでしょうね!」
「はいはい、ありますよ。すみませんね、お金がなくて!」
「あ、これ、おいしい奴だよ。見る目はあるのね」
「『は』に力入れんなよ!」

ジュネス一押しのアソートである。
それなりに売れ行きがよかったので買ったのだが。
意外や意外、天城が褒めるような銘柄であったらしい。

「俺はこれっす」
「え?完二くん、バレンタインデーくれたじゃん」
「同時に先輩方にもらったんで」

取り出したのは、緑、赤、青、ピンクの小袋。
みると、毛糸で編まれたもののようだ。
たった二週間で四つも作ってきやがった。

「じゃっじゃじゃーん!待望の第二弾!クマ特製チョコレートぉ!」

タッパーがだんっ!と置かれる。
蓋を開けると、何かを象ったチョコレート。
人のようだけど……。

「これ、まさか?」
「鳴上くん?」
「この間はぁ、大きすぎて不評だったのでぇ、縮めてみました!
 これなら食べやすいし、持ち運びやすいクマ!」

なるほど、いろいろ考えたんだろうが。
数が多すぎんだろ、これ。
一体いくつあんだ……。

「煩悩の数だけ、だからぁ、200?」
「108個ですよ」

白鐘、もっと強く言ってやってくれ。
もう俺一人でどうこうするの限界だわ。

「はい、じゃあ、菜々子からね」
「ん?なに?」

菜々子ちゃんが相棒に紙を差し出す。
みんなで集まってのぞき込む。
クレヨンで描かれた『自称特別捜査隊』の面々だ。

「お兄ちゃん、向こうに行って寂しくなったら見てね」
「うん、これでもう大丈夫だ」

え…?
向こう?

「ありがとう、菜々子」

突然、相棒が遠くなった気がする。
すべての出来事がまるで他人事。

「ど、どうしたの!花村!!」
「泣いてるの?」
「え……」

泣いてる?
俺が?
なんで?

「ヨースケ」
「う、な、なに……」
「ちょっと」

立たされて、階段に促される。
背中を押されて、最終的には手を引っ張られて。
相棒の部屋。
嗚呼、ここに入った回数も両手の指じゃ足りない。

「俺と離れるのが寂しい?」
「………たぶん」
「俺は寂しいよ、ヨースケの気配が感じられなくなる」
「……リミット付きの転入だったっけな。
 忘れてたよ、なんか、ずっといるもんだと思ってた」
「3月20日が最後だ、翌日には向こうに戻る」

来週……。
あまりの時間のなさに焦る。
焦る?何に?

「ヨースケ、バレンタインのお返しなんだけどさ。
 『俺だけ』のはないの?」
「……!!!」

心臓がうるさい。
待て待て、雰囲気に流されるな。
こいつは男で、俺も男で。
うわあ、うわぁ!

「ない!ありません!!」
「顔、真っ赤だよ」

くすくす笑う顔に見惚れる。
参った、どうしたんだろう、俺。
嗚呼、ちくしょう。

「……俺」
「ん?」
「俺、来週から絶対寂しい。
 たぶんなんて嘘だ。
 お前がいなくて、寂しくて死ぬ」

約束しなくても絶対会えた。
声をかければ、放課後も遊べた。
一緒に摩訶不思議な経験をして、勉強もした。
それが、突然、できなくなる。

「じゃあ、約束しようか」
「約束?」
「夏休み、ここに帰ってくるから。
 そのとき、また、俺に泣きついてよ」
「ばっ…!!あれは…!」

ゆっくりと近付いてくる。
だめだ、俺、こういうのに弱い。

……名前、呼んでよ。

息を飲む。
なんで、そんな声を出すんだ。
ズルいぞ、俺がそういうのに弱いこと知ってるだろ。

「バレた?」
「やっぱりわざとか…」
「……そろそろ戻ろっか、みんなが心配する」

そうやって、押し隠すのか。
そうやって、俺に遠慮するのか!
そうじゃないんだろう!?

「悠」

途端に破顔する。
嗚呼、その顔、好きだな……。
溢れてくる気持ちは、お前にやるよ。
どうしたってお前宛だ。

「お前じゃなくて、名前で」
「……悠への気持ちをお返しにしていいですか」
「十分です」

嗚呼、下に戻るのは遅くなりそうだ。

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

春休み。
あいつのいなくなった稲羽市は、さほど変化なく。
今日も、ヘッドホンから流れる音楽に身を任せる。
天気は快晴、桜舞う。

「悠も見てっかなー」

もうすぐ新年度。
さぁ、張り切っていこう。
行くぜ、相棒。

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赤い実 弾けた。
さらば、ヨースケ、ようこそ桃源郷へ(マテ

ぎりぎりまで主人公の名前は出しませんでした。
全ては「悠呼び」のために。
あんまりインパクトなかったかなぁ…。

> 途端に破顔する。
書いてるとき、絶対破顔してた。
絶対気色悪かったろう、勤務帰りの電車内。

バレンタインの話と敢えて、重ねているところがあります。
自分が読むとき、すごいキュンキュンする仕掛けだったりします。
つまり、究極の自己満足。

部屋に連れ込むな、番長。
呆気にとられたろう、仲間たちを思うと不憫。
長期休みのたびに帰ってくる番長に、ヨースケがすがりつけばいいと思うよ!
というか、稲羽市民は全員、すがりつけ。


ヨースケが好きです。
アニメ12話の破壊力が凄まじすぎて、どうしよう。
Blu-rayが楽しみでしょうがないです。

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