10月のイベントは3つある。
ひとつ、中間考査。
夏休み明けでダラケきった頭に刺激を与えるかの如く。
なかなかにエグい日程で組まれている魔の期間である。
学生の本分であるが、それはそれ。
これを喜んで受け入れる学生はいないと思われる。
ひとつ、ハロウィン。
学校に限らず、街全体いや日本全体がオレンジ色に染まり。
仮装やお菓子でその日を盛り上げる。
本来の目的は完全に迷子だが。
楽しければいいかなと俺は思っている。
最後のひとつ、文化祭。
我が校はハロウィンよりも先にこちらのイベントがやってくる。
夏休み明けすぐに準備を開始し。
中間考査を抜け。
持て余した熱を一気にぶちまけるのにもってこい。
10月26日。
高校生活2回目の文化祭がやってくる。
秋の熱に浮かされて
およそひと月前のこと。
妹の自由研究の一環で俺はある技術を修得した。
原液を適切な水で割る技術、つまり『水割り』だ。
加える水量によって味はもちろん、香りの強さも変わり。
研究のために試したパターンは数え切れない。
天文学数字まではいかないが、途中で数えるのをやめた。
気が遠くなるほど計量カップを見つめ。
試作品は全て飲み干し、トイレに通う回数も必然的に増え。
そうして修得した『水割り』の技術を文化祭で発揮する機会を得た。
クラスが昨年に引き続きシチュエーション系喫茶を催すことになったのだ。
執事喫茶が好評だったことに味を占めた女子が。
満を持して企画したのは『ホスト喫茶』
男が『17歳女子高生』に弱いのと同様に。
女は『かっこいい男』に憧れるものなのだと熱弁されてしまえば。
了承するしか、こちらには選択肢がなかった。
抗うだけ無駄と緑間は去年で悟っており。
ホスト役に指名されたとき、二つ返事で承諾。
緑間がやるのに、俺がやらないわけにはいかないので。
『接客』『レシピ』の技術監督も引き受けて。
緑間とクラスの二枚看板になることになった。
「インパクトのあるメニューってなんだよ…」
「青峰は刺激が足りないと言って炭酸飲料にソーダ水を混ぜていたのだよ。
バニラシェイクに投入された黒子の顔はこの世のものとは―…」
「ソーダ水っ!!それだ!」
炭酸の入っていないものを炭酸飲料にする。
幼い頃によくやっていた飲み方だ。
当時は実行するたび母親に怒られたものである。
「個人的には温かい飲み物も欲しいのだよ」
「そうすっとホットレモネードかな」
レシピを書き出し、分量を決めていく。
衣装合わせ、内装立案、看板装飾などを手がけ。
さらに縮小されたとはいえ、部活もきっちりこなす。
キャパシティオーバーなのは明白だった。
それでも続けられたのは、そばに緑間がいたからだ。
「元気を出すのだよ、たかおっ!
ぼくみたいに中身ぎっしりの男になるのだよ!」
「ぶほっ!なに、その裏声!」
「腹話術だ」
教室で座席が前後なせいだろう。
緑間は俺が参っていると決まってらしくないことをした。
昼休みの屋上で、ラッキーアイテムのたい焼きで腹話術をしたときは。
腹筋崩壊を起こすくらい笑わせてくれた。
それが彼なりの激励であることは、太く濃い付き合いで承知していた。
元気付けようとしたり、アイディアのヒントをくれたり。
それが嬉しくて、やりきろうって気になった。
メニューを5品程度に絞り、レシピを叩き込む。
うまい、まずいの評価はあっと言う間に広まってしまうから必死だ。
しかも『ホスト喫茶』と銘打つ以上。
パフォーマンスでも楽しませないといけない。
手品でも会話でも手段は問わない、とにかく楽しませること。
俺はギアを『ホスト』にするために。
ジャケットを大袈裟なモーションで羽織る。
それを緑間は羨望の眼差しで見ていたらしく。
いつも通り横に立ったかと思ったら。
「それはどうやるのだよ」
「『それ』って『これ』?」
バサリと音を立てて、ジャケットを羽織ってみせる。
そう、それだと淡々と言ってはいるが。
緑間は真剣に見つめている。
なんだか照れる。
「難しく考えすぎじゃね?」
「む……」
「まぁ、手取り足取り教えてあげよっか?
やぶさかじゃないよ?」
知らん!とそっぽを向く緑間の耳は赤い。
思わずにやつく俺の顔を認めると、頭にチョップ。
笑うな、ってそれは無理な相談だ。
文化祭当日。
衣装に着替えて、女子の手によるメイクアップ。
ヘアスタイルもきちんと決めて。
さあ、緑間はと見たら。
「やべえ、綺麗だわ」
「全く嬉しくないのだよ」
むすっとする顔はいつも通りだが。
目元の麗しさが尋常じゃない。
俺も少し化粧してもらってるけど。
こんな中性的にはなっていない。
女性に限らず『妙な連中』にもモテそうだ。
「真ちゃん、今日単独行動禁止な」
「接客はどうするのだよ」
「出来るだけ俺がヘルプ入る。
お前、今日ヤバい」
「なんだ?変なのか?」
「変な気分になるのは確か」
「意味が分からないのだよ」
だろうね。
取り越し苦労だったらいいんだけど。
チャイムが鳴っていよいよ文化祭が始まった。
「高尾」
「ほいきた、御指名ありがとうございます」
バックヤードに引っ込んでもすぐに次が来る。
緑間が指名されれば、俺も出る。
そのことに気付いた連中がセットで呼ぶため緑間を呼ぶ。
結果、朝から昼まで休みなし。
喋り通しだったが、飲み物は飲んでいたので喉は無事。
その代わり1年分のレモンティーを飲んだ気がする。
緑間はひたすら蜂蜜入りのホットレモネードを飲んでいた。
「真ちゃん、炭水化物食いに行こう」
「その前にトイレだ」
シフトが終わって思ったことは。
ほとんど文化祭とは関係なくて。
それでもなんとなく満足してて。
並んで用を足して、なにを食べたいか訊く。
「しょっぱいものだな」
「だよな、となると」
「「焼きそば」」
「まさかの一致!」
「学生が作る食物で一番無難だろう」
「真ちゃんが言う!?」
ゲラゲラと笑うのは、調理実習で緑間の手際を見ているからだ。
生まれたての子鹿のように小刻みに震える包丁を持った手。
野菜を炒めればほとんどがフライパンの外へ飛び出し。
火をかければ鍋があっと言う間に沸騰する。
怖すぎてもう笑うしかない。
「慣れていないだけだ」
「でも苦手なんだろ?」
「……ふん」
歩きだして、ふと香る匂い。
あれ、この匂いって。
「……真ちゃんさ、香水つけてる?
しかも去年と同じやつ」
「今、気付いたのか?」
「だってさ!周りの匂いが強かったんだもん!」
「匂いに酔いたくなかったから薄くしかつけていない。
匂いが混ざったら最悪なのだよ」
「緑間の匂いしか検知しない嗅覚が欲しい」
「意味が分からないのだよ」
緑間が微かに笑う。
四六時中一緒にいるやつにしか分からない程度の。
愛しさというのだろうか、なんだかたまらくなって。
横から抱きつく。
びくともしないのは、体格の差でないことを祈る。
「なんなのだよ!」
「緑間の匂いを覚えてます」
「ハウス」
「ひっでえ!」
顔をぐりぐりと押しつける。
すると、くしゃりと頭を撫でられた。
ついでに、ぽんぽんと叩かれる。
なんだ、これ。
「まあ、ひとまずよくやった。
甘やかしてやるぞ、高尾」
「え?え?」
「今日の幸運を呼ぶまじないはな―…」
大切な人にご褒美をあげる、なのだよ。
耳元で囁かれて、俺の頬は一気に赤くなった。
今なら、おは朝信者になれる自信がある。
周りの喧噪が聞こえなくなって。
自分の鼓動の音しか聞こえない。
いや、今、俺は緑間の胸に耳をくっつけているのだ。
つまり、この音は―…。
「緑間?」
「お疲れさま、高尾」
運命のいたずらか。
それとも、優しい言葉というお菓子をもらったのか。
秋の熱に浮かされて。
俺は、どうやら恋に落ちたらしい。
****************************
10/26にあげたかった文化祭話。
途中でメンタル落ちて、挙句着地点を見失うというアクシデントがあり。
無理やり締めました、すみません。
2013年おは朝の総集編『文化祭』っす。
喫茶店とかだしたことなかったので、まったく事情はわかりませんが。
衛生許可をクリアしなくちゃいけなかったと思います。
クラスの出し物に全然参加しなかったなあ。
あの時は本当にごめんなさい。
帰宅部なのに、積極的に参加しないとか、そりゃダメだろ…。
照れると赤くなる部位は。
緑間くんが耳、高尾くんが頬です。
勝手な想像ですけど。
最後、ハロウィンにひっかけてみました。
全然うまくないですね。
ひとつ、中間考査。
夏休み明けでダラケきった頭に刺激を与えるかの如く。
なかなかにエグい日程で組まれている魔の期間である。
学生の本分であるが、それはそれ。
これを喜んで受け入れる学生はいないと思われる。
ひとつ、ハロウィン。
学校に限らず、街全体いや日本全体がオレンジ色に染まり。
仮装やお菓子でその日を盛り上げる。
本来の目的は完全に迷子だが。
楽しければいいかなと俺は思っている。
最後のひとつ、文化祭。
我が校はハロウィンよりも先にこちらのイベントがやってくる。
夏休み明けすぐに準備を開始し。
中間考査を抜け。
持て余した熱を一気にぶちまけるのにもってこい。
10月26日。
高校生活2回目の文化祭がやってくる。
秋の熱に浮かされて
およそひと月前のこと。
妹の自由研究の一環で俺はある技術を修得した。
原液を適切な水で割る技術、つまり『水割り』だ。
加える水量によって味はもちろん、香りの強さも変わり。
研究のために試したパターンは数え切れない。
天文学数字まではいかないが、途中で数えるのをやめた。
気が遠くなるほど計量カップを見つめ。
試作品は全て飲み干し、トイレに通う回数も必然的に増え。
そうして修得した『水割り』の技術を文化祭で発揮する機会を得た。
クラスが昨年に引き続きシチュエーション系喫茶を催すことになったのだ。
執事喫茶が好評だったことに味を占めた女子が。
満を持して企画したのは『ホスト喫茶』
男が『17歳女子高生』に弱いのと同様に。
女は『かっこいい男』に憧れるものなのだと熱弁されてしまえば。
了承するしか、こちらには選択肢がなかった。
抗うだけ無駄と緑間は去年で悟っており。
ホスト役に指名されたとき、二つ返事で承諾。
緑間がやるのに、俺がやらないわけにはいかないので。
『接客』『レシピ』の技術監督も引き受けて。
緑間とクラスの二枚看板になることになった。
「インパクトのあるメニューってなんだよ…」
「青峰は刺激が足りないと言って炭酸飲料にソーダ水を混ぜていたのだよ。
バニラシェイクに投入された黒子の顔はこの世のものとは―…」
「ソーダ水っ!!それだ!」
炭酸の入っていないものを炭酸飲料にする。
幼い頃によくやっていた飲み方だ。
当時は実行するたび母親に怒られたものである。
「個人的には温かい飲み物も欲しいのだよ」
「そうすっとホットレモネードかな」
レシピを書き出し、分量を決めていく。
衣装合わせ、内装立案、看板装飾などを手がけ。
さらに縮小されたとはいえ、部活もきっちりこなす。
キャパシティオーバーなのは明白だった。
それでも続けられたのは、そばに緑間がいたからだ。
「元気を出すのだよ、たかおっ!
ぼくみたいに中身ぎっしりの男になるのだよ!」
「ぶほっ!なに、その裏声!」
「腹話術だ」
教室で座席が前後なせいだろう。
緑間は俺が参っていると決まってらしくないことをした。
昼休みの屋上で、ラッキーアイテムのたい焼きで腹話術をしたときは。
腹筋崩壊を起こすくらい笑わせてくれた。
それが彼なりの激励であることは、太く濃い付き合いで承知していた。
元気付けようとしたり、アイディアのヒントをくれたり。
それが嬉しくて、やりきろうって気になった。
メニューを5品程度に絞り、レシピを叩き込む。
うまい、まずいの評価はあっと言う間に広まってしまうから必死だ。
しかも『ホスト喫茶』と銘打つ以上。
パフォーマンスでも楽しませないといけない。
手品でも会話でも手段は問わない、とにかく楽しませること。
俺はギアを『ホスト』にするために。
ジャケットを大袈裟なモーションで羽織る。
それを緑間は羨望の眼差しで見ていたらしく。
いつも通り横に立ったかと思ったら。
「それはどうやるのだよ」
「『それ』って『これ』?」
バサリと音を立てて、ジャケットを羽織ってみせる。
そう、それだと淡々と言ってはいるが。
緑間は真剣に見つめている。
なんだか照れる。
「難しく考えすぎじゃね?」
「む……」
「まぁ、手取り足取り教えてあげよっか?
やぶさかじゃないよ?」
知らん!とそっぽを向く緑間の耳は赤い。
思わずにやつく俺の顔を認めると、頭にチョップ。
笑うな、ってそれは無理な相談だ。
文化祭当日。
衣装に着替えて、女子の手によるメイクアップ。
ヘアスタイルもきちんと決めて。
さあ、緑間はと見たら。
「やべえ、綺麗だわ」
「全く嬉しくないのだよ」
むすっとする顔はいつも通りだが。
目元の麗しさが尋常じゃない。
俺も少し化粧してもらってるけど。
こんな中性的にはなっていない。
女性に限らず『妙な連中』にもモテそうだ。
「真ちゃん、今日単独行動禁止な」
「接客はどうするのだよ」
「出来るだけ俺がヘルプ入る。
お前、今日ヤバい」
「なんだ?変なのか?」
「変な気分になるのは確か」
「意味が分からないのだよ」
だろうね。
取り越し苦労だったらいいんだけど。
チャイムが鳴っていよいよ文化祭が始まった。
「高尾」
「ほいきた、御指名ありがとうございます」
バックヤードに引っ込んでもすぐに次が来る。
緑間が指名されれば、俺も出る。
そのことに気付いた連中がセットで呼ぶため緑間を呼ぶ。
結果、朝から昼まで休みなし。
喋り通しだったが、飲み物は飲んでいたので喉は無事。
その代わり1年分のレモンティーを飲んだ気がする。
緑間はひたすら蜂蜜入りのホットレモネードを飲んでいた。
「真ちゃん、炭水化物食いに行こう」
「その前にトイレだ」
シフトが終わって思ったことは。
ほとんど文化祭とは関係なくて。
それでもなんとなく満足してて。
並んで用を足して、なにを食べたいか訊く。
「しょっぱいものだな」
「だよな、となると」
「「焼きそば」」
「まさかの一致!」
「学生が作る食物で一番無難だろう」
「真ちゃんが言う!?」
ゲラゲラと笑うのは、調理実習で緑間の手際を見ているからだ。
生まれたての子鹿のように小刻みに震える包丁を持った手。
野菜を炒めればほとんどがフライパンの外へ飛び出し。
火をかければ鍋があっと言う間に沸騰する。
怖すぎてもう笑うしかない。
「慣れていないだけだ」
「でも苦手なんだろ?」
「……ふん」
歩きだして、ふと香る匂い。
あれ、この匂いって。
「……真ちゃんさ、香水つけてる?
しかも去年と同じやつ」
「今、気付いたのか?」
「だってさ!周りの匂いが強かったんだもん!」
「匂いに酔いたくなかったから薄くしかつけていない。
匂いが混ざったら最悪なのだよ」
「緑間の匂いしか検知しない嗅覚が欲しい」
「意味が分からないのだよ」
緑間が微かに笑う。
四六時中一緒にいるやつにしか分からない程度の。
愛しさというのだろうか、なんだかたまらくなって。
横から抱きつく。
びくともしないのは、体格の差でないことを祈る。
「なんなのだよ!」
「緑間の匂いを覚えてます」
「ハウス」
「ひっでえ!」
顔をぐりぐりと押しつける。
すると、くしゃりと頭を撫でられた。
ついでに、ぽんぽんと叩かれる。
なんだ、これ。
「まあ、ひとまずよくやった。
甘やかしてやるぞ、高尾」
「え?え?」
「今日の幸運を呼ぶまじないはな―…」
大切な人にご褒美をあげる、なのだよ。
耳元で囁かれて、俺の頬は一気に赤くなった。
今なら、おは朝信者になれる自信がある。
周りの喧噪が聞こえなくなって。
自分の鼓動の音しか聞こえない。
いや、今、俺は緑間の胸に耳をくっつけているのだ。
つまり、この音は―…。
「緑間?」
「お疲れさま、高尾」
運命のいたずらか。
それとも、優しい言葉というお菓子をもらったのか。
秋の熱に浮かされて。
俺は、どうやら恋に落ちたらしい。
****************************
10/26にあげたかった文化祭話。
途中でメンタル落ちて、挙句着地点を見失うというアクシデントがあり。
無理やり締めました、すみません。
2013年おは朝の総集編『文化祭』っす。
喫茶店とかだしたことなかったので、まったく事情はわかりませんが。
衛生許可をクリアしなくちゃいけなかったと思います。
クラスの出し物に全然参加しなかったなあ。
あの時は本当にごめんなさい。
帰宅部なのに、積極的に参加しないとか、そりゃダメだろ…。
照れると赤くなる部位は。
緑間くんが耳、高尾くんが頬です。
勝手な想像ですけど。
最後、ハロウィンにひっかけてみました。
全然うまくないですね。
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