端と底を行き来するRPG

そのとき、きっと誰かの中心blog。
アーカイブにある作品は人事を尽くした盛者必衰の入れ替え制。

吸血鬼屋敷へようこそ。

2013-11-21 00:00:00 | 黒子のバスケ
祝ってやろう。
大切なお前を。

Ace Of Vampire

「高尾、買い出しに行くがどうする?」
「…ダルいからパス」

ベッドにうつ伏せになって、手をひらつかせる。
緑間はそれをよしとした。
まあ、無理だろうなと思っていたからだ。

「いい子に寝ていろ」
「言われなくともね」

何はともあれ、あまり動きたくない。
体力的に有利なはずなのに。
一度だって緑間の体力に勝てたことがない。
自分は吸血鬼だ。
化け物と呼ばれる分類に入る者であり。
また、そのちからも上位に位置する。
はずなのだが。

(ちから、弱くなったのかな…)

「高尾くん」
「……黒子、お前、なに通い慣れてきてんの?」

窓からひょっこりと顔を出していたのは黒子だ。
吸血鬼筆頭・青峰の相棒として有名で。
青峰のような圧倒的な力はないが、紛れることを得意とする。
ハロウィン以降、ここに来る頻度が高くなったのだが。
もともとは俺に罰を与えにきたはずなのだ。
それが元来の人なつっこさを全開にしてこの家に馴染んでいる。
吸血鬼のオキテに則り、処罰しにきたやつとは思えない。

「仕方ないじゃないですか。
 ここのご飯、美味しいんですから」
「それは、どうも」
「…―窓から失礼しますね」

よいしょと窓枠をよじ登り、さっとしゃがみ込む。
なに?と訊くより先に、外から叫び声。

「黒子ぉおぉお!!カムバァアァック!!」

この声はもしかして青峰?
のろのろと起き出して、窓に近寄る。
遠くの方で青い髪と褐色の肌の男が必死になって走っていた。
後ろには見たことのある桃色の髪をした女性が追いかけている。

「おい、お前、あれから逃げてんの?」
「巻き添え食いたくないんです」
「青峰泣くぞ」

汗なのか、涙なのか、詳しくは分からないが。
実際、彼は泣いているようだ。
きらきらと後ろを輝かせながら走り続けている。
助けてやりたかったが、次の一言が聞こえてきてやめた。

「青峰くん!!どうして走るの!!」
「来るなあああ、にんにくなんか嫌いだあああ!!」

桃井に食い物。
絶対、関わりたくない。
過去2回、彼女の料理に出くわしたがどちらも強烈だった。
ハロウィンの夜はうなされるだけうなされて。
口の中が痛かった記憶しかない。
しかし『にんにく』は『俺たち』に退魔効果はないのに。
なぜあんなに必死になって逃げているんだ?

「真っ黒のにんにくを食べさせられてトラウマになったんですよ。
 彼が嫌いな食べ物は全部そうです」
「……なんか食ってく?」
「はい、まともな味のするものが食べたいです」

嗚呼、これが最強と名高い吸血鬼の相棒の言葉だろうか。
自分の知っている『最強』のイメージが揺らぐ。
よいしょと今度こそ起きあがる。
一瞬ふらつくが体を立て直す。
それに、黒子が感心した声を上げた。

「さすがです、高尾くん。
 僕ならそのまま倒れてますよ」
「俺がすごいんじゃないと思うなぁ」

青峰が黒子を傍に置く理由が分かった気がする。
なんというか、危なっかしいのだ。
それでいて、周囲に紛れて動くことができ。
その特性故に、処罰の執行成功率は高い。
自分のように空間全体を把握できるだとか。
異様に勘が働くでもない限り、彼の攻撃は避けられない。

「っ!!」

窓から殺気。
慌てて外を見るとパリーン!!と窓ガラスが破壊される。
同時に室内に転がったのは褐色の。

「てめぇ、青峰!!窓どうしてくれんだ!!」
「仕方ねぇだろうが!
 リーサルウェポンから逃げてんだから!!」
「青峰くん、こういうのは緊急脱出の時にするんですよ」
「だいたい合ってるだろうが!!」

青峰はガラスで切ったらしく。
手足を血みどろにして食ってかかってくる。
桃井の料理は脅威だろうが。
もうひとり脅威がいる身としては、どうやって片付けようかと頭を抱える。

「高尾、この有様は何だ?
 いい子にしていろと言わなかったか?」
「お、おかえりぃ…」
「お邪魔しています」

後ろを振り返ると緑間が立っていた。
噂の『脅威』そのひとである。
眉をひくつかせ、こめかみに怒りマークが見えた。
その緑間をみても黒子は一切動じない。
あのな、黒子、こいつ神父だぞ?

「君の下僕なんでしょう?」
「そうだけど、俺の主人でもあるんだよ」
「ここはいつから吸血鬼屋敷になった?」

俺が黒子に話しかけて初めて彼らに気付いたらしい。
緑間は抱えていた食料を床に置いて袖を捲りあげた。
無意識に構えるのは『退魔』を扱う神父の職業病で。
緑間は腕まくりがその合図だ。
そのまま戦闘態勢に入らないように。
あくまで明るく事実を述べる。

「ほんとだ、全員吸血鬼だね」
「…ア?『全員』?」

耳に指を突っ込みながら、話を聞いていた青峰が聞き返す。
彼は吸血鬼の『リーダー』だ。
把握していない吸血鬼は『いてはならない』
生粋ではない『緑間』は把握できなかったのだろう。
黒子が緑間に手を向けながら説明する。

「青峰くん、紹介します。
 高尾くんの眷族で神父の緑間さんです」
「何を言ってるのかさっぱりわかんねぇ」

だろうな。
緑間についての説明は正しいのに。
いざ言葉にすると当事者でもややこしい。

「高尾によって吸血鬼になった元人間だ。
 半分同族、とだけ覚えてくれればいいのだよ」
「ふうん?」

分かってないな。
最悪、味方ってことを理解してくれていればいい。
今度緑間を攻撃したら許さない。

「桃井は事情を知らん、くれぐれも話すなよ」
「分かりました」

黒子へ言付ける。
賢い、正しい、さすが緑間。
桃井を共通の知人としている身ならではの配慮だ。
そういえば。

「桃井さんには、自分たちのこと話してるの?」
「青峰くんが森で遊び回っているときに出会ったので。
 『野生児』ってことになってます。
 訂正していないから『森に行くと会える友人』程度の解釈をしているでしょうね」

この世界は『俺たち』に優しくない。
生きるために必要なことも事件になるし。
ちょっと走っただけでも騒ぎになる。
人間は『人間』以外を否定する。
もちろん、近付いてくるやつもいる。
緑間のように抵抗のない者。
木吉のように癒そうとする者。
桃井のように知らずに交流する者。
『俺たち』はそれに戸惑い、やがて定着する。
そこにいていいのだと安心するのだ。

「高尾、オムライスが食べたいのだよ」
「へーい」

会話がひと段落したらしい緑間が食事のオーダー。
椅子に引っかけてあるエプロンを手にとって。
キッチンに躊躇することなく立つ。
緑間が購入してきた食材を確認して。
卵、タマネギ、ベーコンを取り出す。
確か、余りもののご飯があったはずだ。

「主夫ですね、高尾くん」
「うへへへ、愛ですよ愛」
「高尾、うっとおしい」

流れるように食材を整えていくのを見て、黒子が素直なコメントを寄越す。
緑間のためにレパートリーは格段に増えた。
これが愛と言わずなんと言おう。
緑間の辛辣な言葉も裏を返せば。
『いちいち言わなくても知っている』ということだ。

「なあ、本当にあいつ、高尾の眷族?」
「ツンデレさんなんだそうですよ」

青峰の疑問ももっともで。
普通、眷族はあんなに偉そうにしない。
緑間の場合、言葉通りに受け取ると損をする。
伝え方がぶっきらぼうなだけで、優しいし愛情の深い人物なのだ。
ベーコンの油でタマネギを炒め皿に空けた後。
フライパンを洗わずに軽く水で洗った冷や飯を投入。
味を見てマーガリンでも突っ込むかと思っていると。

「で?
 俺の脇腹に穴開けたやつが何の用だ?」
「ひとの肩に剣ぶっ刺したこと忘れてねぇか、アァ?」

緑間と青峰がもめている。
緑間が喧嘩をふっかけるなんて珍しい。
初対面の時、彼らは敵同士だったから当然かもしれないが。
俺が青峰たちに追いかけられていた最中に緑間は怪我をし。
俺を助けるために青峰に護り刀を投げつけたのだ。
事件を境に緑間は半分吸血鬼になった。
あれ、全面的に俺が悪くね?

「青峰くん、もめ事は避けてください。
 この家で『まともなご飯』が食べられなくなったら困ります」

黒子の一言に、両者のいがみ合いが止まる。
青峰の襟元を締めあげていた緑間がそっと手を離す。
そして、代わりにぽんっと肩に手を置いた。

「…―食事は大事だ、食べていけ」
「ありがとうございます」
「あれ、なんか泣けてきた」
「おっまちどー」

ジャストタイミングで配膳。
とりあえず、人数分の4つ。
ケチャップとマヨネーズをテーブルに置き。
流れるように緑間の分にケチャップをかける。
ハートは以前書いて、大変に怒られたので。
猫だとか、コウモリだとかを描く。
それをふたりがじーっと見ているのを感じて。

「……なんか描く?」
「犬を」
「俺描け、俺」
「似顔絵?無理だよ」
「描いてるじゃねぇか、それ、お前だろ?」

青峰が指を指したのは、緑間のオムライス。
たった今、俺が落書きした。
ややつり上がり気味に描いた細目が特徴的な猫のイラストだ。
え、こういうのでいいの?

「俺はなんだ?高尾」
「黒豹かなぁ」
「なんだ、猫かよ」
「いい得て妙じゃないですか、青峰くん」

いつも気だるげで、寝てばかりいるくせに。
行動し始めると活発かつ攻撃的。
なるほど、猫だ。

「くそ、言いやがったな」

青峰は悔しそうにして、窓の外にコウモリを放った。
がたりと緑間が椅子から立ち上がる。

「何をした!」
「ア?使い魔だよ、使い魔」
「『伝書鳩』のコウモリ版、伝書バットです」
「いっつも思うんだけど。
 それ、最初に言い出したやつ、天才じゃね?」
「ここに集まるよう飛ばした。
 あいつ等ならすぐ来るだろうからな」

青峰の言葉通り。
10分もしないうちにふたりの吸血鬼が到着した。
到着早々頭をがっしりと捕まれる。

「いい家住んでるじゃん、なに、勝ち組?勝ち組なの?」
「宮地さん、痛いッス!!」
「お、オムライス」
「やらねえぞ、これは俺んだ」
「木村さん、作ったのは高尾くんなので。
 高尾くんに頼めば作ってもらえると思いますよ」

宮地さんと木村さんは、俺が小さいときに遊んでくれた人たちで。
成人した今でも頭が上がらない。
俺がいつまでおねしょしてたのか知ってるというのは脅威だ。

「高尾、木村の分と二人分な」
「はーい…」

キッチンに戻る俺を見送ると。
宮地さんが破られた窓を見て一言。

「室内に向けて特攻ミッションでもやったのか?」
「脅威からの離脱ミッションです。
 やったのは、青峰くんです」
「これ夜冷えるだろ、飯食ったら直してやるよ」
「木村さん、素敵!!」
「だから、ライス大盛り」
「あ、木村ズリィ!!」

声を上げて笑う。
こんなに笑ったのはいつ以来だろうか。
手早く仕上げたオムライスを配膳して。
食べ終わっていた食器を下げる。
ああ、本当に楽しい。


「今日、彼の誕生日なんです」
「……知っている」
「今日だけは『僕ら』に返してください。
 大切な仲間を祝いたいんです」
「……あんなに笑っている高尾を見れたからな。
 我慢してやる」
「その代わりと言っては何ですが」
「なんなのだよ?」

黒子はいたずらを思いついた子供のように。
口元に指を一本立てて見せた。
静かに静かに。

「青峰くんには内緒ですよ」

指輪をころりと渡される。
指輪には見慣れぬ紋様が刻まれていたが。
宝石の類は付いていなかった。
緑間が招待を訊くより先に黒子が言う。

「伝書コウモリの召還リングです。
 熟練度が上がれば、もっと上等なものが呼べます」
「……上等?」
「要は使い魔なので、フクロウ程度ですけど」
「呼ぶフクロウは本当に『フクロウ』なんだろうな?」
「フクロウですよ」

黒子が言い切るので、それ以上緑間は何も言わなかった。
指輪を弄びながら目の前の光景を見つめる。
吸血鬼が集まって、愛しい相手が笑っている。
奇妙にして幸せな光景。
緑間は思う。

俺もいよいよ吸血鬼の『仲間』か。

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去年も高尾誕生日は緑間神父シリーズでしたが。
プレゼントが「緑間」から「仲間との集まり」になってます。
核家族から、親戚付き合いにランクアップしたんですね。
やだ、緑高結婚してた。

緑間くんは、誕生日プレゼントをどうしようか本気で考えたんだと思うんです。
でも、名前もあげてしまったし、自分の心もあげてしまった。
リングもピアスもあげているので、さあ、困ったと思っていたところ。
ハロウィンの時に正式に出会った黒子と街でばったり。
「じゃあ、考えておきます」と言われて。
当日を迎えたら。

家に特攻ミッションされて、吸血鬼大集合。

どうしてこうなった、と思っていたけど。
高尾が楽しそうにしているので、まあ、いいかと。
ただ。
「高尾が笑っていない」ことに気付いてしまって。
自分が彼にとって『枷』になっていることを気に病むようになってしまったりして。
離婚の危機じゃないですか、やだー。
3rdシーズンへ向けて動き出しまっせー。(ぇ

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