端と底を行き来するRPG

そのとき、きっと誰かの中心blog。
アーカイブにある作品は人事を尽くした盛者必衰の入れ替え制。

ハロウィンナイト!

2013-10-31 19:00:00 | 黒子のバスケ
ハロウィン当夜。
ここは遠坂邸。
館の主は、遠坂時臣。
教会の代々続くパトロンで、それなりの地位を持つ。
『狼男筆頭』と契約を結び。
『神父』を自分の弟子とする、名実ともに『実力者』である。
彼の弟子こと言峰綺礼は、玄関前でケーキをもらった。
顔はフードで隠していたのでよく分からなかったが。
低めの声をしていたため男であろうと推察する。
はたしてそれは、確かであったようで。
時臣師に、と寄越されたケーキは雑にラッピングされていた。
リボンは曲がり、箱は力任せに引っ張られたせいで歪んでいる。
どんなに不器用な女性でも、さすがに箱は歪ませないだろう。

「……処分に困るな」

受け取ったはいいが、こんな得体の知れないものを。
優雅な時臣に渡すわけにはいかない。
かと言って、綺礼自身が食べる気も毛頭なかった。

「お、なんだ?貢ぎ物か?」
「今日はハロウィンなのでケーキをもらったのです。
 いかがですか?」
「当然、食べるぞ。
 ここの食料は全て我のものだ」
「さようで」

もとより、ギルガメッシュに食べさせる気だったため。
勢いよく取り上げられるケーキに惜しむ必要もない。
うはははは、と笑うギルガメッシュを見送って。
時臣のいる大広間へと足を踏み入れる。

「王はご機嫌なようだね」
「ええ、今宵はハロウィンですから。
 狼男の王として高揚しているのでは?」
「なるほど、性では仕方がないね」

ワインを嗜みながら、肴にラスクを齧る。
小机には読みかけの本と万年筆が置かれ。
魔術研究の小休止中であることが伺えた。

「時臣師、熱心に何を…?」
「いや、これは趣味の範疇でね」
「おい、きれい!おまえなにかしたか!!」

飛び込んできた黄色い少年。
どこから入ってきた!と瞬間、腰を浮かすが。
首に巻き付いている黄金のネックレスを見て。
時臣は目を見開く。

「王!?その姿はどうしたので!?」
「む?ときおみ、ずがたかいな!
 いつのまにそんなにでかくなったのだ」
「ちょ、ちょっと待っててください!!
 カメラあああああ!!!」
「なんだ?」
(あのケーキ、やはり、妙なまじないがかかっていたか。
 食べなくてよかった)

満足に掃除機もかけられないくらい機械音痴の師が。
思わず機械に走るほどの凶悪な容姿になった狼男筆頭に。
神父が静かに近付いた。
睨み合い、口元が僅かに歪む。

「どこで、あれはてにいれた?」
「言ったでしょう、もらった、と。
 ハロウィンは危険なイベントですね」
「きさま、こうなるとわかってわたしたのか」
「とんでもない、分かっていたら師に食べてもらっていましたよ」
「ギルガメッシュ!こちらに視線をください!!」

親バカというのはこういうことか。
ギルガメッシュは唐突に理解した。

Ace Of Vampire

その男は闇に包まれ出した街を歩いていた。
紺のパーカーに黒のズボン。
フードを目深に被り、ちらりとのぞく髪は白くなっている。
彼は己が達成した行為に震えていた。

「はっはぁ!渡してやったぞ!
 ざまぁみろだ、時臣ぃ!」

あの澄ました顔がどんな顔になったのかは見届けることは出来なかったが。
とても見せられる顔ではないだろう。
そういう類の呪いをかけたのだ。
事実、とても『人様には見せられない顔』にはなったが。
それは彼の思惑とは違っていた。
そんなことは露知らず彼は揚々と街を歩く。

どんっ!!

肩に衝撃。
誰かと正面から衝突したらしい。
気が大きくなっていた彼は大声を張り上げる。

「気を付けろ!!」
「おう、ぶつかってきたのはそっちではないか」

はっ、と正面を見ると、顔が見えない。
ずっと上を見上げてようやく顔を伺い知ることができた。
筋肉質で、彫りの深い赤髭を生やした大男だ。
一瞬にして怯み、思わず一歩後ずさる。

「今の余はすこぶる機嫌が悪い、すぐに立ち去れ。
 さもなくば……」
「ひっ!ふ、ふんっ!」

大男が握り込んだ拳を見て、一気に覇気を持って行かれてしまう。
さっきまでの高揚感はどこへやら。
彼は一目散に逃げていく。
捨て台詞をつけるなら『覚えてろよっ!』だ。
ふー、っとため息一つ。

「甘い酒など、酒ではないというに…」

許容範囲はワインまでというくらい辛党の大男は。
ハロウィンにかこつけて全てが甘口に味付けられた酒に大いに不満があった。
『大攻略』の在庫が切れていたことも不機嫌に拍車をかけた。
ただでさえ彫りの深い顔の眉間に深いしわを寄せる。

「こんなところでお会いするとは」
「む?主は?」
「ランサー、とお呼びください、赤狼」

ランサーと名乗った男は、胸に手を当て頭を下げた。
どこぞの執事かというくらい、自然な動き。
最近どこかで見たな、と思えば居候先の主人である。
まじまじと観察した赤狼は、顎に手をやり、ふむと呟いた。

「…―同族か」

目は金色に輝き、後ろに撫でつけられた黒髪から仄かに匂いが香る。
この特徴はまさしく、若い狼男特有のものだ。
ランサーは微かに笑うと手にしていた紙袋を差し出した。

「よろしければ、これを」
「よいのか?」
「酒は苦手なのです」
「上等な品だぞ?誰にもらった?」
「……最近出会った女性です。
 気高く品があり、それでいて脆い」
「ほう、心底惚れておるな」
「お恥ずかしい限りで」

さして恥ずかしがった風でもなく、ランサーは表情を崩さない。
惚れたのは『人柄』なのか『信念』なのか。
改めて酒のラベルを観察する。
『勝利の剣』
作り手が『完璧』な酒を求めるあまり『いろいろ』と強いる醸造の仕方が難ありとされ。
知る人ぞ知る『曰く付き』の一品で。
あっさりとした飲み口から想像も出来ない事情がある。
これを送った人物はそこまで考えているのだろうか。
考えておるまいな、というのが赤狼の見解である。

「あ、いいところで会ったっス!」
「ん?やあ、黄瀬じゃないか」
「えと、この人は」
「赤狼、我が王と同じ位のお方だよ」
「へえ!それはどうもッス」
「……軽いのう」

ランサーとは打って変わってこの軽さ。
どうやら狼男らしいが、なるほど特有の匂いがある。
黄色い髪にピアス、手には菓子を山ほど持って。
およそ渋みや影に縁がなさそうだ。
赤狼が少々呆けている間に。
黄瀬はランサーにそうだ!と話しかける。

「俺、帰らなきゃいけないんスよ。
 一緒に帰らないッスか?」
「どうして帰らなきゃいけないんだ?」
「え、かさ、いや、その…」
「誰かに言われたのか?
 それは本当に優先すべきことなのかい?」
(……ほう?)

ランサーは立派に『成熟』しているようだが。
黄瀬はまだ未熟のようだ。
『親』と慕う者の言葉にいまだ影響を受けており。
仲間に諭されて、意見を変化させる。
経験が足りないのか、考えるのが苦手なのか。
考えられないのであれば、直感を磨いて生き抜くしかない。

「うー、そう言われると」
「黄瀬、君はまだ『子犬』だね」
「ちぇー、難しいことは分かんないッス~!」
「いいよ、帰ろうか」

頭を抱えてうずくまる黄瀬を見て。
ランサーはくすりと笑う。
頭をくしゃりと撫で、ぽんっと背中を叩いて歩き出す。
立ち上がって慌てて追う姿は『親』と『子』だ。
赤狼はランサー!と声をかける。
振り返るランサーに向かって紙袋を掲げる。

「酒、ありがたく頂戴する」
「今度、手合わせ願いたいですね」
「考えておこう」

ランサーはまた微かに笑って。
若い狼男ふたりは闇に消えていく。
寝床に帰るのだろう。

「さて、酒が手に入れば善は急げ―…」
「あー!!また会いましたね!!」

自分も寝床へ帰るため、進路を遠坂邸に取ろうとすると。
後ろから声がかかった。
振り返ると、自分よりもだいぶ低い位置に黒い髪。
きらきらと光る瞳に、赤い頬。

「おぉ、坊主か」
「ハッピーハロウィーン!」
「おうとも。
 すまんな、何もやれん」
「おかまいなく、会えて嬉しいです!」
「…そうか」

ウェイバーはにこにこと笑いながら、赤狼を見上げる。
それが愛しくもあり、また歯痒くもある。
何をしていいのか分からないのだ。
しかし狼王たる自分が何かすれば『同族たち』に彼の存在を知られてしまう。
自分の過去を少年に知られるのが怖かった。
今のこの関係がなくなってしまうことが怖かった。
少年が自分を『恐怖』することが怖かった。
頭を撫でてやりたくても、近くなったことでまた知られてしまうかもしれない。
思案する間に、少年は鞄から何かを取り出した。

「そうだ、これ、僕から」
「余に?」
「はい、宝玉は受け取ってもらえなかったので、これを」
「…―守りか」

前回会ったとき、授けた宝玉を返すと言ってきた。
それは受け取れないと拒否し。
自分のバイブルである書籍を授けた。
返却するつもりが、貰いものをしてしまい。
困惑する少年の表情がまた愛しくて。

「あなたに『神のご加護』がありますよう」
「……ああ」

ウェイバーに他意はない。
自分の信じるものを彼に渡しただけだ。
狼男と『神』では、まさに水と油。
加護などあろうはずもない。

「気を付けて帰れよ」
「はい!」
(何も知らぬは幸せなのだろうな…)

そう言うと少年は走って去っていく。
赤狼は少年のくれた守りを握り込み。
夜の街に大きくひとつ息を吐いた。

(なぜ、悲しそうな顔をされたのだろう…)

ウェイバーは自宅近くまで戻り。
最後の彼の表情を思い出していた。
遠くを見る目とも、困っている顔とも違う。
やはり、贈り物にお守りというのは迷惑だったのか。
扱いに困るのでは?と母親も言っていた。

「君!前を見て歩きなさい!」
「え、あ、は、はい!」

声に反射的に顔を上げて。
目線の先には教会で見かける神父が立っていた。

「危ないぞ、みんな、浮かれているからな」
「ご忠告ありがとうございます、セイバーさん」

セイバーと呼ばれた神父は金色の髪を後ろでまとめ。
ハロウィンの夜でもきっちりと神父服を着込んでいる。
彼女は緑間と同じく規則を遵守する神父であり。
街の自警団的な役割を自ら担っていた。

「ウェイバーが怪我をすると緑間氏が悲しむ。
 注意することだ」
「君もだ、セイバー」
「大坪氏!」

セイバーの後ろからぬっと現れたのは大坪神父。
かなり長身の神父で、緑間、木吉と並ぶと三人とも塔のように高い。
大坪もきっちりと神父服を着込んではいるが。
赤い毛糸のマフラーが雰囲気を柔らかくしていた。
セイバーとウェイバーの頭に手を置いて。
言い聞かせるように発言する。

「あまり遅くならぬうちに家に入るようにな」
「分かりました」
「承知しました」
「よし、いい子だ」
「おとーん、ワシのことも心配したってやー」
「お前はひとりでも生きていけるさ」

大坪の背中にしがみついたのは今吉神父。
黒髪に眼鏡をかけた退魔を担当する神父で。
ウェイバーとはあまり接点がない。
そんな彼が突然現れたものだから困惑を隠せない。
大坪はウェイバーの様子を見て取ると、セイバーに指示を出す。

「セイバー、送ってあげなさい」
「お任せください」

背中をそっと押して歩き出す。
ふたりの背中を見送って大坪が今吉に振り返る。

「お前が怪しいからだぞ」
「ひっどいわー」
「緑間たちはどうした?」
「順次解散しましたわー」
「げ、まだこんなとこにいたのか」

面倒なのを見つけてしまった、と言外に出ている。
笠松の格好は赤司提案の『魔法使い』なそれではなく。
私服に戻っていた。
順次解散した、と言っていたから第二陣も散会したのだろう。
今吉の言葉だけでは疑わしかったが。
目の前に笠松が現れたことで証明がなされた。
ひとり納得した大坪をよそに今吉が言葉を重ねる。

「げ、とはなんや、げ、とは。
 傷つくわー」
「それはない」
「それはないだろう」
「失礼なやっちゃ」

今吉の口から出てくる『傷つく』だの『ナイーブ』だの。
そういったメンタルに関わる言葉はほとんど信用出来ない。
そのキャラクターのせいだろうが、彼の考え方を知れば知るほど。
現実的であり、世の中に対して達観していることが分かる。
よって、一時的な感情で彼が『傷つく』ことはないのである。

「大坪師兄、報告します。
 ハロウィンは無事完遂。
 預かった菓子は教会内部に保管。
 緑間帰宅、俺も帰る途中です」
「よし、撤収するぞ」
「へーい」

三人が歩きだそうとした直後。
前方より近付いてくる人影。
とっさに構えるのは、三人とも退魔を担当する神父としての職業病だ。

「青峰くん!!どうして逃げるの!」
「腹いっぱいだっつってんだろうが!!
 いいから、それ捨てろ!!」
「青峰くん!!!こっちに来ないでください!
 僕まで捕まるじゃないですか!!」
「うるせぇ!!お前も道連れだ!!」

人影は立ち止まることなく嵐のように通過。
神父三人は呆気にとられて走り去った方向を見つめるだけ。

「……なんだ、今の」
「さあ?」

吸血鬼ふたりと女性ひとりの追いかけっこは。
彼女が『何か』を持って来訪したその瞬間から始まった。
真っ先に逃げ出したのは最強の吸血鬼として名高い青峰。
逃げた方向にいたのが黒子。
青峰の形相と女性の姿、時期情報を瞬間的に総合し。
黒子も何も言わずに走り出した。
黒子が弾き出した結論はまさにその通りで。
つまり『兵器』がやってきたのだ。

「青峰?」
「うおっ!高尾!!いいところに!!」
「あ、ミドリン!」
「も、桃井っ!?」

青峰たちの逃げる先にふたつの人影。
高尾と緑間の吸血鬼コンビである。
青峰を見つけた高尾。
桃井を認識した緑間。
それぞれがそれぞれの人物を認識し。

(あの手にした物体は…!!)
(リーサルウェポン!!!)

ふたりも全力で走り出す。
体力に限界が近付いてきた黒子はもう覚悟を決めたような顔をしている。
だが、ただで倒れるものかと呪詛のような言葉を叫ぶ。

「道連れです!!」
「巻き込むな!!」
「待て、俺は間に合っているのだよ!!!」

黒子は桃井の手から『それ』をひとつ取り上げ。
ふたりに向かって放り投げた。
青峰が『それ』を空中の掴みとり、高尾の口に向かって叩きつける。

ぎゃああああああああ!!!

「何の声だろうな、狼の遠吠えかな?」
「狼男をなんだと思ってんだ、ダアホ」
「んー、まあ、可愛いかなあ」
「…あっそ」

座る木吉に抱き込まれて、日向はされるがままになっていた。
頭に顎を乗せられて、手のひらをマッサージされる。
完全に『ぬいぐるみ』を抱き込んでいる図だ。

「そろそろ俺は帰るぞ」
「えー?」
「甘えるな、馬鹿木吉!!」

仕事あんだろ!!と言う日向を。
木吉は離したくないなあ、と思う。
ハロウィンを過ぎたら、きっとまた隠れてしまうんだろう。
大手を振って歩けるから楽しいと言っていた。
きっとそれは本心で。
高尾などの吸血鬼も同じことを言うに違いない。
『彼ら』にとって生きづらい世の中であることを。
改めて実感した夜である。

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一方そのころ編。
退場した裏でもまだまだ動いているよ、ってことです。

初登場:間桐雁夜。
名前が一切出ませんでしたが、パーカーの男は彼です。
人間陣営のひとで、時臣さんに個人的に劣等感を感じています。
同じ家系出身の分家なのかな。
さすが本家、やっぱり分家って言われ続けていたのでしょう。

初登場:ランサー。
狼男の成熟期を迎えてフェロモンだだ漏れです。
仄かな香りは誘惑の効能があり、金色の瞳は催眠の効果があります。
彼と『彼女』の出会いは、どういうタイミングで描こうかね。
木吉と日向のような書き方になるやも。

初登場:大坪さん。
真正面から書いたのは今回が初です。
護りの木吉、攻めの大坪と言われる実力派神父です。
序盤に緑間が組んでいたのは、彼しか緑間の我が儘に付き合えなかったから。

初登場:セイバー。
教会の紅一点神父ですが、男勝りで男装してます。
とにかく頭が固く融通が利きません。
そんな彼女ですが、贈り物をする甲斐性は合ったようで…。


この話、身長のことを気にして読むとなかなかに面白いです。
たとえば
大坪 198cm
ウェイバー 157cm
セイバー 154cm
実に40cmの身長差があるため
>> セイバーとウェイバーの頭に手を置いて。
>> 言い聞かせるように発言する。

黄瀬 189cm
ランサー 184cm
>> 頭を抱えてうずくまる黄瀬を見て。
>> 頭をくしゃりと撫で、ぽんっと背中を叩いて歩き出す。
ランサーに頭を撫でさせるため、黄瀬にうずくまってもらいました。
しかし、みんな身長高いわー。

桃井は、青峰と黒子が吸血鬼だと知りません。
彼らは幼馴染で、そのままの関係で成長しました。
狼男は『ある習性』のため、一緒にいれなくなる時期が来ます。
全体像が見えるようにしたとき、あまり狼男が人と群れていないのはそのためだったりします。

ハロウィンを楽しもう。
何も気にしないで。

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