「せんせい、さよーなら」
「ハイ、さようなら。
寄り道しちゃいけませんよー」
担任の言葉を聞き流して、子供たちが駆けだしていく。
強面を通り越して不気味と評されるブルック教諭は表情が読めない。
だが、なぜかはっきりと落ち込むのだけは分かった。
ため息ひとつついて、視線を上げる。
すると、ぽつんと一人教室で立ち尽くしている生徒がいた。
優しい(?)表情になって、ブルック教諭は彼に近付いた。
びくっとなるのもかまわず声をかける。
「どうしました、サンジくん」
金色に輝く髪を持ち、左半分を前髪が隠している。
出ている方の眉はくるっと渦を巻き、やけに特徴的だ。
唇を噛んで、潤んだブルーアイズを教諭に向ける。
「…もしかしてゾロくんと喧嘩しました?」
「あいつとかえるとまいごになるんだもん」
ぶつぶつと語るに。
通学路を歩いていたはずなのに、竹藪にいたり。
その竹藪でスズメバチに遭遇したり。
でかい犬に追いかけられたり…と散々な目にあったらしい。
思わず天を仰ぐと、サンジから「どうしよう」と聞こえてくる。
彼は先週からこの学校にやってきた転校生だった。
当然、通学路も通い慣れたものから見慣れぬものへ。
慣れるまでは、と同じ方向に帰るゾロに付き添いを頼んだのだが。
なるほど、彼は壮絶な方向音痴であったらしい。
人選ミスを後悔しても後の祭り。
ゾロは責任感の強い子だから、一度頼まれたら放り出したりしない。
しかし、このままだとサンジがいろんな意味で帰れない。
「どうしましょうねぇ」と漏らすと廊下から元気な声。
「ブルックせんせい! さようなら!」
「あ、ルフィくん」
活発な子、というのが彼の評判であり。
左目下の傷は、うっかりハサミで刺したという逸話のある子だ。
しかし、人懐っこさは折り紙付き。
しかも、確かサンジと同じ方向に帰るはず。
自分のクラスではないが、頼んでみる価値はある。
「ちょうどよかった。
サンジくんと一緒に帰ってくれませんか」
「うん、いいぞー」
妙にあっさりと引き受けてくれた。
これが彼のいいところである。
「ナミと、ウソップと、ゾロと、あと兄ちゃんがいるけどいいか?」
「エースくん? 願ったり叶ったりです。
では、よろしくお願いします」
ルフィの兄と言えば、中学1年だったはず。
保護者もついて安全は約束され…。
「いやだ! ゾロがいるなら、おれ、一人でかえる!」
「サンジはわがままだなぁ。
でも、きめたんだ。
いっしょにかえるぞ、みんなまってる」
「かってにきめるな!」
「サンジ」
ルフィの黒い瞳がサンジをとらえる。
しばしのにらみ合い。
先に折れたのはサンジだった。
「…ごめん、よろしくおねがいします」
「おぅ、まかせろ!
じゃあね、ブルックせんせい!」
「頼みましたよー」
手を振り、二人を見送ったブルック教諭は鼻歌混じりに軽掃除を開始した。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
「おそいわよ、ルフィ!」
「わるい、わすれもん!」
「ったく。 ん? そいつだれ?」
「サンジ、きょうからいっしょにかえる」
「……」
ゾロの視線をびしびし感じる。
つい30分前に縁切りをしたばかりだが。
何の因果か、あっさりと再会である。
啖呵を切ってこれは恥ずかしい。
「んじゃ、揃ったなら帰るぞ」
集団下校のリーダーはエース少年。
中学生ということと、喧嘩に滅法強いのが選出理由である。
彼の友人は幅広く。
それこそ、年齢、性別の垣根など存在しない。
「よぉ、お待たせ」
「遅ェよ、エース!!
コーラ3本飲んじまった」
「悪ぃな、便所」
「あら、お腹壊したの?」
「そんなとこ。 サンジ」
唐突に紹介されてどぎまぎするサンジ。
優しい顔で目線をサンジの高さにしたのは黒髪の美人。
コーラの空き瓶を振り回しているのは、青髪の男。
「こんにちわ、サンジくん。
私はロビン、こっちはフランキー。
こう見えて高校生で、見ての通り不良よ」
「なんつー紹介しやがる…」
爽やかな顔をして言うことはキツい。
フランキーはサングラスを少しズラして、サンジをみた。
日に焼けていない白い肌。
なるほど、この辺出身ではなさそうだ。
「ルフィ、あとは任せていいか?」
「だいじょうぶだ! いってらっしゃい、エース!」
「じいちゃんに夕飯までに帰るって言っておいて」
「はーい」
ルフィたちと分かれると。
ひそひそと内緒話。
「ゾロの殺気すごかったんだが…」
「だから、早めに分かれたんだよ」
「男の子ね」
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
ズンズン歩いていくルフィとゾロ。
続くのはナミ。
ウソップとサンジは最後尾を歩く。
「ゾロのこときらいか?」
「…なんで?」
「すごくいやそうなかおしたから」
きっと学校で合流したときのことを言っているのだろう。
そんなに顔に出ていたのか。
今度から気をつけよう。
「ゾロのどこがいや?」
「どこって…」
サンジはブルック教諭に話したのと同じことを聞かせた。
すると、ウソップは納得したような表情を作った。
うんうんと頷き、そして少し寂しそうな顔をする。
「ゾロはサンジをいっしょうけんめいおくろうとしたんだよ」
「あれで? やぶのなかにいたんだぞ」
「ゾロはみちをおぼえたらぜったいまよわないぞ。
おぼえるまでにじかんかかるけど」
「…ほんとうにぃ?」
「なんだよ!うそはいってないぞ、いまは」
えー?と疑う目を向け続ける。
援護しようにも「自分」は送られたことがない。
一緒に行ったのは、カヤの家までだ。
ふと集団の先頭を見る。
先頭がゾロになっていた。
驚愕としか言いようがない。
迷子になる!!としか思わなかった。
けれど、今いる地点は紛れもなく。
「おれんちのちかくだ…」
「とうぜんだろ、おまえをおくってんだから」
「え」
ふいっと視線を外して、ゾロは歩く。
それにサンジはついていく。
またなー、と遠くで声がする。
誰の声だ?
たぶん、ウソップだ。
ウソップは何と言っていた?
『ゾロはみちをおぼえたらぜったいまよわないぞ』
「…ゾロ」
「なんだ」
「みちをおぼえるまでにどれくらいかかる?」
「いっしゅうかん」
「もうおぼえた、おくるぞサンジ」
************************
GW前の宿題、小学生パロでした。
特に指定がなかったので、とりあえずワンピース。
中で書ききれなかったこと。
・4人は小学2年生
・1年生のとき散々ブルック先生に泣かされた(主に顔で)
・ロビンとフランキーは高校2年生
・ルフィとエースは同じようなことを言う
・どんなときでもコーラ
何か違う気がするけどこんなんで勘弁してくれ。
私、小学生は守備範囲じゃないんだよ…。
ブルック先生、書いててめっちゃ楽しかったです。
(2010.05)
「ハイ、さようなら。
寄り道しちゃいけませんよー」
担任の言葉を聞き流して、子供たちが駆けだしていく。
強面を通り越して不気味と評されるブルック教諭は表情が読めない。
だが、なぜかはっきりと落ち込むのだけは分かった。
ため息ひとつついて、視線を上げる。
すると、ぽつんと一人教室で立ち尽くしている生徒がいた。
優しい(?)表情になって、ブルック教諭は彼に近付いた。
びくっとなるのもかまわず声をかける。
「どうしました、サンジくん」
金色に輝く髪を持ち、左半分を前髪が隠している。
出ている方の眉はくるっと渦を巻き、やけに特徴的だ。
唇を噛んで、潤んだブルーアイズを教諭に向ける。
「…もしかしてゾロくんと喧嘩しました?」
「あいつとかえるとまいごになるんだもん」
ぶつぶつと語るに。
通学路を歩いていたはずなのに、竹藪にいたり。
その竹藪でスズメバチに遭遇したり。
でかい犬に追いかけられたり…と散々な目にあったらしい。
思わず天を仰ぐと、サンジから「どうしよう」と聞こえてくる。
彼は先週からこの学校にやってきた転校生だった。
当然、通学路も通い慣れたものから見慣れぬものへ。
慣れるまでは、と同じ方向に帰るゾロに付き添いを頼んだのだが。
なるほど、彼は壮絶な方向音痴であったらしい。
人選ミスを後悔しても後の祭り。
ゾロは責任感の強い子だから、一度頼まれたら放り出したりしない。
しかし、このままだとサンジがいろんな意味で帰れない。
「どうしましょうねぇ」と漏らすと廊下から元気な声。
「ブルックせんせい! さようなら!」
「あ、ルフィくん」
活発な子、というのが彼の評判であり。
左目下の傷は、うっかりハサミで刺したという逸話のある子だ。
しかし、人懐っこさは折り紙付き。
しかも、確かサンジと同じ方向に帰るはず。
自分のクラスではないが、頼んでみる価値はある。
「ちょうどよかった。
サンジくんと一緒に帰ってくれませんか」
「うん、いいぞー」
妙にあっさりと引き受けてくれた。
これが彼のいいところである。
「ナミと、ウソップと、ゾロと、あと兄ちゃんがいるけどいいか?」
「エースくん? 願ったり叶ったりです。
では、よろしくお願いします」
ルフィの兄と言えば、中学1年だったはず。
保護者もついて安全は約束され…。
「いやだ! ゾロがいるなら、おれ、一人でかえる!」
「サンジはわがままだなぁ。
でも、きめたんだ。
いっしょにかえるぞ、みんなまってる」
「かってにきめるな!」
「サンジ」
ルフィの黒い瞳がサンジをとらえる。
しばしのにらみ合い。
先に折れたのはサンジだった。
「…ごめん、よろしくおねがいします」
「おぅ、まかせろ!
じゃあね、ブルックせんせい!」
「頼みましたよー」
手を振り、二人を見送ったブルック教諭は鼻歌混じりに軽掃除を開始した。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
「おそいわよ、ルフィ!」
「わるい、わすれもん!」
「ったく。 ん? そいつだれ?」
「サンジ、きょうからいっしょにかえる」
「……」
ゾロの視線をびしびし感じる。
つい30分前に縁切りをしたばかりだが。
何の因果か、あっさりと再会である。
啖呵を切ってこれは恥ずかしい。
「んじゃ、揃ったなら帰るぞ」
集団下校のリーダーはエース少年。
中学生ということと、喧嘩に滅法強いのが選出理由である。
彼の友人は幅広く。
それこそ、年齢、性別の垣根など存在しない。
「よぉ、お待たせ」
「遅ェよ、エース!!
コーラ3本飲んじまった」
「悪ぃな、便所」
「あら、お腹壊したの?」
「そんなとこ。 サンジ」
唐突に紹介されてどぎまぎするサンジ。
優しい顔で目線をサンジの高さにしたのは黒髪の美人。
コーラの空き瓶を振り回しているのは、青髪の男。
「こんにちわ、サンジくん。
私はロビン、こっちはフランキー。
こう見えて高校生で、見ての通り不良よ」
「なんつー紹介しやがる…」
爽やかな顔をして言うことはキツい。
フランキーはサングラスを少しズラして、サンジをみた。
日に焼けていない白い肌。
なるほど、この辺出身ではなさそうだ。
「ルフィ、あとは任せていいか?」
「だいじょうぶだ! いってらっしゃい、エース!」
「じいちゃんに夕飯までに帰るって言っておいて」
「はーい」
ルフィたちと分かれると。
ひそひそと内緒話。
「ゾロの殺気すごかったんだが…」
「だから、早めに分かれたんだよ」
「男の子ね」
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
ズンズン歩いていくルフィとゾロ。
続くのはナミ。
ウソップとサンジは最後尾を歩く。
「ゾロのこときらいか?」
「…なんで?」
「すごくいやそうなかおしたから」
きっと学校で合流したときのことを言っているのだろう。
そんなに顔に出ていたのか。
今度から気をつけよう。
「ゾロのどこがいや?」
「どこって…」
サンジはブルック教諭に話したのと同じことを聞かせた。
すると、ウソップは納得したような表情を作った。
うんうんと頷き、そして少し寂しそうな顔をする。
「ゾロはサンジをいっしょうけんめいおくろうとしたんだよ」
「あれで? やぶのなかにいたんだぞ」
「ゾロはみちをおぼえたらぜったいまよわないぞ。
おぼえるまでにじかんかかるけど」
「…ほんとうにぃ?」
「なんだよ!うそはいってないぞ、いまは」
えー?と疑う目を向け続ける。
援護しようにも「自分」は送られたことがない。
一緒に行ったのは、カヤの家までだ。
ふと集団の先頭を見る。
先頭がゾロになっていた。
驚愕としか言いようがない。
迷子になる!!としか思わなかった。
けれど、今いる地点は紛れもなく。
「おれんちのちかくだ…」
「とうぜんだろ、おまえをおくってんだから」
「え」
ふいっと視線を外して、ゾロは歩く。
それにサンジはついていく。
またなー、と遠くで声がする。
誰の声だ?
たぶん、ウソップだ。
ウソップは何と言っていた?
『ゾロはみちをおぼえたらぜったいまよわないぞ』
「…ゾロ」
「なんだ」
「みちをおぼえるまでにどれくらいかかる?」
「いっしゅうかん」
「もうおぼえた、おくるぞサンジ」
************************
GW前の宿題、小学生パロでした。
特に指定がなかったので、とりあえずワンピース。
中で書ききれなかったこと。
・4人は小学2年生
・1年生のとき散々ブルック先生に泣かされた(主に顔で)
・ロビンとフランキーは高校2年生
・ルフィとエースは同じようなことを言う
・どんなときでもコーラ
何か違う気がするけどこんなんで勘弁してくれ。
私、小学生は守備範囲じゃないんだよ…。
ブルック先生、書いててめっちゃ楽しかったです。
(2010.05)
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