端と底を行き来するRPG

そのとき、きっと誰かの中心blog。
アーカイブにある作品は人事を尽くした盛者必衰の入れ替え制。

ハロウィンパーティ!

2013-10-31 07:00:00 | 黒子のバスケ
「緑間、今年のハロウィンも出歩いていい?」
「…好きにしろ」
「へへっ、あんがと!」

ちゅっ、とリップ音をさせて頬へのキス。
高尾の緑間に対する愛情表現はストレートだ。
それは緑間も同様であったが。
『生まれ持った』習性である分、高尾の方が熱の逃がし方がうまい。
高尾は吸血鬼。
緑間は神父。
彼らの関係は危険で甘い。

Ace Of Vampire

「はー、今年も可愛いなぁ」
「子供好きは変わっとらんのぅ、木吉」

木吉と呼ばれた茶髪の神父は。
仮装した子供たちに菓子を与え、にこにこと手を振った。
気は優しくて力持ちを地でいく彼の身長は190cmを越える。

「子犬みたいで可愛いじゃないか」
「子犬、なぁ?『狼さん』は来るんかいな?」

木吉はちらりと隣に立った黒髪の神父を見た。
眼鏡をかけて、思考を読ませない目元。
子供たちに猛烈に懐かれる時期は夏場で。
『怪談神父』だの『お化け神父』だのと呼ばれているのは。
彼独特の雰囲気と話し上手なところが起因である。

「またそういうことを言う。
 今吉は狼を呼びたいのか?」
「狩りたいとは思うとるけどな」

木吉はなんとなく居心地が悪くなるのが分かった。
懇意にしている狼男がいるせいだろう。
『日向』のことを知っているのはごく一部の人間だけ。
だから、今吉の言っていることは『神父』として正しい。
特に彼は『狼男専門』の退魔神父であるから。
教会から指示がなくとも追うのが生業だ。

「ハロウィンの雰囲気に紛れて遊んでそうやなぁ」
「そりゃ結構だ」
「珍しい取り合わせだな」

さらに口を開こうとしていた今吉を遮って。
別の神父の声がした。
黒髪に大きめの瞳、神父にしては珍しいピアス。
長めのマフラーと黒のロングコートを羽織っている。

「なんや、笠松。その格好は」
「赤司だよ、着ろとさ。
 魔女の男版とか言ってたから『魔王』?」
「魔王はあいつやん」
「似合ってるなぁ、魔法が本当に使えそうじゃないか」
「…緑間は?」

木吉の感想を無視して笠松はここにはいない神父の名を挙げる。
緑間の実直さは教会内部で知らない者はいない。
約束の時間、規定の日取りには必ず在席しているため。
緑間の不在は天変地異にも近い扱いになる。

「もう夕闇だから、そろそろ来るだろ」
「夜を告げるコウモリみたいやな」
「すみません、遅れました」

噂をすれば影、とはよく言ったもので。
緑間はまさに『夜を告げにきた』コウモリであった。
教会の鐘が鳴り、子供たちが走り出す。
ハロウィンの幕開けである。

「ほな、緑間も来たし帰るわ」
「随分急だな」
「今吉は俺が嫌いなのだな。
 だから狼男の巣窟に俺を送り込んだのか?」
「あれは事故や!ワシかてビビったっちゅーねん」

今吉が緑間を狼男のトップツーと衝突させた事件は。
数ヶ月経った今でも話題になった。
よく生きていた、と言われる度に。
あそこには『もうひとり』いて。
彼が引き際を教えてくれたのだと緑間は言いたくなる。

「まぁ、それは冗談として。
 あとは『魔王様』と『伯爵様』に任せていいぞ」
「そうさせてもらいましょ」

そそくさと去っていく今吉を見送って。
ぼそりと呟いたのは木吉だ。

「それ、『あいつ』意識しただろ?」
「見たいと言われたので」

髪はオールバックで纏め、首もとには白のスカーフ。
手袋をはめて、足下は革靴でキメている。
緑間の格好は『ドラキュラ伯爵』と世間で言われている格好だ。

「笠松のとこの『狼』は落ち着いたか?」
「……仲間が出来たらしくて、バカする方向が変わった。
 女ひっかけて遊んでるらしい」
「一時期の『あいつ』みたいだな」
「緑間んとこはどうやって落ち着けた?」
「『首輪』をつけたのだよ」

血の契約という主従関係はあるが。
それ以上にお互いが求めあって絡み合っている。
高尾曰く、後始末が面倒な遊びよりも。
命がけの本命のほうが魅力的とのこと。
笠松は、あいつなぁと言って頭を掻いた。

「自我が芽生えてから言うこと聞かねぇし」
「飴あげると意外と懐くぞ」
「そりゃ木吉のとこだけだ」
「…―来たみたいだな。
 そんじゃ、俺も行くわ、ハッピーハロウィーン!」

木吉は片手を挙げて足早に教会から離れていく。
そう離れないうちに、黒髪の男がむっすと現れた。
頭を撫でられて、緑間たちのところまで触んな!と聞こえてくる。

「照れ隠しなんだろうな」
「あれくらい反応しないと師兄はやめないのだよ」

本日の神の啓示アイテムであるリンゴをおもむろに取り出して。
緑間は悠然と佇む。
笠松も手持ち無沙汰に立ち尽くす。
子供たちの波が切れて、今度は女性たちがカップケーキなどを持ち寄って。
彼らに寄越していくのだ。

「見事に名目だよな」
「布施が増えるから別に構わないのだよ」
「妙なとこ現実的だな」
「そう思っていないと、高尾が出歩くのを許可できないのだよ」

本当はいつでも側に置いておきたい。
だが、それでは生活できないし彼の生き方の邪魔になる。
次々と手渡されるお菓子に妙な『まじない』がかかっていないか、慎重に探りつつ。
ここにいない存在について考える。

「…あー、見つけちまった」
「なにをだ?」
「あそこに女が集まってるだろ?」

大通りにぶつかる道。
少し広くなったその場所に、確かに女性たちが集まっている。
中心には、頭ひとつ出た黄色い髪。
はぁ、とため息をつく笠松は誰だか見当がついているらしい。

「突き放したくても、どうしてもな。
 黄瀬!!!」

黄瀬と呼ばれたその人物がパッと笠松の方に視線を向ける。
顔は何でもないような顔をしているが。
なんとなく喜んでいるのが分かる。

「夜に出歩いてんじゃねぇよ、さっさと帰れ!」
「その格好、なんスか?魔法少年?」
「そういうお前はモデルか?
 チャラチャラすんな!シバくぞ!!」
「この神父様怖いッスわー。
 いいんスか、俺、一般人ッスよ?」

女に囲まれた黄瀬と物騒なことを言っている笠松。
どちらに世論の味方がつくかと言われれば明白。
むむっ、と笠松が引く。
そこへ現れたのは緑間である。

「Trick or Treat?」
「は?あんた、誰ッスか!?」
「名前は緑間、神父なのだよ。
 菓子は持っていないな?ではイタズラしよう」

ぐっと手首を握る。
瞬間、ぎゃっ!!と黄瀬が悲鳴を上げた。
簡易護符による『イタズラ』である。

「あまり笠松に心配をかけさせるな」
「っ!?」

耳元に囁く声はどこか優しい。
緑間を振り払って、黄瀬は二人を見つめる。

「分かった、今日は帰るッス。
 これでいいんでしょ?『笠松サン』」
「……ああ」

女たちのブーイングを受けながら黄瀬が笠松に近付く。
すれ違いざまにぼそりと呟いて。
バイバーイと軽いノリで手を振った。
緑間は黙って見送る。

「狼は巣に帰る、だとよ。
 親玉んとこに行くのかね」
「今吉に聞かせてやりたいな」
「まったくだ。
 ……こんな形でも会えて安心してるんじゃ俺もダメだな」

笠松は自嘲するが、緑間も同じように感じるだろう。
生きているのか、死んでいるのか。
はっきりしないよりは、悪態でもついてくれたほうがいい。

「よし、もう撤収でいいんじゃないか?」
「まだ1時間も経っていないが」
「今日は教会を開けてなかったから。
 木吉たちだって2時間くらいしかやってねぇよ。
 『狼』と『伯爵』が積極的に動く日だぞ?」
「ああ、待機するのが仕事だな」

教会に捧げる者はもう来訪済みだし。
『神父』に捧げる者は、この時限に来訪した。
子供たちは、この時間ならば近所を巡っている。
そうなれば『守護職』についたほうが賢明だろう。
懐中時計を見る。
時刻はまだ余裕で31日圏内。

「俺は着替えてくる。お前は?」
「こだわりはないのでこれで」
「おう」

教会へ入っていく笠松を見送って。
当たり前のように呟く。

「いいぞ、高尾」

頭上より木の葉の擦れる音。
続いてストンッ!と黒い影が降ってきた。
何でもないことのように、立ち上がると。
教会側に視線を走らせて言う。

「なんか狼男と縁があるやつばっかな」
「赤司の『使い』はそれか?」
「察しがいいね」

教会預かりになってから度々、赤司から隠密捜査を依頼されていたのだが。
『夜関連』で面倒を起こしてから、危険度が一気に上がった。
内容までは知らされていないが。
帰宅する度に「生きてたー!!」と言われれば分かろうというもの。
そして『狼男と縁があるやつばかり』との発言で。
狼男について何か調査していることが察せられた。
おそらく、きわどい調査をしているのだろう。
理由を付けて褒美をやるには、今日はちょうどいい。

「甘やかしてやろうか?」
「うわあ、それ嬉しい!にやける!」
「笠松が戻ってきたらここを離れろ。
 すぐに俺も帰るのだよ」
「挨拶させてくんねぇの?」
「まだ早い」

存在は知らせている。
だが、紹介する気にはならなかった。
顔と名前を一致させたら、街ですれ違っただけでも分かるようになる。
挨拶をされたら、反応する必要がある。
それが別の神父と居る時だったら?
そして、それが強硬派の人間だったら?
やすやすと退魔されるような吸血鬼ではないが、それでも無傷では済むまい。

「なんか、俺、愛されてんね?」
「なんだ、気付いていなかったのか?」
「思っていた以上に護られてるなぁって思っただけ。
 緑間が俺のこと大好きなことも、絶倫なことも知ってます」
「最後は余計だ、お前のその目が悪いと言ったろう」
「や~らしっ」
「ひとの匂いで抜い―…」
「わー!!!ごめんなさい!!!」

緑間は自嘲する。
あんなに『行為』を嫌悪していたのに。
顔を真っ赤にする高尾を可愛いと思う。

「んじゃ、先行ってんね」

ちゅっ、とリップ音をさせてこめかみへのキス。
返すように、額にキスを贈る。
別れてすぐに笠松が戻ってきた。
高尾の空間把握能力は本当に大したものだ。

「来てたのか?」
「照れ屋なので」
「ふうん?」

特に気にした様子もなく、帰ろうぜと歩き出す。
あれだけいた女たちは黄瀬の退場で既にいなくなっている。
夜になって、気温は下がる一方だ。

「赤司は何を考えているんだろうな」
「パトロン探しだろう、今は女性の方が資金を持っているからな」
「本当に現実的だな」
「男より女のほうがまだマシなのだよ」
「……もう大丈夫だろ」

確かに体は大きくなって、腕力も負けないだろう。
物理的な抵抗力は十分だが。
『政治的な』抵抗力は備わっていない。
そこを赤司がカバーしているのが現状である。

「赤司に呼び出されて『女性が好きなものは何だ』と聞かれて。
 イベントではないか?と言ったらこれだ」
「お前の差し金か!」
「楽しめれば勝ちだろう」
「お前、変わったな」

言われて緑間は目を見開いた。
笠松の目は反対に優しくなる。

「これは、高尾に礼を言わなきゃいけないか?」
「…笠松はきっと黄瀬に似てるのだよ」
「逆だね、あいつが俺に似てるんだ」

間違うんじゃねぇ、シバくぞ。
お互いが笑う、自嘲ではなく、幸福から。

「じゃあ、俺、こっちだから。
 高尾によろしくな」
「伝えておく」

別れてすぐに気配。
胸に圧迫感。

「聞いてたのか?」
「……うん」
「どこから?」
「赤司にアイディアを聞かれたって辺りから」
「先に行っていると言っていた割には随分早い帰還だったな」

ぐりぐりと背中に当たるのは高尾の頭か。
すっかり甘えモードになった高尾を背中にくっつけて。
緑間はため息をついて、手を後ろに回す。
手袋越しに頭を撫でた。

「緑間ぁ、俺、やっぱお前がいないとだめだー」
「自分から離れたくせに寂しくなったのか?」
「だってハロウィンって何にも気にしないで歩けるんだぜ?
 遊びたいじゃんかよう」
「なるほどな」

いつまでも立っているわけにもいかない。
額にキスをして、さっさと歩き出す。
顔を真っ赤にした高尾がついてくる。
緑間に並んで指を数本掴む。
手を絡めるのを緑間が許可しないので。
これが彼らの『手をつなぐ』だ。

「なぁ、菓子は何がいい?」
「お前か、カップケーキがいいのだよ」
「あ、俺、選択肢に入ってるんだ?」
「嫌か?」
「全然!期待に応えてみせるのだよ!」

さあ、家に帰ろう。
今宵はハロウィン。
ハロウィンパーティはまもなく最高潮だ。

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TOA,Pokemon,BASARAときて2年連続黒子のバスケ。
緑間神父シリーズ1周年です、おめでとう!
キャラがすっかり多くなって、思いもしなかった展開をしています。
勢いだったんだけどなぁ。

『狼』は狼男のこと。
『伯爵』は吸血鬼のこと。
大ぴらに吸血鬼とも言えないので簡単な隠語です。

笠松の格好は『グリフィンドール』です。
みなまで言わないですよ?

初登場:黄瀬。
幼少時代、笠松と一緒に育った狼男です。
発展途上なので笠松とまともにやりあったら負けます。

高尾の遊び歩き。
ハロウィンはみんなが仮装してるので。
何も警戒しないで遊べる日ということで好きらしいです。
さぞ女遊びもしやすかったことでしょう。
去年は緑間がいるのに遊んでましたね(苦笑

長編になると辻褄が合わなくなります。
当時はこれでよかったんですが…。
拡張に失敗したんですな。
反省。

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