端と底を行き来するRPG

そのとき、きっと誰かの中心blog。
アーカイブにある作品は人事を尽くした盛者必衰の入れ替え制。

退魔東海伝vol.2-01

2010-09-02 08:00:00 | ワンピース
『助けてくれ』
『ここはどこだ?』

見える、聞こえる。
でも、彼らを助けてやる手段がない。
歯痒かった。
見えているのに、知っているのに。
俺は触れない、気配が分からない。

『いやだ、死にたくない』

成仏させてあげられない。

退魔東海伝

「マリモマン、日光浴はいいがほどほどにしろよ」
「これが日光浴に見えるかっ!?」
「エアコンの効いた部屋をみながら、窓拭きたぁ。
 ほんと、お前物好きだね」
「…楽しい毎日だったろ、よかったな」

事務所の窓拭きに精を出しているゾロは頭の血管が切れそうなほどイライラしていた。
理由はサンジが言った通り、エアコンの効いた部屋をみながら窓拭きをしているからに他ならない。
言いつけた本人は、現在、依頼人と打ち合わせ中である。
手にしたスクイジーを折らんばかりのゾロを。
文字通り飛んでいって宥めるのは、この事務所唯一の正社員ウソップ。

「窓壊したらまた借金だぞ!?」
「ぐ…」

ゾロはつい昨日、半年のムキュウ奉仕を終えたばかりだ。
休みなし、給料なし。
朝から晩までみっちり詰まった就業時間18時間をフルタイム。
昼寝が習慣のゾロが街を駆けずり回って清掃し。
その姿が「掃除屋」に仕事をもたらしてさらに忙しくなり。
正社員1名、アルバイト2名が軽く無我の境地に陥るほどだった。
出来れば二度と体験したくない。

「一休みしようぜ、な、ほら、烏龍茶でも飲んでよ」
「…あぁ」

ウソップの勧める烏龍茶を受け取る。
一口飲んで、首に巻いたタオルで汗を拭く。
完全にガテン系兄ちゃんのスタイルで、ゾロは休憩に入る。
そして気付く。
サンジが部屋の隅を気にしている。

「…いるのか」
「うん」
「ひとりだな、小さい?」
「ああ、女の子だ」

サンジは見える。
ウソップは気配を感じる。
ゾロは。

「逝きたいって言ってる」
「ん」

ゾロが壁に近付き、腰を屈める。
この辺りだろうかと見当をつけて、手をかざす。

「もうちょい上だ」
「おぅ」

サンジから「見て」ゾロの手が女の子の頭に触れる。
途端に女の子が安堵の表情を浮かべて逝った。
突然死んでしまうと「迷子」になってしまうと聞いたことがある。
きっとあの子もそうだったのだろう。

「逝ったか?」
「もう大丈夫だ」

ゾロが姿勢を元に戻すとサンジは泣きそうになっていた。
その様子にウソップが驚きのあまり目を見開き。
オロオロと手を前に振るばかり。

「…なんで、俺には払う力がないんだろうな」

何度も思った。
自分に少しでも法力があれば、と。
見つけられても何も出来ない。
「見て見ぬ振り」をしているのと変わらない。
それがたまらなく無力に思えて。
あの日、彼は実行してしまったのだ。

「俺がいるだろ」
「…うん」

ゾロが烏龍茶を一気に飲み干して。
中の氷がカランと鳴った。

*******************

前作:退魔東海伝の続き。
予定では三部作。
サンジ編、ゾロ編、ウソップ編。
それぞれで掘り下げて、内容が説明出来ればなぁと。

サンジのこと。
分かったような、はぐらかしただけのような。
でも、入り口くらいは分かってもらえたのではなかろうか。
ぎりぎりまでサンジを「人間」にするか「妖魔」にするか迷った。
イメージは妖狐、そのまんま。

ゾロの最後の台詞は、思いっきりアニメ台詞のインスパイア(笑
ウソップに対して放ったという口説き文句をあえてサンジに。
ええ、私はどう転んでもゾロサンスキーです。
(2010.09)

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