端と底を行き来するRPG

そのとき、きっと誰かの中心blog。
アーカイブにある作品は人事を尽くした盛者必衰の入れ替え制。

退魔東海伝vol.2-02

2010-09-03 01:11:11 | ワンピース
駆けつけたときにはソレは始まっていて。
無我夢中で飛び込んだ。
今の自分は、中途半端な紛いもの。

退魔東海伝

「ゾロはいつから払う力があるんだ?」
「生まれつきだ。
 払う力って言うより、寄せ付けねぇんだよ」
「その顔じゃ子供だって寄りつかねぇよ」
「本気で今日死にたいらしいな」
「借金ーん!!!」
「ぐ…」

何事もなかったかのようにサンジはグラスに烏龍茶を注ぎ込んだ。
ゾロは黙ってウソップの頭をヘッドロック。
持て余す怒りを渾身の頭グリグリに込める。
途端、苦情とも黄色い悲鳴ともとれる声をあげる。

「ああ! いてぇ、お前の愛が痛い!!」
「気色悪ぃ声出すな!」
「仲がよろしいこって」
「仲良く見えるか!?」

ウソップが今度こそ黄色い悲鳴をあげた。
ものすごく嬉しいのが実体化している。

「おお、お似合いお似合い。
 まるで共同体みたいだ」
「てきとーなことぬかしやがる…」

反対に渋い顔をしたゾロは思い出す。
自分とサンジこそ「運命共同体」なことに。
ウソップがゾロの腕から抜け出して無邪気に訊く。

「サンジの目って生まれつきか?」
「見えるのは生まれつきだけど、実体化さすのは後天的だ」
「どうやったんだ?」

「黒魔術やったんだよ」

場が静まり返った。
サンジが何でもないことのように言葉を続ける。

「見えるだけって言うのが歯痒くてさ。
 望みを黒魔術に持っちゃったんだなー」

あの日、黒魔術を発動させたサンジは。
よりにもよって強力なものを呼び寄せた。
武神阿修羅。
ゾロが見つけたのは偶然だった。
今まさに阿修羅に取り込まれそうになっているサンジの間に割って入った。
ゾロに入った阿修羅は彼の体内で乗っ取るため暴れ狂った。
必死に押さえつけている間、サンジもまた苦しんでいた。
目が痛い、苦しいとうめき声をあげていた。

『何やってるの!!』

女の声が聞こえた。
幻聴かと思ったがそうではない。
人の気配を感じるとサンジのうめき声が止まった。
同時に阿修羅も大人しくなった。
ふぅ、と女が息を吐く。

『これ、持ってなさい。 この世界にいたければね』

その言葉はゾロに向けられているらしかった。
ひと振りの刀を差しだしている。
それを持ち歩いているとは何者だ、この女。
ゾロは身を起こし、頭を振った。

『持ってないとどうなる?』
『体を神界にお持ち帰り』

慌てて刀を受け取る。
よろしい、と頷くとサンジの方に向き直る。
すぐさま「あぁ…」と聞こえた。

『片目だけコンバートされちゃってる。
 もう取り戻せないわ』
『俺、どうなるんだ?』
『本体は向こうにいるから、当面は問題ないわ。
 あいつから離れすぎたり、あいつが死んだらアウトだけど』

向こうと言ってゾロを背中越しに親指で指す。
サンジの顔が引き攣る。
初対面の人間から離れるな、と言われたのだ。
当然だろう。
だが、女は「死にたくはないでしょう?」と続けた。

『あたしはナミ。
 アルバイトを探してるんだけど、どう?
 あんたらのメンテナンスも兼ねて』
『…お世話になります』

あっさりとサンジは了承した。
片目だけコンバート、つまり神界に持っていかれて。
一人では不安なのだろう。
それにゾロと一緒にいなければいけないとあっては。
それが正しいように思えた。

『あんたは?
 というか、刀持ち逃げしたら殺すわよ』
『断りようがねぇじゃねぇか!!』

あの日、こいつを見つけなければ。
そして同じ日にナミに出会わなければ。
きっと「ここ」にはいないのだろう。
一時は納得いかず、ふて腐れていた。
だが今は感謝している。
自分の持っている力が役立てるから。

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愛が偏るゾロ編。
ゾロは半分阿修羅(妖魔化)、半分人間。
人間でもない、神でもない。
どっちつかずの中途半端な紛い物。

ナミは何者なのでしょう。
そこまで深くは考えていないんだけど。
全てを知る女って感じなのでしょうか(訊くな

次はウソップ。
たったひとりの正社員の話。
この人もナミに出会ったことで道が拓けたんだろうな。
(2010.09)

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