愛すべき我がエースこと緑間真太郎は。
滅多に感情を表情にしない。
不機嫌なのは分かりやすいのだが。
どうにも楽しいとか、嬉しいとか。
喜怒哀楽のポジティブ感情の表現が乏しい。
「真ちゃんって、笑ったりするの?」
SMILE!!
「……頭の悪い質問だな」
「だってさー、いつでも仏頂面してんじゃん。
表情筋、やっすいステーキみたいになってない?」
緑間は鼻でふーっと息を吐いた。
授業と授業の間の休み時間。
次の授業が最後なのだが、かったるくてしょうがない。
安らかな眠りに誘う呪文にしか聞こえないし。
腹も減るしで、まったく集中できないのだ。
さて、そんな中で受けた授業で『表情筋』の話を聞いた。
ぱっと出てきたのは、後ろの席にいる人物で。
もう、振り返りたくて振り返りたくて仕方なかった。
どんな表情でこの話を聞いているんだろう。
真顔?無表情?
あれ、真顔と無表情って違うの?
緑間は俺がそわそわしていることに苛立ったのか。
椅子を蹴りあげてきたので、意識は授業に戻ったが。
一度気になったら、確かめたくなるのが性分で。
授業が終わって開口一番訊いた。
『お前は笑うのか』と。
「人間なのだから笑う。
が、俺自身、どういうタイミングで笑っているかは知らん。
知る必要がないからな」
「そりゃ、そうだけどさ…」
そんな難しい話ではないはずなのに。
ものすごく重い雰囲気になって、とても訊きづらい。
頭を掻いて、言葉を選びあぐねていると。
緑間がちらりと視線を寄越してきた。
「お前は」
「ん?」
「高尾は百面相だな」
「……褒めてる?」
「どうだろうな」
なんだよ、それ!と言おうとしたが。
その前に次の授業の教諭が入ってきてしまい。
話はそこで中断となった。
授業が終われば、ホームルーム。
そのあとすぐに掃除当番に、部活。
基礎練がメインだったが、話しながら消化できるものではない。
話題が復活したのは。
ロッカールームに引っ込んで、帰る支度をしている時だった。
「先ほどの話だが」
「さっき?」
「俺の表情筋は安いステーキだという話だ。
考えたのだがな、お前は表情筋がこねられているから。
きっといい霜降りになっているのでは…。
おい、笑い過ぎなのだよ」
「だ、だって!!
くひっ、真面目な顔して、んなこと考えてたとかさ!」
腹筋崩壊。
ついでに笑いすぎで顎が痛い。
緑間がむっとして、俺の頬を思いっきり抓りあげた。
今度はあまりの痛さに涙が出る。
身長差のせいでどうしても振り払うことができず。
いひゃいいひゃい!と悲鳴を出した。
するとようやく頬は解放される。
緑間は腕組みをして言う。
「この笑い袋め」
「楽しんだもの勝ちってよく言うだろ?
真ちゃん、笑わないと損するよ」
「そんなこと聞いたことない」
「同じアホなら踊らにゃ損損は聞いたことあるだろ?」
「俺はアホではないのだよ」
いや、時々アホだよ、とは思ったが言わない。
言ったら絶対へそを曲げる。
口を利いてもらえなくなったら最悪だ。
俺の高校生活は完全に色をなくす。
大袈裟でなく本当に。
「分かった、俺が教える」
「は?」
「まず、いーってして」
自分の頬を指さしながら、いーっとしてみせる。
緑間は呆れ顔で、気の毒そうな視線を寄越す。
「帰るぞ」
「無視しないで!高尾ちゃん寂しい!!」
急いで鞄を掴んで緑間を追いかける。
辺りはすっかり暗くなっていた。
気温も下がって、吐く息は白い。
思わず巻いたマフラーに口元を埋める。
緑間は相変わらずの無表情で自転車の前まで移動した。
あー、はいはい、じゃんけんね。
「まさか12月まで運転させないよね?」
「12月が本番だろう、高尾サンタ」
ルールでは信号に止まったら、じゃんけんで自転車の漕ぎ手を決める。
だが、緑間に未だかつて一回も勝っていないし。
これから先も勝てる気がしない。
「……トナカイじゃね?」
自分で言って悲しいが。
つまり、そういうことだ。
この日のじゃんけんも案の定全敗。
ガタゴトと緑間をリヤカーに乗せて。
俺はペダルを力一杯に漕ぐのである。
☆☆☆
月日はあっと言う間に経ち。
一層冷え込むようになり。
木々からは葉っぱが落ち。
日が落ちるのはもっと早くなった。
光陰矢の如し、秋の日は釣瓶落とし。
期末考査のために覚えたばかりの単語がぐるぐる回る。
簡潔に言うと、クリスマスの季節になったのだ。
「さみぃー、丸まりてぇー」
「情けない」
隣を歩く緑間の手にはおしるこ缶。
吐く息が真っ白だから、きちんと『あったか~い』だ。
秋口よりもさらに深くマフラーに埋まる自分とは違い。
背筋を伸ばして毅然と歩いている様がらしいと思う。
「おしるこ、美味しい?」
「やらんぞ」
「同じ暖とるならカイロでいいわ、俺」
まっすぐ歩いて辿り着いたのは、自転車置き場。
の横の空きスペース。
自転車とリアカーをドッキングさせた乗り物は。
『自転車』と呼べない、と正式に教員会議で決定した。
学校的には処分したかったらしいが。
名門バスケ部エース様のお気に入りというのが効いて。
空きスペースに駐車することを条件に免除されたのである。
そんな逸話付きの自転車の前。
手袋をした手をすり合わせつつ、緑間を振り返る。
「なあ、もう2学期終わりじゃん?
なんつーか、お疲れ様的なボーナス付けねぇ?」
「なんだ、それは」
「よし、こうしよう。
じゃんけんに勝った方が、負けた方に笑顔で『ありがとう』って言う」
「意味が分からない上に、メリットがないのだよ」
「ほい、決ぃまりっ!」
「おい」
「じゃあ、じゃんけんに負けろよ」
「漕ぐのも嫌なのだよ」
「どっちか!」
自転車を漕ぐのも嫌。
笑うのも嫌。
嫌だ嫌だと嫌がる態度は、まんまお姫様だ。
可愛い半分、不満半分。
俺の心情はドロドロだ。
「ふたつにひとつ、却下は却下なのだよ!」
「真似をするな!
…―分かった、じゃんけんだ」
拳を前に出して宣言。
お、これは意を決したか?
初漕ぎ?
と、淡い期待を胸にひと勝負。
「ですよねー…」
あの緑間が肉体労働を選ぶわけがなかった。
緑間の至高のチョキが眩しい。
しかしだ、今回は、勝っても『笑顔』を見せる必要がある。
緑間にとって苦渋の選択だったのだろう。
さて、どうやって誤魔化そうかと顔に出ている。
絶対にちょろまかされないんだからな。
「乗車するなら、渡り賃に『笑顔』だぜ」
「……お前の笑顔はゼロ円でもらえるのだろう?」
「俺はね!でも真ちゃんは高い!
だからお願いしてるんだろー?」
笑えって、ほら、にーって。
俺が手本に口角を指で斜めに引っ張る。
むぅ、と緑間の眉間にしわが寄った。
そんなに難しいのかな。
「そう簡単に笑えるものか。
俺の表情筋は『安いステーキ』だぞ」
「根に持ってんなー」
「事実を言ったまでだ」
アンダーリムの眼鏡を指で押し上げる。
目元がレンズの具合で見えなくなってしまった。
身長差の加減もあって、読みとれる表情は口元だけになる。
「教えた甲斐がないのだよー」
「好きでやっていたのだろう?」
下校時の笑顔レッスンは、密かに続いており。
緑間の頬に触っては叩かれるのにも慣れた。
それでも口角を上げる緑間は見られなかった。
彼のキャラではないから、声を出して笑えとは言わない。
多少、無理かなとも思っている。
それでも。
『笑顔』の緑間が見たかった。
「ちぇー」
腕を頭に回して、口を尖らせる。
やってくれないことは分かっていたので。
ちょっと拗ねるだけ。
頭を撫でてくるとかで誤魔化したら。
上目遣いでおねだり再トライだなと思っていると。
ふっ、と聞こえた。
「まったく、ほんとうにお前はしょうがないのだよ」
(…っ!!笑えてんじゃん、くそっ!!)
柔らかく『笑った』緑間がそこにいた。
目を細め、口元は緩く上がる。
天使の微笑み、とまではいかないが。
俺個人を撃ち落とすには十分な威力があった。
俺の心はあっさりと持っていかれたのだ。
ずるずるとその場にしゃがみ込んで顔を隠す。
一気に上がった体温と、真っ赤であろう己の顔。
両方とも知られたくなかった。
だというのに。
「高尾?」
緑間は俺を覗き込んでくる。
ちらっと目線を上げると。
先ほどより『はっきりと笑う』緑間がいた。
「あー、もう!!免許皆伝です!」
「それは結構なのだよ」
そう言うと緑間は『用は済んだ』とばかりに立ち上がり。
さっさと荷台に乗り込んだ。
そういうやつだよ、お前は。
自転車のサドルに跨ってひと呼吸。
ひと漕ぎめは力がいるのだ。
ぬぉおぉ、と持て余した熱を全てぶつける。
さっきの緑間は幻なのだ!
「おい、トナカイ」
「だぁれが、トナカイだ、サンタ様!」
「俺の家に寄っていけ」
「あぁ?」
スピードに乗れていないので振り返ることができない。
ガチャガチャとペダルの音が響き渡り。
緑間の声がギリギリ聞こえる音量だったこともあり。
不機嫌ではないが、聞き返す言葉は乱暴になってしまう。
「俺の家に来い」
今度は少し大きめの声。
え、お前の家に行くの?
「なんでっ!?」
「いい子だったご褒美をやるのだよ。
いらないか?」
キキーッとブレーキをかけた俺は絶対に悪くない。
勢いよく振り向く。
「なに、企んでるの…?」
「さぁ?サンタは、贈り物をするのが生業だからな?」
お前が欲しいなら、くれてやるのだよ。
「なにを、とは言わないし、お前次第だがな」
「ずっりぃの!!」
ほんと。
こういうとき、どういう顔をしたらいいんだろうね。
**********************
クリスマスのネタに困っているとき。
あるひとは、こう言いました。
『背後にツリーでもある描写しとけばいいんでしょ?』
目から鱗でした、あと、この話、誤字から派生したものです。
=============================================
師高尾
高尾が真ちゃんにとっての何かのお師匠様なのかと思った!
それだったら、笑顔の師匠さんやな。
=============================================
自分も悪ノリしました。
緑間サンタは高尾トナカイを連れ込んでどうするんでしょうね。
笑顔の緑間くんかあ、想像できない(苦笑
滅多に感情を表情にしない。
不機嫌なのは分かりやすいのだが。
どうにも楽しいとか、嬉しいとか。
喜怒哀楽のポジティブ感情の表現が乏しい。
「真ちゃんって、笑ったりするの?」
SMILE!!
「……頭の悪い質問だな」
「だってさー、いつでも仏頂面してんじゃん。
表情筋、やっすいステーキみたいになってない?」
緑間は鼻でふーっと息を吐いた。
授業と授業の間の休み時間。
次の授業が最後なのだが、かったるくてしょうがない。
安らかな眠りに誘う呪文にしか聞こえないし。
腹も減るしで、まったく集中できないのだ。
さて、そんな中で受けた授業で『表情筋』の話を聞いた。
ぱっと出てきたのは、後ろの席にいる人物で。
もう、振り返りたくて振り返りたくて仕方なかった。
どんな表情でこの話を聞いているんだろう。
真顔?無表情?
あれ、真顔と無表情って違うの?
緑間は俺がそわそわしていることに苛立ったのか。
椅子を蹴りあげてきたので、意識は授業に戻ったが。
一度気になったら、確かめたくなるのが性分で。
授業が終わって開口一番訊いた。
『お前は笑うのか』と。
「人間なのだから笑う。
が、俺自身、どういうタイミングで笑っているかは知らん。
知る必要がないからな」
「そりゃ、そうだけどさ…」
そんな難しい話ではないはずなのに。
ものすごく重い雰囲気になって、とても訊きづらい。
頭を掻いて、言葉を選びあぐねていると。
緑間がちらりと視線を寄越してきた。
「お前は」
「ん?」
「高尾は百面相だな」
「……褒めてる?」
「どうだろうな」
なんだよ、それ!と言おうとしたが。
その前に次の授業の教諭が入ってきてしまい。
話はそこで中断となった。
授業が終われば、ホームルーム。
そのあとすぐに掃除当番に、部活。
基礎練がメインだったが、話しながら消化できるものではない。
話題が復活したのは。
ロッカールームに引っ込んで、帰る支度をしている時だった。
「先ほどの話だが」
「さっき?」
「俺の表情筋は安いステーキだという話だ。
考えたのだがな、お前は表情筋がこねられているから。
きっといい霜降りになっているのでは…。
おい、笑い過ぎなのだよ」
「だ、だって!!
くひっ、真面目な顔して、んなこと考えてたとかさ!」
腹筋崩壊。
ついでに笑いすぎで顎が痛い。
緑間がむっとして、俺の頬を思いっきり抓りあげた。
今度はあまりの痛さに涙が出る。
身長差のせいでどうしても振り払うことができず。
いひゃいいひゃい!と悲鳴を出した。
するとようやく頬は解放される。
緑間は腕組みをして言う。
「この笑い袋め」
「楽しんだもの勝ちってよく言うだろ?
真ちゃん、笑わないと損するよ」
「そんなこと聞いたことない」
「同じアホなら踊らにゃ損損は聞いたことあるだろ?」
「俺はアホではないのだよ」
いや、時々アホだよ、とは思ったが言わない。
言ったら絶対へそを曲げる。
口を利いてもらえなくなったら最悪だ。
俺の高校生活は完全に色をなくす。
大袈裟でなく本当に。
「分かった、俺が教える」
「は?」
「まず、いーってして」
自分の頬を指さしながら、いーっとしてみせる。
緑間は呆れ顔で、気の毒そうな視線を寄越す。
「帰るぞ」
「無視しないで!高尾ちゃん寂しい!!」
急いで鞄を掴んで緑間を追いかける。
辺りはすっかり暗くなっていた。
気温も下がって、吐く息は白い。
思わず巻いたマフラーに口元を埋める。
緑間は相変わらずの無表情で自転車の前まで移動した。
あー、はいはい、じゃんけんね。
「まさか12月まで運転させないよね?」
「12月が本番だろう、高尾サンタ」
ルールでは信号に止まったら、じゃんけんで自転車の漕ぎ手を決める。
だが、緑間に未だかつて一回も勝っていないし。
これから先も勝てる気がしない。
「……トナカイじゃね?」
自分で言って悲しいが。
つまり、そういうことだ。
この日のじゃんけんも案の定全敗。
ガタゴトと緑間をリヤカーに乗せて。
俺はペダルを力一杯に漕ぐのである。
☆☆☆
月日はあっと言う間に経ち。
一層冷え込むようになり。
木々からは葉っぱが落ち。
日が落ちるのはもっと早くなった。
光陰矢の如し、秋の日は釣瓶落とし。
期末考査のために覚えたばかりの単語がぐるぐる回る。
簡潔に言うと、クリスマスの季節になったのだ。
「さみぃー、丸まりてぇー」
「情けない」
隣を歩く緑間の手にはおしるこ缶。
吐く息が真っ白だから、きちんと『あったか~い』だ。
秋口よりもさらに深くマフラーに埋まる自分とは違い。
背筋を伸ばして毅然と歩いている様がらしいと思う。
「おしるこ、美味しい?」
「やらんぞ」
「同じ暖とるならカイロでいいわ、俺」
まっすぐ歩いて辿り着いたのは、自転車置き場。
の横の空きスペース。
自転車とリアカーをドッキングさせた乗り物は。
『自転車』と呼べない、と正式に教員会議で決定した。
学校的には処分したかったらしいが。
名門バスケ部エース様のお気に入りというのが効いて。
空きスペースに駐車することを条件に免除されたのである。
そんな逸話付きの自転車の前。
手袋をした手をすり合わせつつ、緑間を振り返る。
「なあ、もう2学期終わりじゃん?
なんつーか、お疲れ様的なボーナス付けねぇ?」
「なんだ、それは」
「よし、こうしよう。
じゃんけんに勝った方が、負けた方に笑顔で『ありがとう』って言う」
「意味が分からない上に、メリットがないのだよ」
「ほい、決ぃまりっ!」
「おい」
「じゃあ、じゃんけんに負けろよ」
「漕ぐのも嫌なのだよ」
「どっちか!」
自転車を漕ぐのも嫌。
笑うのも嫌。
嫌だ嫌だと嫌がる態度は、まんまお姫様だ。
可愛い半分、不満半分。
俺の心情はドロドロだ。
「ふたつにひとつ、却下は却下なのだよ!」
「真似をするな!
…―分かった、じゃんけんだ」
拳を前に出して宣言。
お、これは意を決したか?
初漕ぎ?
と、淡い期待を胸にひと勝負。
「ですよねー…」
あの緑間が肉体労働を選ぶわけがなかった。
緑間の至高のチョキが眩しい。
しかしだ、今回は、勝っても『笑顔』を見せる必要がある。
緑間にとって苦渋の選択だったのだろう。
さて、どうやって誤魔化そうかと顔に出ている。
絶対にちょろまかされないんだからな。
「乗車するなら、渡り賃に『笑顔』だぜ」
「……お前の笑顔はゼロ円でもらえるのだろう?」
「俺はね!でも真ちゃんは高い!
だからお願いしてるんだろー?」
笑えって、ほら、にーって。
俺が手本に口角を指で斜めに引っ張る。
むぅ、と緑間の眉間にしわが寄った。
そんなに難しいのかな。
「そう簡単に笑えるものか。
俺の表情筋は『安いステーキ』だぞ」
「根に持ってんなー」
「事実を言ったまでだ」
アンダーリムの眼鏡を指で押し上げる。
目元がレンズの具合で見えなくなってしまった。
身長差の加減もあって、読みとれる表情は口元だけになる。
「教えた甲斐がないのだよー」
「好きでやっていたのだろう?」
下校時の笑顔レッスンは、密かに続いており。
緑間の頬に触っては叩かれるのにも慣れた。
それでも口角を上げる緑間は見られなかった。
彼のキャラではないから、声を出して笑えとは言わない。
多少、無理かなとも思っている。
それでも。
『笑顔』の緑間が見たかった。
「ちぇー」
腕を頭に回して、口を尖らせる。
やってくれないことは分かっていたので。
ちょっと拗ねるだけ。
頭を撫でてくるとかで誤魔化したら。
上目遣いでおねだり再トライだなと思っていると。
ふっ、と聞こえた。
「まったく、ほんとうにお前はしょうがないのだよ」
(…っ!!笑えてんじゃん、くそっ!!)
柔らかく『笑った』緑間がそこにいた。
目を細め、口元は緩く上がる。
天使の微笑み、とまではいかないが。
俺個人を撃ち落とすには十分な威力があった。
俺の心はあっさりと持っていかれたのだ。
ずるずるとその場にしゃがみ込んで顔を隠す。
一気に上がった体温と、真っ赤であろう己の顔。
両方とも知られたくなかった。
だというのに。
「高尾?」
緑間は俺を覗き込んでくる。
ちらっと目線を上げると。
先ほどより『はっきりと笑う』緑間がいた。
「あー、もう!!免許皆伝です!」
「それは結構なのだよ」
そう言うと緑間は『用は済んだ』とばかりに立ち上がり。
さっさと荷台に乗り込んだ。
そういうやつだよ、お前は。
自転車のサドルに跨ってひと呼吸。
ひと漕ぎめは力がいるのだ。
ぬぉおぉ、と持て余した熱を全てぶつける。
さっきの緑間は幻なのだ!
「おい、トナカイ」
「だぁれが、トナカイだ、サンタ様!」
「俺の家に寄っていけ」
「あぁ?」
スピードに乗れていないので振り返ることができない。
ガチャガチャとペダルの音が響き渡り。
緑間の声がギリギリ聞こえる音量だったこともあり。
不機嫌ではないが、聞き返す言葉は乱暴になってしまう。
「俺の家に来い」
今度は少し大きめの声。
え、お前の家に行くの?
「なんでっ!?」
「いい子だったご褒美をやるのだよ。
いらないか?」
キキーッとブレーキをかけた俺は絶対に悪くない。
勢いよく振り向く。
「なに、企んでるの…?」
「さぁ?サンタは、贈り物をするのが生業だからな?」
お前が欲しいなら、くれてやるのだよ。
「なにを、とは言わないし、お前次第だがな」
「ずっりぃの!!」
ほんと。
こういうとき、どういう顔をしたらいいんだろうね。
**********************
クリスマスのネタに困っているとき。
あるひとは、こう言いました。
『背後にツリーでもある描写しとけばいいんでしょ?』
目から鱗でした、あと、この話、誤字から派生したものです。
=============================================
師高尾
高尾が真ちゃんにとっての何かのお師匠様なのかと思った!
それだったら、笑顔の師匠さんやな。
=============================================
自分も悪ノリしました。
緑間サンタは高尾トナカイを連れ込んでどうするんでしょうね。
笑顔の緑間くんかあ、想像できない(苦笑
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