端と底を行き来するRPG

そのとき、きっと誰かの中心blog。
アーカイブにある作品は人事を尽くした盛者必衰の入れ替え制。

師高尾

2013-12-22 00:00:00 | 黒子のバスケ
愛すべき我がエースこと緑間真太郎は。
滅多に感情を表情にしない。
不機嫌なのは分かりやすいのだが。
どうにも楽しいとか、嬉しいとか。
喜怒哀楽のポジティブ感情の表現が乏しい。

「真ちゃんって、笑ったりするの?」

SMILE!!

「……頭の悪い質問だな」
「だってさー、いつでも仏頂面してんじゃん。
 表情筋、やっすいステーキみたいになってない?」

緑間は鼻でふーっと息を吐いた。
授業と授業の間の休み時間。
次の授業が最後なのだが、かったるくてしょうがない。
安らかな眠りに誘う呪文にしか聞こえないし。
腹も減るしで、まったく集中できないのだ。
さて、そんな中で受けた授業で『表情筋』の話を聞いた。
ぱっと出てきたのは、後ろの席にいる人物で。
もう、振り返りたくて振り返りたくて仕方なかった。
どんな表情でこの話を聞いているんだろう。
真顔?無表情?
あれ、真顔と無表情って違うの?
緑間は俺がそわそわしていることに苛立ったのか。
椅子を蹴りあげてきたので、意識は授業に戻ったが。
一度気になったら、確かめたくなるのが性分で。
授業が終わって開口一番訊いた。
『お前は笑うのか』と。

「人間なのだから笑う。
 が、俺自身、どういうタイミングで笑っているかは知らん。
 知る必要がないからな」
「そりゃ、そうだけどさ…」

そんな難しい話ではないはずなのに。
ものすごく重い雰囲気になって、とても訊きづらい。
頭を掻いて、言葉を選びあぐねていると。
緑間がちらりと視線を寄越してきた。

「お前は」
「ん?」
「高尾は百面相だな」
「……褒めてる?」
「どうだろうな」

なんだよ、それ!と言おうとしたが。
その前に次の授業の教諭が入ってきてしまい。
話はそこで中断となった。
授業が終われば、ホームルーム。
そのあとすぐに掃除当番に、部活。
基礎練がメインだったが、話しながら消化できるものではない。
話題が復活したのは。
ロッカールームに引っ込んで、帰る支度をしている時だった。

「先ほどの話だが」
「さっき?」
「俺の表情筋は安いステーキだという話だ。
 考えたのだがな、お前は表情筋がこねられているから。
 きっといい霜降りになっているのでは…。
 おい、笑い過ぎなのだよ」
「だ、だって!!
 くひっ、真面目な顔して、んなこと考えてたとかさ!」

腹筋崩壊。
ついでに笑いすぎで顎が痛い。
緑間がむっとして、俺の頬を思いっきり抓りあげた。
今度はあまりの痛さに涙が出る。
身長差のせいでどうしても振り払うことができず。
いひゃいいひゃい!と悲鳴を出した。
するとようやく頬は解放される。
緑間は腕組みをして言う。

「この笑い袋め」
「楽しんだもの勝ちってよく言うだろ?
 真ちゃん、笑わないと損するよ」
「そんなこと聞いたことない」
「同じアホなら踊らにゃ損損は聞いたことあるだろ?」
「俺はアホではないのだよ」

いや、時々アホだよ、とは思ったが言わない。
言ったら絶対へそを曲げる。
口を利いてもらえなくなったら最悪だ。
俺の高校生活は完全に色をなくす。
大袈裟でなく本当に。

「分かった、俺が教える」
「は?」
「まず、いーってして」

自分の頬を指さしながら、いーっとしてみせる。
緑間は呆れ顔で、気の毒そうな視線を寄越す。

「帰るぞ」
「無視しないで!高尾ちゃん寂しい!!」

急いで鞄を掴んで緑間を追いかける。
辺りはすっかり暗くなっていた。
気温も下がって、吐く息は白い。
思わず巻いたマフラーに口元を埋める。
緑間は相変わらずの無表情で自転車の前まで移動した。
あー、はいはい、じゃんけんね。

「まさか12月まで運転させないよね?」
「12月が本番だろう、高尾サンタ」

ルールでは信号に止まったら、じゃんけんで自転車の漕ぎ手を決める。
だが、緑間に未だかつて一回も勝っていないし。
これから先も勝てる気がしない。

「……トナカイじゃね?」

自分で言って悲しいが。
つまり、そういうことだ。
この日のじゃんけんも案の定全敗。
ガタゴトと緑間をリヤカーに乗せて。
俺はペダルを力一杯に漕ぐのである。

☆☆☆

月日はあっと言う間に経ち。
一層冷え込むようになり。
木々からは葉っぱが落ち。
日が落ちるのはもっと早くなった。
光陰矢の如し、秋の日は釣瓶落とし。
期末考査のために覚えたばかりの単語がぐるぐる回る。
簡潔に言うと、クリスマスの季節になったのだ。

「さみぃー、丸まりてぇー」
「情けない」

隣を歩く緑間の手にはおしるこ缶。
吐く息が真っ白だから、きちんと『あったか~い』だ。
秋口よりもさらに深くマフラーに埋まる自分とは違い。
背筋を伸ばして毅然と歩いている様がらしいと思う。

「おしるこ、美味しい?」
「やらんぞ」
「同じ暖とるならカイロでいいわ、俺」

まっすぐ歩いて辿り着いたのは、自転車置き場。
の横の空きスペース。
自転車とリアカーをドッキングさせた乗り物は。
『自転車』と呼べない、と正式に教員会議で決定した。
学校的には処分したかったらしいが。
名門バスケ部エース様のお気に入りというのが効いて。
空きスペースに駐車することを条件に免除されたのである。
そんな逸話付きの自転車の前。
手袋をした手をすり合わせつつ、緑間を振り返る。

「なあ、もう2学期終わりじゃん?
 なんつーか、お疲れ様的なボーナス付けねぇ?」
「なんだ、それは」
「よし、こうしよう。
 じゃんけんに勝った方が、負けた方に笑顔で『ありがとう』って言う」
「意味が分からない上に、メリットがないのだよ」
「ほい、決ぃまりっ!」
「おい」
「じゃあ、じゃんけんに負けろよ」
「漕ぐのも嫌なのだよ」
「どっちか!」

自転車を漕ぐのも嫌。
笑うのも嫌。
嫌だ嫌だと嫌がる態度は、まんまお姫様だ。
可愛い半分、不満半分。
俺の心情はドロドロだ。

「ふたつにひとつ、却下は却下なのだよ!」
「真似をするな!
 …―分かった、じゃんけんだ」

拳を前に出して宣言。
お、これは意を決したか?
初漕ぎ?
と、淡い期待を胸にひと勝負。

「ですよねー…」

あの緑間が肉体労働を選ぶわけがなかった。
緑間の至高のチョキが眩しい。
しかしだ、今回は、勝っても『笑顔』を見せる必要がある。
緑間にとって苦渋の選択だったのだろう。
さて、どうやって誤魔化そうかと顔に出ている。
絶対にちょろまかされないんだからな。

「乗車するなら、渡り賃に『笑顔』だぜ」
「……お前の笑顔はゼロ円でもらえるのだろう?」
「俺はね!でも真ちゃんは高い!
 だからお願いしてるんだろー?」

笑えって、ほら、にーって。
俺が手本に口角を指で斜めに引っ張る。
むぅ、と緑間の眉間にしわが寄った。
そんなに難しいのかな。

「そう簡単に笑えるものか。
 俺の表情筋は『安いステーキ』だぞ」
「根に持ってんなー」
「事実を言ったまでだ」

アンダーリムの眼鏡を指で押し上げる。
目元がレンズの具合で見えなくなってしまった。
身長差の加減もあって、読みとれる表情は口元だけになる。

「教えた甲斐がないのだよー」
「好きでやっていたのだろう?」

下校時の笑顔レッスンは、密かに続いており。
緑間の頬に触っては叩かれるのにも慣れた。
それでも口角を上げる緑間は見られなかった。
彼のキャラではないから、声を出して笑えとは言わない。
多少、無理かなとも思っている。
それでも。
『笑顔』の緑間が見たかった。

「ちぇー」

腕を頭に回して、口を尖らせる。
やってくれないことは分かっていたので。
ちょっと拗ねるだけ。
頭を撫でてくるとかで誤魔化したら。
上目遣いでおねだり再トライだなと思っていると。
ふっ、と聞こえた。

「まったく、ほんとうにお前はしょうがないのだよ」
(…っ!!笑えてんじゃん、くそっ!!)

柔らかく『笑った』緑間がそこにいた。
目を細め、口元は緩く上がる。
天使の微笑み、とまではいかないが。
俺個人を撃ち落とすには十分な威力があった。
俺の心はあっさりと持っていかれたのだ。
ずるずるとその場にしゃがみ込んで顔を隠す。
一気に上がった体温と、真っ赤であろう己の顔。
両方とも知られたくなかった。
だというのに。

「高尾?」

緑間は俺を覗き込んでくる。
ちらっと目線を上げると。
先ほどより『はっきりと笑う』緑間がいた。

「あー、もう!!免許皆伝です!」
「それは結構なのだよ」

そう言うと緑間は『用は済んだ』とばかりに立ち上がり。
さっさと荷台に乗り込んだ。
そういうやつだよ、お前は。
自転車のサドルに跨ってひと呼吸。
ひと漕ぎめは力がいるのだ。
ぬぉおぉ、と持て余した熱を全てぶつける。
さっきの緑間は幻なのだ!

「おい、トナカイ」
「だぁれが、トナカイだ、サンタ様!」
「俺の家に寄っていけ」
「あぁ?」

スピードに乗れていないので振り返ることができない。
ガチャガチャとペダルの音が響き渡り。
緑間の声がギリギリ聞こえる音量だったこともあり。
不機嫌ではないが、聞き返す言葉は乱暴になってしまう。

「俺の家に来い」

今度は少し大きめの声。
え、お前の家に行くの?

「なんでっ!?」
「いい子だったご褒美をやるのだよ。
 いらないか?」

キキーッとブレーキをかけた俺は絶対に悪くない。
勢いよく振り向く。

「なに、企んでるの…?」
「さぁ?サンタは、贈り物をするのが生業だからな?」

お前が欲しいなら、くれてやるのだよ。

「なにを、とは言わないし、お前次第だがな」
「ずっりぃの!!」

ほんと。
こういうとき、どういう顔をしたらいいんだろうね。

**********************

クリスマスのネタに困っているとき。
あるひとは、こう言いました。

『背後にツリーでもある描写しとけばいいんでしょ?』

目から鱗でした、あと、この話、誤字から派生したものです。

=============================================
師高尾
高尾が真ちゃんにとっての何かのお師匠様なのかと思った!
それだったら、笑顔の師匠さんやな。
=============================================

自分も悪ノリしました。
緑間サンタは高尾トナカイを連れ込んでどうするんでしょうね。
笑顔の緑間くんかあ、想像できない(苦笑

コメントを投稿