端と底を行き来するRPG

そのとき、きっと誰かの中心blog。
アーカイブにある作品は人事を尽くした盛者必衰の入れ替え制。

覆したい予感

2007-01-06 23:05:06 | テキスト(よろず)
明日は決戦だという。
定軍山。
あの黄忠のじじいと決着をつけてやる。
だが、何故だろう。
妙に落ち着かない。
何かが足下を這い回っているような感覚とでも言えばいいのか。
背中を、腹の中を。
モヤモヤとして冷たい何かが気持ち悪さと共に巣くっている。
そんな今までに感じたことのない「もの」。

「将軍」
「………」
「? 将軍?」
「………」
「将軍!!」
「おぉ…っ!! ちょ、張コウか」
「どうしたんです?直立不動に立っておられたりして…」
「む…むう」

言うべきか、言わざるべきか。
この自分に巣くっている「何か」のことを。
聞くべきか。
「何か」の正体を。

「…張コウ」
「将軍!寒い寒いと思っておりましたら、雪ですよ」
「雪…?」

見れば本当に雪が降っていた。
白い白い、大地を覆っていく力をもつ自然の化粧。

「…!!」

いつもなら、思いつくはずのない連想遊戯。
いつもいつも惇兄ぃに、「お前は繋げるのが下手だな!」と言われていた。
「だが、それがお前の良さだ。聞いたままを見たままを受け止めろ」とも。
惇兄ぃ…、俺…、「悪さ」が出たのか?

「綺麗ですけど、もう中に入りましょう。明日は大事な決戦ですからね」
「張コウ…」

自分でも分かる。
自分は今、血の気が引いている。
何故だ、拭えない。

「張コウ…」
「あぁ、もうこんなに冷えて」
「張コウ」
「将軍、お体に障りますよ」
「張コウ!!」

俺の叫びに、張コウははたと口をつぐんだ。
真顔かと思っていると、みるみる顔が歪んでいく。
嗚呼、綺麗な顔が台無しだな、張コウ。

「俺…、雪を見て…、綺麗って思う前にさ」

      言っちゃダメだ
               言わないで
言葉が無慈悲に滑っていく。
嫌だ、言いたくない、悲しませたくない。
必死に言葉を呑み込む。
頭が「言え」と言葉を用意していく。
この…、決定的な言葉を。

   死に化粧って言葉が出たんだ。

「将軍は、負けませんよ」
「張コウ?」
「あなたが負けるはずがありません」

祈りにも似た言葉が代わりに紡がれていく。
その言葉がどれだけの救いになったか…。
分かるか、張コウ。

「私を一人にするはずが…っ、ありませんっ」

泣くなよ、張コウ…。
抱き締めたら壊れてしまいそうな身体。
その身体で何回助けられたか。

「将軍…、私の中にある『予感』に勝って下さい…!!」

……お前も何かを感じていたのか。
ははっ、俺たちって一心同体って奴か?

「おお、任せろよ。お前を啼かす奴は俺だけで十分だからな!」
「将軍…っ!」
「照れるな照れるな!」

笑え、笑っておけ。
二人が感じた『嫌な感じ』。
いつもは思いつかない『暗示』。
さすがの俺だって…、分かるさ。

俺は 死ぬのか。

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