運動しやすい格好と指定があった。
俺は体育着の上にジャージズボンを履いた。
そういう輩が大半だった。
体育着の短パンを履いてる奴の方が少ない。
放り投げる
新年度が始まって間もなく。
親睦を深めるためと、ある行事が組まれていた。
球技大会。
チームプレイが不可欠で、大人数で出来るもの。
ドッチボール、バスケットボールのいずれかを選択し。
組ごとに分かれての勝ち抜き戦。
優勝すると、確か、肉まんチケットがもらえたはず。
景品の選定は、生徒会長の一存だから今年はそうだろう。
店はたぶんお気に入りの「中華安寧亭」に違いない。
一応、俺はドッチボールをやることになっていた。
さっさと当たってサボろうと思ったからだ。
欠伸をかみ殺し、出番を待つ。
何気なくクラスメイトをみた。
馴染んでいる奴、馴染んでいない奴の差が歴然だ。
ちなみに、俺は必要があればつるむ「馴染んでいない組」
視界に、制服を着ている生徒を見つけた。
はちきれんばかりのYシャツに、青いバンダナをつけている。
本人が「運動しやすい格好」としているなら、そうなのだろう。
ここにいるのは、ドッチボール組だけだから同じチームだ。
名前は確か。
「…艾っつったっけ?」
「……」
「そのバンダナ、こだわりなんだ?」
「……否定するか?」
「いいや、いいんじゃね?」
両手を頭の後ろに回す。
服装なんて競技自体には関係ない。
ただ、いい的になりはしないかと思っただけだ。
何かと目立つ人物は、狙われるのが常である。
「あんたは図体がでかいから、狙われるなぁって。
でも、自信があるんだろ?」
「狙われすぎて、投げ返すのは得意です」
「そっか、じゃあ、頼りにしちまおうかな」
「……自分の身は自分でお守りください」
「つれないねぇ」
腕時計を見る。
やっと競技時間になりそうだ。
のろのろと移動を開始すると、艾もついてきた。
試合場所は内庭である。
相手チームも集まってきて、何かを話し合っているのを確認した。
艾をちらちら見ているようだ。
間違いなく艾は的になる。
そして、何人かみたことのある人物がいるのに気付いた。
奴のクラスか…。
この試合だけは勝ちたくなった。
「みんなにゃ悪いけど、わがままに付き合ってもらうか」
内庭には土埃が舞うという理由で、ウッドチップ材を使用したタイルを敷き込まれている。
天候は、昨夜から晴れ。
十分に乾いているだろうから、滑り止めが必須か。
俺は、バッシュを履いているから大丈夫だ。
「艾、バッシュあるなら履きかえとけよ。
踏ん張り効かないと動きにくいぜ」
「……うむ」
履いているのがローファーだ。
足も痛くなってしまうだろう。
残りのメンバーを盗み見る。
上履きか外履きを履いて、体育着の上にジャージズボン。
あとは、誰がボールを持つかか。
「逃げ専のやつ、手挙げて」
参加人数のおよそ半分。
そいつらには、なにが何でも逃げきってもらうとする。
「逃げ専はバッシュか、外履きを必ず履け。
制限時間まで逃げ切るのが仕事だ。
残りは、当てることだけ考えろ。
ボールは艾に集まってくるからな」
文句もあるだろう。
いきなり偉そうに出しゃばってきたんだから。
だけど、どうしても勝ちたいのだ。
「この試合に負けたら、これから一年間ハブってくれていい。
だから、今だけ俺に預けてくれよ」
ジャンプボールは艾が取った。
すかさず、相手に投げつけてアウト。
返しで艾を狙ってくるが、そのボールをあっさりキャッチ。
遠投で外野にボールを回して、相手を内側に寄せる。
外野が足下に投げつけて、注意を下へ。
拾い上げたアタッカーがすぐさま相手に投げつけてアウト。
面白いように相手の数が半分まで減っていく。
だが、ここから当てるのが難しくなる。
残っているのはたいてい逃げ専か屈強なアタッカーだ。
そして、こちらの集中力も懸念される。
こうも圧倒的優勢だと油断しやすい。
ほら、もう、ひとりアウト。
畳み掛けるように3人連続でとられた。
「マズいね」
「大将、次はどうすれば?」
艾がボールを捌く。
的役もそろそろ効果が切れてきた。
満遍なくボールが飛んでくるようになってきたものだから。
どんどんチームメイトがぶつかっていく。
こりゃあ、本当に一年間ハブかね。
それはいいけど、あいつのクラスに負けるのだけは嫌だ。
「…んじゃ、俺が行きますか」
「は?」
逃げ専の塊からはぐれてしまった女子生徒の元にボールが飛ぶ。
すっぽ抜けた風な勢いのまま、まっすぐ向かってくる。
一瞬、固まってしまった女子の目の前に手を伸ばす。
ボールを両手でがっちり抱え込む。
「しゃあ!! 司馬子上、いざ参る!!」
ボールを思い切り投げつける。
坊ちゃん風情と侮るなかれ。
勝利を常とし己を高めよ、とずっと言われてきたのだ。
そこら辺のやつよりよっぽど丈夫だし、筋肉の使い方を知っている。
さっき助けた女子も、艾もポカンとしているようだ。
再びボールがチームメイトを襲う。
立ち止まって何やってる!!
腕に当たったボールを空中で抱え込む。
バスケットボールのリバウンド処理の要領だ。
ルール上はこれでセーフ。
「止まるな、動け!」
艾と俺とで制限時間まで攻め続け。
どうにか持ちきった。
チームで残っていたのは、片手で足りるほどだった。
「あー…、疲れた。
俺は燃え尽きた、もう知らね」
「大将、そんなことを仰いますな」
試合後、校舎の廊下に座り込んで両腕を後ろにつき。
仰け反ってタオルを頭からかぶっていると。
艾の声が近くでした。
大将って俺のことか?
懐かれるのも面倒だな。
間もなく、慌ただしい足音が近づいてきた。
ああ、奴がきた。
思わず、タオルの下でほくそ笑む。
「昭!!!貴様、よくも私の肉まんを!!!」
「おぉ、兄上ではありませんか」
タオルを取って、いかにもわざとらしく。
そうだ、あんたに勝ちたかった。
クラス全員を巻き込んででも、あんた一人に勝ちたかった。
「私のクラスに勝ったのだ。優勝以外許さん」
「え、ちょっと、ま…」
「めんどくせ、は聞かんぞ」
しまった。
ものすごく面倒なことになった。
素直にサボればよかった…。
遠くなる足音にもはや追いすがる気力もない。
頭を抱えていると、また足音が近づいてきた。
今度は……女子?
「さっきはありがとう、助けてくれて」
「あー…、王元姫だっけ?」
「話したことはなかったと思うけど…」
「癖で覚えちゃうんだよ」
上に立つ者は全体を把握すべし、を徹底した結果。
全てが「司馬家」の流儀による。
ただし、俺にはやる気がないからそこそこだ。
「艾、俺の後は任せた」
「大将!」
「王元姫は艾のそばにいればいい。
そうだな、上履き履いとこうか」
「なんで?」
「ぶっちゃけ囮だよ。
相手は当てやすいと思って投げてくる。
でも艾のせいで、転じて向こうへのカウンターになる」
艾の守備範囲の広さは相手にとって脅威だ。
見誤ると手痛いことになるだろう。
そこまで分かっているんだが……。
「悪い、俺、もう動けねぇ…」
日頃、体力作りをサボっているツケだ。
激しい運動を30分程度しただけで筋肉が悲鳴を上げる。
しかもムキになってやった30分だ。
ダルさも割り増しになっている。
クラスは準決勝までいって負けたらしい。
天候が崩れて、体育館での試合になったのだ。
あー、体育館なら館履きじゃないと滑るなぁ。
あとライトが眩しいから、極力近くをみるといい。
まぁ、もう遅いんだけど。
それよりも肉まんどうしよう、兄上はしつこいんだ。
「……勝ったチームの奴から、チケットもらえねぇかなぁ」
「分かりました、聞いてきましょう」
「…艾、コネあんの?」
「夏侯覇という知り合いがおります」
「へぇ…」
艾がその人物からチケットを譲り受けてきて。
俺は兄上にそれを渡した。
借りが出来た俺は、艾にドッグタグを贈った。
似合いそうだったからだ。
不思議そうに見ていたが、ありがたく、と受け取った。
球技大会で俺が投げた「ボール」は。
多くの人物に届いていたということをこの時は知る由もなかった。
*****************************
この話は「プロローグ」より以前のお話です。
不親切で申し訳ない。
夏侯覇はフル体育着装備だと思う。(半袖短パン)
司馬昭の才覚の片鱗を見せたかったんだけど、どうだろうね。
あと、学園無双の晋は「学校生活の懐かしい記憶」を裏テーマにしているので。
意識して学校ワードを多くしてます。
書いてて、ものすごく居たたまれなりました。
設定を書いたはいいけど、シナリオに絡めるのって難しいね。
もっとうまく使いたいなぁ。
俺は体育着の上にジャージズボンを履いた。
そういう輩が大半だった。
体育着の短パンを履いてる奴の方が少ない。
放り投げる
新年度が始まって間もなく。
親睦を深めるためと、ある行事が組まれていた。
球技大会。
チームプレイが不可欠で、大人数で出来るもの。
ドッチボール、バスケットボールのいずれかを選択し。
組ごとに分かれての勝ち抜き戦。
優勝すると、確か、肉まんチケットがもらえたはず。
景品の選定は、生徒会長の一存だから今年はそうだろう。
店はたぶんお気に入りの「中華安寧亭」に違いない。
一応、俺はドッチボールをやることになっていた。
さっさと当たってサボろうと思ったからだ。
欠伸をかみ殺し、出番を待つ。
何気なくクラスメイトをみた。
馴染んでいる奴、馴染んでいない奴の差が歴然だ。
ちなみに、俺は必要があればつるむ「馴染んでいない組」
視界に、制服を着ている生徒を見つけた。
はちきれんばかりのYシャツに、青いバンダナをつけている。
本人が「運動しやすい格好」としているなら、そうなのだろう。
ここにいるのは、ドッチボール組だけだから同じチームだ。
名前は確か。
「…艾っつったっけ?」
「……」
「そのバンダナ、こだわりなんだ?」
「……否定するか?」
「いいや、いいんじゃね?」
両手を頭の後ろに回す。
服装なんて競技自体には関係ない。
ただ、いい的になりはしないかと思っただけだ。
何かと目立つ人物は、狙われるのが常である。
「あんたは図体がでかいから、狙われるなぁって。
でも、自信があるんだろ?」
「狙われすぎて、投げ返すのは得意です」
「そっか、じゃあ、頼りにしちまおうかな」
「……自分の身は自分でお守りください」
「つれないねぇ」
腕時計を見る。
やっと競技時間になりそうだ。
のろのろと移動を開始すると、艾もついてきた。
試合場所は内庭である。
相手チームも集まってきて、何かを話し合っているのを確認した。
艾をちらちら見ているようだ。
間違いなく艾は的になる。
そして、何人かみたことのある人物がいるのに気付いた。
奴のクラスか…。
この試合だけは勝ちたくなった。
「みんなにゃ悪いけど、わがままに付き合ってもらうか」
内庭には土埃が舞うという理由で、ウッドチップ材を使用したタイルを敷き込まれている。
天候は、昨夜から晴れ。
十分に乾いているだろうから、滑り止めが必須か。
俺は、バッシュを履いているから大丈夫だ。
「艾、バッシュあるなら履きかえとけよ。
踏ん張り効かないと動きにくいぜ」
「……うむ」
履いているのがローファーだ。
足も痛くなってしまうだろう。
残りのメンバーを盗み見る。
上履きか外履きを履いて、体育着の上にジャージズボン。
あとは、誰がボールを持つかか。
「逃げ専のやつ、手挙げて」
参加人数のおよそ半分。
そいつらには、なにが何でも逃げきってもらうとする。
「逃げ専はバッシュか、外履きを必ず履け。
制限時間まで逃げ切るのが仕事だ。
残りは、当てることだけ考えろ。
ボールは艾に集まってくるからな」
文句もあるだろう。
いきなり偉そうに出しゃばってきたんだから。
だけど、どうしても勝ちたいのだ。
「この試合に負けたら、これから一年間ハブってくれていい。
だから、今だけ俺に預けてくれよ」
ジャンプボールは艾が取った。
すかさず、相手に投げつけてアウト。
返しで艾を狙ってくるが、そのボールをあっさりキャッチ。
遠投で外野にボールを回して、相手を内側に寄せる。
外野が足下に投げつけて、注意を下へ。
拾い上げたアタッカーがすぐさま相手に投げつけてアウト。
面白いように相手の数が半分まで減っていく。
だが、ここから当てるのが難しくなる。
残っているのはたいてい逃げ専か屈強なアタッカーだ。
そして、こちらの集中力も懸念される。
こうも圧倒的優勢だと油断しやすい。
ほら、もう、ひとりアウト。
畳み掛けるように3人連続でとられた。
「マズいね」
「大将、次はどうすれば?」
艾がボールを捌く。
的役もそろそろ効果が切れてきた。
満遍なくボールが飛んでくるようになってきたものだから。
どんどんチームメイトがぶつかっていく。
こりゃあ、本当に一年間ハブかね。
それはいいけど、あいつのクラスに負けるのだけは嫌だ。
「…んじゃ、俺が行きますか」
「は?」
逃げ専の塊からはぐれてしまった女子生徒の元にボールが飛ぶ。
すっぽ抜けた風な勢いのまま、まっすぐ向かってくる。
一瞬、固まってしまった女子の目の前に手を伸ばす。
ボールを両手でがっちり抱え込む。
「しゃあ!! 司馬子上、いざ参る!!」
ボールを思い切り投げつける。
坊ちゃん風情と侮るなかれ。
勝利を常とし己を高めよ、とずっと言われてきたのだ。
そこら辺のやつよりよっぽど丈夫だし、筋肉の使い方を知っている。
さっき助けた女子も、艾もポカンとしているようだ。
再びボールがチームメイトを襲う。
立ち止まって何やってる!!
腕に当たったボールを空中で抱え込む。
バスケットボールのリバウンド処理の要領だ。
ルール上はこれでセーフ。
「止まるな、動け!」
艾と俺とで制限時間まで攻め続け。
どうにか持ちきった。
チームで残っていたのは、片手で足りるほどだった。
「あー…、疲れた。
俺は燃え尽きた、もう知らね」
「大将、そんなことを仰いますな」
試合後、校舎の廊下に座り込んで両腕を後ろにつき。
仰け反ってタオルを頭からかぶっていると。
艾の声が近くでした。
大将って俺のことか?
懐かれるのも面倒だな。
間もなく、慌ただしい足音が近づいてきた。
ああ、奴がきた。
思わず、タオルの下でほくそ笑む。
「昭!!!貴様、よくも私の肉まんを!!!」
「おぉ、兄上ではありませんか」
タオルを取って、いかにもわざとらしく。
そうだ、あんたに勝ちたかった。
クラス全員を巻き込んででも、あんた一人に勝ちたかった。
「私のクラスに勝ったのだ。優勝以外許さん」
「え、ちょっと、ま…」
「めんどくせ、は聞かんぞ」
しまった。
ものすごく面倒なことになった。
素直にサボればよかった…。
遠くなる足音にもはや追いすがる気力もない。
頭を抱えていると、また足音が近づいてきた。
今度は……女子?
「さっきはありがとう、助けてくれて」
「あー…、王元姫だっけ?」
「話したことはなかったと思うけど…」
「癖で覚えちゃうんだよ」
上に立つ者は全体を把握すべし、を徹底した結果。
全てが「司馬家」の流儀による。
ただし、俺にはやる気がないからそこそこだ。
「艾、俺の後は任せた」
「大将!」
「王元姫は艾のそばにいればいい。
そうだな、上履き履いとこうか」
「なんで?」
「ぶっちゃけ囮だよ。
相手は当てやすいと思って投げてくる。
でも艾のせいで、転じて向こうへのカウンターになる」
艾の守備範囲の広さは相手にとって脅威だ。
見誤ると手痛いことになるだろう。
そこまで分かっているんだが……。
「悪い、俺、もう動けねぇ…」
日頃、体力作りをサボっているツケだ。
激しい運動を30分程度しただけで筋肉が悲鳴を上げる。
しかもムキになってやった30分だ。
ダルさも割り増しになっている。
クラスは準決勝までいって負けたらしい。
天候が崩れて、体育館での試合になったのだ。
あー、体育館なら館履きじゃないと滑るなぁ。
あとライトが眩しいから、極力近くをみるといい。
まぁ、もう遅いんだけど。
それよりも肉まんどうしよう、兄上はしつこいんだ。
「……勝ったチームの奴から、チケットもらえねぇかなぁ」
「分かりました、聞いてきましょう」
「…艾、コネあんの?」
「夏侯覇という知り合いがおります」
「へぇ…」
艾がその人物からチケットを譲り受けてきて。
俺は兄上にそれを渡した。
借りが出来た俺は、艾にドッグタグを贈った。
似合いそうだったからだ。
不思議そうに見ていたが、ありがたく、と受け取った。
球技大会で俺が投げた「ボール」は。
多くの人物に届いていたということをこの時は知る由もなかった。
*****************************
この話は「プロローグ」より以前のお話です。
不親切で申し訳ない。
夏侯覇はフル体育着装備だと思う。(半袖短パン)
司馬昭の才覚の片鱗を見せたかったんだけど、どうだろうね。
あと、学園無双の晋は「学校生活の懐かしい記憶」を裏テーマにしているので。
意識して学校ワードを多くしてます。
書いてて、ものすごく居たたまれなりました。
設定を書いたはいいけど、シナリオに絡めるのって難しいね。
もっとうまく使いたいなぁ。
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