端と底を行き来するRPG

そのとき、きっと誰かの中心blog。
アーカイブにある作品は人事を尽くした盛者必衰の入れ替え制。

リーダーの片鱗

2011-11-16 00:00:00 | 三國無双
運動しやすい格好と指定があった。
俺は体育着の上にジャージズボンを履いた。
そういう輩が大半だった。
体育着の短パンを履いてる奴の方が少ない。

放り投げる

新年度が始まって間もなく。
親睦を深めるためと、ある行事が組まれていた。
球技大会。
チームプレイが不可欠で、大人数で出来るもの。
ドッチボール、バスケットボールのいずれかを選択し。
組ごとに分かれての勝ち抜き戦。
優勝すると、確か、肉まんチケットがもらえたはず。
景品の選定は、生徒会長の一存だから今年はそうだろう。
店はたぶんお気に入りの「中華安寧亭」に違いない。
一応、俺はドッチボールをやることになっていた。
さっさと当たってサボろうと思ったからだ。
欠伸をかみ殺し、出番を待つ。
何気なくクラスメイトをみた。
馴染んでいる奴、馴染んでいない奴の差が歴然だ。
ちなみに、俺は必要があればつるむ「馴染んでいない組」
視界に、制服を着ている生徒を見つけた。
はちきれんばかりのYシャツに、青いバンダナをつけている。
本人が「運動しやすい格好」としているなら、そうなのだろう。
ここにいるのは、ドッチボール組だけだから同じチームだ。
名前は確か。

「…艾っつったっけ?」
「……」
「そのバンダナ、こだわりなんだ?」
「……否定するか?」
「いいや、いいんじゃね?」

両手を頭の後ろに回す。
服装なんて競技自体には関係ない。
ただ、いい的になりはしないかと思っただけだ。
何かと目立つ人物は、狙われるのが常である。

「あんたは図体がでかいから、狙われるなぁって。
 でも、自信があるんだろ?」
「狙われすぎて、投げ返すのは得意です」
「そっか、じゃあ、頼りにしちまおうかな」
「……自分の身は自分でお守りください」
「つれないねぇ」

腕時計を見る。
やっと競技時間になりそうだ。
のろのろと移動を開始すると、艾もついてきた。
試合場所は内庭である。
相手チームも集まってきて、何かを話し合っているのを確認した。
艾をちらちら見ているようだ。
間違いなく艾は的になる。
そして、何人かみたことのある人物がいるのに気付いた。
奴のクラスか…。
この試合だけは勝ちたくなった。

「みんなにゃ悪いけど、わがままに付き合ってもらうか」


内庭には土埃が舞うという理由で、ウッドチップ材を使用したタイルを敷き込まれている。
天候は、昨夜から晴れ。
十分に乾いているだろうから、滑り止めが必須か。
俺は、バッシュを履いているから大丈夫だ。

「艾、バッシュあるなら履きかえとけよ。
 踏ん張り効かないと動きにくいぜ」
「……うむ」

履いているのがローファーだ。
足も痛くなってしまうだろう。
残りのメンバーを盗み見る。
上履きか外履きを履いて、体育着の上にジャージズボン。
あとは、誰がボールを持つかか。

「逃げ専のやつ、手挙げて」

参加人数のおよそ半分。
そいつらには、なにが何でも逃げきってもらうとする。

「逃げ専はバッシュか、外履きを必ず履け。
 制限時間まで逃げ切るのが仕事だ。
 残りは、当てることだけ考えろ。
 ボールは艾に集まってくるからな」

文句もあるだろう。
いきなり偉そうに出しゃばってきたんだから。
だけど、どうしても勝ちたいのだ。

「この試合に負けたら、これから一年間ハブってくれていい。
 だから、今だけ俺に預けてくれよ」

ジャンプボールは艾が取った。
すかさず、相手に投げつけてアウト。
返しで艾を狙ってくるが、そのボールをあっさりキャッチ。
遠投で外野にボールを回して、相手を内側に寄せる。
外野が足下に投げつけて、注意を下へ。
拾い上げたアタッカーがすぐさま相手に投げつけてアウト。
面白いように相手の数が半分まで減っていく。
だが、ここから当てるのが難しくなる。
残っているのはたいてい逃げ専か屈強なアタッカーだ。
そして、こちらの集中力も懸念される。
こうも圧倒的優勢だと油断しやすい。
ほら、もう、ひとりアウト。
畳み掛けるように3人連続でとられた。

「マズいね」
「大将、次はどうすれば?」

艾がボールを捌く。
的役もそろそろ効果が切れてきた。
満遍なくボールが飛んでくるようになってきたものだから。
どんどんチームメイトがぶつかっていく。
こりゃあ、本当に一年間ハブかね。
それはいいけど、あいつのクラスに負けるのだけは嫌だ。

「…んじゃ、俺が行きますか」
「は?」

逃げ専の塊からはぐれてしまった女子生徒の元にボールが飛ぶ。
すっぽ抜けた風な勢いのまま、まっすぐ向かってくる。
一瞬、固まってしまった女子の目の前に手を伸ばす。
ボールを両手でがっちり抱え込む。

「しゃあ!! 司馬子上、いざ参る!!」

ボールを思い切り投げつける。
坊ちゃん風情と侮るなかれ。
勝利を常とし己を高めよ、とずっと言われてきたのだ。
そこら辺のやつよりよっぽど丈夫だし、筋肉の使い方を知っている。
さっき助けた女子も、艾もポカンとしているようだ。
再びボールがチームメイトを襲う。
立ち止まって何やってる!!
腕に当たったボールを空中で抱え込む。
バスケットボールのリバウンド処理の要領だ。
ルール上はこれでセーフ。

「止まるな、動け!」

艾と俺とで制限時間まで攻め続け。
どうにか持ちきった。
チームで残っていたのは、片手で足りるほどだった。


「あー…、疲れた。
 俺は燃え尽きた、もう知らね」
「大将、そんなことを仰いますな」

試合後、校舎の廊下に座り込んで両腕を後ろにつき。
仰け反ってタオルを頭からかぶっていると。
艾の声が近くでした。
大将って俺のことか?
懐かれるのも面倒だな。
間もなく、慌ただしい足音が近づいてきた。
ああ、奴がきた。
思わず、タオルの下でほくそ笑む。

「昭!!!貴様、よくも私の肉まんを!!!」
「おぉ、兄上ではありませんか」

タオルを取って、いかにもわざとらしく。
そうだ、あんたに勝ちたかった。
クラス全員を巻き込んででも、あんた一人に勝ちたかった。

「私のクラスに勝ったのだ。優勝以外許さん」
「え、ちょっと、ま…」
「めんどくせ、は聞かんぞ」

しまった。
ものすごく面倒なことになった。
素直にサボればよかった…。
遠くなる足音にもはや追いすがる気力もない。
頭を抱えていると、また足音が近づいてきた。
今度は……女子?

「さっきはありがとう、助けてくれて」
「あー…、王元姫だっけ?」
「話したことはなかったと思うけど…」
「癖で覚えちゃうんだよ」

上に立つ者は全体を把握すべし、を徹底した結果。
全てが「司馬家」の流儀による。
ただし、俺にはやる気がないからそこそこだ。

「艾、俺の後は任せた」
「大将!」
「王元姫は艾のそばにいればいい。
 そうだな、上履き履いとこうか」
「なんで?」
「ぶっちゃけ囮だよ。
 相手は当てやすいと思って投げてくる。
 でも艾のせいで、転じて向こうへのカウンターになる」

艾の守備範囲の広さは相手にとって脅威だ。
見誤ると手痛いことになるだろう。
そこまで分かっているんだが……。

「悪い、俺、もう動けねぇ…」

日頃、体力作りをサボっているツケだ。
激しい運動を30分程度しただけで筋肉が悲鳴を上げる。
しかもムキになってやった30分だ。
ダルさも割り増しになっている。


クラスは準決勝までいって負けたらしい。
天候が崩れて、体育館での試合になったのだ。
あー、体育館なら館履きじゃないと滑るなぁ。
あとライトが眩しいから、極力近くをみるといい。
まぁ、もう遅いんだけど。
それよりも肉まんどうしよう、兄上はしつこいんだ。

「……勝ったチームの奴から、チケットもらえねぇかなぁ」
「分かりました、聞いてきましょう」
「…艾、コネあんの?」
「夏侯覇という知り合いがおります」
「へぇ…」

艾がその人物からチケットを譲り受けてきて。
俺は兄上にそれを渡した。
借りが出来た俺は、艾にドッグタグを贈った。
似合いそうだったからだ。
不思議そうに見ていたが、ありがたく、と受け取った。
球技大会で俺が投げた「ボール」は。
多くの人物に届いていたということをこの時は知る由もなかった。

*****************************

この話は「プロローグ」より以前のお話です。
不親切で申し訳ない。

夏侯覇はフル体育着装備だと思う。(半袖短パン)
司馬昭の才覚の片鱗を見せたかったんだけど、どうだろうね。
あと、学園無双の晋は「学校生活の懐かしい記憶」を裏テーマにしているので。
意識して学校ワードを多くしてます。
書いてて、ものすごく居たたまれなりました。

設定を書いたはいいけど、シナリオに絡めるのって難しいね。
もっとうまく使いたいなぁ。

コメントを投稿