触角編
カマキリの触角は先端がまっすぐではなく少しカーブしている。先端は微風でなびくくらい細い。このカーブまで切れずに残っているカマキリを見つけると、少しテンションが上がった。カマキリは、エサとの格闘やカマキリ同士の喧嘩などで左右違う長さの触角になってしまっていることも多いからである。メスは短めでオスはかなり長い。オスはメスを探すためのフェロモンをかぎつけるために長いのだろうが、なんだかありきたりすぎてこういう内容は書いていても面白くない。それよりも、この長い触角が使われる時の動きのほうが面白い。
交尾の前にメスのお尻の近くで距離やメスの動向を探っているのかは定かでないが、まるでスネアドラムのロールをするスティックのように動く。メスの背中に乗っているときにメスが動くと同じようにロールする。カマキリのオスはメスに食べられてしまうこともあるので、交尾の観察は緊張感あふれている。オスの触角の動きは、オスの気持ちの高ぶりや、恐れ、緊張を反映しているかのように見え、こちらも弟と二人、張り詰めた気持ちになっていた。一匹のオスを使いまわしにして複数のメスの交尾を済ませたかったので、食べられてしまわないように厳重に警護していた。
触角は大切な部分であり、何かを探るためにはきっと不可欠なのだと思う。ハラビロカマキリがよくやることだが、何か驚いて意識を集中して物を見るときに触角を顔の正面に突き出すように二本とも突き出す。ハラビロカマキリの顔は滑稽なかわいさがもともとあるのに、触角が二本正面に突き出ていると輪をかけて間抜けでかわいらしく見える。母ちゃんはそんなハラビロカマキリのとりこになり、母ちゃん自ら室内に連れてくることもあるようになった。「ハラビロちゃんいたよ」なんて。そんな大切な触角を時々カマで手繰り寄せて舌で丁寧に手入れをしている。口が届く範囲の付け根から先まで念入りに少しずつ舐めていく。その光景がまた愛らしい。触角の太さは人間の髪の毛のように細い。人間の髪の毛は神経や血管は通っていないがカマキリの触角は感じ取ることもできるし、体液も通っている。切れてしまったのを見たとき、その切れた先端に小さな体液の水滴が出てきた。大切なのでエサを食べるときにはエサのバッタなどに攻撃されたり、汚されたりしないようになのか顔の後ろのほうに最大限に伸ばしてピンと立てている。
とても細くて繊細な触角だが、脱皮の時にもほかの部分と同様きちんとその先っぽまで脱皮するからすごい。カマキリの脱皮の殻は半透明の肌色をしていて、宇宙人のような目がカマキリの皮だということを物語っている。触角や手足の先まできれいに脱いだ殻はとても神秘的である。中学二年生の時の担任の先生は男性で理科の先生だったので、暑中見舞いに透明のガムテープで脱皮の殻を張り付けて送った。とても中二女子の送るような暑中見舞いではないと今は思うが、当時カマキリの脱皮の殻はうちではとても美しく貴重なものとしていたため、美しいものをどうしても送りたいという衝動に駆られたのだと思う。
自然界では、脱皮の殻は軽いものですぐ風に飛ばされたり、雨で流れたりしてなかなか見つけることができない。セミの抜け殻のような質感のものではなく、鰹節でアート作品を作ったかのように柔らかくもろい。同じ質感の殻で外でショウリョウバッタの抜け殻を見つけた時は感動した。カマキリの抜け殻ほど精巧な作りではないが美しい。カマキリの抜け殻を外で見つけたことはまだない。
あまり外で見かけるものではないということもあってか、ブログにカマキリの脱皮の殻の写真を載せると三人くらいからコメントが来た。ブログにコメントが来ることは当時の私にとってとてもうれしいことだった。しかし、最終的には返信したが、コメントに気付かなかったり、大学受験時代で更新が滞ったりしたこともあり、長いこと返信しなかったことを今でも悔やんでいる。当時脱皮の記事に来たコメントは二つは質問で、もう一つはその質問に対して返信している内容のものだった。一つめの質問は小学生のお子さんをお持ちのお母さんからで、息子がカマキリの脱皮の殻を友達に見せたら、「カマキリは脱皮しない」「ただの死骸」だと言われて傷ついてしまったので、抜け殻かどうか教えてほしいというものだった。この質問に対して返してくれた読者の方がいて、きちんと抜け殻であることを説明してくれていた。この返信してくれた方は、ブログの当時の常連さんでその前にもたくさんのコメントをしてくださっていて、実際にカマキリを飼っている方だった。私も写真付きで返信をして、「自慢して大丈夫、死骸だったら少なからず臭いがするはず」というような返信をしていた。二つ目は、終齢幼虫の一つ前に脱皮を失敗してしまって奇形になってしまったが、生き延びる道はあるか、できることはあるか、というものだった。「自然界では脱皮の失敗はほぼ死に至るが、エサを人間があげれば延命できる。しかし、もう一度脱皮をするとなると長くて脱皮までの命だと思う。人間にはどうすることもできない」という感じに返信していた。それに加え脱皮を成功させるために弟と父ちゃんと考えた策を載せていた。①カマキリの足場は自然物であること。②カマキリが逆さになるための十分な高さがあること。③誰も揺らさない場所であること。④脱皮直後、色が薄いうちは半日以上触らないこと。なつかしいことだった。終齢幼虫の脱皮はうちの中では一大イベントだった。カマキリの足場は、レースカーテンだったこともあったが、何度もカーテンで脱皮を失敗させてしまった。そのため、枝や花瓶の葉っぱなど自然界にあるもののほうが成功しやすいと考えていた。クッキーがおしゃれに入っていたつるで編まれたかごを立てて置き、そこに入れて脱皮させたりすることもあった。カマキリの脱皮は十分な高さが必要で、ぶら下がってゆっくり脱いでいくので、揺らすのは厳禁。この一大イベントに気付いていなそうな母ちゃんやばあちゃんには弟と私から厳しく揺らさないでほしいと伝えていた。脱皮は夜中が多かったし、脱皮中はカマキリにゆだねるので、あまりよく観察したり近寄ったりすることはなかった。少し見ていたことを思い出すと、普段は固い体が柔らかく、足はゼリーのようにぐにゃっとまがって出てくる。伊勢海老も脱皮直後は殻まで食べられると聞いたことがあるが、カマキリもその時はオンブバッタのジャンプでさえ凶器になるほど柔らかい。命がけの作業だが、どんなにカマキリを愛していたからと言って私たちにはどうすることもできないことである。外で「失敗して半分しか脱げていない生きているやつ」を弟と拾ったことがあり、どうにか助けたいと二人で脱皮の殻をそっとはがしてみようとした。しかし、うまくはがれないで死んでしまった。脱皮直後は色がまだ薄く、体がまだ柔らかいので触れたりエサをやったりすることはなかった。しかし、のどは乾いているのである程度カマキリが落ち着いたらそっと水をあげていた。体が乾燥したら、大きさを測ったり、今までより大きなエサをあげたりするのがとても楽しみだった。脱皮に失敗するものもいて、翅がボロボロになったり足が湾曲したりするものや、カマが片方小さいままの奴もいた。何度も脱皮を見るといろいろなことが起こるが、脱皮をすると小さな傷は再生することが分かった。カマの先が少しおれていたり、足の先が少しとれていたりしても脱皮すると再生していることに気付いた。足が丸ごとない奴からはえてくることはないが、ケアレスミスのような小さなことは修正できるようだ。脱皮すると、幼虫の時と色が変わるものもいた。きちんと何かの文献で調べたことはなく、私と弟との仮説にすぎないが、体の色は生まれた時から決まっているのではなく、脱皮の度に変わることもあるのではないかと考えている。また、その色も周りの環境に影響されているのではないかと考えた。その理由は、室内で脱皮させると鮮やかな緑のまま成虫になる確率が低かったからである。家の中は家具や床、カーテンなどパッと見茶色や黒が多い。鮮やかな緑の終齢幼虫が、成虫になると、オレンジがかったり、茶色になったりしてしまっていた。家の中で茶色だった奴が鮮やかな緑になったやつはいなかった。鮮やかな緑だった奴の色が変わってしまうのは少し残念だったが、美しい色になったやつもいた。名付けのところで紹介した「神明」はオオカマキリのメスだが、緑だったのに色が変わり印象的な奴になった。胸の色に少しオレンジが入り、美しいのはおなかの色で、オレンジと緑と黄色とピンクのような色が入り混じる色合いになった。体の色に関しては長く一緒にいると疑問がたくさん浮かんでくる。オオカマキリのオスは茶色に緑の目ばかり、(茶色のメスは緑の目ではないのに・・・)チョウセンカマキリのオスの色は緑に少しオレンジが入ったような色の奴しかいない、メスとは全然違う決まりで体色が決まっているように思ってしまう。それかレアケースで緑のオオカマキリのオス、茶色のチョウセンカマキリのオスもいるのだろうか。レアケースといえば緑のコカマキリや茶色のハラビロカマキリは一匹ずつ見たことがあるがそれっきり見かけたことがない。何かの本やネット、テレビ番組でカマキリの色について詳しく解説してくれないかと思う。弟と茶色い終齢幼虫をレゴブロックの緑のかごで脱皮させたら緑になるか、緑の終齢幼虫をレゴブロックの赤いかごに入れて脱皮させたら茶色かオレンジがかったやつになるかなんて話したことがあった。夢が膨らんでいた。
カマキリが載っている図鑑や写真集は興味があるので手に取ることがあるが、知りたいことが載っていない。論文とかで書いている人がいたりするのかもしれないが、論文を手に取るほど勉強熱心ではない。一般的な人が簡単に手に取れる書籍で何か好奇心を満たしてくれる本はないだろうか。絹糸を作ったり、蜜を集めたりするようなことはせず人間の役に立っている昆虫ではないためあまり研究されることなく、解説してほしい人もいないという感じなのだと思う。父ちゃんがそう言っていた。私も知ってどうするのかと言われると「べつに・・・」という感じで、ただ好奇心を満たしたいだけだということでしかない。人間の役に立つとするなら、愛玩ペットか、あんまり戦力にならない庭や家の中の害虫の駆除か。卵の位置でその年の積雪量が分かると聞いたが本当だろうか。
触角の話から少し脱線して脱皮の話をまぜた。触角で思い出すことが脱皮の芸術的な抜け殻だったからである。いろいろ思い出すことがあり、どんな順で書いていくのか難しい。
おもしろいですねー。
少し田舎へ昨年転居してから庭に出没する生き物の写真を撮ったりしていまして、カマキリもそのうちのひとつですが、見つけつたびにカッコイイなーと思います。
デザイン的に完成されているといいましょうか。
改めてその他のページも読ませていただきます。
失礼しました。
ここの管理人の千です。
コメントをありがとうございます。返信することができずに申し訳ありません。ブログを読んでいただいて大変うれしく思います。
カマキリの形いいですよね^^
蟷螂之斧という故事成語が生まれたように、昔からその形のインパクトの強さを感じる人はいたようですね!
ゆるっと更新していくのでまた遊びに来てください。
交配させる時の相手だけ野生から受け継いでます。
今年、気付きましたが確かに交尾している時にオスは前に触覚を…メスは後ろに触覚を倒してますね。
なんか、会話してるのか…って思うほど神秘的でした^_^
美しきカマキリ…私も詳しい書籍があれば見てみたいです。