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ぶつくさ言いたくなったら獄中記を読もう

2007-03-01 12:02:04 | 社会問題
大学生の頃に "The Autobiography of Malcom X" (マルコムX自伝) を読んで以来、獄中記にも興味を抱くようになった。孤独と集中を強いられる環境は、もちろん究極の試練そのものだと思うが、そこでは表の世界では成しえないことも可能になるということを強く感じた。マルコムXは、ステージを上げるための教養を獄中で身につけた。今でも辞書をむさぼるように吸収していったシーンが浮んでくる。

東京外国語大学教授の今福龍太さんは、このアクションについてこう書いている。

「さらにおもしろいのは、マルコムXは獄中において自らの再教育と称してある辞書のAからZまでのすべての項目を書き写す、筆写するということをやっている。これは彼自身の精神に起こるひとつの言語的な書き換えのプロセスです。すなわち自分自身の思考をそれまでかたちづくっていた語彙というものをすっかり別の言語体系によって置換していくという非常に主体的な作業として、マルコムXはこの事典の筆写を行ったと考えられる。これは、彼の自伝においても印象的に述べられていることです。AからZをむすぶ項目の機械的な筆写のプロセスのなかで、自分の中の語彙というものを言語的に揺さぶり、異なった世界観のなかに転移させていくような作業、それがマルコムXにとっての新たな主体性の獲得につながっていくわけです」

自分の殻を破るには、やはり頭だけでなく体のパーツを使うこと。その大切さを今福さんは明解に示してくれている。

最近また、ジェフリーアーチャーの『獄中記-地獄篇』を読み返した。あらゆる自由を奪われた最悪の状況でもまだ書こうとする作家としての本能と、ふだん何気なく食べているスナックフードの意外な役割を感じさせる本である。
そして、この作品に登場するフレッチという受刑者(殺人罪)の手記の内容は岩のように重い。しばらく空を見つめてしまった。

かなり過激な内容なので引用は差し控えるが、その手記を読めば誰でも頭の中が真っ白になってしまうだろう。

アーチャーの作品はほかにあまり読んでいない。たぶんこれからもあまり読まないと思うが、この『獄中記』だけはさらに何度も読み返すにちがいない。

そしてもう一つは、吾妻ひでおの『失踪日記』である。これは動く自由はあるが、仕事をしないですむことの自由を奪われた一種の獄中記だと勝手に判断している。こんなことを言ったら、作者にしかられるだろうか。

これからまたその『失踪日記』を読むことにする。
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