ひとこと申す

母の命…「医療」と「訴訟」の格闘物語

67. ついに開始

2014-04-29 22:12:02 | 回想
初回の面談をして約1週間後に、法律事務所から
・陳述書
・証拠保全申立書  が届きました。

<陳述書>
陳述書は、我が国の民事訴訟における
両当事者から提出される証拠の一種で
言い分などをまとめた書面のことです。
ただこの陳述書のみで、事実認定されることは殆どありません。

陳述書の内容を確認して
署名押印するように説明が添えてありました。

面談で伝えた気持ちや、調査カードに書いた私(達)の心情が
きちんと表わされた文面でした。

「私は○○(母の氏名)の娘です。
 私は看護師です。私が勤務してきた病院と比較して、
 Z病院の診療はあまりに杜撰です。
 あんな病院に入院させなければよかったという後悔でいっぱいです。
 Z病院に対しては、母の入院中から不信感を抱き、平成△年12月27日以降、
 病院での出来事などを記録していました。
 母の診療経過については別紙にまとめたとおりです。」




<証拠保全申立書>
医療訴訟においては、患者側が訴訟の準備段階に、
医師や医療機関を相手方として、
カルテの改ざんを防ぐため証拠保全の申立てを行います。
それを求めるための書類になります。
裁判所が病院等を訪れてカルテなどの検証を行うのです。
これで得られたカルテなどから、
実際に訴訟を起こすかどうか検討することにもなります。

申立人代理人の欄には、担当の弁護士名が記載されていました。

申立の趣旨・理由、疎明方法、附属書類、保全書類等目録、当事者目録
などの項目で構成された、6枚の書類でした。

申立理由の“証すべき事実”には
「相手方が○○(母)に対する診療にあたり、
 医師として尽くすべく注意義務を怠り、○○を死亡させた事実」

                            とありました。
当事者としては、Z病院の母の主治医K医師と、Z病院長。

母が骨折してから亡くなるまでの
“事実経過”が書かれていました。
特に、年末年始に肺炎が再燃・悪化した様子や
その時の医療・看護の状況が簡潔に…。
不十分な検査、不適切な治療により、
予後が(疾患の見通し)格段に悪くなり
救命の可能性に大きく影響したと、
強調されていました。

保全書類等目録に挙げられていたのは
診療録、医師指示票・指示簿、看護記録、レントゲン写真
諸検査結果記録・画質検査記録、診療報酬明細書(控)、
診療に関して作成された一切の文書及び物(電磁的記録含む)
               
この時点で私が持っているZ病院に関する書類は
入院診療計画書と退院証明書、29日の血液検査結果だけ…
あとは、誰もが見ることができるホームページ。
Z病院のホームページには、
現実とはかけ離れた 『医療・看護の理念』が
書かれている印象を、常々受けていました。
(これをもとに母の転院先の病院として選んだ)
ホームページも修正される可能性があるので
保全の対象(疎明する手段)とされたのだと思います。


私は早々に、署名押印した陳述書とともに
入院診療計画書・退院証明書・血液検査結果を
法律事務所宛てに送りました。

私が行ったことは、書類を読んで理解し、署名押印。
それだけなのに…慣れない作業による疲労感と
「ついに始まった!」という、異様な昂揚感でいっぱいでした。
でも…裁判には“本当に時間がかかる”のです。

動きがあったのが、さらにここから1か月後。
弁護士と執行官によりZ病院証拠保全が行われました。
証拠保全諸経費は予想より低額で…1万円弱でした。


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66. 初回面談②

2014-04-19 15:18:32 | 訴訟・裁判
提訴するか否かは
「まだまだ時間的余裕はあるのでゆっくり考えましょう」と。

カルテの保存期間
カルテなどの差し押さえ(改ざん回避のため)
第3者から、提訴の価値がある案件か判断を仰ぐ
その後に提訴を考えても十分遅くない   
           の4点をポイントに話されました。

最低でもカルテは、
5年以上保存が義務付けられています。
この年の1月に亡くなった母のカルテ=証拠は、
まだまだなくなりはしない。
ただ、カルテが改ざんされないよう、
差し押さえだけでも、急いで行う必要があるとのことでした。
(業界の正式用語では“証拠保全”と言います)

カルテ等の医師や看護師の記録や、画像・データなどから
新たに見えてくるものもあり、
第3者の専門家(協力医)の意見・鑑定を受けてから
提訴を決めても大丈夫…と言われました。


前頁でH弁護士が言っていた
医療訴訟の勝訴率が低いことを知ってもらうためでしょうか…
(これも正式には、勝訴は“請求認容判決”というようです)
H氏から、この事務所が手掛けられた
ひとつの案件が紹介されました。
個人情報を伏せた形で、文面を見ることができました。

この案件を要約すると…
・原告(の家族)は具合が悪くなって病院を受診した。
・診察の際に測定したSpO2(酸素飽和度)が60~70%台だった
 (正常では95%以上)
・医師はこの患者を帰宅させ、間もなく亡くなった
                 という事例でした。
通常ならSpO2がこんなに低いと
重篤な疾患・状態ととらえ
入院や、他施設への紹介などが行われるはず…。

「この判決…どうだったと思いますか?」
こんな明らかな医師の判断ミス、これで負けるとは思えない…
「負けたんですよ」
 えっ…?
「そう。うちも絶対勝てると思ってました。
 途中までそういう空気でしたし」
「でも最後でひっくり返されました」
「担当した医師が耳鼻科医で、専門外だった…という理由で」

その理由自体おかしい…
耳鼻科でも酸素飽和度など、医療の基本中の基本!
「これが現実の裁判なんです」


そして追い討ちをかけるように…
H夫人「過去の肺炎の裁判事例が少ないのです」
H氏・夫人、お二人の前には
肺炎に関する資料がたくさん置かれ、
この日のために学習・調査されていたのが分かりました。
事例が少ないと、今後、もし裁判になった時に
過去の判例を用いての反論等ができない…
ということなのかもしれません。

日本人の死因の上位を占める肺炎。
年齢を増すごとに順位は上がり、60歳代辺りから
日本の三大死亡原因(悪性新生物・心疾患・脳血管疾患)に次ぐ
4位に挙がっています。
そして80歳代くらいから2~3位以内を占めているのです。
肺炎は特に高齢者は侮れない病気がゆえに… 
肺炎で亡くなる方やご家族の多くが、
「病気だった」「年だった」「仕方なかった」で
おさめているのでしょう。
事実私は、そういった患者さん・ご家族を
たくさん看てきました。

H夫人
「お母様の受けられた治療や看護は
 明らかに杜撰ですが、死亡との因果関係を証明し、
 裁判官を納得させなければいけないのです」

気持ちが重く「やはり母の事例も難しいのではないか」
…と俯いてしまいました。

そんな空気を払拭しようと、H夫人声を大きくして
「でもZ病院の落ち度はたくさんありますよ!」
家族に催促されて初めて行った検査・治療も多く、
後手後手になった対応は明らかで、
「見通しは暗くないと思います」と。

このH夫人と話していて…改めて気づきました。
そう、母の場合は
「仕方なかった」で済ませてはいけない部分がたくさんある!


もう予定の面談時間は過ぎているのに
特に私たちを早く帰そうという雰囲気はなく…

私は夫人に尋ねました。
 「東京のT病院にいらしたんですよね?」
夫人「ええ、そうです」 
私 「私もです」
夫人「えーっ?! いつ頃? 何階(病棟)?」
(調査カードや面談のやりとりで
 H夫人
は私がナースだということは知っておられました)
急に夫人の声のトーンが上がり、親近感も倍増
「私は○階(病棟)が長かったですが、△階にも…、
 □階でも働きました。20年余り、一昨年まで」

「あーじゃあ、一緒の時期もありますよ。
 私は消化器外科の病棟で×階」
「タレントのWさんがオペした時なんか
(マスコミが)賑やかでしたよね」


雰囲気が一気に盛り上がったのでした。
面識なくても当然…なくらいの大きい病院でしたが
勤務時期が何年か重なっていたため
できたら少しでもお知り合いになれていたら…と
とても残念に感じたのは言うまでもありません。


そんな雑談も入ったことで、和やかな様子で、
この日の面談は終わりました。

帰りがけ…立ち話のようにH夫人が
「私、ナースとして、いろいろな病院でバイトした経験があります」
Z病院のような病院も、決して少なくないんのだと。
人にもよるが『え、これでいいの?』と辛く感じるナースもいる。
また、たとえ患者サイドが病院側に疑念があったとしても
医療に詳しくないと追及することが難しく、
多くは泣き寝入りになっている…と。

「お母様は娘さんにこんなにしてもらって
 きっと喜んでいらっしゃいますよ」
と…
背中をさすってもらうような、温かいお言葉でした。
心の痛みをわかろうとする、彼女の優しさが伝わってきました。
張りつめていた緊張も解け、
久しぶりに涙腺がゆるんだひとときでした。

この日は、とりあえず勧められた
「まずは証拠保全(カルテの差し押さえ)を行う」
ということで合意し、面談が終了しました。

当日は『相談料』として 5千円(+消費税)を支払って帰路に。
(時間は延長しましたが、料金は取られず…)

後日送付された振り込み用紙で、
『着手金』を送金しました。(10万円+消費税)


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65. 法律事務所での初回面談

2014-04-12 20:43:56 | 訴訟・裁判
3月の末、初めて法律事務所に足を運びました。
家庭裁判所などから徒歩圏内の
ビルの中にありました。
エレベーターを降りると、左右にそれぞれ扉があり、
どちらも法律事務所の様でした。
市内の中心部で、きっと家賃は高いと思われますが、
近くに裁判所や拘置所等があるという利便性で
この辺りに構える事務所が多いのでしょう。

めざすH法律事務所の扉は施錠されていました。
面談の予約をする電話の際、鍵の件は伺っていたので
驚きはしませんしたが…。
厳重な書類の管理や、
裁判・訴訟という仕事柄、扱う案件によっては
身の危険にさらされる場面もあるのかもしれません。
自衛が求められる職業なのでしょう。

インターホンで名前を名乗ると、鍵が開けられ
緊張して入った私たちを、
机のパソコンなどに向かっていた数人の職員が
全員立ち上がって「こんにちは」と、笑顔で迎えてくれたのです。
事務員らしき人に、奥の応接室に通されました。
事務所の広いフロアを、パーテーションで区切った形の部屋です。
扉もあり、視界・声などは遮られています。

出されたお茶を見つめながら、
落ち着かない時間を過ごしていると
「お待たせしました」と、二人の方が入ってこられました。
男性1人、女性1人…
「弁護士さんと、看護師さんかな?」と思っていると
自己紹介された名前は予想通り、
ホームページで拝見した、弁護士のH氏
事務所に所属している看護師さんでした。
そしてやはり思っていたように、お二人はご夫婦でした。
彼女は過去、私と同じ病院での勤務経験があるという経歴でしたが
案の定、面識のない人でした。
親しくなくても、院内で「見かけたことがある」くらいだと嬉しい、
と思っていたのでちょっとがっかり…しました。

H氏は、思っていたより若く見えましたが
「え、率直に申しまして…」と前置きして話されるなど
やや堅い印象を受けました。
何をどのように話していくのか見当がつかない私…
何気なくうつむいて目の前に並べられた書類に目を落としていたのです。
看護師さんが(以下H夫人)が抱えてきた書類の中に、
私が先日送った調査カードと
添付した母の経過を記した用紙がありました。

そんな私の視線に気づいたのか、H夫人が発した言葉…
ダメダメ…ですね」
 …???
訴訟に値しない案件なのか…
書類に不備があったのか…
何を 『駄目』 と否定されたのか、一瞬読み取れず
「ダメダメ…?」と、おうむ返しのように聞いたのです。
…不安に思っているところに、
「そうです。全くダメな病院ですね、Z病院は。
と言葉を付け加えられました。
母の受けた医療・看護がとても不適切であり、
大変気の毒なケースであると。
「お辛かったでしょう…」と、母や私たちに
同情と労いの言葉もくださいました。

本来ならこの面談で、経過の詳細を聞かれるのでしょうが、
あらかじめ書面で送っていたので、
H氏H夫人とも大体は把握されていたようでした。

そして確認されたのが「今後どのようにしたいですか?
最も肝心なこと…端的に言えば、訴訟するか否かです。

調査カードの終りの方の設問に
“ 今回の件について、あなたのご家族はどう話していますか? ”とあり、
私は、怒りと悔恨の気持ちと共に
「できるならあまり事を荒立てたいとは思っていない。
 申し訳なかったの言葉が聴きたい。
 自分たちの非を認め、今後改めてほしい」
 と記述しました。
まだまだ裁判に踏み切るには、知識も(裁判に関する)判断材料も乏しく、
経済面の懸念も手伝って、
病院側との話し合いで解決するのなら、それでいい…
という気持ちが正直なところだったのです。

この気持ちを、自分の言葉で説明しました。
父も私の隣で頷くように聞いていました。
H氏は、
弁護士が間に入って話し合いの場を設けることは皆無ではないが、
明らかな医療ミスでない限り
・ほとんどの場合(話し合いや面談自体を)病院側が応じない
・たとえ面談できても、病院側が非を認めることは稀である

H氏は「病院が簡単に謝罪することはあり得ません」
「我々の世界で“謝罪を求める”ことは
 裁判で勝って“賠償金を払ってもらう”ことに尽きます」と。


そして、医療訴訟の難しさを説明されました。

一般の裁判に比べ、勝訴率がとても低いこと(約2割)
事務所・弁護士によっては、簡単に訴訟を勧めるところもあるが、
 勝訴に持ち込める判例は決して多くない

自分はその厳しさを知っているので、きちんと案件を把握して
病院側の落ち度が認められる事例なのか、慎重に判断して決めたい。
敗訴して、原告(訴える側)に多額の裁判費用や
心理的な負担をかけたくない。
負けるとわかっている案件は最初から手掛けない、
諦めてもらう、と。

また
弁護士の自分も含め、裁判官など法律家は
 決して医療界のことに詳しいわけではない

そのため、協力医に意見書を書いてもらい、争っていくことになる。
相手方の病院・医師は名誉に関わるので、かなり粘ることが想定される。
相当の弁護士・協力医を立てて闘ってくるはず。
勝つためには、訴えや証明・文献で、
裁判官を納得させる力量が求められる。
                         という内容でした。


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64. 調査カード

2014-04-04 19:44:39 | 訴訟・裁判
H法律事務所のホームページを見つけ、
問合せフォームを送信してから、間もなく、
事務所から確認の電話がありました。
その後、ひとつの封筒が届いたのです。

様々な質問による、7枚にわたる調査カード。
問合せフォームに
「医療過誤について相談したい」と記入したので
それに該当する調査カードでした。
相談内容に合わせて調査カードがあるのだと思いました。

「裁判には経済的負担が大きい」
というイメージがあると思います。
私も予想はしていましたが、
インターネットでH法律事務所に辿り着くまでに
いろいろな事務所のホームページを見ることで
すでにそれを痛感していました。
弁護士さんと『面談する』だけでも、
時間(分)単位で費用がかかることを学んでいたのです。

まずはカルテの差し押さえが目的で
この調査カードを書く時点では、
提訴するかどうかは決めていませんでしたが
経済的な部分はとても不安でした。

おそらくどの法律事務所・相談所にも
この調査カードと同様のものがあるのだと思います。
相談内容を事前に把握する…
という費用面への配慮が伺えました。
この段階では費用はゼロですから。
他にも
・多忙な弁護士の時間の効率化
・相談内容の記録(保全)
  という面もあるのかもしれません。

母のことを担当して下さったH弁護士さんは
闇雲に「訴訟」「裁判」するわけではなく
提訴に値する案件か否かを(勝訴の見込みがあるか)
まずは見極めるという姿勢を示されました。
それほど医療訴訟は難しく、勝訴率も低いのです。

提訴…裁判を起こすこと、訴え出ること。訴訟を起こすこと。


<調査カードの内容>としては
被害者(母)と、相談者(私)の続柄
被害者の既往歴(これまでの病気や手術などの病歴)
                   その際にかかった医療機関
被害者の現在(死亡、植物状態、障害など)
 最も上段の「死亡しました」に○印をつけると
 次の質問欄に進む形式になってました
   …ex 死因・解剖の有無など
事態の時期
被害に遭った医療機関(母の場合 Z病院)、診療科
被害に遭った医療機関の受診理由やきっかけ、時期、
 診断や説明(見込みも含め)
被害に至る経過(※)
 (日時を追って、できるだけ詳しく記載するようになっていました)
処置をする際の医師の説明と、本人・家族の同意
被害発生の原因(相談者が思い当たること)と、そう思う理由
入手している書類(ex カルテの写し、死亡診断書、同意書など)
相手方との交渉の有無とその内容
                                など…。
 (案件によっては、被害・障害の部位が示せるように
  人体の図(前面・後面)も載せてありました)

一部は、29. 法律事務所へ に書きましたので、ご覧ください。

実に大きい項目だけでも二十数項目…
片手間に記載できるものではありません。
実際書いてみると、
ほとんどの項目が欄外までに及ぶ状況でした。
特に経過(※)に関しては、
どの程度詳しく書くべきなのか迷い
結局、叔父に送ったメール文を
すこし修正し、調査カードに添付することにしたのです。

母が亡くなったのが1月中旬、
この調査カードを投函したのが3月の初めでした。


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