絆の洋裁部の依頼を受けて箪笥にねむつている着物の類を寄付する事にした。始めは風呂敷に4、5枚包んでもつて来たらよいだろうと、軽く考えていたが箪笥を二階から下してもらつたらあるはあるはうんざりするほどである。見たこともない新調の着物や羽織など、手を通すこともなく、何ともつたいない事か。うんざりしながらも造つて持たしてくれた母への感謝の念がわきあがる。自分の洋服に仕立ててもらう以外は出すことにした。自分の寿命が限られているのにいざとなつたらあれもこれもと惜しくなつて、心のかつとうがつきまとう。つまらない女心だ。なれない、たとう紙から着物を出すのも一苦労、すつかり疲れてしまつた。しかしこんな機会がなかつたら元来ものぐさの私は一生見ることこの世を去つて着物なんか何の価値も見いだせない若いものに捨てられているだろうと思う。そして今思う事、こんな機会を持ててよかつたとしみじみと思う。