四月になって春が来て,年度が改まり前年業務も一段落し,それとともに新たな仕事がほとんど入って来なくなった。あら困った。でも嬉しい。よーし,これでようやっとヒマになったゾ。哀れな父にもかくして遅まきながらの春が訪れたというわけで。さてと,自転車でどこか遠出をしようか,一日中気ままに歩き続けて行けるところまで行ってみようか,それとも今年こそは丹沢山麓のいろんなマイナー・ルートを開拓しようか。などと,既にして心は隠居老人のオモムキなのでありました。
と思いきや,六月に入ると急に病気を二つばかり抱える身となってしまった。因果応報とはいえ,どこまでいってもアワレナ父である。病のひとつは「腎結石(尿路結石)」,いまひとつは「良性発作性頭位眩暈症」というものだ。いずれも,これまでの短からぬ人生において初めて罹患した病気である。具体的な症状は以下のとおり。
ある晩突然,腰の痛みに堪えきれずに目が覚めて,布団のなかで七転八倒する(幸いなことに,救急車を呼ばねばならないような「激痛」ではなく,身体の奥の方が疼くような「鈍痛」であった)。腰の右後ろ側および右腹部あたりが痛むのだが,場所がはっきりとは特定できない。痛みは明け方まで断続的に続いたが,起床後はやや軽快し,日中はさほど強い痛みを感じないものの,また次の夜になると同様の鈍痛にうなされる,そんな状態が連日繰り返された。それが1件目。
また別のある日,朝方目覚めて起きようとすると,急に周囲がグルグルと激しく回って立ち上ることができない状態となった。何だ何だ,とうとう脳に来たか? 一瞬愕然としたが,気を取り直して傍らの家具や壁に手をつきながら必死の思いでヨロヨロ歩いて居間に辿り着いた。しばらく蹲っているとグルグル・メマイは徐々に治まってきたが,頭の朦朧感ならびに強い嘔吐感があり,とても朝食を摂るどころではない。再びヨロヨロと寝床に逆戻りし,その日は終日床に伏せていた。翌日になると起床時の回転性メマイは発生しなくなったが,フラフラ・メマイ状態は日中もしばらく継続した。それが2件目で,こちらは1件目のぼぼ1週間後に発症した。
いずれの場合も,地元の基幹総合病院である赤十字病院に出向いて診療を受けた。受診科目は1件目が泌尿器科,2件目が耳鼻咽喉科。
泌尿器科の先生は年の頃40代半ばと思しき中堅どころのお医者さんで,言葉を慎重に選びながら控えめに話す方だが,その説明内容は簡潔にして適切であった。レントゲン写真1枚を見て,恐らく「結石」でしょうが二次元画像なので即断はできません,ということになり,翌々日に造影剤を注入して再度レントゲンを何枚か撮った。しかしこれが,どうも今いちハッキリしない。腎臓の一部が明らかに腫れており,また,途中の尿路に何となく石らしきものが窺えるのだが,骨格系の陰になっているせいか,これまた結石とは断定できない。それで,腰部の疼痛も大分軽減してきたことでもあり,薬を服用しながら暫くは様子見ということになった。約3週間後にCTスキャンを撮って改めて仔細に診察すると,石はすでに膀胱内まで下りてきているのがハッキリと確認された。ここまで来ればあともう少し,サイズも7~8mmくらいと比較的小さいので何とか自然排出に期待しましょう。頑張って毎日水をガブガブ飲んで下さい。縄跳びなどの運動もコマメに行って下さい。それでダメなら手術ということになるけれど... それからさらに1週間ほどして,約1ヶ月間にわたり私を苦しめ続けてきた結石は目出度く自然排出された(はい,頑張りました)。当の石メは首尾良く捕捉することが出来たので(サンプリング手法については省略),顕微鏡写真を何枚か撮影した後,10mlガラスビンに入れて保管した。改めてじっくり眺めてみれば,米粒よりも少し大きい程度(長径6mm)のチッポケな石で,東海林さだおの「ウズラの卵サイズ」などとは比ぶるべくもない,ほんのソマツなシロモノであります。なお,排出された石の形状は,何となく割れたような欠けたような感じがするので,あるいは一部が未だ体内に残っているかも知れず,その点は少し気掛かりである。いずれにしても,8月上旬の再診の折りに持参し,石の成分分析を依頼することにして,とりあえずこの1件についてはほぼ落着した(と,個人的には強く思いたい)。
次に,第二の懸案であるメマイの方はどうかといえば,受診した耳鼻科の先生は30代前半くらいの若先生であったが,御専門が「めまい」とのことで,いささか自信過剰と思えるほどのハキハキした断定的な語り口調だった。眼振チェックなどいくつかの検査を行った挙げ句,これはいわゆる「頭位性のめまい」ですね,と宣告された。要するに,内耳のなかにあって人間の平衡感覚をつかさどる器官である三半規管の一部にゴミ(耳石の剥離した破片など)が入り込み,その結果,本来の機能が損なわれてバランス感覚を狂わせた,という判ったような判らないような解説が加えられた。若年,中高年にかかわらず比較的よく見られる,さほど珍しくない病気だそうだ。その原因は不明だという。何か過激なスポーツ(ボクシングなど)をやってますか? あるいは最近,自動車事故(ムチ打ちなど)に遭遇しましたか? といったことを聞かれたが,いずれも私自身には屯と覚えがない。毎日馴染んでいる自転車乗りにしたところが,MTBからロードバイクに変えて以来デコボコ・ガタガタ道を走るのは極力避けているので,身体にさほど激しい負荷はかかっていないと思う。ちなみに,この良性発作性頭位眩暈症というのは,まぁ言ってみれば人が風邪を引いたようなもので,誰にでも起こりうる病気なんです。一応耳の病気とされているけれども,例えばメニエール病のように深刻に考える必要はありません。メマイがすぐ取れるか,なかなか取れないかは,人によりさまざまですが... そう言われたあとで,「エプレイ法」という一種の矯正体操をその場で施術された。両眼をマスク(フレンツェル鏡?)で覆い,頭をいろんな方向に捻りながらハンマーで軽く叩くのである。それを何パターンか行った。すると,あらあら不思議,てきめんにメマイが軽減した。「医は仁術」の言葉どおりだ。 もっとも後日,さる高名な耳鼻科医が著したメマイに関する本を読んでいたら,このエプレイ法を指して「非常にこっけいな学説」であると一刀両断に切り捨てていた。ま,仁術にもいろんな流派があるということか。
結局その日の診察では,1件目(結石)と同様,しばらくは数種類の薬を飲みながら様子を見るということになり,約2週間後に再受診した。その結果,眼振はわずかに残るものの,状態はかなり良くなっているとのことだ。この先,薬の服用は止めにしてさらに今少し様子をみてみましょう。とにかく,メマイという症状を徒に恐れてはいけない。むしろ,メマイと上手に付き合い,さらにメマイに対して積極的に立ち向かっていく姿勢が必要です。なお念のため,しばらくの間は駅のホームで電車を待つとき先頭には決して立たないこと,脚立に乗って作業するのは止めること。それから毎日の日常生活のなかでは,ストレスを溜めないこと,不規則な生活をしないこと,適度な運動をすること,等々。 何のことはない,成人病ないし生活不摂生を若者に諫められている老人の如きである。オノレを知ることの難しさを今更ながら感じる今日この頃,といった案配であります。
そんなこんなで楽しかるべき春はあっというまに過ぎゆき,気がつけば,あらまぁ,季節はもう夏の訪れを告げているのであった(ク・ル・タン・パッス・ヴィット!) そしてその夏は,あまり嬉しくない,残酷な夏になるような予感がしているのだが....
と思いきや,六月に入ると急に病気を二つばかり抱える身となってしまった。因果応報とはいえ,どこまでいってもアワレナ父である。病のひとつは「腎結石(尿路結石)」,いまひとつは「良性発作性頭位眩暈症」というものだ。いずれも,これまでの短からぬ人生において初めて罹患した病気である。具体的な症状は以下のとおり。
ある晩突然,腰の痛みに堪えきれずに目が覚めて,布団のなかで七転八倒する(幸いなことに,救急車を呼ばねばならないような「激痛」ではなく,身体の奥の方が疼くような「鈍痛」であった)。腰の右後ろ側および右腹部あたりが痛むのだが,場所がはっきりとは特定できない。痛みは明け方まで断続的に続いたが,起床後はやや軽快し,日中はさほど強い痛みを感じないものの,また次の夜になると同様の鈍痛にうなされる,そんな状態が連日繰り返された。それが1件目。
また別のある日,朝方目覚めて起きようとすると,急に周囲がグルグルと激しく回って立ち上ることができない状態となった。何だ何だ,とうとう脳に来たか? 一瞬愕然としたが,気を取り直して傍らの家具や壁に手をつきながら必死の思いでヨロヨロ歩いて居間に辿り着いた。しばらく蹲っているとグルグル・メマイは徐々に治まってきたが,頭の朦朧感ならびに強い嘔吐感があり,とても朝食を摂るどころではない。再びヨロヨロと寝床に逆戻りし,その日は終日床に伏せていた。翌日になると起床時の回転性メマイは発生しなくなったが,フラフラ・メマイ状態は日中もしばらく継続した。それが2件目で,こちらは1件目のぼぼ1週間後に発症した。
いずれの場合も,地元の基幹総合病院である赤十字病院に出向いて診療を受けた。受診科目は1件目が泌尿器科,2件目が耳鼻咽喉科。
泌尿器科の先生は年の頃40代半ばと思しき中堅どころのお医者さんで,言葉を慎重に選びながら控えめに話す方だが,その説明内容は簡潔にして適切であった。レントゲン写真1枚を見て,恐らく「結石」でしょうが二次元画像なので即断はできません,ということになり,翌々日に造影剤を注入して再度レントゲンを何枚か撮った。しかしこれが,どうも今いちハッキリしない。腎臓の一部が明らかに腫れており,また,途中の尿路に何となく石らしきものが窺えるのだが,骨格系の陰になっているせいか,これまた結石とは断定できない。それで,腰部の疼痛も大分軽減してきたことでもあり,薬を服用しながら暫くは様子見ということになった。約3週間後にCTスキャンを撮って改めて仔細に診察すると,石はすでに膀胱内まで下りてきているのがハッキリと確認された。ここまで来ればあともう少し,サイズも7~8mmくらいと比較的小さいので何とか自然排出に期待しましょう。頑張って毎日水をガブガブ飲んで下さい。縄跳びなどの運動もコマメに行って下さい。それでダメなら手術ということになるけれど... それからさらに1週間ほどして,約1ヶ月間にわたり私を苦しめ続けてきた結石は目出度く自然排出された(はい,頑張りました)。当の石メは首尾良く捕捉することが出来たので(サンプリング手法については省略),顕微鏡写真を何枚か撮影した後,10mlガラスビンに入れて保管した。改めてじっくり眺めてみれば,米粒よりも少し大きい程度(長径6mm)のチッポケな石で,東海林さだおの「ウズラの卵サイズ」などとは比ぶるべくもない,ほんのソマツなシロモノであります。なお,排出された石の形状は,何となく割れたような欠けたような感じがするので,あるいは一部が未だ体内に残っているかも知れず,その点は少し気掛かりである。いずれにしても,8月上旬の再診の折りに持参し,石の成分分析を依頼することにして,とりあえずこの1件についてはほぼ落着した(と,個人的には強く思いたい)。
次に,第二の懸案であるメマイの方はどうかといえば,受診した耳鼻科の先生は30代前半くらいの若先生であったが,御専門が「めまい」とのことで,いささか自信過剰と思えるほどのハキハキした断定的な語り口調だった。眼振チェックなどいくつかの検査を行った挙げ句,これはいわゆる「頭位性のめまい」ですね,と宣告された。要するに,内耳のなかにあって人間の平衡感覚をつかさどる器官である三半規管の一部にゴミ(耳石の剥離した破片など)が入り込み,その結果,本来の機能が損なわれてバランス感覚を狂わせた,という判ったような判らないような解説が加えられた。若年,中高年にかかわらず比較的よく見られる,さほど珍しくない病気だそうだ。その原因は不明だという。何か過激なスポーツ(ボクシングなど)をやってますか? あるいは最近,自動車事故(ムチ打ちなど)に遭遇しましたか? といったことを聞かれたが,いずれも私自身には屯と覚えがない。毎日馴染んでいる自転車乗りにしたところが,MTBからロードバイクに変えて以来デコボコ・ガタガタ道を走るのは極力避けているので,身体にさほど激しい負荷はかかっていないと思う。ちなみに,この良性発作性頭位眩暈症というのは,まぁ言ってみれば人が風邪を引いたようなもので,誰にでも起こりうる病気なんです。一応耳の病気とされているけれども,例えばメニエール病のように深刻に考える必要はありません。メマイがすぐ取れるか,なかなか取れないかは,人によりさまざまですが... そう言われたあとで,「エプレイ法」という一種の矯正体操をその場で施術された。両眼をマスク(フレンツェル鏡?)で覆い,頭をいろんな方向に捻りながらハンマーで軽く叩くのである。それを何パターンか行った。すると,あらあら不思議,てきめんにメマイが軽減した。「医は仁術」の言葉どおりだ。 もっとも後日,さる高名な耳鼻科医が著したメマイに関する本を読んでいたら,このエプレイ法を指して「非常にこっけいな学説」であると一刀両断に切り捨てていた。ま,仁術にもいろんな流派があるということか。
結局その日の診察では,1件目(結石)と同様,しばらくは数種類の薬を飲みながら様子を見るということになり,約2週間後に再受診した。その結果,眼振はわずかに残るものの,状態はかなり良くなっているとのことだ。この先,薬の服用は止めにしてさらに今少し様子をみてみましょう。とにかく,メマイという症状を徒に恐れてはいけない。むしろ,メマイと上手に付き合い,さらにメマイに対して積極的に立ち向かっていく姿勢が必要です。なお念のため,しばらくの間は駅のホームで電車を待つとき先頭には決して立たないこと,脚立に乗って作業するのは止めること。それから毎日の日常生活のなかでは,ストレスを溜めないこと,不規則な生活をしないこと,適度な運動をすること,等々。 何のことはない,成人病ないし生活不摂生を若者に諫められている老人の如きである。オノレを知ることの難しさを今更ながら感じる今日この頃,といった案配であります。
そんなこんなで楽しかるべき春はあっというまに過ぎゆき,気がつけば,あらまぁ,季節はもう夏の訪れを告げているのであった(ク・ル・タン・パッス・ヴィット!) そしてその夏は,あまり嬉しくない,残酷な夏になるような予感がしているのだが....