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そして古書は廻る (たといそれが稀観本であれ雑本であれ)

2008年04月11日 | 本屋さん
 つい一週間ほど前のこと,ある古本屋さんで今から約50年前に発行された本を購入した。いや別に,またぞろ「ブックオフ・ネタ」をブリ返そうとしているわけではなく,これは某専門古書店から新しい目録が当方宛てに送られてきて,そこに掲載されていた本を注文購入したという話であります。本のタイトルは『陸水動物実験法』,著者は元・京都大学大津臨湖実験所所長にして日本陸水学会会長であられた上野益三さん,出版社は医学図書出版などで著名な中山書店,発行年月日は1954年9月25日となっている。ちなみに今,インターネットでちょっと検索してみると,ネット古書店連合サイトの「日本の古本屋」では本書は現在販売されていないようだが,「アマゾン・マーケットプレイス」では1件だけ,2,000円の値段を付けて売られている。小冊子ながらその内容からは今でも得るところの多い良書であることは間違いない。けれども,いかんせんかなり古い刊行物であるがゆえ,最近ではほとんど目に付くことがなくなったようだ。ただし,それほど稀少本というわけでもなく,むしろ同じ「生物学実験法講座」シリーズ本のなかでは,福嶋博さんの『植物性淡水プランクトン』などの方が珍しいと思う。

 それはさておき,実はワタクシ上野さんのこの本は既に2冊所有している。それなのに何でまた屋上屋を重ねるがごとくに同書を購入したのかと申せば,送られてきた古書目録の説明文に「著者謹呈署名入り」という註記があったためである。さて,益三先生は果たしてこの本を誰に贈呈したのか,そして,それを頂戴した方は何故に同書を古書店に売却してしまったのか? といった,いわば学者先生たちの舞台裏事情に対する関心,要するに下世話的な興味を覚えたのだ。いえ,これもササヤカナル本道楽の一端に過ぎないのですが。

 で,結果はどうだったのかというと,贈呈されたお相手は何と水野壽彦さん(大阪教育大学)であった! ということは,二年前のちょうど今の季節に87才で亡くなられた壽彦先生の蔵書が,その一部か大部分かは判らないけれども,とうとう古書店に流出し始めてしまったということなのか! またひとつ悲しむべき事実を知ってしまい,我が心は少し痛んだ。

 実は,過去に同じようなことを何度も経験している。例えば津田松苗さん(水生昆虫学)の蔵書,小泉清明さん(応用昆虫学)の蔵書,白石芳一さん(水産学)の蔵書,中村守純さん(淡水魚類学)の蔵書,などなど。それらの一部ないし少なからぬ部分が,当の先生方の死後何年かして専門古書店の目録に出現し,そしてそれらが全国各地のさまざまな方面(研究機関,調査会社,研究者,好事家,転売屋,等々)に買われてゆく。専門古書店が引き取ってくれない類の本は一般古書店の方に回るか,あるいは資源ゴミとなる運命を辿っていったのかも知れない。そのようにして,先達の立派な研究において欠くべからざるバックボーンとなってきた,そしてそこから得られた数々の研究業績の証とでもいうべき大事な図書資料が,御本人が望むと望まざるとにかかわらず,見知らぬチマタにフワリフワリと散逸していくのだ。まるで遺灰が大地や川や池や湖,そして海や空へと撒かれてゆくかのように。そのことは,以前,渡辺仁治さん(淡水藻類学)も仰有っていたように,此の国の学問研究の未来にとって決して望ましかるべき状況ではないと思う。昨今ではロクな収入がなく公私共々カイショナシとなっている私ではあるけれども,願わくばかような事態を憂うる「遺骨収集団」の拙き一員となって,今後も出来うる限りの努力は惜しまない所存であります。(何のこっちゃら?)

 なお,水野壽彦さんについては,当方,個人的に少なからぬ思い入れを有しているので,後日,気が向いたときにでも別に章を改めてその思いの丈を記述することになるかも知れません。いわば期日未定の予告編。(間に合うのか?)
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