えびみそのタイ冒険

2020年末にタイに移住し、自分と向き合う毎日を送る45歳の青年"えびみそ"の物語。

#107 マッサージャーMさんの物語

2022-06-16 06:20:00 | M
彼女の名は、Mと言った。

イニシャルではない。
皆、彼女の事をMと呼んでいた。

理由は、分からない。

彼女には
マッサージしか自分には出来ないという事がよく分かっていた。

それだって、何処かで習って来たという訳ではない。

幼い頃から両親も無く、祖母に育てられたから、頼りになるものも、お世話し甘やかしてくれる誰かも、お金も、何も無かった。
だから、公立高校を卒業したら、すぐに働いた。

何も出来ないので、肉体労働を考えたが、自分が人一倍体力のない、か弱い女の子である事がよく分かっていた。
学校の体育の成績は、いつも最低の1。
かけっこだって、一緒に走る誰かより前にいた試しがなかった。

そんなMさんが、曲がりなりにも今の仕事は10年以上続けている。

マッサージ師としての仕事以外に、何か他の事をやっていた経験は無い。
彼女には、これが自分が出来る最初で最後の仕事である事が分かっていた。

この仕事を10年続けても、相変わらずMさんは必要以上に華奢な容姿だった。
毎日の仕事で、筋力は付いているはずなのだが、不思議と10年前と体型も体重も全く変わらなかった。

眼は、ギョロッと大きい。
その眼は、どんな事があっても、決して笑う事はない。
口元だって、緩む事はまずまず無い。
お店への客にも、ましてや常連客にもニッコリ愛想を浮かべる事は全く無い。
警戒している訳では無さそうだが、そういう事は一切しない。

人見知りな訳でもない。
初めての客に対しても、Mさんは、恐れず躊躇せずがっしりとその四肢を掴む。
初めから。

少しずつ様子を見ながら力を込めていくのではない。
それは彼女のスタイルではない。

初めから、彼女には分かっているのだ。
一目見た時から、その人にはどの程度のコリがあり、どのような問題を抱え、ここにやって来たのか。

それは、理屈ではない。
その人の表情を見て、体つきを見て、歩き方を見れば大体分かる。

Mさんは、客の時間を無駄にしない事、それからその細い身体からは想像も出来ない力強さで身体中をほぐしてくれる事で、人気のマッサージ師だった。
その店ナンバーワンと言っても過言ではない。
彼女のマッサージを求めて来店する常連客が後を立たなかった。

それが、Mさんだった。

ー続くー


#106 人生は、ハードボイルド

2022-06-12 07:43:00 | 

人生は、ハードボイルド。


46歳。


まだ守りに入るには早過ぎる年齢かもしれない。


休めず、癒されず、

次々難題が訪れて、

体力的にも精神的にもボロボロになる時が

まだあるのだろう。


そんな時は、

二日酔いと寝不足の身体に

濃いコーヒーを流し込み、

自分のデスクで一人悪態をついて、

しかめ面で次の波を待つ、

そんな時もあるだろう。


健康ばかりは考えていられない。

無理をしたくなくても、無理をする。


それでこそ、小説の中の主人公。


まだまだ休むには早過ぎる。


誰に嫌われても、

誰に煙たがられてもお構いなし。


自分を中心に世界が回る。


空気など読まないで部下に指示を出し、

全ては自分流の、自分節。


自分主義の、自分スタイル。


自分は類を見ない稀有な存在で、

誰もやったことがないような経歴を積んでいる。


底が知れず、

世界が広い。


何を考えているか読めず、

クセのある難物。


そういう事だ。


頭は悪くないのに、

集中力を失うという人生の試練を受け入れて

知識階級から脱した順子さん。


冷蔵庫の音が嫌いで、

家族との縁も捨てた三宅さん。


しがみついていた家族と別れ、

遠くタイで自分らしく生きようと努力するえびみそさん。


何かを捨てる決断は、

誰にでも出来るものではない。


何かを捨てて、

そして得る。


それには、

人生を賭けても良い何かがある。


自分の生き方次第。


捨てるという事。



#105 失ったものと、得たものと。

2022-06-06 12:39:00 | 日記

何かを得るという事は、

何かを失うという事。


何かを失うという事は、

何かを得るという事。


自分は2年前に離婚して、

家庭を失ったが、

自由と失っていた自分らしさを得た。


20年前には、

結婚する事で家庭を得たが、

自由と自分らしさを失った。


国際結婚で、ロシア語能力を得て、

それを仕事に活かして、

職にも、昇進にも活用出来た。


国際的に、世界への扉を開いた。


ヨーロッパにも住む事が出来たし、

見聞と仕事能力を得た。


しかし、

きっと同じくらい失ったものも多かったのだろう。


家庭を失い、


仕事も失い、


財産も無くなり、


全てを失った。


もう無くすものは無いくらいに。


しかし、


新たに海外生活を手に入れ、

自由を手に入れ、

今まで持っていなかった自由になるお金を手に入れ、

自分のマイペースを取り戻した。


自分の価値観で毎日を過ごせるようになり、

やりたい事を決められるようになった。


失うものに怯えたが、

得たものは大きかった。


勉強の楽しさも改めて得られた。


自分の誇りや、

自分の価値を改めて知った。


恐れるものは、それほど無い事も知った。


それまでは、

自分は色々なものを恐れていた。


失う事を恐れていた。


しかし、


失っても大丈夫だった。


自分がいるのだから。


一人でも生きていけるし、

この世界に存在する限り一人にはならない。


得たものと、

失ったもの。