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“ルーニー以来の逸材”に高まる期待。バークリーはW杯でブレイクするか。

2014-11-10 05:26:58 | 日記


(Number Web)


 イングランドは、ブラジル入り直前のテストマッチ3試合を1勝2引分けで終えた。


 しかし、単純に無敗を喜ぶわけにはいかない。W杯前の母国最終戦を飾った勝利(3-0)は格下のペルーから奪ったもの。強化合宿先の米国フロリダ州では、終盤に1点のリードを失ったエクアドル戦(2-2)で、アレックス?オクスレイド?チェンバレンも膝の怪我で離脱を余儀なくされ、ホンジュラス戦(0-0)では、後半は10人になった相手からゴールを奪えなかった。


 しかしながら、国内に悲壮感はない。もともと、チームが世代交代の過渡期にある今大会への期待が低かったこともあるが、長らく「守高攻低」が嘆かれた代表にあって、ロイ?ホジソン監督がプレーメイカーの人選で嬉しい悩みを抱えることになったからだ。


ロス?バークリーが一転させた代表の勢力図。


 イングランドにとってのW杯開幕は6月14日のイタリア戦。基本の4-2-3-1システム採用が予想される先発イレブンのうち、8枠は既に確定したと言える。


 守護神はジョー?ハート。最終ラインは、CBのフィル?ジャギエルカとギャリー?ケーヒルの左右にSBのレイトン?ベインズとグレン?ジョンソン。


 ダブルボランチは、キャプテンのスティーブン?ジェラードと、今季のリバプールでもコンビが機能したジョーダン?ヘンダーソン。同じリバプールで、今季リーグ得点ランク2位の21ゴールを上げたダニエル?スタリッジが1トップ。ここまでが、テストマッチ3試合中2試合でスタメンに名を連ねた8名だ。


 注目は2列目の3枠。ここには、3試合の全てに先発したウェイン?ルーニーがいる。W杯メンバーが発表された時点では、ルーニーのトップ下起用を前提に、チェンバレン、ダニー?ウェルベック、アダム?ララーナ、ラヒーム?スターリングの若手4名がアウトサイドの2枠を争うものと思われていた。ところが、ロス?バークリーの「1.5試合」出場で状況が一変した。


エバートンでトップ下としてブレークしたバークリー。


 今季、エバートンのトップ下として台頭したバークリーは、6月4日のエクアドル戦で代表戦初先発の機会を与えられた。結果は、控え組が中心の顔触れとはいえ自軍最高の出来。前半2分から、敵陣内でボールを奪ってCKへの流れを作り攻撃の口火を切った。14分には、相手DFを背負いながらのバックヒールで、左サイドで先発したルーニーにシュートチャンスを提供。その7分後には、自陣深くでルーズボールを拾うと、2度のスライディングタックルにも耐えてドリブルを続け、好機を演出した。


 実際に得点に絡んだのは後半の51分。ファーストタッチと同時のターンで相手MFを股抜きでかわすと、ドリブルで相手DF3名を引き付けてからのラストパスでリッキー?ランバートのゴールをアシストしている。


 5日前のペルー戦では、チームの順当勝ちとは裏腹にルーニーのインパクト不足が指摘されていただけに、躍動感と存在感に満ちたバークリーのプレーが観る者の目を引いた。


 続く7日のホンジュラス戦では、ハーフタイムを境にルーニーとの交代でトップ下に投入された。ピッチに立って間もない47分、ウェルベックがダイアゴナルランで相手DFの注意を引き付ける間に、ジャック?ウィルシャーとのワンツーからバークリーがミドルでゴールを狙ったシーンは、代表の将来へのビルドアップとも言うべき展開だった。


巷では、ルーニーのベンチ降格説まで……。


 結果として、巷ではルーニーのベンチ降格説まで囁かれるようになった。もっとも、この意見は、「メディアが煽る“バークリー熱”に同調はできない」とホジソンが言うように極端すぎる。


 キーマンであるルーニーをスタメンから外せば、対戦相手が喜ぶだけだ。しかしイタリア戦でも、ルーニーを左サイドで使ってバークリーとの共存を図る手はある。エクアドル戦での左サイド起用は、今季終盤を怪我で欠場したルーニーのマッチ?フィットネスを高めることが主目的だったのだろうが、事ある度にルーニーの「万能性」を強調してきた指揮官には、オプションとしての起用法を試す狙いもあったはずだ。


 実際、トップ下?バークリーとの呼吸は悪くなかった。中盤最深部を主戦場とするイタリアの策士、アンドレア?ピルロの注視はスピードとスタミナに勝る若手に任せ、自身は左サイドから中央へと流れつつ、チャンスメイクに意識と時間を割く役割は、ルーニーの効果的な起用法と言えなくもない。


堅守を好む指揮官の目には守備の課題が。


 但し指揮官は、守備面の働きで次世代のトップ下を信用するには至っていないようだ。「学ぶべきことは多い。ロストボールが目に付いた」


 というエクアドル戦後の厳しいコメントは、“バークリー熱”を抑える狙いもあったには違いないが、基本的に堅守を好む指揮官の本心でもあったはずだ。


 20歳のプレーメイカーは、エバートンでのレギュラー定着1年目だった今季、まずは長所を磨く育成を重視したロベルト?マルティネス監督の計らいにより、守備面の責任を免除されていたと言ってもよい。攻撃志向でもあるマルティネスは、フィジカルに恵まれた体に高度な技術と創造性を秘める逸材に「最終的には一線級のセンターハーフ」という将来像を描いてはいても、「今のロスにはこのポジションが最適」と言って、より守備の負担が少ないトップ下を才能発揮の持ち場として与えていた。


現実的には、ジョーカーとしての出場が濃厚か。


 最終テストマッチとなったホンジュラス戦にしても、実はチャンスよりも先にピンチを作り出しかけている。


 バークリーは後半開始から20秒足らずで、自陣内でのドリブルに失敗して敵のカウンターを招いたのだ。幸い、ジャギエルカの果敢なクリアで事なきを得たが、同じW杯出場国との対戦でも、相手がイタリアなら数的不利の局面からゴールを奪われていたかもしれない。失点は免れたとしても、不用意に譲ったポゼッションを取り戻す難易度はホンジュラス戦の比ではない。


 おまけに、初戦でイタリアに敗れた場合のイングランドには、続くウルグアイ戦でW杯グループステージ敗退が決まるという最悪のシナリオも危惧される。


 となればイタリア戦では、献身的な守備でもトップレベルのルーニーの両脇に、本来はFWだが運動量が豊富なウェルベックと、ハードワークとクリエイティビティの共存をアピールしたララーナが並ぶ2列目が濃厚だ。ウェルベックは恐らく確定で、ララーナもスターリングの出場停止によって、テストマッチ3試合中の2試合に先発起用されている。


 そしてバークリーは、後半の切り札としてベンチスタート。敵の運動量が落ちるはずの後半に、若く攻撃的なエネルギーを前線に注入するという策は理にも適っている。つい先月まで「ルーニー次第」と言われたイングランドにすれば、代替策がベンチに存在するだけでも有り難い状態だ。


10年前のルーニー以来となる期待感。


 とはいえ、無い物ねだりが人間の悪い癖。先発の見込みが薄くなればなるほど、キックオフからピッチに立つバークリーの姿を見たくなってしまう。“スリー?ライオンズ”ことイングランド代表が、敵に牙を剥ける若獅子を連れて国際大会に出陣するのは、ルーニーが世界的に名を広めたEURO2004以来のことだ。


 以降10年分の年輪を重ねたルーニーが、オールラウンドに完成度を高めていることは言うまでもない。だが、荒削りでも本能の赴くまま敵に襲い掛った10年前のルーニーと、時には攻撃力を犠牲にしてチームへの貢献を優先する現在のルーニーとの二者択一で、前者を選びたい心境のイングランド住民は筆者だけではないだろう。例年になく優勝など期待されてもいない今大会は、国際舞台でバークリーを解き放つ絶好の機会であるようにも思える。


 肝心の指揮官は「ボールを持てば積極的に攻めたいが、選手には、攻撃が失敗した場合に備えて後方への意識も常に持っていてもらわなければ困る」と語っている。ルーニーは、守勢に回ればベンチの指示がなくとも中盤で尽力するトップ下だ。一方、攻勢をかけるという観点からは、バークリーをトップ下に抜擢する新たな最強パターンが浮上した。こだわるべきは、敵にダメージを与える可能性か、自軍がダメージを負う危険性の回避か。


 ホジソンの決断は如何に?


文=山中忍


photograph by Getty Images