人工震源でトンネル坑外から前方地山を透視
株式会社フジタ(本社:東京都渋谷区、社長:上田卓司)と株式会社地球科学総合研究所(本社:東京都文京区、社長:内田真人)は、トンネル坑外で機械により人工地震を起こし、前方地山(切羽前方の自然地盤)の地質状況を精度よく把握することに成功しました。別所トンネル新設工事(静岡県浜松市)の掘削に先立ち、掘削開始側坑口において、両社共同開発の地盤に震動を与えその反射波から地質状況を探査する「トンネル浅層反射法探査(SSRT(※1))」を実施し、引き続いての実際の掘削によりその有効性を確認したものです。これにより低コストでの地質の事前調査が可能となり、掘削工事の安全性向上さらには工期の短縮などが期待できます。
人工震源としてバイブレータ(※2)と油圧インパクタ(※3)を使用しましたが、このようなトンネル坑外からの前方探査は、過去に実施事例がありませんでした。
一般的な地質調査法
山岳トンネル工事に先立つ地質調査法として、坑口では鉛直・水平方向にボーリング調査が実施されますが、土被りの厚くなる本坑ではボーリング延長が長くなること等、地上からの調査が限定されるため、調査密度が極端に低くなる傾向があります。そこで施工に際しては、地質情報の不足を補完する反射法などによる弾性波探査を適宜行います。反射法は地盤に人工的に震動を与え、断層や地層境界などで一部反射して戻ってくる震動(反射波)を、直線上の複数の位置で観測することにより、前方の地質状況(硬質・軟質)や断層破砕帯などの脆弱個所の分布を推定する探査法です。一例として震源に発破(ダイナマイト)を用いる探査法(例えばTSP(※4))が挙げられますが、周辺環境への影響や火薬類の使用許可の問題等があり、坑外からの探査には困難が伴います。
SSRTの実績とメリット
両社は、発破以外の震源を用い、150~300m程度前方まで探査が可能な手法として「トンネル浅層反射法探査(SSRT)」を2001年に共同開発し(特許出願中)、これまでに坑内における掘削途中や出口側坑口付近の探査に11件の実績を重ね、以下のメリットを確認しています。
『安全確保』:脆弱な不安定地山を予測し崩落事故を未然に防止
『工程管理』:地山補強区間を事前に予測し補強工法をあらかじめ準備
『品質向上』:適切な支保選定により地山を早期に安定化
『コストダウン』:良好な地山を事前に見極め工期短縮・コストダウン
別所トンネルの特性と新たな試み
別所トンネルは、過去の例から地山崩壊や膨張性等が危惧され、施工時にトラブル発生頻度が高い地質であろうと予見されていました。また一般に坑口付近は、風化・変質した軟弱な地層が分布する場合が多く、さまざまなトラブルが発生しやすいため、詳細な地質調査と地山の工学的な評価が必要と判断されました。
そこで別所トンネルの掘削に先立ち、掘削開始側の坑外からバイブレータと油圧インパクタを震源とするSSRTを適用しました。その探査結果はトンネル掘削時に確認した地山性状とよく一致しており、その実用性を確認しました。また、坑内においてもSSRTにより連続的な地質データを取得し、トンネル全線(延長948m)にわたって探査結果を施工に反映しました。
このことより、SSRTはトンネル工事に先立つ簡易な地質調査法として有益であり、トンネル全線で実施することにより、経済性と安全性を両立した施工に有効であることが確認できました。
次期工事への展開
別所トンネルでの成功を踏まえ、両社は今後掘削を開始する「恋の峠トンネル」(岩手県釜石市、延長343m)においても、坑外からのSSRTを本年6月上旬に実施しており、予測結果を施工に反映する準備を進めています。
(※1) SSRT:Shallow Seismic Reflection survey for Tunnels の略称
(※2) バイブレータ:油圧でベースプレート上部の錘を動かし震動を発生させる装置
(※3) 油圧インパクタ:シリンダー内のピストンをガス圧により加速しベースプレートを打撃することによって震動を発生させる装置(実用新案登録済)
(※4) TSP:Tunnel Seismic Prediction の略称。スイスのAmberg 社開発の探査システム
【別所トンネル工事概要】
工事名称:平成16年度 三遠南信別所トンネル新設工事
工事場所:静岡県浜松市北区引佐町別所~渋川
発 注 者:国土交通省 中部地方整備局 浜松河川国道事務所
施 工 者:株式会社フジタ
工 期:2005年3月15日~2007年11月30日
【恋の峠トンネル工事概要】
工事名称:一般国道45号恋の峠トンネル工事
工事場所:岩手県釜石市鵜住居第26地割から第28地割
発 注 者:国土交通省 東北地方整備局 三陸国道事務所
施 工 者:株式会社フジタ
工 期:2008年3月1日~2009年2月6日
添付資料 (関連資料参照)
・SSRTにおける震動(弾性波)の伝播と反射のイメージ
・別所トンネルにおける坑外からのSSRT探査概念図