
古いアメリカン・ポップスが聞こえていたせいか
「葉書くらいの大きさのスケッチブックを上着のポケットから出して、立ち止まって鉛筆デッサンしている絵描きのオジサンって、昔は、いっぱいいたよね」とイチ子がデッキのベン...

曲名が思い出せない
由比ヶ浜にあるこの古い家はエアコンがない時代の作りなので、夏の日中は家中の窓を開け放てば対流で自然に風が通る工夫が随所に施されている。大昔の木造小学校などと同じく...

コンバースを洗っているのが見えた
水口イチ子は幼稚園の頃からウチの母によくなついていて、夏休みなど、自分の家...

終業式の帰りだったかもしれない
写真をアルバムに整理する習慣が希薄だったせいで、古い写真は、二、三年ごとに小箱に乾燥剤と共に放り込んでおくだけだった。そんな小箱も一箇所にまとめて置かれることはな...

人は、人のものになんてならない
去年の夏、あるカジュアルなパーティーにイチ子とふたりで出かけたとき、グラス半分ほどのシャンペンで気分の良くなったきみが ...

ふたり共いち日中水着のまま過ごすこともあった
八月の海。太陽は南中を過ぎたようだ。砂混じりの風が強い。 カー・ラジオを点けると、AORやシティポップがいつでも聞こえていた頃のことだ。 防波堤下のモータ...

居眠りをしようとしていた
イチ子さんが、半分にした西瓜を縁側に持ち出してきた —— ランチのとき、井戸水を流しっぱなしにして冷やして...

真っ直ぐ歩けない
台風が来ている。 「乗る乗らないは別にして、波の状態だけは見に行こようよ」とイチ子。「乗る気がないならボードは要らないでしょう」「でも、足くらい海につけたいよね...

すっかり閑散としてしまった
監視台は、今日の午後も水口イチ子の定位置。 プールは、お盆休みに入って、...

イチ子の夏
イチ子の夏。