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インドネシアで踊る:国際アートフェスティバルと鈴木一琥

2006-09-22 16:10:07 | 舞踊、ダンス、舞踏、バレエ、日舞
インドネシアで踊る:国際アートフェスティバルと鈴木一琥
                 カワチキララ(美術家)

 8月8日から11日までの4日間、インドネシア・ロンボク島で国際アートフェスティバルが行われました。インドネシア一観光客の多いバリ島のとなりにあるためか、ロンボク島はこれまでその美しい自然以外に特記されることがなかったようですが、今回、インドネシア若手振付家としても注目されてきたラル・スリャというロンボク島出身のダンサーと、ダプル・シアター・ロンボクという劇団を率いるサルマン2人の企画により、ロンボク島で初めて国際現代美術・舞踊のフェスティバルが実現できたのです。オーストラリア、マレーシア、そして日本と、アジア各国のアーティストが招待されました。

 現代の舞踊をはじめて見る観客の反応は、こちらにとっても新鮮でした。40分ほどのオープニングパフォーマンス・鈴木一琥の「鬼」は、常に拍手と笑い(爆笑!)という日本ではあまり体験できないリアクションに包まれました。クライマックスで舞台中央の草の山に火が投じられ、一琥が照らし出されたときは、熱狂的な拍手が続きました。伝統芸能を見慣れている観客には、次に何が起こるかわからないパフォーマンスは不思議だったようです。特に、舞台中央のわらの山が火に包まれ、一琥が照らし出されたときの観客の歓声と拍手は、ものすごかった。能の竜笛やチェロ、世界各国の打楽器をアレンジした、音楽家星衛と「くどうげんた」による音も、好評でした。
 鈴木一琥はすっかり人気者になり、スキンヘッドで目立つこともあって、その後の公演に友情出演するたびに、頭がピョコッと出ただけで「イッコ!?イッコ!」と声援が送られていました。特に子供たちはゆらゆらと揺れながら一琥を見つめていました。

 このフェスティバルはロンボク島の公共施設を使い、政府援助を受けたため、無料で見られます。そのおかげで近くの村から毎晩、山のように子供たちが見に来てくれたことは、とても印象に残りました。最初は叫んだり、「つまらない」とさわいだりしていた子供たちが、最終日には大人に「静かに!」というまでに観客のプロとなりつつあったのは、おかしいような頼もしいような……。図々しく、そして元気いっぱいに跳ね回る、愛すべき子供たちでした。

 他にもメルボルンで活動をしているトニー・ヤップがクロージングに踊りました。そのダンス・パートナーの女性は元大駱駝鑑にいた方だそうですが、今回は彼女は不参加でした。残念! また、マレーシア出身のジャネット・ホーによる、中国系としての自分のアイデンティティについての作品も、面白かった。インドネシアからも、ミロト・ダンス・カンパニーで中心的な役割を担っているアグーン・グナワンが、オランダ人振付家によるダンスを再演しました。彼の鞭のようにしなやかな体を生かした踊りは、とても美しかった。また、鈴木一琥はワークショップを行い、後に選抜されたダンサーと作品を完成させ、発表しました。

 ロンボクの人たちにとって初めての現代舞踊ワークショップは、刺激になったようです。こちらにとっても、伝統舞踊の人たちの独特のストレッチ方法などは勉強になりました。
 インドネシアのダンスシーンで印象的だったのは、自国の伝統舞踊と現代の舞踊が矛盾せずに存在しているところです。他国の伝統舞踊への関心も大きく、日本で神楽を研究している鈴木一琥が「三番叟」を披露すると、スタッフたちが、「秋に国際伝統芸能フェスティバルがあるけれどそっちにも来ない?」と誘うのも面白かった。韓国やオーストラリアの国際舞踊フェスティバルで出会った仲間が、第一歩として集まったフェスティバルでしたが、「今後、公募できるようにしていきたい」と主催者は語っていました。
 インドネシアという国の舞踊への姿勢は、日本にぜひ植えつけたいと思いました。いつか、このような国際交流を日本でできたらいいと思います。本当に素晴らしい体験でした。