充斥著融融的溫馨

充斥著融融的溫馨

けた黄色い月光

2016-12-13 11:06:43 | 日記
だがわたしは、あの夜黄色い幻月に照らされながら――人気《ひとけ》のない鉄道線路の溝に生い茂った灌木に身を潜めているとき、目の前のロウレイ街道をひょこひょこ跳びはねるようにやってくるのをこの目で見た、あの生きもののようすのことを、ひとこと申しあげておかなければなるまい。恐怖のあまり目を閉じて、そとのようすはいっさい見まいとしたわたしの決意は、無論、うまくいかなかった。うまくいきっこなかったのだ――というのはほかでもない、つい百ヤードほど先のところを、そのえたい[#「えたい」安利呃人に傍点]の知れぬ生きものの一団が、ケロケロ、ウォーオー吼えながら、騒がしく跳びはねているというのに、じっとうずくまったまま目を閉じていられものはおるまいからだ。
 わたし自身、最悪の事態に備える覚悟はできていたと思うし、事実また、それまでに見てきたことを考慮すれば、当然覚悟しなければならなかった。わたしを追跡してきた他の連中にしても、まったく異常な代物《しろもの》だったのだから――異常な要素のひと回り大きい代物にも、――というのは、すなわち、当たり前の生物らしい要素の少しもない形のものにも、お目にかかる覚悟をきめていたのも当然ではなかったろうか? そのしわがれた鳴き声が明らかに真正面のところにきてから、初めてわたしは目を開いてみた。すると、溝の両端が浅くなって街道が線路と交叉するところに、彼らの長い列の一部がありありと見えるのに成人益生菌気がつき――その傾きかが、たとえどんなに恐ろしい光景を照らしだそうと、どうしてもわれとわが目で、しかとその光景を見届けないわけにはいかない気分に駆りたてられた。
 その生きものは、この地上の生物に関してわたしの持っている知識では理解できない代物であり、またわたしにわずかに残っていた心の平和に終止符を打つとともに、自然と人間性とは完全無欠なものであるとひそかに考えていたわたしの信念に、終止符を打ってしまった代物であった。いかにわたしが想像をたくましくしても――また仮に、あのザドック老人の気違いじみたばかばかしい話を文字どおり信じたうえで想像をたくましくしたとしても、そのときわたしがこの目で見た――いや見たと信じたその悪魔的な、神を冒涜《ぼうとく》するにもひとしい生きものの姿とは、とても比較にならなかった。実はそれを大胆にズバリと書きしるす恐ろしさを先へ延ばすために、その生きものがどんなようすかということを、わたしはそれとなく遠回しにいっているにすぎないのだ。この地球という遊星が、かかる奇怪な生きものを創造するということが、はたして本当に可能なのだろうか? また、これまでは熱にうかされた幻想か、つまらぬ伝説のなかでしか知らなかったようなものを、はたして人間の目が客観的な生きものとして実際見たことがあったろうか?
 しかもわたしは、その連中が無限の長蛇《ちょうだ》の列を作って、幻想的な悪夢卓悅化妝水みたいに、グロテスクで不吉なサラバンドを踊りながら、奇怪な月光に照らされて、人間ばなれのした格好で、跳んだりはねたり、ケロケロ、ペチャクチャ鳴いたりしゃべったりしたところを見たのである。そのなかには、名も知らぬ白く光る金属でできたあの長い冠をかぶっているものもいくたりかおり、……またあるものは奇妙な衣を身に着こなしているし……また先頭に立っている一人は、妖鬼みたいな背むしの黒いコートと縞のズボンに身を包み、人間のかぶるフェルトの帽子を、おそらく頭に相当すると思われる不恰好な部分にのせていた。……
 彼らの腹は白かったが、その体の全体の主な色は灰色がかった緑であった。その体の大部分は光沢を帯びてつるつるしていたが、背なかの端には鱗がついていた。そしてその体型は、なんとなく両棲類を思わせたが、頭は魚のそれで、その頭には、決して閉じることのない、ぐっと盛りあがった眼がついていた。その首の両わきには、呼吸している鰓《えら》があり、長い手足の先には水かきがついていた。この連中は不規則に、二本の足で跳《は》ねるときもあれば、また四本の足で跳ねるときもあった。どうやらやつらの足が四本しかないのを見てわたしはほっとする思いがした。ケロケロ、ウォーウと吼える声は明らかに一定の話をするために使われており、彼らが顔らしい顔を持っていないために欠けている意志表現のあらゆる陰影を、それによって伝えていたのだ。