ベテラン講談師の神田愛山氏の短編小説です。
氏いわく「倅をヤクザな稼業(講談師)にしてしまった
母の死を克明に残しておきたかった……。
それだけの思いで書きました」とのこと。
《独演会を2日後に控えた主人公に、
『母の余命が一週間』の知らせが届く。
独演会当日に母は亡くなる。
後輩たちにどんどん追い越され、
アルコール依存症に冒されていた主人公。
治療のため、故郷に強制送還された
彼を優しく包んでくれたのは母親だった。
そんな母親の葬儀が終って、安アパートに帰った
彼は、折りたたみのテーブルに菓子と
水を入れた湯呑みを置いて、
ダンボールをちぎって母の戒名を書き偲んだ》
身近にありながら、縁の下の力持ちといった
「ダンボール」という言葉の響きに、
売れない芸人の切なさや貧しさが漂う自伝的小説。
現在の愛山氏は、アルコ-ル依存症を克服し、
人気の神田伯山氏とのネタおろしの会を継続中。
「清水次郎長伝」「双蝶々廓日記」など古典講談だけでなく、
新作の講談を多数生み出している二刀流。
とくに「講談私小説 品川陽吉伝」シリーズは、
挫折を繰り返し酒に溺れる主人公に
自身の体験を託した自叙伝であり、
現代講談の新しい試みとして注目されている。
現在の活躍に天国のご母堂も
ホッとしていらっしゃるだろうか。