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国際会計基準「包括利益」、純利益と並列開示容認に思う

2005-11-18 | 会計・株式・財務
久々に会計ネタです。
これは17日の日経夕刊に載っていた記事ですが、非常に重要です。
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■「包括利益」、純利益と並列開示容認・国際会計基準理事会■

世界約100カ国で利用されている国際会計基準(IAS)を作る専門家組織は16日、
保有株など資産の時価評価を反映する「包括利益」と呼ばれる
新しい業績報告書の導入に際し、現行の損益計算書との並列開示を
容認することを決めた。
包括利益に開示の1本化を目指してきたが、
純利益を経営指標として重視する欧州や日本の産業界に配慮した。

16日の国際会計基準理事会(IASB)で合意した。
公開草案の開示を経て2007年にも導入を目指す。

IASBは包括利益の導入が
「本業の収益力と資産の健全性の総合開示につながり、
企業実態の透明性も高まる」とみている。
ただ欧州や日本では損益計算書の最後に表示される純利益が経営指標として
重視されており、産業界が1本化に激しく抵抗。
IASBは包括利益の早期導入を優先して、
企業が1本化か並列開示を選べる妥協案を盛り込んだ
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(コメント)
まず「包括利益」とは何ぞや?というところから。
正確ではありませんが大まかに言いますと、
資産と負債を時価評価して、株主資本の増減額を損益として、純利益に加えて算出する、というものです。

包括利益=当期純利益+(為替差損益+株式等の含み損益+デリバティブなど金融商品の
再評価損益+不動産の含み損益など)

これをすることにより、企業側に決算の操作余地を与えない、としたのがIASB。

しかし、これには大きな問題があります。
一般的に指摘されていることを書きますと、こういうことです。

①企業の業績指標として会計情報の価値が小さくなってしまう.
本業のもうけがわからなくなる。
上の式のように、企業の経営努力による成果と外部環境変化による効果とが
区別されず混在してしまいます。

②原則、全資産を対象に毎期評価を正確に実施することは、
困難であるうえコストもかかる。
時価評価方法いかんでは、かえって経営者の恣意性が働く余地を与えかねない。

③包括利益が導入されることで、資産価格等の変動を通じて個別企業だけでなく、
各国経済の撹乱要因となる懸念すらある。
 また感覚的ですが、このような市場連動型経済が深化すればするほど、
 景気の振幅も激しくなり、バブル、あるいはクラッシュ(大暴落)に陥りやすくなる。 

まぁ、とにかく日本の主張もやっと受け入れてくれたようで、少しホッとしています。
でも欧米の基準が「選択制」で足並みを揃えている点は確かに気になりますけど。


以前にも書きましたが、私は、
一連の国際会計基準の根底にあるのは、
「M&Aをしやすくするための会計基準の改定」であると見ています。
のれんの非償却、各種時価会計の導入もしかり。

では、包括利益が採用された場合も、これに当てはまるのか?
現在でも、企業は持ち合い株に生じている含み益を実現させることで、
当期純利益を調整することは可能です。
しかし、包括利益が採用されるとそれが意味をなさなくなりますし、
一段の資産効率化を迫られ、さらに売却が加速する可能性はあります。

・・・・・ということは、
それだけ市場に浮動株が出回りますので、買収しやすく(されやすく)なる。

やっぱり、M&Aしやすくする方法かも知れませんね。
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