《雛菊*雑記》

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『酒は飲んでも飲まれるな』【by『青春~キセル』】

2007-07-16 | ++ShortShort++
 ある時フと、そういえば酒に酔っ払ったセンパイって見たことないな…と思い立った。
 まあ…もともとからして“飲む”人じゃないんだけどさ。自ら『お酒は好きじゃない』とバッサリ言い切っちゃってるくらいだし。
 とはいえ、何回か酒の席を共にしているうちに判ってきた。


 センパイは、決して“酒に弱い”っていうタチじゃない。――ということ。


 本人の言う通り、ただ『好きじゃない』から“飲まない”、というだけのことなのだ。
 全く“飲めない”というワケじゃなく、飲む時は人並みに飲んでいる。
 …いや、場合によっては“人並み以上”は平気で飲むかもしれないな。…“飲み放題”とか付いてると特に(苦笑)
 ケロッとしたカオで普通に『モトは取るわよ、アタリマエじゃない』なんて言いつつガッツリいけるクチだからなー。
 でも本人曰く、それでも『付き合い程度にしか飲めない』んだそうだ。…日本語ってベンリだな。
 またセンパイは、同席する相手によって…だが決して押し付けがましくなく、あくまでも“それとなく”で相手に合わせた飲み方や食べ方に変えられる人、でもある。
 同席したのが全く飲めない相手なら自分も全く飲まないし、相手が飲むなら付き合いで自分も飲む。
“飲む”より“食べる”方が好きな相手となら、自分もそれに乗っかって“飲む”より“食べる”がメインになる。
 センパイにとっちゃー、しょせん酒なんて飲んでも飲まなくてもどっちでも構わないモノだからな。
 なもんで、そういうスタンスが、センパイはわりとキッパリハッキリ、しているのかもしれない。
 つまり、同席してる相手に合わせるのが上手い、要は“ケース・バイ・ケース”というものを心得てる、ってことに尽きるのだろう。
 でもそれは、決して意図的にしていることではなく、おそらく本人は全くの無意識、なんだと思う。多分。


 そんな、普通の自然体で小器用なセンパイだからこそ、――だから絶対、酒に乱れた姿なんて見せないんだよなー誰にも。


 そういう人だから、酔っ払って我を忘れて連れに迷惑をかけるハメになる、って事態になるのが、きっと自分自身で許せないのだろう。
 だから飲んでも、ほどよく酔いが回ってきたところで、ちゃんと自分自身で“打ち止め”をかけられる。
 また、飲みながらでも、ちゃんと“帰りのこと”とか“明日のこと”とかを考えてる。


 ――そういうカシコイ人間ほど、ひとたび酔わせてみたらどうなってしまうのか……そりゃー興味も湧いてくるってーモンだろう?


 それならば、…じゃあ逆に考えてみよう。
 明日の予定も無く、帰りの電車の心配をしなくてもよい、となったならば……どうだろう。
 心配の種さえ取り払えれば、いくら日頃カシコく飲む人間だって、心置きなく我を忘れるまで酔える、ってーモンじゃないか?


 ――だったら話はカンタンだ。


 それで俺は、センパイに酒を飲ませるべく、いっちょ企んでみることにした。
 普段から俺が「飲みに行こう」と誘えば、よっぽどの予定でも無い限り大抵はOKしてくれるセンパイのこと。
 OKの返事さえ貰えれば、後は容易い。
 日については、さりげなくセンパイの予定を聞きだして、仕事も予定も何も無い休日の前日にセッティングする。
 でもって約束する時間は夜。飲む場所は店じゃなく俺んち。
 …これなら自然な流れで“泊りで朝まで”コースになる。
 ここまで上手くいけば、後はセンパイに気持ちよく普段以上の酒を飲んでもらえればいい。
 ま、そこらへんについてはノープロブレム。
 自他共に認める煽て上手で乗せ上手な口八丁の俺にかかれば、酒の一杯や二杯や三杯や四杯、飲ませるなんてチョロイもんだ。


 となれば、あと必要なのは……わざわざ俺んちまで呼び付けて飲まなきゃなんない、尤もらしい“口実”だけ―――。


「あのさ、センパイ。今度の土曜って朝イチ講義が休講って言ってたじゃん?」
「そうなのー、おかげで土曜日は夜までポッカリ予定が空いちゃった。ラッキー♪」
「そしたら、さ……前の日の金曜の夜、久し振りに飲まない? 俺も土曜日空いてんだよね」
「いいよ、久し振りだしね。でも私、金曜日って夜までバイトで……」
「うん、だから、仕事終わったらウチおいでよ」
「え、前田くんちに?」
「そう。夜から店行っても帰りの手段考えなくちゃなんないだろ? でも、次の日なにも無いんなら帰る必要も無いし。そのまま泊まってけばいいように、ウチで飲もうよ?」
「ホント? そしたら、お言葉に甘えちゃおうっかなー……?」
「じゃあ決まりってことで! …あ、酒代は心配しなくていいからね」
「え!? それって前田くんのオゴリってこと!?」
「実は、ちょうど発泡酒とか大量に貰ったばっかでさー。それがまだ手付かずでウチに残ってるから」
「うわーい、タダ酒やっほーっ♪」


 …まさに計画通りだ。
“酒なんて飲んでも飲まなくてもどっちでも構わない”っつー相手を釣るに、タダ酒ほど有効なエサは無いだろう。
 これでセンパイは俺の手の中。
 まさに思惑通り、順調に事が進んでる。
 いやーマジ楽しみだなー酒で乱れるセンパイの姿。
 あんなことしてこんなことしてー…と、色々な妄想が膨らんでは止まらない。
 ――あーもう、ホント、いったい何してやろうかなーっ……!


「じゃあ当日は、センパイが来るまでに何か飯になるよーなもん軽く作っとくから」
「じゃあ私は、行く途中で、おつまみとかお菓子とか適当に買ってくねー。でも一応、ミキちゃんにも頼んでおいて」
「―――はい……?」
「だから、ミキちゃんにもおつまみとかお菓子とか適当に持ってきてねーって……」
「な、なんでそこでミキが出てくる……」
「えーだって前田くんちで飲むんでしょ? だったら、どうせミキちゃんも一緒でしょ? 隣にいるんだし」
「…………」
「“3人で”飲むなんて、ホント久し振りだよね! ちょー楽しみーっ♪」


 ―――って、そうきたかチクショウ……。









◆『青春18片道切符~ただいまキセル恋愛中!~』
…まさしく〈策士、策に溺れる〉ってカンジ?(笑)
貴史のコッソリ失敗談。
だいたい本編終了後から1年以内、ってトコでしょうか。
まだみんな大学生の頃のエピソード。