今まさに角を曲がろうとした、その俺の目の前を。
軽快な足取りで月乃が走って通り過ぎていくのが見えた。
朝っぱらからよく動くヤツだな…と思いながら、俺もそのまま角を曲がり、進行方向に遠ざかる彼女の後ろ姿を認める。
…と同時に、突然ヤツが前方へつんのめったと思ったら、地面へ派手に転がった。
さっきまで走ってたからな、そりゃあもう、まるで“ベシャ”とでも擬音が付きそうなホドの威いの良さで。
――相変わらず粗忽者だよなコイツ……。
とりあえず身体は起こしたものの、あの勢いだ、やはり相当強くぶつけたようで。
膝を抱えて地べたへしゃがみこんだまま小さく肩を震わせてうーうー呻いているのが、ヤツの背後を歩く俺にも手に取るように分かった。
「…だァから常日頃から言ってるじゃねーか、そもそも前方不注意なんだよオマエは」
それを言ってみた途端、えっらい勢いで月乃がコチラを振り返る。
どうせ誰にも見られてないとタカくくってたんだろう。すぐ後ろに人が…しかもよりにもよって自分の知り合いが居たってことが、さも意外だったようで。
こちらを見上げて俺を俺だと認識したと同時、「なっ…!!?」とヒトコト言葉にもなってない言葉を発したまま、酸欠の金魚のように口をパクパクさせながら絶句。
なおかつ、派手に転んだ姿を見られたのが恥ずかしかったんだろう、その頬がぱーっとみるみる桜色へ染まってゆく。
「ぶつけたの膝だろ? 怪我、大丈夫か?」
「す…すばる……!」
「派手にスッ転んでたみたいだけど……ま、オマエのことだから受身くらい取ってたよな? 心配するホドでもねーか」
「…………」
ほらよ立てるか? と、そうやって月乃を見下ろし手を差し伸べた俺、だったが。
――あれ…? と思う間も無く、ふいに身体が傾ぎ、そのまま勢い良く地面に倒れこんでいた。
「あははははははは、いい気味ーっっ!!」
それは紛うことなく……そう無様に転んだ俺を見下ろして高笑う、このオンナの足払いが気持ちよく決まったからに、他ならない―――。
「右の頬を打たれたら左の頬も差し出せ! アタシが転んだらテメエも転べ! このアタシに手を貸そうだなんてなァ10年早いんだよ愚か者ぉおおおおっっ!! キサマなんぞ道連れにしてくれるわ、あーはははーっ!!」
「…………」
――なにそれ…? だから、助けようとした人間に対するこの仕打ちって、一体なにそれ……?
顔を真っ赤にしたまま「アンタこそ無様に這いつくばってるのがお似合いよ!」と言い捨てるや否や更に高笑いながら逃げるように去ってゆく、――そんな月乃の後ろ姿を地面に転がったまま眺めながら。
つまり…と、そのまま俺は深々とタメ息を吐く。
――いくら“照れ隠し”っつっても、限度を知れ限度を……。
転んだ姿を見られたことが、そーこーまーでっ! 恥ずかしかったらしい。どうやら。
…とはいえ、仮にもオンナなら可愛く恥じらってみせるくらいしろっつーんだよな、まったく。
いい加減、そろそろヤツ独特の行動パターンは把握していたつもりではあったものの……よもや、このシチュエーションでこう来られるとは。
まだまだ俺の認識は甘かったようだ。
アイツには、普通一般のオンナノコに対する常識が通用しねえ。
とりあえず、後からヤツを捕まえて素直に謝らせるまでガッチリ相応の報復を与えてやらなくては、――と。
再び深くタメ息を吐き出しながら、俺はようやく身体を起こしたのだった。
◆『Boys, Be Ambitious!』
本編より後のエピソード。
たぶん…だいたい2人が出逢ってから
1年くらいは経った頃、あたりだと思われ。
だいぶ気心も知れてるカンジになってきました(^_^)
軽快な足取りで月乃が走って通り過ぎていくのが見えた。
朝っぱらからよく動くヤツだな…と思いながら、俺もそのまま角を曲がり、進行方向に遠ざかる彼女の後ろ姿を認める。
…と同時に、突然ヤツが前方へつんのめったと思ったら、地面へ派手に転がった。
さっきまで走ってたからな、そりゃあもう、まるで“ベシャ”とでも擬音が付きそうなホドの威いの良さで。
――相変わらず粗忽者だよなコイツ……。
とりあえず身体は起こしたものの、あの勢いだ、やはり相当強くぶつけたようで。
膝を抱えて地べたへしゃがみこんだまま小さく肩を震わせてうーうー呻いているのが、ヤツの背後を歩く俺にも手に取るように分かった。
「…だァから常日頃から言ってるじゃねーか、そもそも前方不注意なんだよオマエは」
それを言ってみた途端、えっらい勢いで月乃がコチラを振り返る。
どうせ誰にも見られてないとタカくくってたんだろう。すぐ後ろに人が…しかもよりにもよって自分の知り合いが居たってことが、さも意外だったようで。
こちらを見上げて俺を俺だと認識したと同時、「なっ…!!?」とヒトコト言葉にもなってない言葉を発したまま、酸欠の金魚のように口をパクパクさせながら絶句。
なおかつ、派手に転んだ姿を見られたのが恥ずかしかったんだろう、その頬がぱーっとみるみる桜色へ染まってゆく。
「ぶつけたの膝だろ? 怪我、大丈夫か?」
「す…すばる……!」
「派手にスッ転んでたみたいだけど……ま、オマエのことだから受身くらい取ってたよな? 心配するホドでもねーか」
「…………」
ほらよ立てるか? と、そうやって月乃を見下ろし手を差し伸べた俺、だったが。
――あれ…? と思う間も無く、ふいに身体が傾ぎ、そのまま勢い良く地面に倒れこんでいた。
「あははははははは、いい気味ーっっ!!」
それは紛うことなく……そう無様に転んだ俺を見下ろして高笑う、このオンナの足払いが気持ちよく決まったからに、他ならない―――。
「右の頬を打たれたら左の頬も差し出せ! アタシが転んだらテメエも転べ! このアタシに手を貸そうだなんてなァ10年早いんだよ愚か者ぉおおおおっっ!! キサマなんぞ道連れにしてくれるわ、あーはははーっ!!」
「…………」
――なにそれ…? だから、助けようとした人間に対するこの仕打ちって、一体なにそれ……?
顔を真っ赤にしたまま「アンタこそ無様に這いつくばってるのがお似合いよ!」と言い捨てるや否や更に高笑いながら逃げるように去ってゆく、――そんな月乃の後ろ姿を地面に転がったまま眺めながら。
つまり…と、そのまま俺は深々とタメ息を吐く。
――いくら“照れ隠し”っつっても、限度を知れ限度を……。
転んだ姿を見られたことが、そーこーまーでっ! 恥ずかしかったらしい。どうやら。
…とはいえ、仮にもオンナなら可愛く恥じらってみせるくらいしろっつーんだよな、まったく。
いい加減、そろそろヤツ独特の行動パターンは把握していたつもりではあったものの……よもや、このシチュエーションでこう来られるとは。
まだまだ俺の認識は甘かったようだ。
アイツには、普通一般のオンナノコに対する常識が通用しねえ。
とりあえず、後からヤツを捕まえて素直に謝らせるまでガッチリ相応の報復を与えてやらなくては、――と。
再び深くタメ息を吐き出しながら、俺はようやく身体を起こしたのだった。
◆『Boys, Be Ambitious!』
本編より後のエピソード。
たぶん…だいたい2人が出逢ってから
1年くらいは経った頃、あたりだと思われ。
だいぶ気心も知れてるカンジになってきました(^_^)