同点一位 存本商店
『るるぶ』や『じゃらん』や『タビハナ』で今回も旅の予習をしていると、犬島のページでこの「存本(ありもと)商店」さんが紹介されていて、横に商店主の存本桂子さんの写真が掲載されていたんです。名物の犬島丼の他にも、お土産の「犬石くん」や「犬ガチャ」が可愛らしくて、寄ってみたいなと思っていました。が、偶然犬島に向かう定期船の中で隣に乗り合わせて、私は存本さんとわからなかったのですが、ローザが気づいて話しかけたところ、ご本人とのことで大いに話が盛り上がって、船内で「ぜひ行きます」とお約束していたんですよ。
犬島到着が11時で、真っ先に犬島製錬所美術館に向かい、その後に家プロジェクトを一通り見た後で、定期船乗り場に向かう道を歩いていると、存本商店に向う道で存本さんと出会い、お昼時が終わったところだったのでご自宅に向かわれるところだったのですが、急いでお店に戻ってくれて、お料理とご接待をして頂けました。
家プロジェクト鑑賞中だったローザの携帯に店内から電話して、在本商店に呼び寄せました。二人ともお昼は、在本さん推薦の「犬島丼セット」@1,000円。犬島名物のドンブリ(舌平目の骨ごとミンチを使った素朴な味わい)と、ゲタ(舌平目)の唐揚げ。
これに天草で作ったコーヒーゼリーが付きます。それと、犬島では歩きの旅行だったので、缶ビール等の飲み物を注文。 ゲタの唐揚げと、ビールの苦みと滑らかな泡立ちのコラボが良く合います。
そして、ココがポイント 在本商店では、お食事中に、在本さんの「犬島学」レクチャーが始まるんです。在本さんは、犬島関連の本やDVDを出されており、新聞で連載などもされています。
本や記事のスクラップの見どころを紹介してくれたり、流してくれるDVDの解説をしてくれたり、また壁には犬島の地図を掛けているのですが、学校の先生が使用する支持棒を出してきて所どころ指し示しながら、犬島の色んなお話をしてくれる姿は犬島学の教授さながら。
お蔭で私とローザも、店内にいた約一時間半で、すっかりプチ犬島博士に。また、犬島の歴史的な沿革や地理の話以外にも、犬島製錬所美術館を誘致した時の話や、ベネッセ会長の福武総一郎さんのお話、瀬戸内国際芸術祭にまつわるアーチストの方々の話から、『西部警察』のロケに来られた石原プロ、また犬島に島アートで話題になってから来られた色んな芸能人の話など、盛りだくさんに展開する面白いトークの数々には、聞いているこちらの興味が尽きません。
犬島関連のお話では、犬島では現在のところ島民が50人で、40人が70~80代、という現実が一番考えさせられたでしょうか。来る時の駐車場も、領収書に「宝伝老人クラブ」という印が押されていました。
在本さんも、23年前から、高齢化に歯止めが止まらず、学校が閉鎖して子供がいなくなっていく犬島の行く末に危機感を感じ、犬島の島おこしのための色んな活動に立ち上がったそうです。
犬島では、在本さんの他にも、印象的な元気なシニア世代の方々に出会いました。
犬島製錬所美術館の出口で、お客さんに色々と犬島関連の話を精力的にしてくれる「サチさん」(ローザは他に少し日本語のできる英米人の男性と二人で、この人の話を30分ほど聞いたそうです)。
また、私が家プロジェクトのA邸「リフレクトゥ」という作品の前で写真を撮っていると、「お姉さんイイもん見せたげるけん、こっちおいで」と、チャンチャンコを着た人懐こい笑顔のおじ様に手招きされたので納屋の中に入っていくと、そこはおじ様の秘密基地。私の腕ぐらいある大きなコイが、7匹くらい泳いでいる「元銭湯」跡がありました。傍らに、時代物のオーディオが置いてあって、上にファイルがあり「『西部警察』って、知っとう?」と、渡哲也や石原プロの芸能人の生写真なども見せていただきました。
しばらくお話しして、残りの家プロを一通り鑑賞して港に向かうと、また船着き場の日陰のベンチにおじ様が座っているんですよ。「お姉さん、まあココに座られぇ」と横のベンチを勧めてくれたのですが時刻はもう昼の2時、在本商店に行ってお食事休憩を取りたかったので、お誘いに少し心は揺れたのですが、丁重にお断りしました。犬島は石の名産地で知られ、おじ様は元石職人とのことですが、曇りのない瞳でとてもいい笑顔の持ち主なんです。私がおじ様世代になった時に、あのような屈託のない笑顔を誰にでも向けられるか。シニア世代のパワーは犬島のあちこちで感じました。
とは言え、島民の8割が70~80代。これは犬島だけでない、高齢化は日本全体の大問題ですが、誰しも避けて通れない真剣な問題なので、自分なりに解決策を探し出していくしかないな、と思っています。
お土産は当初の予定通り、ローザも私も「犬石くん」@1,000円と「犬ガチャ」@200円(中身は缶バッジ)を楽しみました。犬石くんは手のひらに乗るサイズですが、最近は石堀職人さんが数えるほどしかいないので、このお値段は良心的な設定だそうです。
立ち去りがたかったですがお店を出るときに、島全域を回られるといいですよとのアドバイスを頂戴して、在本商店で自転車をお借りして犬島をグルッと一周することにしました。
犬島海水浴場の芸術大学の学生の作品『スケッチ』です。実際にこの石造りの椅子には座れます。
犬島自然の家近くにある、備前焼の『犬島の島犬』も鑑賞しました。 見ての通り、建物の一階を塞ぐような大きさです。
自転車を返す時に、在本さんのご自宅を教えて頂いていたので、一言ごあいさつに上がると、家の前は犬島の石のテーブルとイスが置かれ、玄関入ったところの広間は私設図書館みたいに色んな本でいっぱい。本物の犬島・家プロジェクトだと思いました。素敵だなと思ったのですが、個人の邸宅ですので撮影は申し出ませんでした。
5月でも自転車で全周4キロの、坂道も多い犬島を西日に照らされながらこいで周ると、汗だくになります。私の汗まみれの顔を見るや、存本さんは台所に入ったかと思うと「氷水でいい?」と言って運んできてくれました。自然な気遣いと言う甘露がたらされている氷水は、とても美味しかったです。
写真は、宝伝港の駐車場から、犬島(右上に見える、大煙突が2本立っている島がそうです)をバックに、私が連れて帰った一匹の犬石「キャサリン」と、犬ガチャで当たった、ピンクの瀬戸大橋の缶バッジです。キャサリンは石製だから、石造りの防波堤の上に置くとなじみますね。
面倒見が良くて包み込むような愛情の存本さん。「島のお母さん」」と呼ばれているらしいですが、確かに犬島に再生の命を吹き込んだという意味でも、そして元々の温かいキャラクターにおいても、この呼び名はピッタリだと私も思います。
有本さんは元より、鯉(コイ)のおじ様や、仕事熱心なサチさん、それから家プロジェクトで写真を撮って回っている時も、地元のシニア世代の人に「いいお写真撮れてますか?」と気さくにお声掛けいただいて、犬島ではそこに住む皆さんのあたたかい人柄に惹きつけられました。ローザも同じことを言っておりました。
今回の旅では、犬島製錬所美術館と同じく、上述の犬島気質の象徴であるような「存本商店」を、堂々の同点一位にさせていただきます。