煩的ひとりごと

定期更新型ゲーム False IslandについてPL視点から呟きます。
煩悩が人より多いらしいです。

前期 最終回日記 「終わらない旅」

2007-04-28 09:21:01 | 偽島2期日記(PC視点)
「探索25日目」

(日記。数ページ白紙が続いていた。僅か、何かで濡れた痕があるのみ。
 以下、視点変更。)



少年はただ、立っていた。

春を喜ぶ風が舞い、雲が唄う、その空の下で。

見上げる先には、青い空。



少年はただ、立っていた。

己に期する希望、行く手を阻む現実、その中に。

俯けば、無機質な床を染める自らの影。




孤独。

彼の孤独は、真の孤独ではない。

彼が知らぬ間に支えられ、彼もまた誰かを支えている。




しかし大きな絶望に気づいた時、ささやかな孤独が彼を包んだ。

人は、常に絶望と闘う者。

齢十五、彼はその場へ足を踏み入れた。



早きか遅きか、それは問題ではない。

この絶望は、今島にいるもの全てに与えられたものでもある。



それでも。

彼の流す涙に、偽りはない。

胸を去来する言葉。



檸檬を愛する女剣士。

「もうこの島ともお別れだってのに」



蜥蜴の姿をした勇者。

「コれでオわカレにナるかモしレマせん」



飄々とした青年。

「今度この島を出ることになったので」



自分に与えられた立場と葛藤する青年。

「俺は一度、ここを出て自分がやりたい事を探してみようと思う」




少年は、初めて気付く。

出会いと別れは同意義なのだと。

この世には、如何ともできぬことがあるのだと。

これが、絶望だと。




空は、いつしか朱に染まり。

なだらかな冷気が、少年の肩に触れる。

いつまで安易な絶望に浸るのか、と。

人は皆、それと闘っているのだ、と。

お前だけが特別なのではない、と。




少年は、吼えた。

この世の何かに向けて。

崩れ落ちる、影。



静かに、闇の帳が降りる。

心の嵐は、より深い暗闇へと落ちるのみ。



理解していたつもりであった。

だが、現実とはかくも隔たりがあるもの。



己は、何を知っていたというのか。



不死者の血を身体に宿す少女。

「…でも、エゼくんのことを一番気に掛けてくれてるのもあの人だよ」


ふつふつと湧く感情。それは怒り、反発、自尊。そして――――喜び。



もてあます心。未だ経験せぬ、感情と感情の衝突。

制御しているようで、実は制御されているのか。

心のどこかに、巨大な化け物が棲んでいるのではないか。

にやり、とほくそ笑んでいるのではないか。



叩きつける拳。


床を冷徹に打ち、響き。然れど床は、ただ床であり。

流れる血。走る痛み。拳は、ただ拳であった。

ある種の虚無感が満ちる。



帳に隙間なく覆われた空。

惨めに這いつくばった背中。



突然、光が射し。

隠れていた月が、帳の綻びから顔を出した。

舐めるように鼻を近づけていた床も輝いたように見え。

幼き時の記憶が脳裏を貫く。



平気で殴る父に、少年が泣きながら訴えたあの日。体中に痣。

「泣く暇があったら鍛えとけ。身体なぞ痛いうちにはいらねえ」

唇を噛締める。怒りと、悔しさと、わからない何かが戦っていた。

「いいか。お前もいつか、誰かを守る時が来る」

「俺にできるのは、その時後悔しないようお前を強くすることだけだ」

少年が疑問を口にしようとと思った瞬間、頬を叩かれる。

「もし俺が弱けりゃ……お前は生まれていない。それだけは、忘れるな」

「だから身体の痛みごときで泣かなくなるまで、殴り続けてやる」

直後、首筋に手刀が振り落とされる。沈む意識の中、口の中に血の味が広がった。



それは、明るい月夜のこと。

その前も、その後も、ことある度に少年は殴られた。

1度寝込みを襲ったが、返り討ちにあう。

声も出なくなるまで殴られ、以来試したことはない。

いつしか涙は出なくなっていた。

涙の代わりに育てた、父親への激しい感情。



しかし、今。感じるものはどの痛みよりも鋭く、胸を抉る。

いっそ父親に殴られ、痛みで全てを忘れたいと願う。



「あまりクヨクヨ考えすぎはいけないデスよ?」

ふ、っと笑われた気がした。急ぎ顔をあげるも、周りに気配はない。

神出鬼没の母親。自分には、いつも優しくしてくれた。


優しい木々に囲まれた日々。

1月も経たないはずなのに、酷く懐かしい。

帰ろうか。帰って、しまおうか。


「いや…!」

少年は、激しく頭を振った。

まだ、終わるわけにはいかない。

そして、まだ終わってもいない。


急に、なにか別の感情が強くなってきた。

怒りでも悲しみでも喜びでもない。


それは、焦り。

何かを為すには、無駄な時間などない。

膝をつき、手に力をこめた。

すっくっ、と立ち上がる。


もちろん自分の感情を御したわけではない。

未だ胸の中では多様なものが燻っている。

しかし、本能的に――或いは叩き込まれたものか――礼を欠くことへの怖れが先立った。

何も言わずに別れることはできない。

ただ、その一念が身体を動かした。走れ、エロス。



ここで少年は、ようやく気付く。頬がひどく不快なことに。

触れれば、涙でべたついていた。

手甲で拭くと、抵抗があり痛い。

しかし今は、その痛みが心地よくさえ感じられた。

いつしか、月は再び雲に隠れ―――



少年の旅は、まだ終わらない。