(探索3日目)
かん、かん、かん、かん………
絶え間なく響く、槌の音。
振り上げては降ろす。時折火花が散る。
薄い闇の中にランタンの光、そして不思議な光。
火花は三つの色彩に混じって溶ける。
かん、かん、かん、かん。
また火花が生まれる。
それは金属と金属とがぶつかる音。
そう、僕は今金属を補修しているところ。
それも単なる金属ではない。
ケイロンさんの身体の一部……いわゆる装甲。
材質は鋼のようだけれど、内部から不思議なエネルギーが漏れていた。
この力には覚えがある。属性霊の力の1つ、光霊の力。
不思議な感覚だった。槌を振るうたび、光霊の力と鋼が混ざりあってケイロンさんの身体になってゆく。
鋼自体に生命はない。しかし、今目の前にある金属には―――確かに生命が宿っていくんだ。
ケイロンさんは、胸・右腕・左後足に深いダメージを負っていた。
激しい戦いの痕。
でも、僕は知っている。
その胸の、腕の後ろには、守るべき存在があったこと。
傷つき倒れた歩行雑草の少女、アルクさんをかばって戦った結果の傷だということを。
幸い、アルクさんはエニシダさんの治療で大事にはいたらなかった。
エニシダさんこそ緊急の治療が必要だったのに、力を振り絞ってアルクさんの手当てをしたんだ。
女性・子供を助けるのは万人の――万機の仕事、とケイロンさんは仰った。
そうだ。誰もがそうであるべきだ。弱き者の盾として。
そしてエニシアさんもケイロンも、そう行動した。
お二人は強い。力も―――何より、心が。
でも、そうじゃない人だってたくさんいる。誰もが強いわけじゃないんだ。
だから僕には、万機――という言葉が、とても綺麗に聞こえた。
この万には、全ての、という意味と同時に万の味方に値する……
そんな誇りが詰められているんじゃないかって。
一万の人に値する機人………かっこいいんじゃないかな、って。
そのケイロンさんが、僕の目の前にいる。
深い傷を三箇所に、数え切れないほどの小さな傷と共に。
その傷一つ一つこそ、誰かを守ってきた証なんだ。
そう思うと、とても誇らしく思えた。
僕は、ケイロンさん――――万の味方に値する、万機を直す。
それが今、自分にできる最大の……そして最も幸せな仕事、だと。
いつしか陽は傾き、夜の気配が顔を覗かせる。
夕食をとった後も作業は続いた。
びり、びりと手先に痺れが走る。
知らず知らず、腕が震えてもいた。
ケイロンさんが仰る。
「少年よ、もういい。貴方は十分に役目を果たしてくれた」
僕は首を振る。
まだ、終わっちゃいない。……終わらせちゃいけないんだ。
この誇り高き鋼鉄の戦士が残した証。
それを次の戦いへの礎とする為にも。
そして、自分の誇りにかけて。
闇はいよいよ深く、静寂の中、金属音が聞こえる。
その音は随分弱くなっていた。
あちこちで火が消えてゆく。
身体が、重い。
でも、まだ。まだ、まだ――――――
そんな時。
不思議な音が聞こえてきた。
高いようで低いような、強いようで弱いような……
でも、優しい音。
リズムがある。歌、だろうか。
このリズム、どこかで聞いたことがある。
あれは……そう、母さんがよく唄ってくれた――――
そして僕は。
柔らかな温もりと共に、眠りへと落ちていった。
再び光が辺りに満ちる頃、僕は夢の中で。
でも見たんだ。
光をいっぱいに受けて、疾走する鋼鉄の戦士の姿を。
万の味方に値する戦士―――ケイロン。
僕は笑いながら、再び眠りへと落ちていった。
(番外編)
僕はもうひとつ夢を見た。
夜。
炎が煌煌と燃えている。
その横に座るのは、4名。
エニシダさんが緊張した面持ちで煙草を吸い、その横でアーヴィンさんがふてくされている。
ナミサさんと言えば、妙に汗をだしてしきりに拭いている。
変だな、いつもは汗なんて滅多にかかないのに。
なんて思ったら、ケイロンさんまで横で俯いていた。はじめて見る。
そういやアーヴィンさんも落ち着きが無い。エニシダさんも、何度も灰を下に落としている。
共通しているのは、皆さん黙っていることだ。
アーヴィンさんが黙っているなんて珍しい!
ちゃらちゃらー。
なんだか妙な音が聞こえた。
見れば、炎の横、切り株の上に機械が置いてあった。
ああ、あの「らぢお」とかいう、音のでる機械。
「次は、エニシダさんの―――」
あれ、エニシダさんの名前が呼ばれた。
なんだろう、何が始まるんだろう。
すると、なんだかどこかで聞いたことのあるような文章が読み上げられた。
うーん、記憶にないなぁ。確かに知っている気がするんだけれど……
そんなことを思っていたら、いきなりエニシダさんが胸を抑えたんだ。
そして苦しそうにうめき声をあげる。汗びっしょり。
「うぉぉぉー」なんで叫んだりするんだ。初めてだ!
びっくりして駆け寄ろうとするけれど、自分の身体が動かない。
ちょっと、何してるんだ!
と自分に怒りをぶつけたとき。
「次は、エゼさんの―――」
自分の名前が呼ばれた。え?
そして、またもや文章が読み上げられた。
……あれ?これ、どこかで聞いたことが……って、昨日の日記……?!
うわぁぁぁぁぁ! ちょっと、日記がどうしてこういう風に読み上げられているんだ!
どこで誰がやっているんだよ!ちょっと、止めてよ!誰か、誰か……
僕は、生まれて初めて苦しみの涙を流した。
……なんだか違う文章の気がする。って、そんな場合じゃない、誰か止めてー!!
「次は、アーヴィンさんの―――」
そういう声が聞こえた時。ようやく僕は、体中を駆け巡る嫌な暑さや噴き出る汗から解放された。
そして気付いたんだ。 もしかして、これ皆さんの―――
それから後のことはよく覚えていない。
アーヴィンさんが「行かんでいい」と極めて不機嫌そうな顔で愚痴ったり。
ナミサさんが「やめてー」と叫んでいた気がした。
そして最後にはみんな倒れて悶絶していた。
あ、自分も寝転がっている。いつのまに?
これが噂に聞く阿鼻叫喚、だろうか。喉がカラカラだった。
気がつくと「らぢお」から音は出なくなっていた。
周りにはいつ来たのか、フォウトさんやセレナさん、アルクさんまでいた。
みんな笑いを隠しきれない様子。というか、隠してもいない。
も、もしかして聞いてたの?!
そして最後に見たものは―――――なぜか、ソニアさんの見たことのない笑顔だった。
(以上、某らぢおのとある風景でした。
勝手に出した皆さん、すみません!でも反省はしていない)
かん、かん、かん、かん………
絶え間なく響く、槌の音。
振り上げては降ろす。時折火花が散る。
薄い闇の中にランタンの光、そして不思議な光。
火花は三つの色彩に混じって溶ける。
かん、かん、かん、かん。
また火花が生まれる。
それは金属と金属とがぶつかる音。
そう、僕は今金属を補修しているところ。
それも単なる金属ではない。
ケイロンさんの身体の一部……いわゆる装甲。
材質は鋼のようだけれど、内部から不思議なエネルギーが漏れていた。
この力には覚えがある。属性霊の力の1つ、光霊の力。
不思議な感覚だった。槌を振るうたび、光霊の力と鋼が混ざりあってケイロンさんの身体になってゆく。
鋼自体に生命はない。しかし、今目の前にある金属には―――確かに生命が宿っていくんだ。
ケイロンさんは、胸・右腕・左後足に深いダメージを負っていた。
激しい戦いの痕。
でも、僕は知っている。
その胸の、腕の後ろには、守るべき存在があったこと。
傷つき倒れた歩行雑草の少女、アルクさんをかばって戦った結果の傷だということを。
幸い、アルクさんはエニシダさんの治療で大事にはいたらなかった。
エニシダさんこそ緊急の治療が必要だったのに、力を振り絞ってアルクさんの手当てをしたんだ。
女性・子供を助けるのは万人の――万機の仕事、とケイロンさんは仰った。
そうだ。誰もがそうであるべきだ。弱き者の盾として。
そしてエニシアさんもケイロンも、そう行動した。
お二人は強い。力も―――何より、心が。
でも、そうじゃない人だってたくさんいる。誰もが強いわけじゃないんだ。
だから僕には、万機――という言葉が、とても綺麗に聞こえた。
この万には、全ての、という意味と同時に万の味方に値する……
そんな誇りが詰められているんじゃないかって。
一万の人に値する機人………かっこいいんじゃないかな、って。
そのケイロンさんが、僕の目の前にいる。
深い傷を三箇所に、数え切れないほどの小さな傷と共に。
その傷一つ一つこそ、誰かを守ってきた証なんだ。
そう思うと、とても誇らしく思えた。
僕は、ケイロンさん――――万の味方に値する、万機を直す。
それが今、自分にできる最大の……そして最も幸せな仕事、だと。
いつしか陽は傾き、夜の気配が顔を覗かせる。
夕食をとった後も作業は続いた。
びり、びりと手先に痺れが走る。
知らず知らず、腕が震えてもいた。
ケイロンさんが仰る。
「少年よ、もういい。貴方は十分に役目を果たしてくれた」
僕は首を振る。
まだ、終わっちゃいない。……終わらせちゃいけないんだ。
この誇り高き鋼鉄の戦士が残した証。
それを次の戦いへの礎とする為にも。
そして、自分の誇りにかけて。
闇はいよいよ深く、静寂の中、金属音が聞こえる。
その音は随分弱くなっていた。
あちこちで火が消えてゆく。
身体が、重い。
でも、まだ。まだ、まだ――――――
そんな時。
不思議な音が聞こえてきた。
高いようで低いような、強いようで弱いような……
でも、優しい音。
リズムがある。歌、だろうか。
このリズム、どこかで聞いたことがある。
あれは……そう、母さんがよく唄ってくれた――――
そして僕は。
柔らかな温もりと共に、眠りへと落ちていった。
再び光が辺りに満ちる頃、僕は夢の中で。
でも見たんだ。
光をいっぱいに受けて、疾走する鋼鉄の戦士の姿を。
万の味方に値する戦士―――ケイロン。
僕は笑いながら、再び眠りへと落ちていった。
(番外編)
僕はもうひとつ夢を見た。
夜。
炎が煌煌と燃えている。
その横に座るのは、4名。
エニシダさんが緊張した面持ちで煙草を吸い、その横でアーヴィンさんがふてくされている。
ナミサさんと言えば、妙に汗をだしてしきりに拭いている。
変だな、いつもは汗なんて滅多にかかないのに。
なんて思ったら、ケイロンさんまで横で俯いていた。はじめて見る。
そういやアーヴィンさんも落ち着きが無い。エニシダさんも、何度も灰を下に落としている。
共通しているのは、皆さん黙っていることだ。
アーヴィンさんが黙っているなんて珍しい!
ちゃらちゃらー。
なんだか妙な音が聞こえた。
見れば、炎の横、切り株の上に機械が置いてあった。
ああ、あの「らぢお」とかいう、音のでる機械。
「次は、エニシダさんの―――」
あれ、エニシダさんの名前が呼ばれた。
なんだろう、何が始まるんだろう。
すると、なんだかどこかで聞いたことのあるような文章が読み上げられた。
うーん、記憶にないなぁ。確かに知っている気がするんだけれど……
そんなことを思っていたら、いきなりエニシダさんが胸を抑えたんだ。
そして苦しそうにうめき声をあげる。汗びっしょり。
「うぉぉぉー」なんで叫んだりするんだ。初めてだ!
びっくりして駆け寄ろうとするけれど、自分の身体が動かない。
ちょっと、何してるんだ!
と自分に怒りをぶつけたとき。
「次は、エゼさんの―――」
自分の名前が呼ばれた。え?
そして、またもや文章が読み上げられた。
……あれ?これ、どこかで聞いたことが……って、昨日の日記……?!
うわぁぁぁぁぁ! ちょっと、日記がどうしてこういう風に読み上げられているんだ!
どこで誰がやっているんだよ!ちょっと、止めてよ!誰か、誰か……
僕は、生まれて初めて苦しみの涙を流した。
……なんだか違う文章の気がする。って、そんな場合じゃない、誰か止めてー!!
「次は、アーヴィンさんの―――」
そういう声が聞こえた時。ようやく僕は、体中を駆け巡る嫌な暑さや噴き出る汗から解放された。
そして気付いたんだ。 もしかして、これ皆さんの―――
それから後のことはよく覚えていない。
アーヴィンさんが「行かんでいい」と極めて不機嫌そうな顔で愚痴ったり。
ナミサさんが「やめてー」と叫んでいた気がした。
そして最後にはみんな倒れて悶絶していた。
あ、自分も寝転がっている。いつのまに?
これが噂に聞く阿鼻叫喚、だろうか。喉がカラカラだった。
気がつくと「らぢお」から音は出なくなっていた。
周りにはいつ来たのか、フォウトさんやセレナさん、アルクさんまでいた。
みんな笑いを隠しきれない様子。というか、隠してもいない。
も、もしかして聞いてたの?!
そして最後に見たものは―――――なぜか、ソニアさんの見たことのない笑顔だった。
(以上、某らぢおのとある風景でした。
勝手に出した皆さん、すみません!でも反省はしていない)