アジア映画巡礼

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【香港映画祭2021】オススメ作品①『最初の半歩』

2021-11-15 | 香港映画

先にご紹介した【香港映画祭2021】ですが、作品を試写で拝見することができましたので、何本かオススメ作品をご紹介したいと思います。まずは、2016年の香港国際映画祭の「香港電影面面観」の1本に入っていたのですが、この年は映画祭参加期間が短くて見られなかった作品『最初の半歩(原題:點五歩)』からどうぞ。なお、原題の「點五歩」は、日本語の「0.5歩」という意味です。(©のない画像はネットから引用したものです)

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『最初の半歩』  
 2016 年/95分/原題:點五步
【監督】スティーブ・チャン(陳志發)
【出演】リウ・カイチー(廖啟智)、ラム・イウシン(林耀聲)、トニー・ウー(胡子彤)

本作の舞台沙田は、九龍半島の新界の喉元に当たる街と言ってよく、1970年代から海を埋め立てて土地を増やし、そこに大規模な団地が建設されて、九龍地区や香港地区のベッドタウンとして発展しました。人口が増えるに従って、鉄道の沙田駅を中心にショッピングモールや文化施設が次々と建設され、それまでは沙田競馬場のある所としてしか認識されていなかった沙田が、賑わう街に生まれ変わったのです。本作は、その沙田が発展しつつあった1984年を中心に、それから30年経った現在にも触れながら一人の教育者と二人の教え子の姿を描いていきます。

©香港映画祭 2021 

1984年の沙田(サーティン)。ロン(阿龍/ラム・イウシン)は団地で父母と暮らしており、同じ団地に住むワイ(細威/トニー・ウー)は学校のクラスも同じで、親友でした。ロンの父はかなり年を取っていましたが、中国大陸出身の母はまだ若く、老いた夫に仕えるのが大変そうでした。ロンとワイの通う学校基覺書院では、区議会の補助金が出ることになったため、ロー校長(廬校長/リウ・カイチー)が「少年野球チームを作る!」と宣言します。様々な問題を抱える生徒たちに自信を持たせ、強い心を育むためには、野球チームが一番だとロー校長は考えたのです。「平等に分けるべきだ」という反対意見も押し切って、ロー校長の野球チーム作りは進められていき、ワイとロンもメンバーとして引っ張られます。何事にも積極的で親分肌のワイは、ピッチャーとしてチームの中心になり、ロンと共に団地でも練習を重ねて最初の対外試合に臨みますが、予想外の相手にコテンパンにやっつけられてしまいます...。

実在の人物で、香港初の少年野球チーム「沙燕隊(サーイントィ)」を作った廬光輝校長のお話を元にしていますが、細部が少し変えられているとか。実際の廬校長は小学校の校長で、「沙燕隊」は小学生のチームだったそうですが、それをうまくアレンジして、日本で言えば高校生の話に変えてあります。それは、主人公たちを取り巻く状況をドラマチックにして、当時の香港が抱えていた問題も描きたい、ということからのようです。そのため、実際の「沙燕隊」の成立は1982年であるところ、劇中では1984年にして、イギリスと中国の間で返還合意書に署名された年に合わせてあるとか。映画の冒頭と最後に描写される現在の香港もその30年後、つまり2014年か2015年になっており、ご覧になれば監督の意図がよくおわかりいただけると思います。

香港はイギリス領だったので、野球はあまり盛んではなく、そのため沙燕隊が対戦するのは日本や台湾、オーストラリアなどの少年野球チーム。最初のコテンパン体験から、ロンとワイらチームメートが立ち上がっていく過程や、ドロップアウトする者が出るエピソード、そして監督であるロー校長の励ましやしごきっぷりなど、スポ根映画の王道もちゃんと押さえていて、とても楽しめます。そして、最後の試合では手に汗握ることになるのもお約束。胸が痛くなるようなエピソードもあるのですが、実はナレーションが林海峰(ジャン・ラム)で、彼のお気楽な声が物語を温めてくれます。

ただ、本作を見ていると政治的なことではなくて、胸の痛みを感じずにはいられません。ロー校長を演じるリウ・カイチー(上写真右の眼鏡姿)は、この春にガンのため亡くなってしまったのです。2021年3月28日のことで、ガンとわかってからわずか数ヶ月、まだ67歳でした。最初に言及した2016年香港国際映画祭の「香港電影面面観」には8本の香港映画が入っているのですが、この『最初の半歩』と並んでオムニバス作品『十年』も入っています。『十年』の中でも印象深い1編、「地元産の卵(本地蛋)」の主演がリウ・カイチーでした。ほかにもたくさんの作品に出演したリウ・カイチー、刑事役、あるいは悪人役など、皆さんどこかで目にしておられることと思います。私が最も印象に残っているのは『籠民』(1992)の喬宏(ロイ・チャオ)の息子役で、知的障害者役だったのですが、この人、本当の障害者??と思ってしまったほどの演技力でした。香港映画に貢献したリウ・カイチーの姿、ぜひ本作で目に焼き付けて下さい。最後に予告編を付けておきます。

電影《點五步》正式預告11/4上映

 


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