青空のCafétime

唇にうたを。心に青空を。気まぐれに開店中♫

Open

2022-07-07 07:43:43 | Novel
坂を登って行くと、やがて右手に白い建物が見えて来る。

丘を登り切った僕は、汗を拭いながら、遥か沖まで続いている海を眺める。

風が吹いた。潮の匂いがする風だ。

白い建物はどうやらカフェらしい。でも営業しているのを見たことがない。

しかし今日は駐車スペースに大きなグリーンの車があった。目を移すと「Open」と書かれたプレートが白いドアに下がっていた。

開いているのか?

自転車を隅の方に置き、カフェのドアを開けた。カランという音。明るい元気な声が僕を迎えた。

「いらっしゃいませ!」

白いシャツに薄いブルーの前掛けをしたその人。他にはスタッフはいないようだ。焙煎したコーヒ豆の香ばしい匂いが僕の鼻をくすぐる。

先客がいた。年配の男性が窓際の席にきちんとジャケットを着て座っている。

「どうぞお好きなお席へ」

せっかく海が見えるのだからと思い、眺めの良い窓際の席へ。水の入った透明なグラスがテーブルにコトンと置かれる。

「あの、今日は開いているんですね」
「はい。営業中ですよ」
「あ、そうですよね」

僕の間抜けな言葉にその人は微笑んでみせる。

「ご注文は何になさいますか」
「ええと、この、夏ブレンドをください」
「承知いたしました」
「あの」
「はい?」
「あの、このカフェはいつまでやっていますか?」

すると、こんな答えが返ってきた。

「わたしの中の夏が終わるまで、かな」