Yuumi Sounds and Stories

シンギング・リン®️セラピスト「藍ゆうみ」のブログ。日々の覚え書き、童話も時々書いています💝

お話妖精ルーモと風さんルーマニア⑬

2020-05-07 14:15:37 | 童話 ルーモと風さんのお話
8月13日(土)宵月の夜 ルーマニア

風さんがいいました。
「次はこわーいドラキュラ伯爵のいるルーマニアに行ってみる?」
「こわいって何?ドラキュラ伯爵ってだあれ?」
「ルーモは怖い気持ちがまだわからないんだね?」

ルーモは、これまで【怖いお話】というものを聞いたことがありません。
だから、怖さや恐ろしさや冷や冷やするとかびっくりすると言ったことがわかりません。

もちろん、ドラキュラという名も始めて聞きました。

風さんは言いました。
「人間ってね、怖いお話が好きなんだ」
「こわい、こわいって言いながらすごく面白がるし、知りたがる。人間は変な生き物だよ」
ルーモには、よくわかりませんが、それも学んでみたくなりました。

風さんはひとっ跳びでドラキュラ城と呼ばれる「ブラン城」へとルーモを運びました。ルーモは初めて西洋のお城を見ました。そして、あまりに美しいのでびっくりして一目で好きになりました。こんな素敵なお城に住んでいる人が怖いはずがないと思いました。お部屋の中もとても素敵です。中世の戦いで使った鎧がたくさん飾ってあります。

その中でも一番立派な鎧がルーモに話しかけて来ました。
「どうだね?私が怖いかね?」
「ちっとも怖くなんかないわ。怖いということがわからないの。みんなは何を怖がっているの?」
ルーモが不思議がっているので、鎧は話し始めました。

~ここに来る人はドラキュラがここに住んでいたと思って怖がるんだがね、実はここにドラキュラは住んでいなかったのさ。それはただの作り話だ。そう、人はみな怖い話が好きなものだよ。

 ドラキュラ伝説は、その昔イギリスの作家が作ったお話でね、ドラキュラのモデルは15世紀のルーマニア、トランシルヴァニア地方の領主・ワラキア公ヴラド3世とされている。でも、共通するのはドラキュラという名前と、出身地がルーマニアという点だけ。

ただ、ヴラド3世は、戦争が当たり前だったその昔、多くの人を処刑したと伝えられて恐れられているんだ。でも、彼自身勇敢に戦い、捕虜になったこともある。少なくともルーマニアでは英雄とされているんだよ。

そこから作られた物語のドラキュラ伯爵は、自分が生きながらえるために人の血を吸って命を奪う怪物とされている。昼は眠っていて、夜起き出し、人を襲うんだ。そんな怪物をみんな恐れて怖がる。そして、たくさんのお話ができた。大体のお話は最後にドラキュラは胸に杭を打たれて退治されるんだ。~

死ぬことを知らないルーモには、怖さの感覚がわかりません。ルーモにわかったことは、人間は物語を創るのが大好きで、物語には様々なテーマがあり、その中に【怖いお話】というのがあるということでした。そして【怖い】理由は、どうやら【死ぬ】ということにつながっているようでした。そして、それを鎧さんに話してみました。

鎧は、ルーモの理解を聞くと城中に響くほどの大声をあげて笑いました。

「そうだ、その通り!!人の怖さのおおもとは、死だ。
死が、人々を恐れさせ、そして、怖い物語を作らせる。
人間はその物語の中で恐怖という鎖に永遠に繋がれる。

ルーモよ。生まれることも死ぬこともない妖精のルーモ。
幸運な、されど、進歩なき存在。
うはははははは…。」

鎧はそう行って立ち去り、大広間で美しいドレスを着たレディの幽霊と優雅にダンスを始めました。

鎧の言葉がルーモの胸に重りのように残りました。
「幸運な、されど、進歩なき存在」
その言葉がこだまのように響いて、ルーモは先ほどまで素敵だと思っていた古城を早く出て行きたくなりました。そう思った瞬間、風さんがルーモを高い雲の上まで吹き上げてくれました。

風さんは何も言わずにルーモを優しく包みましたが、その夜、ルーモは一睡もできないまま朝を迎えました。




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