格安CDエクスプローラー

<100円からのCD批評>
~主に中古CDを漁り歩いて幾年月/好きなジャズ、ラテン音楽を中心に勝手・気ままな音楽批評

ソウルフィーリングの在り方とポップなメロディ

2021年03月20日 | ブラックミュージック

The Temptations [ My Girl / 18 Original Hot Hits]         (Cedar/1994)         ドイツ盤   100円  星3つ半

~ソウルクラシックを集めたベストアルバムシリーズの一枚。Temptations(以下テンプスと記す)は、モータウンの黄金期を支えた大看板で、数多く出したビッグヒットは今でもソウルのスタンダードとして輝いているので、ベスト盤といってもどの時代かによって編纂の仕方が大いに違うのだが、本作はエディ・ケンドリックスが在籍していた初期から中期にかけてのモータウン最盛期のもの。タイトル「マイガール」は、誰もが知っているポップスエバーグリーンになっているが、リードはエディーの売り物ファルセット中心に組み立ててない、シンプルなメロディだからより一般ポップスファンにも人気を博したように思える。テンプのバックには、モータウンのソングライターチームの優秀さと綿密に組まれた販売戦略があったように思うが、60年代に花咲いたソウルミュージックの舞台でエディケンのボーカルが持つ美しさは、大きな役目を果たしたと思えるのです。本作の意味はそこにありそうで、今やテンプスは、蛸壺化して、誰もがばらばらに音楽体験しかしない大きな今日の音楽界にアイコニックなアメリカ音楽界の失われたサウンドとなっている。

Chris Jasper       [SuperBand]         (Gold Cuty-CBS Associates/1987)         アメリカ盤   100円  星3つ

~アイズレーブラザースでの活動の傍ら、自身のスーパーバンドで録音をしていた時代の作品で、いい意味でのアイズレー傘下の音作りと自身のバンド活動の両輪を上手く組み合わせた感のある出来栄えである。基本路線は、ソウル&ディスコサウンドで『踊らせてナンボ』の音作りなのではあるが、アイズリーサウンドの系譜であるメローな味わいに、M.マクドナルド時代のドゥービーブラザースに似たハーモニックスを足すという仕掛けを彼なりのフィルターで融合させていて、メロディアス、キャッチーさを持ったナンバーが多くて聞きやすく楽しいバブリーな出来栄え。時代は、まさに誰もが浮かれノー天気で居られた頃であり、今更ながらシンセドラムやらキーボードが産み出す定型ブラコンはお気楽、コロナ禍など吹き飛ばしたい、気分転換し何も忘れたい今のような混迷のタイミングで聴くのは悪くない。左様に凡庸だが、幸せなB級サウンドとして楽しみたい。

 


「どこかホッコリと心が和む女性シンガーの歌声」の巻

2021年03月16日 | ロック

Pam Hall  [Bet You Know]     (24x7 Record/1997)     日本盤  110円   星3つ半

~『ラバーズロック』というカテゴリー(呼び名)は記憶しているヒトは、今時どの位居るのだろうか?その主役は、ジャマイカの女性シンガーを基本として、スカ&レゲエ基調のリズムでR&B.ソウルのメロー感覚を上手に取り入れたサウンドが、1990年代に注目され、当方には遅れて2000年前後にサンドラ・クロスらの作品でようやく認知されたので、少し時代遅れであったが、なかなかソウル的グルーブ感とメローなサウンドが心地よいものとなって、かなり聴いていた時期があった。パム・ホールは、サンドラ・クロスらよりも若手で二番手的なヒトだろうが、悪くないテイストのソウル感とスカとレゲエの伝承性があって、聴きやすく楽しいアルバムである。それというのも、この『ラバーズロック』の売りにあるのが、大ヒット曲のカバーバージョンをやたらとアルバムの中に組み込んで、意味ある効果的な構成に設える上手さが上手な点。このアルバムでも、R.フラックやダイアナ・ロスの大ヒット曲や良く知られたソウルナンバーのスカ・レゲエタイプに移し替えるので、何とも安易とも言えるが反対にここまで決め技としてやられると上手く的を得ていると思ってしまうのだった。コロナウイルスの災禍に見舞われた今年、外出できなかった反動で、ヴァーチャルながら良い季節でドライブした気分になる、なんちゃって非日常に使うと良いかも知れません。

Ann Peebles  [Straight From Heart]     (Hi Record/1971)   再発:1993   アメリカ盤  100円   星3つ

~ジャケ写真のカッコ良さにて入手。ディープソウルの濃いドリンクを味わうのにピッタリの1枚ではないか。ソウルがソウルらしくコテコテに脂っこく、まだ都会的な洗練されたスイートテイストになりうる前の生々しさが詰まった作品である。メンフィスホーンが、バックにて煽り、ワンパターンといえばそれまでのアルバムタイトル通り、心の中から湧き出る直球勝負のソウルである。今や絶滅寸前の音なので、心して聞くとよい。何か、ハートに残るソウルウーマンからのメッセージと50年前の活力に溢れた黒人音楽の雰囲気を味わいませう!?


名前も良く知らず試しに買うてみたのだった…の巻

2021年03月13日 | ジャズ

Ron Blake  [Sonic Tonic]     (Mac Avenue/2005)   2枚組   アメリカ盤  100円   星3つ

~ミシェル・ンデゲオチェロのプロデュースによる作品という点で興味をもって購入。ファンク&ブラックネスの尖がったサウンドかと思って聴いたら、意外と正攻法なスタイルでプレイするマルチリードプレイヤーである。自作で少し先鋭的な楽曲に取り組むかと思えば、一方でM.ルグランの作品やメロディアスなナンバーもやりたがる。その魂胆は何なんだろうか?アルバム構成において、統一感・一貫性もなく、悪く言えば、少し分裂気味ではないか。
2枚目のCDは、ボーナストラックとしてDJリミックスやライブバージョンの作品を5曲収録したもの。こちらは、尖がったリズムのリミックスが多く、もう1つのCD本盤よりも若い世代へのアピール、ラップ&ストリート系ミュージックへの考え方が振り切れている分上手くプレイが機能しているように思える。この失敗?の原因は、プロデューサーのアイデア空周りが起因しているのではないか。ミシェル・ンデゲオチェロしっかりせい!!(と憎まれ口…)

Everette Harp    [Commun Ground]       (Bluenote / 1994)         日本盤   100円  星3つ

~ブルーノートの軟弱フュージョンCDの1つ。プロデュースにジョージ・デュークを迎え、スムースジャズとブラコン系フュージョンの路線で作られている。ボーカルもの、スムースジャズ路線のメローなインスト、サックスのB.マルサリスを向かえ、少し硬派のジャズ系サウンドと色々バリエーションに富んだ構成にしているので、一応1枚飽きずに楽しめる。この辺りの戦略は、さすがジョージ・デュークの力量が伺える出来栄えではあろう。しかし、このアーティストの本音が伝わってこない。ブラックミュージシャンとして、ソウル系音楽は身体に染み付いた血液か体質なのだろうが、歌ものはどれもこれも誰がやってもブラコンの凡庸さばかりが浮き出るのだから、反対に一切アルバムには組み込まないという覚悟も必要ではないかな。そんな感想しか浮かびませ~ん、悪しからず…。


イタリアとおフランスのジャズ空気の違いを感じませう

2021年03月09日 | ジャズ

Claude Bolling  [Plays the Original Piano Greats]     (Universal/1972)   再発:2001     フランス盤  100円   星3つ

~ジャズジャインツレーベルのシリーズもの:Jazz In Parisの一枚で、ピアニスト/クロード・ボーリングのソロアルバムである。ボーリングといえば、70年代にはジャズオーケストラを組織していたと記憶するが、あまりジャズの表舞台で脚光を浴びて活躍したという記憶は当方にはない人。本作は、ピアノソロで有名なジャズスタンダードをプレイしたもので、タッチは明るきキビキビしたタッチでスイングするのだが、ピアノプレイにあって彼自身のいわゆるキラーフレーズやら個性が押し出てくることはなく、言い方は悪いが古い感性のスイングジャズそのものにしかなって居ない。1972年の録音だが、古さばかりは伝わる味気なさといおうか、スペリングが違うが、当方には若干ボーリング(退屈感)も漂ってしまった。1940年代に録音したといって疑う人も居ないようなサウンドでは、余り時間の荒波に抗っていけないのだった。

Bobby Durham Trio  [We Three Plus Friends]     (Azzurra Music/2001)      イタリア盤  100円   星3つ

~馴染みに欠けるアーティストだ。正体は、イタリアのジャズ界で活躍するアメリカ出身のドラマーらしい。歌もうまい?というフレコミからか、何曲か彼のボーカルをフューチャーしているが、ほぼ全編ジャズスタンダードならびスティービー・ワンダーのヒット曲など耳に馴染みやすい中間派ジャズをプレイするピアノトリオの構成である。別段どういったことも、特筆すべき内容もないのだが、やはりお国柄の出るイタリア歌曲を数曲収めており、2曲には女性ボーカルも加わると途端に欧州ジャズの香りが溢れ、ローカルジャズの面白みが出て来て楽しくなる。
 この御仁は、年齢もかなり上であり若きイタリアのミュージシャンをリードしている安定型スイングである事、それが本作の一応のレベル維持を保証している。


改めて聞き直すディランの凄さ今昔

2021年03月06日 | ロック

Bob Dylan  [Another Side of Bob Dylan]     (Sony/1964)   再発:1993   日本盤  100円   星4つ

~本作は、彼の第4作目にあたるもので、日本において原盤リリース後(1964年以降暫くの期間)には一切発売されず、60年代後期から70年代初頭にディランのロックムーブメント時期に初リリースされたいわくつきのアルバムだ。当時、ディランの歌詞が片桐ユズルによって若き世代の関心を集め、本盤の歌詞カードに訳出された歌詞の難解さにアレコレ聞き手がどのように解釈を加えるのかが、音楽ファンにとってもっとも重要な時代でもあった。
あれから幾年月:数十年、久方ぶりの再会は、感慨深く我が心に響くディラン節である。ガラガラ声の無愛想さは、今よりの刺と鋭い内省的なニュアンスを帯び、ギター1本とハーモニカのシンプルだからこそ直截的なメッセージ強さが今では貴重な素晴らしさである。いずれの楽曲もフォークソングらしい素朴なメロディだが、「To Ramona」「Spanish Harlem Incident」などの美しい旋律そして、やはり「My Back Pages」のインパクトは今でも輝くものだ。

Bob Dylan  [Time Out of Mind]     (Columbia/1997)     アメリカ盤  100円   星3つ半

~当方の主たる興味がジャズとラテンに移る前、愛聴したボブ・ディラン。その後相当ブランクをへて今般、久しぶりにディランを聴く事になったのが、今回のレビュー。新旧(というが60年代と90年代作品)の大いに趣向の違う2枚だが、期待に違わず彼はやはり刺激的だ。本盤のディランは、その活動時期からして若干アメリカ音楽界での立ち位置が大御所然としたもので、安定したコンセプト(アーシーなブルース系ロックテイストのサウンド)にて一貫しているように思う中での1枚であろう。我が個人的体験では、ある時期からディランの歌に関して、歌詞内容よりもサウンドとディランの歌い方に耳を傾けるようになり、対訳付き歌詞カードなど最近は見ないのでわからないが、歌詞内容はおそらく昔ほど凝りに凝った作りこみはしていないように思え、シンプルさの中に歌い手の真実を滲ませる。当人にとっても、荒削りさは影を潜め、歌い手としての練度、円熟味を聴かせることに収斂させることに重きを置いている。ヒットした1曲目の「Love Sick」以外はさほどキャッチーではないが、やはりたまにはディランを聞くと良いバイブレーションが感じられる、そんな1枚になった。


ジャズ雑感~真摯な態度で制作された作品

2021年03月02日 | ジャズ

 

Richie Beirach  [Some Other Time / A Tribute to Chet Baker]     (Triloka/1990)     アメリカ盤  110円   星3つ半

~一見ブートレッグ系バッタもの、またはジャズオムニバスアルバムかと思えて、スルーしそうになる非常にセンス悪く、チープ感漂うアルバムデザイン全般と正体不明のインディ系ジャズレーベルなので、ホンマに損をしている作品だ。また、アルバムの参加ミュージシャンは著名なジャズマンばかりなのだが、その表記方法もおざなり感ばかりでいただけない。一見客は見過ごすのは勿体ない良い内容のアルバムになっている。ピアノのバイラークが主役で、脇を固めるA級ジャズマン(ブレッカー兄弟、J.ムラーツのベース、ジョン・スコフィールドら)となって、主にバイラークのオリジナルをプレイする。バイラークは、チェット・ベーカーとの共演経験もあって、チェットのリリシズムへの対応も自身のプレイ提示もチェットの風情を決して損なわない適切かつユニークなものである。他のメンバーは、曲ごとにフューチャーされる形で、同じトランペットだけではなく、テナーSAXやギターによって、チェットの表情に肉薄しようとしたり、オリジナルなプレイで叙情しており、バイラークのリリカルなプレイと相まって聞かせ処が多いアルバムになっている。

Larry Carlton  [On Solid Ground]     (MCA /1989)     アメリカ盤  110円   星3つ半

~フュージョンギタリストの名声も高まった80年代の中期に、自宅に押し入った暴漢の銃弾を受け、再起不能化と騒がれたカールトンが、復帰した記念すべき旧作だ。従前からのテクニックがどれほど蘇るのかという心配が杞憂に終わることも本作に刻まれ、彼が完全に復調し、さらには以前とは異なった表情でプレイする姿を生々しく録音している。それは、本作に記された彼の短いクレジットにも現れているように純粋にプレイできる歓びに溢れているもので、それらはコンテンツとして伝わってくる。カバー曲やオリジナルナンバーも含めてこなれた楽曲アプローチが為されていて興味深く、おそらく本作を機に、これ以降のプレイやアルバム作りに何らかの『覚悟と切実なる表現意欲』が大きく前進していったものと考えられる。そんな少し単なるフュージョンアルバムというよりも、「カールトンリニューアルデビューアルバム」に我ら若きジャズ&フュージョンリスナーには響く作品ではある。


天才ロックギタリストの残した未発表ものを含むリイッシューを聴く

2021年02月26日 | ロック

The Jimi Hendrix Experience  [BBC Sessions]     (MCA/1998)     イギリス盤  110円   星3つ半

~イギリス・BBC放送に残された録音をまとめた2枚組のアルバムで、ジミヘン初期から中期にかけての勢い溢れる演奏と彼らの肉声までも収められている往時のジミヘンの革新的なプレイの萌芽やロック的なサウンドを超える試み、さらに珍しくラジオ局のジングルまでプレイしている超貴重な録音もある面白さだ。アレクシス・コーナーのラジオDJによって紹介される1枚目には、正規レコードにはレコーディングされていない楽曲、プレスリーやディランのカバーなど聞き所満載であり、メンバー紹介のコメントは結構今となっては面白い観点のものばかりで、当時の認識や一般リスナーの程度も推し量れるもの。今となっては、少々お笑いものだが、ロックの知識も少ないラジオDJの的ハズレな質問や、ジミを紹介するエピソードなど当時はこんなに奇妙な認識・理解しかされなかったという事情も伝わってくる部分もとても面白い。逆に言えば、それ程進んでいた革新的な音楽をクリエイトしていたという事実が記録されている証左なのだとも思える。
10代だった当方など、あまりにも飛びすぎていたジミのプレイには付いて行けず、好みの点で他のアーティストとは全く荒削りな部分も多く、刺激に富んだプレイは、今ようやくこのミュージシャンの天才振りを蘇らせ、初期における何か模索していたような演奏が素晴らしく伝わるのだった。すごい2枚だ。

Eric Clapton  [Rainbow Concert]     (Polydor/1973)     再発:1995   アメリカ盤  50円   星3つ半

~70年代の初頭には、スーパースターたちが臨時に結集したバンドによるコンサートが多く開催され、いずれも大いに話題となった。さらに、映画やコンサートライブも当時人気のあったスターの意外な組み合わせ(ジャム)形式で、普段はレーベルとの契約からなかなか聞くことが出来なかったレパートリーをオールスターの面子がどのような形で演奏するのかが、ロックファンには堪らないものであった。いずれも一国の主であり、エゴの強い連中がどんな形で折り合いをつけるかも聞き手にとっては、新鮮なものであった。今ほど音楽情報が溢れていなかった時代だっだだけに、どのアルバムも話題になったものだ。
本作は、当時のソースにあらたな未発表曲を加えた編纂で、変な言い方になるが、クラプトンの今では聞かれない当時のままのフレッシュなサウンドのヒットチューンが、ブリティッシュロックのスーパースター達の力演でそれぞれの聞かせ処も披露しながら、和気藹々としたセッションとなっており、貴重な記録だ。MCもどこか楽屋落ち風にまわされる部分もあって、興味深い。


ラテン系ジャズの風景~2020早春

2021年02月23日 | ジャズ

Paquito D’Rivera  [Tico! Tico!]     (Chesky Record/1989)      アメリカ盤  100円   星3つ半

~パキートが中南米の歌謡をラテンジャズに仕立て直し、気楽に楽しく聞ける作品である。このチェスキーレコードというレーベルは、LAにあるラテン系ジャズ&フュージョン音楽を専門にする所だが、場合によってあまり音楽センスにおいてB,C級のプロデュースをするきらいのあるコンセプトが玉にキズ。アナ・カランなど何度か裏切られた記憶もあり、期待しないでいたらソコソコ聞ける出来栄えになって居る。
 普段は、アルトサックスを主体にプレイするパキートだが、本作はクラリネットを主として用い、ラテンの名曲やクラシック(レオ・ブリューア作品)もプレイするのに、やはりアルトサックスより効果的な音作りにしている。旧友のトランぺッター:C.ロドッティやギターのロメロ・ルンバオ、D.ペレスといった何時ものメンバーも居心地よくスイングするラテンジャズのポイントを押さえる鉄壁メンバーなので、チェスキー制作にも関わらず良い出来になっている。

Laurindo Almeida & Bud Shank  [Brazilliance Vol.1]     (World Pacific/1957)   再発もの   カナダ盤  100円   星3つ

~ラウリンド・アルメイダとバド・シャンクは、スタン・ケントン楽団時代に恐らく良いケミストリーを形成し、戦後早々のクールジャズの波に乗って生み出された双頭コンボで、70年代のLA4までその繋がりが連綿と続く安定コンビだった。今の感覚において、けっして悪くないジャズのセンスとブラジル&ラテン系フュージョンの先駆とも思えるサウンドなのだが、いかんせん往時のジャズ音楽界における位置は良き塩梅にはなかった。“軽いBGMサウンド„“イージーリスニング”の張り紙がなされる中間派というか、ウェストコーストジャズの一スタイルだったのだが、早すぎたブラジル系癒しサウンドであった。63,4年のボサノバ旋風まで時間が長すぎたという結果が本作の再評価に落ち着くのではないか。バド・シャンクのアルトは、同時代のP.デスモンドに似てクールかつ洗練されたジャズのエッセンスを纏うが、一方のアルメイダのギターが素直すぎてモダンなクールさや都会のモダニズムには近くなく、ワールドミュージック、ラテンの異国情緒になっていて、ジャズの味わいが少なかったのではないか。そんな音風景も、半世紀以上経つとかえって新鮮で美しい情緒も併せ持ったモダニズムを感じさせるのだった。ジャズのヒストリー傍流であっても、価値ある軌跡を残しているウエストコーストジャズだろう。


ちょいと違った味わいのジャズもたまには良い

2021年02月20日 | ジャズ

Walt Weiskopf Nonet  [Siren]     (Criss Cross/1999)     アメリカ盤  100円   星3つ半

~本作は、クリスクロスからの第2作リーダーアルバムだそうです。今時珍しい九重奏団ジャズ。今の時代(といっても1999年だが…)でかかるバンド構成をするというので、こちら聞き手は構えてしまったが、拍子抜けするほど真面目かつ普通のジャズアンサンブルが提供される。普通もっと前衛的なジャズアプローチかなと思うが、主役たる人(テナーマン)はブリブリ自己主張のサックスを聞かせるという姿勢はほとんどなく、アンサンブル重視で進めていく。以前、M.ブレッカーが10数人編成のバンドで吹き込んだサルバム(「Wide Angel」)をレビューしたことがあったが、そのチャレンジングで緊張感もあるジャズアンサンブルと比すとまったく大人しく、ジャズ風景の行儀良さが紡ぎだされている。まとまりすぎて物足りないほど。がっちりとハートを掴むには、もっとクレイジーなジャズマインドがフリカケに欲しかったという感想。

Herve Meschinet  [Night in Tokyo]     (Influence/2006)     日本盤  100円   星4つ

~クールで洒落た欧州産フレンチジャズの興味深いアルバムである。主人公は、フルートプレイヤーでミシェル・ルグランのバンドにて音楽監督も務めたり、フレンチジャズのビッグバンドでも活躍するヒトらしい。ほぼ全編オリジナルナンバーで構成されているが、サウンドのバリエーションは多く、いずれも洗練されていて全体のトーンはクールで洒落た都会的なテイストがあり、フランスの国柄らしいエスプリを持つ楽曲の一方で、民俗楽器をさりげなく持ち込みワールドミュージックの雰囲気もかすかに盛り込むアレンジの妙味も味わえる。ジャズの精神とどこか映画音楽的な世界も持ちつつ、ルグランの持っているエンターテイメントとジャズマインドの融合を美しくまとめるという精神が受け継がれ、聞きやすくもガッツもあるサウンドになっている。面白いと思う。


イタリア風ジャズマンの心地よいプレイを楽しむ

2021年02月12日 | ジャズ

Quartetto Di Lucca  [Quartetto]     (RCA-Italia/1962)     再発:2006    EU盤  100円   星3つ半

~~イタリアのジャズ四重奏団で1960年代に活躍したらしいが、一般のジャズファンにおいて知名度はほとんどなく、今日的に再評価されそうな音楽ではある。いわゆる欧州ジャズの脈絡で考えると今日に至る骨太の芯が通っている様子がかいま見える。また、ピアノとバイブが入っている当時人気絶頂だったMJQの影響が見受けられる。ジャズスタンダードと若干前衛的なアプローチを意識的に融合し、MJQのような室内楽の整い方、行儀良さは排除して、よりスマートで端正なジャズ表情を見せる。イタリアンなテイストも少し残るが、戦後イタリアンジャズの実力を見せつけるものとなっている。1962年当時のオリジナルイッシューに新たな未発表3曲を加えて、新しい内容といえるほど意外と中身は濃い。「チュニジアの夜」や「バードランドの子守歌」といった当時のジャズヒットが入っていなければ、今日のニューアルバムといっても意外と受け入れるかも知れない。面白いジャズアルバムだろう。

Eric Leginini Trio  [Miss Soul]     (Adami/2006)     EU盤  100円   星3つ半

~イタリア系ベルギー人のピアニストによるリーダーアルバム。ジャケットの洒落たイメージとカバーホルダーのデザインにまず惹かれた。名前からイタリア人と思っていたが、よく調べるとベルギー籍でアメリカにジャズ留学し、欧州にて活躍中とのことで、来日も何回かしているらしい。実に洒落たタッチで、小唄系のピアノプレイを展開するヒトだ。本作は、センスがよいピアノが、短い時間軸で繰り広げられる変わった味わいだで、センスのよい欧州ジャズの1シーンが展開される。しかし…シカシ………

このジャズピアニストのテクはすごいとは思うが、考える事は不明。何と言っても、選曲の奇妙な凄さと自身のピアノをどういうコンセプトでまとめてプレイするのかが、少々分裂気味。タイトルチューンや中で挟まれるソウル感あるジャズピアノの領域は、幅広くラムゼイ・ルイスのジャズロック風タッチやらフィニアス・ニューボーンのアーシーなタッチがお好きかと思えば、キース・ジャレットの曲のカバーでの端正なタッチや「For All We Know」で見せる美しきリリシズムはまるでB.メルドー系現代のモダン派を思わせるといった風変わりなもの。今風のジャズピアノとして、さらにはジャズラウンジでオシャレに決めたい人には悪くないアルバムになってはいる。


名前をよく知らないジャズマン奮闘の雑記

2021年02月09日 | ジャズ

Peter Weniger  [Key Of The Moment]     (Mons Record/1993)     ドイツ盤  100円   星3つ半

~若手サックス奏者のゴリゴリハードのプレイが詰まっているが、70年代のジャズが蘇るような雰囲気が通底しているサウンドは、昔からのジャズリスナーにはノスタルジックにも響くが、今ではかなり新鮮に映るのかも知れません。その大きな原因は、ピアノレスで構成されたスタイルであることとギターのJ.アーバークロンビーの独特のプレイが大きく影響している。反対に、アーバークロンビーの自作といっても良いほど主役を喰っている有様なので、このサックス奏者の立ち位置が時折ぼやける始末なので、その辺りのジャズアルバムとしての“こなれの悪さ”が気になる。ジャズの名曲は、マイルスの「Nardis」と「Do Your Things」なる他者作品なので、全体の意欲がどこか空回りしている所があって、もうひとつ落ち着かない。恐らく、先輩格たるアーバークロンビーの実力に押されてしまったのかとも思うが、若干その辺りの整え方でアルバムの出来栄えがくすんでしまった。

Elias Haslanger  [Kicks Are For Boys]     (Hear Music/1998)     アメリカ盤  100円   星3つ半

~どこか古びた雰囲気もありつつ、現代的なテナーマンの作品で、当方には、意外と思わぬ拾いものした感の強いアルバムになった。興味深いのは、ピアノでエリス・マルサリス(残念な事に昨年のコロナ禍によって亡くなってしまった)が数曲に参加していることで、幅広い音楽性を持つこのベテランのタッチによってアルバムの味わいはより思慮深くなった。テナーマンとしては、あまり今風にブローするよりも旧来の伝承的なサウンドと自身のキャラクターをブレンドしようとする雰囲気がある。但し、新人らしい溌溂さというより、全体的に自分オリジナルのスタンスがまだまだ確立していないように思える。それというのも、マルサリスの共演になるナンバーでは、どうしても彼に引きずられる(一方で、マルサリスの完成の新しさ、フレクシビリティの凄さがある)傾向もみられるので、もう少し修行しなけりゃ…感が残るアルバムではある。


ソウル&ファンク系のフュージョンサウンド2題

2021年02月06日 | ジャズ

Gerald Veasley  [Soul Control]     (Heads Up/1997)     アメリカ盤  100円   星3つ

~色んなスタープレイヤーのアルバムにてベーシストとしてクレジットされている事から、名前をよく知ってはいたが、特段スゴイ刮目するアーティストではないおヒト。本作で、そんな彼の“本音”を伺ってみたが、結局のところ真面目なベーシストらしい性格(的確にバンド&主役ミュージックのサポート役に徹する)という無難な評価に落ち着くのである。それというのも、G.ワシントン.JRやフィリップ・ベイリーらの客演があっても、主格としての立ち位置ではなく、客演ゲストの方がスポットライトを浴びてしまうような作風にどれもがなっている。ご本人は、やさしきメロディを上手く歌う部分があっても、やはり横に居るアーティストたちにお株を奪われ、ツマのような存在になっているサウンドで、全体のトーンには人柄の良さばかりがあるのだった。やりたい事、エゴの塊ばかりの多いアメリカジャズ界において、こうした人もいて、悪いとは思わないがついつい言いたくなる悪口がでる=凡庸なフュージョンの良き見本というものが詰まった=作品。

Roy Ayers  [In The Dark]     (Columbia/1984)   再発:2012   アメリカ盤  100円   星3つ

~このアルバムは、近年のレアグルーブの流行で再評価されたロイ・エアーズの1984年作品にリミックス作品を加えて再リリースしたCDであり、コロンビアが流行に乗ってFunky Town Grooveなるシリーズの1枚に組み込んだリイッシュー・アルバム。今の若人にとっては、新鮮だろうけれど、その時代人(70~80年代のリアルタイムで聴いて来たオールドリスナーたち)の感性に対して、思い出の懐メロ系サウンドであることに間違いなく、青春の甘き回想と共に蘇るサウンドはどこか心地よいのも確かだ。しかし、ロイ・エアーズの売りであるファンキーグルーブは、本作ではまだ完全開花していないというのが正直な部分でもある。エアーズは、当時開発された新機種のデジタルバイブを使うし、スタン・クラークらムーグベースも多用したり、それなりの時代のアイテムを組み入れてはいるが、タイトル曲のチープなディスコ感覚やらやはり古く、今でも通用するエアーズの本領(不思議なドライブ感あるバイブにおけるメロディと彼のボーカルの妙味)は開発途上であったそんな時代の懐かしきアルバムだろう。


自分のルーツミュージックとJazzマインドの兼ね合いや如何に?

2021年02月02日 | ジャズ

Leon Parker  [Belief]     (Columbia/1996)     アメリカ盤  100円   星3つ半

~パーカッション奏者であるレオン・パーカーがアフロ系ルーツミュージックとジャズの融合に向かって作った作品ではないだろうか。この作品では、普通のドラムスのプレイは極力控えて、カリンバやアフリカンパーカッション、スチールドラムやブラジリアンパーカッション(ビリンバオ、アフォシェなど)でシンプルなリズムを基礎とし、メロディラインも極力分かりやすいシンプルさを追求する。リズムパターンは、テクニックを駆使せず、淡々とリズムキープに励み、テナーやトラッペット、ピアノといったメロディラインを提示するプレイヤーにもシンプルなサウンドを要求しており、本作での彼の信条は派手な音でなく、ひとつの大きな音の流れを作る出すことに終始する。アフリカンバータやスチールパンなどの打楽器とジャズの相性は良いもので、サウンドコラージュとしても成立するもの。オリジナルとジャズスタンダードを交互に挟み、ジャズものでは普通にジャズドラムをセットさせて、ジャズコンボのプレイを披露する。自身のアイデアを純化させ、シンプルな音にそぎ落とした点で、真面目なサウンドを作りたいという姿勢が伝わる。

Aziza Mustafa Zadeh  [Dance Of Fire]     (Columbia/1995)     アメリカ盤  100円   星3つ

~アゼルバイジャン出身の女性ピアニスト。若干ボーカルもとるスタイルで、フュージョン系のジャズ。参加メンバーは、米国超腕っこきジャズマン。ギターのA.ディメオラ、サックスがビル・エバンス、ベースにS.クラーク、オマー・ハキムのドラムスという超豪華メンバーがサポートするという形で、どうにもお金にもの言わせて作った感がアリアリ。彼らの参加という音楽的必要性を全く感じない。内容といえば、やはり彼女のオリジンたるオリエントな旋律と民族音楽の大いなる遺産によるジャズ風音楽というところか。中東風民族音楽と地中海的なサウンドの混合は、そのピアノタッチといい、彼女のスキャットボーカルは国籍不明の異国趣味が横溢するサウンドで、ピアノのパートはご本人の主たるテイストが押し出されるものの、アメリカジャズ界の実力者たちのプレイは正に彼らの世界で、さすがに上手く主役を引き立たせる構成とは言えるが、取ってつけたような雰囲気ばかりで有機的な音楽のせめぎ合いには、程遠い何とも無念な始末。但し、アル・ディメオラの早引きアコースティックギターが彼らしい地中海的フレイバーたっぷりで、主人公の音楽との良き相性が救いとなって、何とかギリギリの聴かせるジャズフュージョンに仕上げる事に寄与したというアルバムである。


若き時代にテナーマンが見せる伝統へのリスペクト

2021年01月30日 | ジャズ

Tough Young Tenors (Various Artists)  [Alone Together]     (Antilles/1991)     アメリカ盤  100円   星4つ

~当時若手だったジェームス・カーターら5人のテナーマンに、マーカス・ロバーツのピアノトリオが共演するテナーマン集合作品。以前から、プレスコンファレンスだのスーパーテナーなどのテナー奏者共演という企画アルバムも少なからず存在したが、本作は正にその路線を踏襲するテナーブロー合戦が楽しめる。90年初頭に売り出し中だったテナーマン5人中、知っているのがカーター位しかいないが、いずれも実力ある新鋭だった様子。収録作品が、ほぼ全曲スタンダードジャズでエリントン、モンク、B.スタレイホーンに、マッコイ・タイナーやH.モブレイの作品もあって楽曲の安定度において文句なしのマテリアル揃い。鼻っ柱の強きテナーマンばかりだろうが、いずれも先達へのリスペクトあり、テナーコンファレンスものに通じるせめぎ合いも見せつつ、真面目なプレイに徹する。普通は、フリーキーでノイジーな傾向も見せるJ.カーターにあっても、基本線から逸脱する行いは見せないので、単純に楽しめるテナーバトルがある作品だ。

James Carter Quartet  [Jurassic Classic]     (Diw/1994)     日本盤  100円   星3つ

~『ジュラシック・クラシック』とは少々ひねったタイトルだが、収録曲すべてジャズの大文字定番または巨匠たちが残した名演で有名な曲ばかり。アイロニックなタイトルには、彼の先輩たちへのリスペクトと同時に自分なり新たなジャズの地平を作るという意気込みも感じられる。その証拠に、殊勝にもまじめでジャズの本道を行くテナープレイを披露するかと思えば、一転してスゴイ雰囲気で崩しまくったり、ノイジーかつフリーキーなトーンをわざと挟んだアドリブを多用するなど、一筋縄ではいかない自身の血のたぎりみたいなものをぶつけるのだった。そのパッションたるや時代を駆け抜ける意気込みが感じられる出来ではある。彼のアーティストとしての活動を俯瞰する時(今の時点では)、それなりに理解できなくもないが、本作の出来としては少々生煮えのジャズテイストと未熟なジャズマインドを感じさせる若きあやまち過ちみたいなものが大いに漂うジャズクラシックに対するオマージュ作品である。


おしゃべりなジャズと沈黙系ジャズの面白き違い

2021年01月26日 | ジャズ

Chic Corea  [The Vigil]     (Streck-Concord Jazz/2013)     アメリカ盤  100円   星3つ

~チックの新しいバンドといおうか、ニュープロジェクトが本作に提示される。自身を騎士に見立て、先頭に立って勇ましく進んでいくイメージをジャケットイラストに込めると同時に、『ヴィジル』なる造語によってチックとその仲間が目指すサウンドワールドを推し進めたいとする。ジャケ解説によると『…自由なる表現のカタチとしての音楽…時空の外にある精神性…過去から伝承する偉大で伝説的なジャズマン{エリントン、モンク、テータム、マイルスやコルトレーン}たちへのオマージュ…新しいスタイル、新技術、新鮮な即興演奏のカタチ…云々』こそがヴィジルのコンセプトだそうな…?!このヒトは、昔から新興宗教にはまりR.ハバードなる疑似科学者のサイエンスにも傾注し、その影響下で作品制作もして来た。リターン・トゥ・フォーエバー(RTF)の後期において、このアルバムのような自分たちを戦士に見立て、宇宙をイメージしたフュージョンサウンドを作り出していた時代もあり、この21世紀になって、またぞろそのクセがぶり返したと見るべき(この親父いい年して、相当変わってる)か?内容は、いかにもチックらしいムーグを多用したサウンドで、結局おしゃべりなフュージョンサウンドは、RTFの焼き直し的なイメージである。ゲストに愛妻で下手な歌手G.モラン、コルトレーンの息子ラヴィや旧友:スタン・クラークも参加するが、新鮮味のないチックワールドが展開するのみで、チックが問題作をリリースかと思わず、期待値を下げると何とか楽しめる内容だ。

Nik Bartsch’s Ronin  [Stoa]     (ECM/2006)     ドイツ盤  100円   星3つ半

~スイス出身のミニマムミュージシャンのECMデビュー盤。5人編成のバンドで、アドリブプレイなしで楽譜通り緻密に演奏するスタイルをとる様子だが、思ったほどお定まりの欧州ジャズにある室内楽的なサウンドではない、意外とスピード感溢れるミニマムジャズサウンドになっている。シンプルな旋律のリフに、パーカッシブなリズムが被さる。メロディは、主にピアノが先導するが、バスクラリネットの通奏が不思議なドライブ感をもたらすのだった。アバンギャルドさが不思議と少なく、サウンドの重相感が生み出されること、クールであると同時にハードなタッチのドラミングとベースライン、ECMレーベルらしいどことなく抒情性とイメージを想起させるテーマの持たせ方等、ジャケット写真やらぶっきらぼうな現代音楽風なコンセプト(収録曲名は、すべて「Modul**」なる無機質なタイトル続き)の割には、緊張感もあるしっかりとしたジャズ風景になっている。ジャズのおしゃべりなアドリブにて、色んな形での語らいを排して、一本筋の通った音作りは興味深く、どこかじわじわと心に迫るものがある。不思議なサウンドだ。