はじまりはじまり . . . 本文を読む
邂逅の中に居た。
無意識に手を握り、引き寄せる。
しかし、それは夢だったのだ。だから頬に伝う何かしらの感動も、この僕を癒し励ますものではありはしない。
100万の老人が居た。
寂寞の100万が、ただその大きな部屋の中に敷き詰められていた。
見送る眼差しも冷え切り、部屋もひどく寒い。
応援に行くよ。
と、コウシが言った。
それで僕は一つ安心した。
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ここは別天地だ。
和也が言った。
蒼穹が走る。魔弾が閃く。
ライオネル・・・ここはどこでもない。古里ではないのだ。
恋は儚い。
例えそれが人より10年も遅れた初恋であったとしても。
夢中になれば、謂れの無い罪になる。
君は寂寞。
小さな背中に影の尾ひいて。
泣くなよ、ライオネル。君はまだ、小さなネズミのままなのだ。
この場所には無い。
あそこにも . . . 本文を読む
「それでは、今回のことは誤解をなさらぬようにお願いいたします。」
別れ際にカルロはもう一度丁寧にそう言った。リベルチャイは頷いてカルロの肩を抱いた。
「いや、代表。会えて良かった。あなたはなかなか見所がある。慎重さも。何より狡猾さが無い。それはいずれ信望となるでしょう。」
その日は今すぐにでも館に帰ってそのまま床に就きたい気分だった。長い移動もあるが、リベルチャイと言うオーラのある男 . . . 本文を読む
すると彼女は数秒間、じっとカルロと目を合わせてから、一回ゆっくりと瞬きをしてこう答えた。
「できないということは今ですら無いのです。最初からずっと。このあたり一帯の資産はすべてカルロ様の名義なのですから。ただ・・・。」
「ただ、なんだ?」
「ただ、この城を守っている兵隊達は他の役員からの借り物なのです。ちなみに、私たち館の管理を任されている者も、カルロ様の身の回りの世話をさせていただ . . . 本文を読む
2
相手側、サーブ。打点は右肩の上、斜めに振り切ったのを見た。軌道が縦に曲がりそうだと感じ、スライスだと思った時には、左斜め前に4歩走っていた。ラインギリギリにバウンドする球、バックハンド、レシーブを決めた。低めにスライドをかけて用心する。
相手、追いつく。目と目が合う。掬い上げる手首の軌道で球が四歩右へ短く落ちるのが先に掴めた。半歩の距離まで追いついていた . . . 本文を読む
そこには大きな卸売り市場や商店もあった。子供の頃、よくこのあたりに出没していたのを懐かしく思った。その頃とはいくらか景色も変わっていたが全体的には同じ印象だった。
そこでピピンは車のクラクションに驚いて我に返った。
振り返ると一台の黒い高級車がピピンのすぐ後ろに止まった。
中から一人の老人が出てきた。その顔には見覚えがあった。
老人は近づいてきて杖を持つ方の手を軽く振った。
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2
目を開いた。暗い部屋だ。もう何時間くらい経つだろう。二時間、いや三時間も経つだろうか。もっとかもしれない。
二段ベッドの天井。いつもより迫って見える。風が窓をたたく音。友たちの寝息。指がシーツに触れている。足のかかとも、頭も背中も尻も。自分の呼吸すらも。すべてが顕示的に感じる。穏やかでないとは思わない。あくびも時々出る。ふとすれば眠れそうな気もした。
再び目を閉じる . . . 本文を読む
このところ、研究所内には不穏な雰囲気が立ち込めていた。マクベル所長などは時々見かけると頭を抱えて何か考え込んでいたりした。レイザウス博士の顔を見ると逃げようとさえするほどだった。
博士はある日、マクベルを追いかけてとっ掴まえるとどういうことか詰め寄った。そして聞き出したところ、驚くべきことに研究所の資金が打ち切られようとしているというじゃないか。
「一体どういうことだ?」
さすがの博 . . . 本文を読む
3
レイザウス博士は研究のことしか頭に無かった。他のことに煩うと研究に集中できなかった。それがたまらなく嫌だった。
妻との間には11歳になる息子が一人いるが、家族が自分に若干失望していることに気づいてはいても面倒としか思わなかった。子育てや妻のやることに一切口出しはしなかったが、興味を示そうとも思わなかった。
タリオン大管区のパトリッジ島にあるマクベルラボに研究室を持っ . . . 本文を読む
翌日はちゃんと大学に行った。朝早く登校した。いつも通り講義を見たり、仲間の研究を手伝ったり、合間合間には自分の研究をしたりした。大学内の公園で小型の二足歩行のゴーレムを動かしてみて、学習装置を何度も何度も調整していた。
その日は午後二時頃にエリンエレーヌに誘われ大学を出た。
「ごめんね。いつも付き合わせちゃって。」
「構わないよ。暇だからね。」
エリンは思想闘争系のサークルに参加 . . . 本文を読む
2
15歳で大学生になった。今は17歳だ。
ムセイオンという自治都市のグリーンカレッジという大学に通っている。ムセイオンは学術の都としても知られているが、中でもグリーンカレッジは有名な大学で、世界中から生徒が集まる。
校風は自由で学生も研究者として扱われ、様々な研究の援助を受けることができる。勉強が好きなので、満ち足りている。
ゴーレム工 . . . 本文を読む
オーベルが去った後、秘書官のような男がお荷物はございませんでしたかと聞いてきた。無いと言ったら、こちらへと促され、そのまま歩いて部屋を出た。私室に案内されるかと思ったら、室内で車に乗せられ、そのまま外に出た。ムセイオン内の私邸に案内された。
そこは役員たちの別荘となっていた場所だそうでとりあえずということらしい。そこからはラフレシアの寮の部屋を解約したり、荷物を運んだりとてんてこ舞いだった。 . . . 本文を読む