そして今
頭のうへ一メートルに吾がゐて吾を見下ろす おまへは変だ
義母逝きて中陰の守するうちに見知らぬ者がわが脳にをり
わが乳房鷲掴みにされたやうな痛みに目覚む暗闇のなか
寝つけなくなり二週間タクシーに医院を訪へり「寝させてほしい」
訴へる吾にうなづき婦人科医は精神科受診を笑顔で勧む
山盛りの薬を自分で分けられず「朝・昼・夕」の分包頼む
太陽と小鳥とともに起き出でて活動するには力が足らず
睡眠は三時間きりそれでなほ家事もしなくちやならない をんな
何を買ひ何を作るか決められず売り場うろつきしやがみこみたり
陽の当たる石垣に背を温めて浅き呼吸に佇みてをり
織の教室休むと言へば「おいでよ」と言はるるまま行く足取り重く
ニュータウンの外周ずうつと歩きたりただ歩きたり胸さすりつつ
「豚のいた教室」は観られなかつた 映画館まで行つてはみたが
川べりに黄花コスモス揺れてをり小さな川はゆつたり流る
享年を自分で決めて母逝きぬ川を見ながらその日を思ふ
眠るにも眠れず食も細りたると電話の声のか弱くなりて
ゆすらうめ紅くまあるくたわわなり母を送りしあの六月に
つんつんと花水木の実は空を向き赤くつややか光を浴びて
ゆらゆらと漂ひときに首を出す亀の子のやうに生きて来たれり
そして今母の享年に達したり母の知らざる齢を生きゆく
「けやき」4号より(2021年2月発行)
うちのゆすらうめは、まだ青いままです。
実家の木は、もうありません。
陽の当たる石垣に背を温めて浅き呼吸に佇みてをり
このうたいいですね。
病んだ身におぼえのある所作です。
訴へる吾にうなづき婦人科医は精神科受診を笑顔で勧む
私も声をなくして久しいのですが耳鼻科の先生が
あらゆる手段を試しているが一度心療内科の受診
をすすめられました。あれから一年試行錯誤しながら
80%ほど声を取り戻しつつあります。
歌を読むと、その時のことがありありと思い出されます。
なんであんなに苦しかったんだろうと、今なら思えるんですが、
その時は藁にも縋りたい気持ちでした。
太陽は偉大な友だちでした。
声をだいぶ取り戻してらっしゃるとのこと、良かったですね。
努力のたまものと思います。
医学も大事ですが、最後は本人のがんばりなのかなと思います。
お互いに気をつけて、生き延びましょう!
龍です🐉
たくさんのお歌を詠まれましたね。
睡眠は三時間きりそれでなほ家事もしなくちやならない をんな
私にはこの歌が響きました。
日本の女には、
完全に何もせずに休む日はないですよね。
お身体大切にお過ごしくださいませ😊
読んでくださってありがとうございます。
もう10年以上前のことなので、詠めたんだと思います。
日本のジェンダー平等は、なかなか進みませんね!
うちの夫は、洗濯とお風呂洗いはしてくれるようになりましたが、
干し方には、目をつぶっています(笑)
しんどい時の買い物は頼めますが、間違って買ってきたり(笑)
お互いに身体を大切に、心を癒やしながらいきましょう!