【雨過天青】 第一章(3/3)

「はじまりの村」とも呼ばれている元霊村は小さな島にありました。その島の南側に港があり、セントメテオがあるフェイランド島の各港をつなぐ船が発着していました。

村から移動する時は伝送師に頼る事も可能でしたが、船なら多くの物資が運べる上、料金も安いため、多くの人が船を利用していました。

そして今、一隻の船が港から出発しようとしていました。
港に着いたユイはそれを見て、あわてて切符売り場へと向かいました。

「タイラーさん、船に乗ります！」ユイは走りながら声を張上げました。

「あ？　なんて？」とタイラーさんは言いました。

「“船に乗ります！”って言ったんです」売り場に着いたユイはさらに大きな声で言いました。

「あぁ、お茶が飲みたいのか？んー。すまんが茶はないな。コーラでも飲むか？」

「違うよ！ わーたーしーはー、船に！” 乗りたいの！」
ユイは、ためらうことなくタイラーさんの耳元に口を近づけて叫びました。

「おお！おお！ 船に乗りたいんじゃな！　すまんすまん、息子が
　デートに行ったもんでな。わしが来るしかなかったんじゃ。」

タイラーさんは切符を差し出して、桟橋の扉を開けました。

ユイは、ありがとうと言って、駆け込みました。

すると、すぐに汽笛の音が聞こえてきました。

「いけない！ 船が出ちゃう！」ユイはあわてました。

ユイは桟橋を駆け抜け、目の前の船の中にジャンプしました。
船はぐらりと揺れましたが、無事に船の上に着地しました。それとほぼ同時に船が出発しました。
「やれやれ。間に合ったわね」と、ユイは顔を上げました。そして一人の召喚師が目の前で腹ばいになって倒れている事に気付きました。どうやらさっきの揺れで転んでしまったようです。

「大丈夫？」と、ユイはその召還師に手を差しのばし、引っ張り上げるしぐさをしました。
召還師はそれを見て微笑みました。そしてしっかりとユイの手を握って立ち上がりました。

「ありがとう。僕はテンシャン。テンって呼んでね。君は？」

「私の名前はユイ。ごめんね。転ばせちゃったみたい。」

「いや、ぼっとしてたんだ。そうか、ユイさんか」と、テンはニコニコして言いました。
「さて、僕らはこれからセントメテオに行くわけど、何時間くらい・・」

「えっ！」　それを聞いて、ユイは大きく目を開いて驚きました。

「今、セントメテオに行くって言った？ この船が？」

「そうだよ」と、テンはニコニコと答えました。

「雷光の草原”ではなくて？」

「うん。」テンは事情を察しました。

「わぁ！！　私、船乗り間違えちゃったああ！」ユイは周りに構わず大声を上げました。
「ぶはっ・・・」テンはそれを見て、こらえきれずに吹き出しました。

が、ユイがテンをキッ！と睨みつけたのでテンは、大急ぎで口を閉じました。

「いや、ごめんごめん！ そうか雷光の草原か。大丈夫だよ、一応繋がってるからね。
　それはそうと、雷光の草原に行って何をするんだい？ 君は聖騎士のようだけど？」

「ん・・・。」ユイの顔はたちまち曇りました。

「私のお父さんとお母さんがね、ケルゴンに殺されたの。だからその仇をうつために、世界最強の式戦士、フラージュさんにお願いするんだ。
　そして、そのフラージュさんが数日前に雷光の草原にいたっていう話を聞いて、それで雷光の草原に行くって決めたんだ。」
　ユイはそう言って、テンから真剣に聞いているのに気付きました。そしてすぐに聞き返しました。
「あの・・あなたは？ テンさんは、セントメテオに行って何するの？」

「ん・・・。僕は……ね。えっと、ヒマで街をブラブラするしに行くつもりだったんだ。
　あの、君は両親に代わってあだを討つと言ったよね？」
テンはユイの顔をじっと見つめました。

「僕に手伝わせてよ！ 実は僕、ずっと、あだ討ちの手伝いをするのが夢だったんだ」と、テンは興奮して言いました。

ユイは一瞬迷いました。が、すぐに
「よし！」と声を出しました。誰かが手伝ってくれるっていうのに、それを断るなんて大馬鹿だ！

「はい！どうぞご指導お願いいたします！」

「よろしく！」

こうしてユイはテンとパーティーを組んで、共に行動することになりました。


（二章に続く）