『We Are the World』よりも前に、アムネスティ・インターナショナルによる一連のコンサートよりも前に、『Live Aid』よりも『Live 8』よりも『46664』よりも前に、ポピュラー・ミュージックを呼び物にしたすべてのチャリティー / 政治イベントよりも前に、ジョージ・ハリスンが1971年に開催した『Concert for Bangladesh』があった。
「戦争・洪水・飢きんで苦しむバングラデシュ(旧称:東パキスタン)の人々のために、義援金を集めよう」という動機は魅力的で、それまでバンド・リーダーの経験がなかった元ビートルズのハリスンのほかに、ボブ・ディラン、エリック・クラプトンといったスターたちがサポートを申し出た。ディランとクラプトンの両名は、個人的な問題や意思のため、しばらく第一線から退いていた。ハリスンは、シタールの名手ラヴィ・シャンカールから協力を請われ、少ない時間で本コンサートの準備を整えなければならなかったという。その成果は、見てのとおり非常に感動的だ。大編成のバンドは、メンバーにリンゴ・スター、レオン・ラッセル、ビリー・プレストンを迎え、さすがの実力を見せている。演奏曲目は、ハリスンのソロ・アルバム『All Things Must Pass』からのチューンを中心に、ビートルズ・ナンバー数曲を加えており、素晴らしいの一語だ。ミュージシャンたちは、最高のコンディションにある。(クラプトンだけは例外で、絶好調とは言いがたい弱々しい演奏ぶり。約30年後に一大プロジェクト『Concert for George』を成功に導くことになった人物とは思えないほどだ。)人にもよるだろうが、ディラン、ハリスン、スター、ラッセル(ベース担当)が一緒にステージに立つところを見られるのは大きな喜びだろう。そうでなくとも、ロック史において、1971年は暗い年だった。ビートルズは解散し、ヘンドリックス、ジョプリン、モリソンが亡くなり、ウッドストックは遠い思い出となっていた。そんな中、本作『The Concert for Bangladesh』は、かがり火のように明るく輝きながら、我々みんなの心に潜む善の天使のお告げとなった。今もそうだと心より願う。。。