カーボン・マーケット企画室 三阪和弘
林野庁は、森林は多面的機能を有しているとして、森林の機能一覧を示しています。
大分類として、(1)生物多様性保全、(2)地球環境保全、(3)土砂災害防止機能/土壌保全機能、(4)水源涵養機能、(5)快適環境形成機能、(6)保健・レクリエーション機能、(7)文化機能、(8) 物質生産機能があり、これに中分類、小分類が続きます。
また、農林水産省は、農業・農村は食料/食糧を生産する以外にも多面的機能があるとして、以下を示しています。
貨幣評価されている多面的機能:(1)洪水防止機能、(2)土砂崩壊防止機能、(3)有機性廃棄物分解機能、(4)気候緩和機能、(5)保健休養・やすらぎ機能、(6)地下水涵養機能、(7)河川流況安定機能、(8)土壌侵食防止機能。
貨幣価値に至っていない多面的機能:(1)生態系保全機能、(2)景観の保全機能、(3)体験学習と教育機能、(4)医療・介護・福祉機能。
そのほか、河川についても、河川整備を行うに当たっては、(1)災害の発生防止または軽減(治水)、(2)河川の適正な利用及び流水の正常な機能の維持(利水)、(3)河川環境の整備と保全(環境)、といった多面的な役割を考慮することが求められています。
翻ってカーボン・オフセットについて見ていくと、カーボン・オフセットのメリットとして、カーボン・オフセットの普及啓発を担うJ-COF(カーボン・オフセットフォーラム)は、地球温暖化対策への貢献のほか、(1)企業価値の向上、(2)コスト削減の可能性、を示しています。
しかし、カーボン・オフセットのメリットは、本来それだけに留まるものではありません。上述の森林や農業と同様に視野を広げるならば、(1)雇用創出(農林業、サービス)、(2)地域振興、(3)途上国支援、(4)環境教育、(5)ビジネスマッチング、(6)都市農村交流、(7)復興支援、など様々な機能が挙げられます。
語弊があるかもしれませんが、近年では3.11の復興支援もカーボン・オフセットが機能とした事例といえるでしょう。
さて、近年、上述のような市場で価格が形成されない(多面的機能のような)非市場財についても、CVM(仮想的市場評価法)に代表されるように、経済的価値に置き換える試みが行われています。カーボン・オフセットについては、カーボン・オフセットに伴うサービスの売買自体が経済的価値といえますが、その中のクレジットの価値/価格については、価格差が問題視されることがあります。具体的には、J-VERと国内クレジットの価格差です。
しかし、この価格差について、多面的機能という非市場財の切り口で見ていくと、別の側面が現れてきます。すなわち、国内クレジットを創出する一企業のコスト削減プロジェクトと、J-VERを創出する、多面的な機能を有する公的機関の森林経営プロジェクトでは、多面的機能に違いがあるため、価格差があっても当然という解釈です。
多面的機能は市場で売買されていないため、実際のところ、いくらが適正価格かは不明です。しかし、両クレジットに価格差があるからといって、一方的に問題とはいえないでしょう。
※卑近な例では、ブランドもののバックと、そうではないバックの価格差も、上述とは異なるブランドのもつ多面的機能による価格差と解釈できるでしょう。
これまで環境省は、気候変動対策を実施すると同時に、開発途上国の持続可能な開発に資する取組みを促進するための手法として、コベネフィット・アプローチを推進してきました。今後を見据えると、政府や各企業とも、景気が回復基調にあるとはいえ、単一目的のためだけに、投資を続けていくことは困難でしょう。
そこで改めて、多面的機能やコベネフィット(相乗便益)等、複数の価値を評価し、それらをわかりやすく説明していくことの必要性を考えた次第です。
本来、カーボン・オフセットは多面的機能・コベネフィットをもったスキームのはずです。カーボン・オフセットに係る関係機関は、この機能や価値を丁寧にわかりやすく説明し、一般の人々に理解を求めていく必要があるでしょう。
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