グリーンブルーのカーボン・オフセット

カーボン・オフセットプロバイダーのグリーンブルー株式会社が、地球温暖化に関連するニュースやその時々の話題をお届けします。

カーボン・オフセットの多面的機能の説明の必要性

2014-04-29 18:14:57 | 提言
カーボン・マーケット企画室 三阪和弘


林野庁は、森林は多面的機能を有しているとして、森林の機能一覧を示しています。
大分類として、(1)生物多様性保全、(2)地球環境保全、(3)土砂災害防止機能/土壌保全機能、(4)水源涵養機能、(5)快適環境形成機能、(6)保健・レクリエーション機能、(7)文化機能、(8) 物質生産機能があり、これに中分類、小分類が続きます。

 
また、農林水産省は、農業・農村は食料/食糧を生産する以外にも多面的機能があるとして、以下を示しています。
貨幣評価されている多面的機能:(1)洪水防止機能、(2)土砂崩壊防止機能、(3)有機性廃棄物分解機能、(4)気候緩和機能、(5)保健休養・やすらぎ機能、(6)地下水涵養機能、(7)河川流況安定機能、(8)土壌侵食防止機能。
貨幣価値に至っていない多面的機能:(1)生態系保全機能、(2)景観の保全機能、(3)体験学習と教育機能、(4)医療・介護・福祉機能。

そのほか、河川についても、河川整備を行うに当たっては、(1)災害の発生防止または軽減(治水)、(2)河川の適正な利用及び流水の正常な機能の維持(利水)、(3)河川環境の整備と保全(環境)、といった多面的な役割を考慮することが求められています。

翻ってカーボン・オフセットについて見ていくと、カーボン・オフセットのメリットとして、カーボン・オフセットの普及啓発を担うJ-COF(カーボン・オフセットフォーラム)は、地球温暖化対策への貢献のほか、(1)企業価値の向上、(2)コスト削減の可能性、を示しています。

しかし、カーボン・オフセットのメリットは、本来それだけに留まるものではありません。上述の森林や農業と同様に視野を広げるならば、(1)雇用創出(農林業、サービス)、(2)地域振興、(3)途上国支援、(4)環境教育、(5)ビジネスマッチング、(6)都市農村交流、(7)復興支援、など様々な機能が挙げられます。

語弊があるかもしれませんが、近年では3.11の復興支援もカーボン・オフセットが機能とした事例といえるでしょう。

さて、近年、上述のような市場で価格が形成されない(多面的機能のような)非市場財についても、CVM(仮想的市場評価法)に代表されるように、経済的価値に置き換える試みが行われています。カーボン・オフセットについては、カーボン・オフセットに伴うサービスの売買自体が経済的価値といえますが、その中のクレジットの価値/価格については、価格差が問題視されることがあります。具体的には、J-VERと国内クレジットの価格差です。

しかし、この価格差について、多面的機能という非市場財の切り口で見ていくと、別の側面が現れてきます。すなわち、国内クレジットを創出する一企業のコスト削減プロジェクトと、J-VERを創出する、多面的な機能を有する公的機関の森林経営プロジェクトでは、多面的機能に違いがあるため、価格差があっても当然という解釈です。

多面的機能は市場で売買されていないため、実際のところ、いくらが適正価格かは不明です。しかし、両クレジットに価格差があるからといって、一方的に問題とはいえないでしょう。
※卑近な例では、ブランドもののバックと、そうではないバックの価格差も、上述とは異なるブランドのもつ多面的機能による価格差と解釈できるでしょう。

これまで環境省は、気候変動対策を実施すると同時に、開発途上国の持続可能な開発に資する取組みを促進するための手法として、コベネフィット・アプローチを推進してきました。今後を見据えると、政府や各企業とも、景気が回復基調にあるとはいえ、単一目的のためだけに、投資を続けていくことは困難でしょう。
そこで改めて、多面的機能やコベネフィット(相乗便益)等、複数の価値を評価し、それらをわかりやすく説明していくことの必要性を考えた次第です。

本来、カーボン・オフセットは多面的機能・コベネフィットをもったスキームのはずです。カーボン・オフセットに係る関係機関は、この機能や価値を丁寧にわかりやすく説明し、一般の人々に理解を求めていく必要があるでしょう。


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CSRもカーボン・オフセットも、本業とのシナジーで

2014-04-24 21:45:57 | CSR
カーボン・マーケット企画室 三阪和弘


2010年に社会的責任に関する国際規格ISO26000の発行、2012年にJIS化の制定が行われ、国際的にも国内的にもCSRの重要性が高まっています。

また、それに前後する形で、CSRに関係する書籍やCSR報告書、CSR企業ランキング、ネットでの情報など、多くのCSR関連の情報が発信されています。

ここでは、それらの中でもカーボン・オフセットに関連することに焦点を絞って見ていきます。

仁木氏は『儲からないCSRはやめなさい』の中で、次の点を主張しています。
・企業は、長期間にわたり高い収益を上げるため、コーポレートブランドを向上させるCSRに取組むべきである。
・直接的には利益を生まない社会貢献活動であっても長期的にブランディングに貢献する活動であれば企業は積極的に取り組むべきである。
・儲かるCSRとは、(1)企業のコーポレートブランドを向上させる、(2)社会問題の解決を通じて、自社のビジネス上の課題を解決する、(3)社員の誇りを高め、生産性を上げる。中でも重要なのが(1)である。

上記の仁木氏の主張は、“CSR”をそのまま“カーボン・オフセット”に置き換えても話は通じます。具体的には、コーポレートブランドを向上させるカーボン・オフセットに取り組むべきである、というものです。

カーボン・オフセットの目的は、端的に言うならば、各主体が取組める地球温暖化対策にあり、それを達成するため、「知って」、「減らして」、「オフセット」というプロセスを踏みます。
言い換えると、クレジット購入という「オフセット」の前段には、「知って」という現状の課題認識やコスト発生要因の把握、「減らして」という工程の見直しやコスト削減があり、生産性の向上があるということです。

CSRもカーボン・オフセットも、本業と直結しない社会貢献活動等を対象に行っていると、活動自体は社会的意義のあるものであっても、本業で多忙な社員には義務感ばかりが高くなり、持続可能でない可能性があります。
一部の大手企業には、直接的には利益を生まない社会貢献活動であっても長期的にブランディングに貢献することを見込んで、CSRやそれの一部としてのカーボン・オフセットに取り組むことは可能かもしれませんが、多くの企業にとっては困難でしょう。

また、一見すると素晴らしいCSR報告書についても、横並び意識から公開しており、マンネリ化しているという話も聞きます。
しかし、それでもCSR報告書は、年次報告書という形式で、企業のホームページ等で公開されることが多いため、継続に対する強制力がはたらきます。
一方、カーボン・オフセットの場合は、必ずしもホームページ等で前面に現れないため、たとえ一旦始めた企業であっても、継続しない場合があり得ます。
その意味では、カーボン・オフセットはより厳しい立場にあるといえるでしょう。

さて、カーボン・オフセットは現在、カーボンフットプリントと同様に、ライフサイクル全体を対象にする流れに変わってきています。例えば、環境省が推奨するカーボン・オフセット認証を見ても、商品型オフセットの場合、従来は任意の算定範囲で良かったものが、調達・生産段階を算定範囲に含めることに変更されることからもわかります。
この厳格化の流れは、一方で、生産/業務プロセスを見直し、コスト削減につながるポテンシャルを有しています。

ここで何を主張したいかと言えば、義務的にカーボン・オフセットを行うのではなく、生産/業務プロセスの見直しとセットのように、本業に成果を還元する形で行う方が好ましいということです。

一部の企業を除き、CSRもカーボン・オフセットもコストアップの負荷にしかなりません。それでもブランディングに貢献するならば行うべきという考え方もありますが、持続可能な形としてはやはり本業に埋め込んでいくべきでしょう。

上述の書籍に掲載されている成功事例の企業はいずれも、本業の強みを生かしたものばかりです。

かくいうグリーンブルーはどうかというと、本業とのシナジーをもったCSRやカーボン・オフセットのブランディングが必ずしも上手くいっているわけではなく、試行錯誤の段階です。

いきなりCSR全般というわけにはいきませんが、その一部である「環境」の、そのまた一部である「カーボン・オフセット」から、自社的にも取組む必要があると考えている次第です。

参考文献
仁木和彦、2012、儲からないCSRはやめなさい、日本経済新聞社


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消費税とともに上がった、地球温暖化対策税をご存じですか?

2014-04-19 17:21:32 | 制度
カーボン・マーケット企画室 三阪和弘


4月1日より、消費税とともに、地球温暖化対策税が増税されました。
地球温暖化対策税の増税は、もちろんマスコミ各社に報道されていますが、消費税と比較した場合、世間の注目度は比較にならないでしょう。

環境省は「地球温暖化対策のための税の導入」の中で、地球温暖化対策税を次のように説明し、理解を求めています。

低炭素社会の実現に向け、再生可能エネルギーの導入や省エネ対策をはじめとする地球温暖化対策(エネルギー起源CO2排出抑制対策)を強化するため、平成24年10月1日から「地球温暖化対策のための税」が段階的に施行されており、平成26年4月1日からは2段階目の税率が適用されます。具体的には、石油・天然ガス・石炭といったすべての化石燃料の利用に対し、環境負荷(CO2排出量)に応じて広く公平に負担を求めるものです。
喫緊の課題であるエネルギー・地球温暖化問題の解決に向けて、エネルギーの利用に伴うCO2の排出ができる限り抑制されるよう、国民の皆様のご理解とご協力をお願いします。

具体的な税の仕組みとしては、化石燃料ごとのCO2排出原単位を用いて、それぞれの税負担がCO2排出量1トン当たり289円に等しくなるように税率を設定しています。例えば石油だと760円/kl、ガスだと780円/t、石炭だと670円/tが、それぞれ該当する量です。

実はCO2排出量1トン当たり289円は、増税が予定されている2年後の2016年4月の数値であり、今回の増税の段階ではそれに至っていません。
※3段階で増税されるため、今回は3分の2のレベルです。

環境省は、家計負担として、2016年4月の段階で、1,228円/年(102円/月)と試算しており、その3分の2のレベルの2014年4月では、800円/年程度と試算しています。

日本経済新聞は、4月6日、この増税に対して、“「環境税」見えぬ使途”と題して、以下のような問題提起を行っています。

・環境税収は以前からある石油石炭税の一部としてエネルギー特別会計に入っている。使途の1つ「グリーンニューディール基金」ではCO2排出の取組に対して補助金を出す仕組みだが、基金の使途は各都道府県に任せており、市町村や民間からの公募であり、地域振興、産業振興に回ることも多い。
・3.11以降、原子力発電から石油・石炭に依存する構図となり、石油石炭税の税収は2割増えた。環境税の増税もあり、エネルギー特別会計は使い切れない剰余金があり、それが予算の分捕り合戦の主戦場になりつつある。
・再増税には「政府は費用対効果を示す」ことが最低限の条件になりそうだ。

日本経済団体連合会等の産業界は、以前から地球温暖化対策税の廃止や抜本的見直しを求めており、2013年11月にも「地球温暖化対策税に関する意見」「地球温暖化対策税の使途拡大等に反対する」という意見を表明しています。
そのポイントは次の3点です。

(1) エネルギー課税の強化は、電力価格等の更なる上昇をもたらし、投資意欲を削ぎ経済成長の足かせとなる。
(2) 石油石炭税は、十分な税収が確保されており、地球温暖化対策税の維持・税率引上げを行う必要がない。むしろ、課税の趣旨に照らし、一般会計留保分等を、税率引下げに活用すべきである。
(3) 森林整備は、森林の持つ多面的機能の維持に資するなど社会全般に多様な便益をもたらす。そのため、その費用は国民全体で負担すべきであり、エネルギー需要家のみに負わせるべきではない。

さて、地球温暖化対策税は環境経済学の“教科書”的には、排出量取引と並行して議論されてきたテーマであり、環境経済学の教科書なら、どれにでも記載されています。
また、地球温暖化対策税に対する産業界の反発も、導入前(増税前)から十分に予想されたものであり、産業界の立場からは当然の反応といえます。

IPCCが地球温暖化対策の必要性を声高に訴えている現在、一部の懐疑論者を除いて地球温暖化対策の必要性を否定する人々は少ないでしょう。

しかし、産業界のみならず、必需品に近い石油等への増税は、一般の人々の生活に影響を及ぼすのも事実です。

このような状況の中で、今不足しているのは政府、環境省の説明なのでしょう。
世間の注目を一身に集めた消費税増税のお蔭で、矢面に立つことはありませんでしたが、世間が批判一色に染まる前に、賛成派、反対派によるオープンな議論が必要と考える次第です。


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京都議定書第一約束期間の確定とCERの今後

2014-04-17 13:52:25 | クレジット情報
カーボン・マーケット企画室 三阪和弘

4月15日、環境省の報道発表資料として、2012年度の温室効果ガス排出量の確定値が公表されました。 2012年度は、京都議定書第一約束期間(2008~2012年度)の最終年度であることから、これを以て、京都議定書の目標が達成されたか否かがわかります。 既に速報として、目標達成可能ということが発表されていましたので、今回の発表自体に特段のニュースバリューはないのかもしれませんが、数値が確定したということには意義があると考え、以下にポイントを記します。

・2012年度の日本の温室効果ガスの総排出量は、13億4,300万トン(CO2換算)。
・京都議定書の基準年と比べると6.5%(8,180万トン)の増加。
・京都議定書第一約束期間(2008~2012年度)の5カ年平均は12億7,800万トン(基準年比1.4%増加)。
・森林等吸収源と京都メカニズムクレジット(以下、CER等)を加味すると、5カ年平均で基準年比-8.4%となり、京都議定書の目標(基準年比-6%)を達成。

上述を見てもわかるように、目標達成にはCER等が必要でした。ちなみに、CER等は5カ年平均で政府取得が19百万トン、民間取得が55百万トンの合計74百万トンが調達されています。

さて、日本は京都議定書第二約束期間(2013~2020年度)には参加しないため、国際排出量取引によるCER等の移転、獲得はできなくなります。 環境省及び経済産業省は、2012年12月に「2013年以降の京都メカニズムについて」と題して、CER等の扱いについて次のように説明しています。

[第一約束期間のクレジット]
・我が国は、第一約束期間の調整期間(2013年~2015年後半以降まで)は、CDMクレジット(CER)の原始取得、JIクレジット(ERU)の獲得、国際排出量取引による京都メカニズムのクレジット(CER、ERU、AAU、RMU)の国際的な移転や獲得を引き続き行うことができる。

・調整期間の終了日については、第一約束期間全体の排出量が確定に要する期間を勘案しCMP(京都議定書締約国会議)が決定を行う(2015年後半以降の見通し)。

[第二約束期間のクレジット]
・第二約束期間に参加しない我が国は、国際排出量取引による京都メカニズムのクレジット(CER、ERU、AAU、RMU)の国際的な移転や獲得を行うことはできない。

現在は2014年4月であり、2015年後半までにはまだ期間があることや、冒頭で記したように今月15日にやっと確定値が報告された段階のため、CER等の今後の扱いについて決定していない点もあるものと思われます。 現に公開の説明会等において、CER等について環境省に質問しても、検討中との回答があるのみで、上記の公開情報も含めて具体的な説明は聞かれません。 しかし、混乱を避ける意味でも、できるだけ早い段階で明確な時期を示す必要があるでしょう。

クレジットについては、CER等に限らず、J-クレジット(J-VER、国内クレジット)も含めて、仕組みや価格(価格の決まり方、クレジットごとの価格差等)が分かりにくいところがあります。分かりにくい点は、そのまま不信感につながる可能性もあるため、積極的な情報公開を求める次第です。




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IPCC第5次評価報告書における排出量取引の評価から派生する懸念

2014-04-15 20:23:50 | IPCC等行政情報
カーボン・マーケット企画室 三阪和弘


4月13日に文部科学省、経済産業省、気象庁、環境省連名の報道発表資料として、IPCC第5次評価報告書 第3作業部会報告書(気候変動の緩和)が公表されました。

第3作業部会の報告書は、温室効果ガス排出の抑制、削減のための政策や施策に対する評価を扱っており、その中のSPM(Summary for Policymakers)5.の「緩和政策及び制度」において、排出量取引について次のように記しています。

第4次評価報告書以降、GHGのキャップ・アンド・トレード制度を始めた国や地域の数は増えている。キャップが緩い又は義務的でなかったため、短期的な環境効果は限定されている(証拠:限定的、見解一致度:中程度)。原則として、キャップ・アンド・トレード制度は、コスト効率の良い形で緩和を実現しうるが、その履行は各国の事情に依拠する。


また、第3作業部会の統括執筆責任者の杉山氏は、「IPCC、京都議定書と排出量取引に厳しい評価」と題するコラムにおいて、ポイントを整理しているので、孫引きになりますが紹介します。

京都議定書は、気候変動枠組条約が提供する目標を実現するための、最初の法的拘束力ある段階であった。だが、それは意図されたように成功しなかった(ただしこれに同意しない意見も多い)。京都議定書の締約国は、その合計での排出削減目標を達成したものの、議定書の排出削減効果は、達成しえたであろうものを下回った。理由は、不完全な参加と遵守、京都議定書が存在しない場合にあっても発生したであろう附属書I国(訳注:先進国のこと)の排出削減に排出権を与えたこと(訳注:ロシアなどに過剰な排出枠が割り当てられたことを指している)、直接過去十年間で急速に成長している非附属書I国(訳注:途上国)の排出量を規制しなかったことによる。

CDM、共同実施(JI)、国際排出量取引(IET)の3種の排出量取引制度は、コスト削減の可能性はあったが、その排出削減効果はあまり明確ではなかった。CDMは 2013年7月時点において13億tCO2等価以上の排出削減クレジットを生成した。これは発展途上国における排出量削減のための市場を形成した。 だがCDMの排出削減の効果については一概に言えない。懸念事項としては、プロジェクトの追加性が疑わしいこと、いくつかのプロジェクトにおけるベースラインの不適切な決定、排出量の漏洩の可能性、最近の価格の低迷などがある。

EU-ETSについても、排出枠が緩かったり、拘束力がなかったりしたために、期間中の排出削減の効果は限定的だった。
排出量取引制度は、政治的に実施可能にするために、排出削減の効果を犠牲にする形で実施された(技術的要約及び14章より)

さて、国内の排出量取引関連制度に目を移すと、国レベルでは自主的なJ-クレジット制度はあっても、強制力のあるキャップ・アンド・トレード制度は導入できていません。また、カーボン・オフセットも当初期待したほどに活発とはいえません。
日本はキャップ・アンド・トレード制度を導入していたEU-ETS以上に、排出枠や拘束力がなかったために、温室効果ガスの削減効果は限定的だったといえるでしょう。

※ちなみに、京都議定書の第1約束期間の2008-2012年の温室効果ガス排出量を見ると、2008年(12億8200万t)から2009年(12億700万t)にかけて、急激に削減されていますが、これはリーマンショックによる景気の後退を反映したものであり、政府が意図した温暖化対策の成果ではありません。

しかし、だからといって排出量取引の役割を否定する必要はないと考えています。
排出量取引は当初より、市場メカニズムを活用した費用効率的な温室効果ガスの削減が目的であり、二酸化炭素回収・貯留(CCS)のようにそれ自体が温室効果ガスの削減を実現するものではないからです。

筆者が懸念しているのは、排出量取引に関する今回のIPCCの評価によって、排出量取引が本来有している長所も否定され、これまで築き上げられてきた仕組みが崩壊することです。

様々な限界があるにせよ、排出量取引やそれに関連する二国間クレジット、カーボン・オフセットなどについて、冷静な議論が展開されることを期待するものです。


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